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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第2章 『ドライアドの秘密』
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第48話 もうひとりの自己再生

「ま、待て!」


「邪魔になりますから、場所を変えるだけです」


 クロンは追いかける。


「ここなら、いいでしょう」


 ジェイドが立ち止まったのは、樹海の中にたびたびあるオアシスや広場のような開けた場所ではなく、少し明るくなっているだけの森の中だった、倒れ苔むした古木や、まだ成長している巨木がクロンとジェイドを囲む。


「さて、あなたはどの程度持ちますか?」


「最後に立っているのは僕ですよ」


「面白い。ところで武器は使わないんですか?」


「僕は素手です」


 ジェイドが眉間にしわを寄せ訝しむ。


「素手……? 珍しいですね。私が知っている限りですが、あなたで2人目です」


「へえ、僕以外にもいるんですね」


「ええ。なので、素手での徒手空拳は、研究を重ねています。普通の能力で勝てるとは思わないことです」


「勝ちますよ」


ジェイドとクロウがお互いに地を蹴り肉薄する。


「素手で、斬撃を防げると思っているのですか!」


「そもそも防ぎません!」


 クロンは両翼から迫り来る短剣二振りのうち片方の剣の腹を肘鉄で弾き、もう片方を靴に引っ掛けいなす。そのまま弾かれ無防備になったジェイドの腹に拳を叩き込む。


「ヌゥッ!!」


 ジェイドは目の前の人間のアクロバティックな動きに驚き距離をとる。クロンのパンチの威力は後ろに少し下がることでいなし、最小限のダメージに抑える


「なるほど、徒手空拳でも剣を防ぐ程度の実力はありますか。小僧だからと少々舐めすぎました。名を、聞きましょう」


「クロン・シズノ」


「私はジェイド・クロムウェル。では、仕切り直させていただく」


 ジェイドは、飛ぶ。後ろにジャンプし木に接地し、それを蹴ることでクロンへと向かう。


(速い!)


 クロンはジェイドが両手で持つ翡翠色の短剣を警戒していた。あのような色の剣を持つということは、普通ではありえない。ありえないならば、あの剣はなにか、能力に関連した道具だと考えた。


「捉えたッ!」


 ジェイドはクロンの想定する速度を上回り、クロンの懐へと飛び込んでくる。屈み、跳ね、両手の短剣を上へと振り上げる。クロンの服を切断し、そのまま腹部に縦二筋の線が入る。


(危なかった。浅い!)


「危なかった、と思っていませんか? 終わりですよ」


 傷口が淡く光り、軽く血が滲み出る程度だったものがドバッと、突然傷口が広がり、とめどなく血が吹き出した。クロンは膝から崩れ落ちる。


「終わりです。実にあっけない。剣が怪しいと踏んだところまでは悪くなかったですが、戦いに身を置くものならば2手3手先まで考えねばならない」


 ジェイドがため息をつく。


「ハァ、徒手空拳だから楽しみにしていれば、期待はずれですね。とどめを刺す価値もない」


 そうジェイドがクロンに背を向け去ろうとすると。後ろから立ち上がる気配。


(バカな。腹部に私の【抗天刀拿(こうてんとだ)】を受け、なぜ立ち上がることができる? 人間ならば一太刀で瀕死、それを二太刀、死んでもおかしくはない)


 クロンの腹部がシュゥウウゥと音を立て修復されていく。


「【自己再生】!? なぜその年まで生きているのです!?」


「よくわかりましたね。【自己再生】だと」


「当たり前です。それは私たちの国では『死の呪い』と呼ばれ、生き残る者も少ない」


「その言い方だと、生き残っている人はそれなりにいるんですね」


「生き残っているだけです。あなたは一生無機質な部屋の中、よくわかない液体で満たされたガラス管の中で生かされたいですか?」


「......それは、勘弁して欲しいですね」


ジェイドとクロンは戦いを一時中断し、探り探り会話を始める。お互いに、知りたいことがあったからだ。


「私が知っている限り、【自己再生】で今満足に生きていると言えるのはあなたを含めてふたり。面白いですね」


「僕は面白くない。オリエストラでは、僕以外に【自己再生】を持って、生きている人はいない。今生きている人も全員7歳以下。死を待つばかりです」


ジェイドが、目の前の人間はイレギュラー中のイレギュラーであることを理解する。自分の知っている方法では10代半ばの人間は外を出歩けないからだ。


「それは、それは。では、面白いものを見たお礼に一つ。私の知っているもう一人の『生き残り』が生き残るために取った方法をお教えします。実践できるかは、わかりませんが」


「そんな方法が、あるんですか」


 ジェイドが、クロンの理解の範疇外の言葉を吐いたため、聞き返してしまう。


「狂う可能性の方が大きいですがね。……細胞超過は20歳前後、肉体の本来の成長と共に止まります。それまで、超過した部分をそぎ落とし続けなさい。20歳まで続ければ、晴れて【自己再生】を持ちながら天寿を全うできる」


「そんなことできるわけがない!」


 あまりに異質。あまりに暴論。クロンは痛みを知っている。骨が折れる痛み、皮が、肉が斬れる、削がれる痛み。体を二分割にされる痛み。あらゆる痛みを経験したからこそ言える。絶えず増殖する細胞を20年削ぎ続ける。まともな人間ならば確実に狂う。不可能な方法なのだ。しかし、ジェイドはそれを否定する。


「ひとりだけ。それをやりきった人間がいます。まあ、ここで私に殺されるあなたが今後出会うことはないですが、できることならば会わせてみたかった」


 そういうとジェイドは話をやめ、踏み込み短剣を薙ぐ。クロンは受けることも選択肢に入れたが、再生時間を考慮しそれを選択肢から除外する。


「クッ!」


「ほう、避けることを選びますか。さすがに次はないと踏みましたね。【自己再生】の弱点は頭と心臓。動けない攻撃をした後、そこを狙えばいいですからね」


「余裕ッ、ですね!」


 ジェイドは踊るように短剣を振るう。悪い足場、周囲の木、古木。さまざまな要素が絡み合い、クロンは見えない袋小路に追い込まれていく。ジェイドに隙はなく、クロンを追い詰める。


「当たらなければ、問題ない!」


 クロンは素早くそう判断し、一歩後ろにジャンプし、後方の木を蹴りジェイドの頭上を飛び越え地面を滑る。


「ほう、アクロバティックな」


 ジェイドは素早く振り返りつつ剣を薙ぐが、さすがに距離が遠すぎた。クロンには当たらない。


 クロンは冷静に思考する。ジェイドは明らかに格上だ。クロンに一切の攻め手を許さず、自分のペースを崩さない。今のだって本気でやればジェイドの上を飛び越える時、剣を投げる等で傷を負わせることができただろう。要は舐められているのだ。


 クロンがジェイドをにらみ、次の手を考えている頃、ピピピピと、ジェイドが装備していた腕輪が鳴る。


「……まずいですね。時間がない。あなた方に足止めをされなければすべてスムーズに行ったはずなのですが……。残念ですが、いつまでも遊んでいる時間はなさそうです」


 ジェイドが、消える。


「え?」


 クロンの死角外からの攻撃が迫る。体を捻る。


 ブシャア、と右腕が吹き飛ぶ。胸が深くえぐられる。傷が肺に達する。


「おや、まさか反応できるとは。あなたの呼吸に会わせて踏み込んだので、完全に心臓と頭を破壊したと思いましたが。まあいい、【自己再生】持ちでも腕が吹き飛び肺が傷つけば動けない。修復にも時間がかかる」


 クロンの時間が、スローになる。腕から吹き出る血が、胸から爆ぜる血が、遅く、流れる。知覚できる。これが走馬灯かと、思う。16年生きてきて、自分以外の生存している【自己再生】持ちがいると初めて聞かされた。


 ありえない生存方法で生存している。見てみたい、会ってみたい。


 今クロンが持つ感情は他にも。ラビと、カエデ。クロンは何か胸騒ぎがしていた。胸がえぐられ、その傷と表現しえない胸騒ぎが混ざり合う。ラビかカエデに、なにかが起きている。助けなきゃ。助けなきゃ。死なない、僕にしかできないこと。死なないから、無茶ができる。


 自分が助けてもらえないから使えない。そんなことを、わがままを言っている場合ではない。目の前の人間は、今まで戦ったことがないほどに強敵、勝てない。勝てなければ、ラビもカエデも助けることができない。


 ——だったら、勝てないのなら、今この場で強くなればいい。


 クロンの残った腕がひび割れ、オレンジ色の光が漏れ出し、髪の色が変化し、吹き飛んだ腕と抉れた胸が超速再生する。細胞の崩壊が、始まる。

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