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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第2章 『ドライアドの秘密』
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第50話 誤算

「へへへ、捕まえた。これでボクのドライアドだ。ちゃんと働いてよ」


 ゼータが、ドライアドの背後から彼女の背下部へ、あの時よりは小さめの、しかし見覚えのある楔をねじ込んでいた。


「母さま!!!」


 フレイアは叫ぶ。その叫びでリストアが、気絶から回復する。


「なん、だ……生きて……!?」


 リストアは、目を見開き、唖然とする。ゼータがドライアドに楔を打ち込んでいること、そして社長が倒れていること。


 しかし、それ以上に、彼を絶望の淵へと追い込む。涙が、見開いた目から溢れ出る。自身を拘束する蔦から抜け出ようと、もがく。


「お嬢ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!!」


 黒い海に沈んだラビは、動かない。


 ◆


 ゼータは、まさかここまでうまく行くとは思っていなかった。ラビを撒いた後、隠れて様子を伺っていた。なぜか、ドライアドの横には赤髪の白ワンピース女が付き従っている。ドライアドをテイムしてもあの距離ならば自身が処理される。


 それを、それをあのラビとかいう女が乱入して、殴られて、吹き飛ばされて、あの赤髪女とドライアドのふたりが離れたのだ。今しかない好機。その好機をゼータは得た。能力でドライアドを止め、楔をねじ込む。


 契約は成った。あとは、あの赤髪女をドライアドで処理するだけ。少しだけ後悔する。もう一本楔を持って来ればあっちもテイムできたのに、と。そんなことを考えながらドライアドへ命令する。


「あそこの赤髪女をやっちゃえ、ドライアド!! 殺せ!!」


 ゼータは興奮している。カテゴリー5が自分の配下になった。一番下だった自分の階級も上がる。この不本意なZ(ゼータ)の烙印ともおさらばだ。ドライアドは、地面から木を成長させ拳を形作る。ラビを殴り飛ばした時のように。そして。


「ぶ」


 ゼータが、吹き飛ぶ。


『なんだ? この羽虫は。 蚊に刺されたのかと思ったぞ』


 ドライアドは、腰に差し込まれた楔を自身で引き抜いた。


 ゼータの能力の影響は、一切及んでいない。


「なん……で……? 僕の、【自縄他縛(テイム・タイム)】は、カテゴリー5でもテイムできる…..。テイム対象が獣なら、制限は、ない」


 吹き飛んだゼータは片腕で上半身を持ち上げ、ぼやける目でドライアドを捉える。ラビほどの致命傷は負っていない。腕が折れ、潰れた程度。手加減がなされていた。


『なるほど、あの動作停止は能力によるものか。そして、この楔を差し込むことで永続的に獣をテイムできる。厄介だな。森の目を通して鹿(ディアー)がテイムされるのを見ていたが、対象に制限がないのは本当に厄介だ』


 ドライアドは楔を見ながら、ふむ、と唸り、そして続ける。地面から伸びる蔦が、吹き飛んだゼータを絡みとり、ドライアドの元まで運ぶ。まるで十字架に磔にされたような体制で吊るされる。


『しかし、そなたは一つ忘れていることがあるな』


 ドライアドは、ゼータが求めた答えを、出す。


『妾が他の人間に、すでにテイムされている可能性を』


「バカ……な……」


 エリックは、一通りの話を聞いていた。それならば、バカじゃないか。起こり得ない状況を危惧し、危険な場所に娘を、仲間を連れてきて、全員失いかけている。娘の脈は、もう、ないに等しい。リストアを助けなければ、助からない。リストアを、助けなければ。


 エリックが立ち上がり、リストアを見据える。


「リストアァッ!」


「社長!!! 俺を、俺を助けてくれ!! 早く!! 間に合わなくなっちまう!!」


 エリックは、一歩、また一歩と、リストアの囚われた蔓へと近く。しかし、その間にフレイアが立ちふさがる。


「......すまないが、通すわけにはいかない。……母さまにあの3人を殺せと言われている、申し訳ないが黙って寝ていてもらいたい」


「そうは、行か、ぬ……」


 しかし、エリックは限界なのか大剣を地面に突き刺し、肩で呼吸をする。


「全力の母さまと戦って、それほどの傷で生き残っていること自体が奇跡なのだ。黙って終わりまで見ていろ」


 そう言うと、フレイアはドライアドの方へ目を向ける。ドライアドは、目の前で磔にされたゼータに語りかけている。ゼータは喚いている。


「テイム……!? ありえないだろ!! 誰がテイムできるんだよ!!」


『フン。あり得るからそなたのものになっていないのだが……ん? 獣の力を持つ弱き者よ、どうやら何者かに『洗脳』されておるようだな。これは情状酌量の余地あり、やもしれぬ』


 唐突に、ドライアドがそのようなことを言い出す。ゼータには、身に覚えがない。洗脳される云われも、洗脳される理由もない。


『なるほど、なるほど。獣の力による同種洗脳だな。ならば、慈悲深き者(ドライアド)として、そなたを救ってやろうじゃないか』


 ドライアドは蔦を使い土の中から、鈍色の、小さな、しかしなにか神秘性を感じられる石を取り出し、手に持つ。ゼータの口を、蔦の力で強制的に開ける。


はへほ(やめろ)ほへほひはふへるは(それをちかづけるな)!!!」


 ゼータは、なぜか泣きわめく。その石を、体が、本能が拒絶するかのように。


『なぜ喚く必要がある。妾はそなたを助けようとしているだけであるぞ』

 

 ドライアドの唐突な気まぐれが、ゼータに迫る。石は、ゼータの口の中へと運ばれ、それをゼータは飲み込む。口の周囲の蔦が離れる。



「が、が、があああああああああああああああああああ!!!!」



 ゼータが白目を剥き、唸るように暴れる。腕を掴んでいた部分から、ドライアドが骨を折った部分から、血が、ポタ、ポタと滴り落ち、足元に血だまりを作る。バチバチと、謎の音が響き、カッ、と、ゼータの口と目から光が漏れ、あたり一面を眩く照らした。


「くっ」


 その場で起きていたリストア、エリック、フレイアはあまりの光量に目を逸らす。ドライアドは、そのままゼータを見つめている。


 その光が収まった時、ドライアドは、ゼータへと語りかけた。


『気分はどうだ? 天の力を得た気分は』


 ゼータは、落ち着いていた。


「わからない、天の力ってものが何なのか……。けど、思考はクリアになってるよ。そうか、ボクは、洗脳されていたのか……」


 ゼータは、真に洗脳されていた。しかし、それを気づかれぬよう巧妙に操作されていた。あの石を飲まされてからゼータの思考はクリアになる。今まで『26番目』という順位に固執していたことすらも、バカらしくなるくらいに。


 そこに、フロウとカエデが同時に足を踏み入れた。


 二人は広場中央に沈むラビを見て、叫ぶ。


「ラビ!!」


「ラビ嬢!!」


 シャオロンとリィズをその場に落とし、ラビの元へと走る。フロウは奥に捕まったリストアがいるのを見つけそこへ向かおうとすると、ピピピピ、と、謎の音が3つ響き渡り、起きていたシャオロンが、口を開いた。


「ホホホ、時間のようじゃ」


「シャオロン……!」


「ハハハハハハ!! 任務は完了した!! 生き残った! 我らの勝ちじゃ!! 次は、必ず殺してやるぞ、フロウ!!」


「なにを……」


 フロウはあまりのシャオロンの剣幕に驚く。


「では、さらばだ。また会おう」


 シャオロンの一言で、その場にいた、ゼータを含む3人が、バチバチと音を立て、シュン、と煙のように消えてしまった。


 その場にいた全員が、驚愕する。


 人が突然消える。そんなことはありえない。しかし、フロウだけはその疑問を振り払い、そのままリストアの元へと行こうとした。リストアの力がなければ、ラビは、助からない。その時。


「ラ……ビ……?」


 その場に、髪の色がオレンジになった、肉体がひび割れ、淡く光を放つ少年が足を踏み入れた。


『次から次へと、今日の大樹海はまるでびっくり箱だな』


 ドライアドは、クロンを見据える。

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