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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第2章 『ドライアドの秘密』
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第51話 夢の先へ

 クロンの視界に、血の海に沈んだラビが見えた時、クロンがそれまでに考えていたことはすべて彼方へと吹き飛んでいた。


 そして、近くにはドライアド。血のついた蔦と根で出来た樹木の拳。ドライアドがやったと判断するのは当然であった。


「お前が……やったのか……」


『だとしたら、どうする?』


「お前が……やったのか……!」


『しつこいな。だとしたらどうなのか』


「お前がやったのかと、聞いてるんだ!」


『ああ、やった。煩わしかったのでな』


 クロンは、思考を捨てた。激動に身を預ける。10%以上がなんだ。躊躇って、何になると言うんだ。別に、どうなってもいいじゃないか。ラビがいない世界なんて。20%でも、30%でも。ドライアドさえも殺せるような力を——。


 クロンのひび割れが広がり、全身が燃え上がり、圧力が上昇し、そして。


 音を残し、消える。ドライアドさえも、知覚できぬ速度で。


『何!? 【樹宝多重防壁(ガリファロ・トイコス)】!』


 ここに来てドライアドは初めて、自身の力を完全な防御に使う。


 ◆


 クロンは思考を捨て、自身の細胞を限界を超えて崩壊させる。すでにジェイドとの戦いで余剰エネルギーはほとんど消費していたから、自分自身本来の細胞をも崩壊へと回す。出せる力は一瞬、一回。その一回でドライアドを消す。そう決めていた。


 スローになった世界を、駆ける。ドライアドの正面、側面に、囲うようにガ、ガ、ガと三重の樹壁がせり出してくる。その壁を貫通する攻撃を放ち、ドライアドの心臓を、石を穿つ。それしか、方法はない。


 右腕に、オレンジ色の光が収束する。【因子崩壊(コラプスファクター)】を放つ。だが、それと同時にクロンは悟ってしまう。この攻撃は、全方位へと威力を散らしてしまう。【因子連鎖爆裂ファクターチェインバースト】も同様に、全方位攻撃だ。貫通力は、ない。ドライアドに、攻撃は届かない。


 ——だったら、指向性を持たせればいいんだ。右手の形を拳から貫手へ、光の収束を5本の指の間へ。可能な限りすべてのエネルギーを束ね、ドライアドへと、一方向へ、貫くように、放つ。



 【太陽之光剣(ソリス・フレア)



 そのエネルギーは、光でできた剣のように、太陽の輝きのように、ドライアドへ、向かってゆく。壁に、ぶつかり、貫き、貫き、貫き。空へ。光の線が、空と大地を割かつ。


 光は、一瞬だった。


 プス、プス、プス、と。樹壁から焦げた臭いが、そして、ドライアドは。


『……〜〜〜ッ! 素晴らしい! 素晴らしい! ハハハハハ!! 見つけた、見つけたぞ!!』


 右腕と、肩を大きく消失したドライアドが、歓喜に打ち震えていた。石は、穿てていない。しかし。


 クロンはもう、ドライアドを見ていない。とうに力は使い果たした。今、クロンが見ているのは、ラビのみ。本来ならば、すでに気絶し、その場に倒れている。今、クロンは、執念で動いていた。一歩、一歩と、ラビへと近く。


「お嬢オォオォオォ!!!」


 リストアがよろけながらラビへと走り寄る。


 クロンの放った【太陽之光剣(ソリス・フレア)】の余波で蔦が燃え、抜け出すことができたのだ。フレイアは、ドライアドへと駆け寄っているため見ていない。


「リストア、頼む……!」


 エリックが肩を震わせ泣きながら、リストアに嘆願する。リストアはラビに触れ、【復元(リペア)】を使う。すでに、脈はない。


「【復元(リペア)】! 【復元(リペア)】! 【復元(リペア)】ッ!」


 ラビの肉体が、万全の状態に復元される。残るのは、肌に付着した血と、地面に吸われた血の跡のみだ。だが、ラビは起きる気配がない。


「リストアッ! どうなんだぁっ! なんとか、なんとかなるんだろうな!?」


 リストアは、固まる。


「社長……、しゃ、ちょう……すみま、すみませっ……俺が、できるのは、肉体の、修復まで、でッ……蘇生は……できな……っ……!」


 ラビは、すでに事切れていた。体を修復されても、魂の部分は、意識の部分までは、修復されない。体の機能は、失われていた。


「うお、うぉおおぉおぉ……うおぉぉぉおぉああああ!!」


 エリックが、天に向かって慟哭する。


 カエデは、少し離れた位置で、崩れ落ちていた。


 フロウは、唇を噛み締め、頬を一筋の涙が伝う。


 そんな中クロンが、一歩一歩、ラビへと、近づく。パラパラと、【細胞崩壊】の副作用なのか、【太陽之光剣(ソリス・フレア)】の後遺症なのか、火の粉のように、燃え尽きた細胞を肉体から飛ばしながら、動かない体を一歩、また一歩と、ラビへ。


「ラ……ビ……、死ぬ、な。死なない、でくれよ……。約束、したじゃないか……。僕の夢を、手伝って、くれるって、だから、死ぬ、な。ラ……ビ……」


 ラビまであと少し、あと少しのところで、クロンは膝から崩れ落ち、全身の力が抜ける。うつぶせで、倒れる。ラビに少しでも触れようと、クロンはなんとか腕を振り上げ、しかしそれは叶わず、そのままの体勢で、崩れ落ちる。


 崩れ落ちたクロンが振り上げていた手が、倒れた勢いでラビの胸部を、ドン、と大きく叩いた。


 ◆◆◆


 夢を見た。


 普段見ない夢だ。


 真っ白の空間。そして、自分の目の前に、白い立方体に座った黒髪の男性。座ったままこちらに身を乗り出し、自分を見据えている。しかし、それがまた様になっていた。


 スーツ姿が一際目を引き、首から下げている鍵のようなものついたペンダントが、重力に従いペンデュラムのようにゆらゆらと揺れている。そしてなぜか小さなフクロウが、肩に留まっていた。


『やあ、初めまして。俺はずっと見てたから、正確には初めましてじゃないんだけど』


 そう言って少し笑うと、言葉を続ける。


『まだちょっと、ここに来るのは早かったかな』


 ここはなんだ、あなたは誰だ。


『ははは、そんなことはいいじゃないか。ただ、ひとつ。君は死んだ。無様にもね』


 そんなことはわかっている。


『なんだ、わかってるのか』


 私の力不足が招いたことだ。


『そうだな、無謀にも守護者に戦いを挑んだんだ。死ぬだろう』


 では、ここはあの世なのか。


『それは、正確じゃない。さっきも僕は言ったはずだよ。ここに来るのは早かったって』


 早いなら、いつならいいんだ。


『少なくとも、今じゃないね。君の役目は、まだ終わってない』


 すると、目の前の男は首から下げた鍵をひと撫でする。


『次は、正しい時、正しい場所で会いたいものだね』


 自分の体が光り輝く。


『皆が、君を待っている。旅は、終わらない。「可能性」は続いていくんだ』


 そしてその場から、ラビ・クニークルスは煙のように消失した。


 …….


『いいの? なにも伝えないで』


 肩に留まったフクロウが喋り出す。


『いいんだ。今はまだ「その時」ではない。それに、必要なことは、ドライアドがすでに伝えているよ』


 男は、顔をあげ、何もない、ただただ白く染まる空を見る。


『「可能性の糸」は集う。(ゲート)は、じき開かれる。俺たちは、ただの見守る者(オブザーバー)さ』


『君がそれでいいなら、サリエル』


 ——サリエルと呼ばれた男は、さらに深い笑みを浮かべ、その赫眼で虚空を見据えていた。


『約束の地で会おう』


 白い空間は、消失する。


 ◆◆◆


「ガハッ、ゴホッ、ガッ、ゲホッ、ゲホッ!」


「「ラビ!」」


「ラビ嬢!」


「お嬢!」


 クロンが気を失い重力に従い倒れ、ラビの胸を叩いて、時間にして約10秒。唐突にラビが咳き込み、起きる。


「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」


 ありえないことが起きている。完全に、脈は止まっていた。止まってからの時間も。だが、蘇生した、それでいい。エリックは嬉し涙を流しながら、ラビへ話しかける。


「ゆっくり、ゆっくり、呼吸しろ、ゆっくりだ。そうだ、すー、はー、すー、はー、いいぞ、いいぞ、ははは。俺がわかるか?」


 エリックは、顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、笑いながら、ラビの支え、背中をさする。ラビは口内と気管に残った血をなんとか吐き出すと、呼吸を整える。


「ぱ、ぱ……?」


「おお……!」


 エリックはそのまま、ゆっくりとラビを抱きしめた。そのまま、エリックは男泣きする。


「ラビ……」


 カエデも泣いている。リストアはそのままエリックとクロンを皮切りに全員へリペアをかけ、自分のパーティの2人を助けに小走りに広間の端へと向かってゆく。


「みん……な……?」


「ああ、全員無事だ......」


「よかっ、たぁ……」


「リストアと、クロンに感謝しなくては……」


「リスト、アはわか、るけど、クロ……ン……?」


「ラビ、お前は一度死んだんだ……。もう助からないと思った。それをクロンが、お前の胸を叩いて、それで、心臓が、動き出して……うぅぅ」


 話していて感極まったのか、エリックが泣き出す。これ以上喋れる状態じゃないと判断したフロウは、続きを話す。


「クロンは、ラビ嬢が倒れているのを見定めた後、私たちも知らないような力で、ドライアドに向かってゆき、彼女の半身を吹き飛ばしました」


 フロウは顎でドライアドのいる方向を教える。ドライアドは現在、フレイアを伴い肉体を再生中だが、しばらくかかりそうだ。こちらに向かってくる様子もない。


「そっか、よかったぁ……。クロン、ありがと……」


 ラビの頬を涙がつたう。見た夢のことは、すでに忘れていた。

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