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誕生日祝いを届けよう[前編]

 ここ数日、私はコルビート20の流入阻止の為に南門に通っていた。

 モーント街への入街の特別処置の方法も大分改善されて、スムーズに行えるようになってきていた。


 今日は、領主であるセイアッド=ムーン子爵に頼みがあると呼び出されて、妹のルナと一緒に領主の屋敷を訪れている。


 因みに今日はルナと領主令嬢のミィーシャッィ=ムーンが通っている幼年学校の始業式だったので、学校終わりに領主の馬車に乗せて貰ってここまで来ました。


「わざわざ来てもらって悪かったな、マヒナ」


「いえいえ、ルナも此処に来るのを楽しみにしてましたから」

「それよりも、早速でなんなんですが、私への頼みというのをお聞きしたいのですが?」


「そうだな、だがその前に聞きたいのだが、前に君が注文したと言っていた[霊体感応素材]で出来た対聖属性防御特化服はもう届いたのか?」


「いえ、まだですけど、それが何か?」


「いやな、今回の依頼を受けてもらうとこの街の外に出てもらう事になるんでな」


「そうなんですか。出来れば注文している服が届くまでは、街の外には出たくないんですけど」


「ウィルオウィスプの特性を考えればそうだろうな。それでな、私の方でも[霊体感応素材]で出来ている対聖属性防御が付与されている腕輪を用意したんだ」

「依頼を受けてくれれば基本報酬とは別にこの腕輪も追加報酬として加えるので受けてくれないかな?」


「えっ、いただけるんですか?」


 対属性防御付与がなされているアクセサリー類は手軽に強化が図れる物として人気があり高額だ。[霊体感応素材]で出来ている物となると相当な額になる。


「ああ、偶々手に入れた物なんでな、依頼を受けてくれるなら遠慮なく持ってっていいぞ」


『気をつけなよマヒナちゃん、うまい話しには裏があるもんや、簡単に信用したらあかん!』


 私の頭の中に直接声が響いてくる、念話というやつだ。

 その念話の発信源は私の背負っているウサちゃんリュックの中にいる。


 忘れてました。今日はコイツも居たんでした。


 ウサちゃんリュックが開き、その中から楕円形の柔らかい物体がピョンと飛び出す。飛び出した楕円形は私の前の机の上にポヨンと落ちた。

 楕円形の正体は、先日従魔契約を結んだ豹柄スライムだ。


『それに簡単に受けたらやっすい女と思われる、良い女は自分を安売りしたらあかんよ』


 従魔契約を結んだ契約者同士は念話が使用出来るようになり、魔物相手でもコミュニケーションが取れるらしいのだが。


『じぶんを安うりってどういうことなのプラちゃん、女の子にはねだんがあるの?』


『ルナちゃんはまだ子供やからそんなこと考える必要あらへんよ。子供は元気なんが一番や』


 何故かルナも念話が使えるのだ。


 冒険者ギルドで調べてみたけど、原因は不明。ギルマスの話では、契約者以外の者が念話が使える様になった事例など、過去に一度もないとのことだ。


 豹柄スライムの名前はプラチャン。命名したのはルナだ。


 命名した本人であるルナは、プラチャンのことをプラチャンちゃんと呼んでいた。

 それは流石におかしいので、訂正させて今ではプラちゃんと呼んでいる。


『プラはちょっと黙ってなさい。どっちにしても依頼を受けるかどうかの判断は、詳しく話しを聞かないと出来ないからね』


『さよか、ちゃんと良く話しを聞かなあかんよ。マヒナちゃんが領主と話しとる間は、ウチが子供達の相手しといたるわ』

『ルナちゃんとそっちの嬢ちゃんも飴ちゃんやろうか?』


 プラがルナとミーシャの前まで、体の一部を触手のようにミニョ〜ンと伸ばす。その触手の先端には、包み紙に包まれた飴がくっついている。


「ルー、このポヨンポヨンしているのが、この前に大池でみつけたスライムですの?」


「うん、そうだよ。プラちゃんっていうの。ミーちゃんにも飴ちゃんくれるって」


 ルナとミーシャは、プラが差し出した飴を躊躇なく舐めた。

 あんな得体の知れないスライムの体内から出てきた飴を簡単に舐めてしまって良いのだろうか? 得にミーシャは貴族なので慎重に行動する必要があると思う。

 まあ、領主である父親が何も言わないのだからいいのかな?


 ミーシャが机の上にいるプラを軽く突くと、プラの体がフヨンと揺れる。それを数回繰り返した後、恐る恐る抱き抱えた。


「なんかつめたくて気もちがいいわね。ポヨンポヨンしてておもしろいですわ」

「ルー、あっちでプラチャンといっしょにあそびましょう」


「うん!」


 ルナとミーシャは広い場所に移動して、プラをボール代わりにキャッチボールのようにして遊び始めた。


 さっきはプラが「自分が相手しといたるわ」みたいに言っていたが、プラはまだ1歳らしいのでルナ達の方が年上だ。

 1歳にして何故あのどっかのおばちゃんの様な喋り方なのかは謎だ。


 でもまあ、そのおかげで落ち着いて領主の話を聞く事が出来た。


 領主の頼み事とは要約してしまうと物品運搬の依頼である。

 この国の東にある隣国、魔王国の姫様の誕生日のお祝いの品々を届けて欲しいという事だ。


「当初は私もミーシャッィと誕生会に出席する予定だった。娘と先方の姫とは仲が良いのでな」

「だが、マヒナも知っての通り、今はコルビート20の猛威によって他国への移動が困難になってしまったからな。今回は祝いの品を贈る事だけしか出来ないのだよ」


「話はわかりました。私がアンデットで感染しないからというのもわかりますが、何故私なんですか? アンデットを使っているプロの運送業者なんていくらでもあると思うんですけど」


「アンデットの配送人が忙しいっていうのもあるが、一番の理由は娘に頼まれたからだ。先方の姫様への贈り物を赤の他人に任せるのは嫌だからマヒナに頼みたいと言い出してな」


「え、ミーシャ自身がお祝いを贈るのですか?」


「ん、ああ、当然私からもお祝い品は贈るが、それとは別にミーシャッィもお祝いを贈るんだ。娘は本当に先方の姫様に懐いていて、誕生会も楽しみにしていたからな」

「誕生会に参加出来なくなって落ち込んでいたんだ。だから娘の我儘だとは思うが、せめて贈り物は信頼しているマヒナに届けて貰いたいという娘の願いを叶えてやりたいと思ってな」


 そういう事か。ミーシャは良い子だし、ミーシャが私を信頼してくれているというのはとても嬉しいな。

 ミーシャの事は私も好きだし、そのお願いを叶えてあげたいとも思う。


 それに正直、対聖属性防御が付与された腕輪を貰えるというのも魅力だ。


 ウィルオウィスプの聖属性に対する脆弱さは折り紙付きなので、注文している聖属性防御特化服が届いた後でも、それを別途強化出来る腕輪は是が非でも欲しい。


 その聖属性防御特化服がまだ届いていないというリスクはあるが、向かう先は魔王国だ。

 教王国に向かえと言われれば断る他ないが、届け先は国ぐるみで聖属性の苦手な魔王国だ。


 道中にしても丸腰ではなく、腕輪による防御効果は受けられる。断る理由は無いかな。


「いいですよ、この依頼お引き受け致します」


「そうか、ありがとうマヒナ、恩にきるよ」


 私の返事を奥で聞いていたミーシャも飛び上がって喜んでいる。

 私に抱きついてきたミーシャの頭を撫でながら、この笑顔の役に立てる事が私にとっても嬉しい事になってしまったと感じてしまった。


 だがこの直後、私は簡単に依頼を引き受けてしまった事を後悔する事になる。





「はあ〜、馬鹿じゃないの! 一体全体なんなのよ、これは!」


「ん、ま、まあ、ちょこっと多いかも知れないがな。な、なんとかなるんじゃないかな〜って」


「なるかぁ〜! それとちょこっとって可愛らしく言うなぁ〜!」


 贈り物を渡すと言われて私が案内された部屋は、10畳程の広さのある倉庫だった。

 その倉庫一杯に、高さも天井付近まで積み上げられた荷物の全てが贈り物だと言う。あり得ない量だった。


「い、いやな、王国の中で魔王国と一番親密な付き合いがあるのが私でな。王様を始め、その親戚の公爵様、私の直接の上司にあたる侯爵様、更には魔王国との親交を深めたがっている家の数々が、私の所へ届けてくれと持ってきてしまってな」


「しまってなじゃない! 物には限度ってのがあるでしょうが!」


「ま、まあ、アイテム袋も大量に用意した。圧縮すればリュック3つで収まる事もわかった。それくらいならマヒナなら持てるかな〜って」


 私の前には物を大量に入れる事の出来るアイテム袋と呼ばれる魔道具が大量に置いてある。

 その脇にはリュックが3つ。それも本格的な登山家が使うような大型リュックが3つ用意されている。


「持てるかぁ!」


「そのリュックも[霊体感応素材]だぞ」


「そういう問題じゃないわ!」


 こんなデカイリュックを3つも担げる訳がない。それくらい言わなくてもわかるだろうが。


『しゃ〜ないわ、ウチが飲み込もうか?』


 ルナに抱かれてついて来ていたプラチャンが突然わけのわからないことを言い出した。


『何言ってんのよプラ、飲み込んでどうすんのよ』


『ウチはスライムや、なんでも飲み込めるんよ』


『だ・か・ら、飲み込んでど・う・す・ん・の・よ』


『人の話は最後まで聞かなあかんよマヒナちゃん。ウチには《消化》《吸収》の他に《保管》ゆうスキルもあるんよ』


『何それ? 体の中に飲み込んだ物を取っておけるって事? でも体積はどうなの? 飲み込んでも体積が変わらなければプラが巨大化して包んでるだけじゃん』


『大丈夫や、今のウチの大きさまで圧縮出来るんよ』


『何それ、超便利じゃない。どうなってるの? プラ自体がアイテム袋みたいな物って事?』


『スキルやからな、理屈はわからんけど、ウチが凄いってことやないの、飴ちゃん食べる?』


『プラちゃんすごい! カッコイイよプラちゃん!』


 ルナが飴を舐めながら素直にプラを賞賛しながらはしゃいでいる。

 でもまあ確かに凄い。この変な喋り方をするスライムは何者なんだろうかと疑問に思う。


 プラ曰く、豹柄スライムは新種ではなく、突然変異の特殊個体だと言っていたけど、本当に何者なんだろうか?


 しかしまあ、プラのおかげで荷物の問題をクリアする事が出来たので、あらためて領主の依頼を正式に受諾した。



 この日は一日中領主宅で、ルナとミーシャと一緒にプラをポヨンポヨンして遊んでいた。

 領主宅で夕食もご馳走になり、プラが荷物を飲み込んで帰宅した時には、すっかり辺りは暗くなっていた。


 翌朝、朝食の折にマウニおばちゃんとリュンヌにルナの事をお願いして、私とプラは魔王国へと出発した。





「おい、どうする? これじゃあ通れないぞ」


「俺に聞くなよ! どうするったってアレじゃあどうにもならないだろうが!」


 モーントの街を出発して5日目。私達の前を行く2台の荷馬車が街道を塞ぐように止まっている。

 荷馬車の御者と思われるスケルトンとデュラハンの男性は、荷馬車を降りて頭を抱えていた。デュラハンの男性は文字通り頭を抱えている。


「どうかしたんですか?」


「どうしたもなにも、ってウィスパー? うわっ、珍しい!」


「ウィスパーって言うな!」


 私に声を掛けられたデュラハンは慌てて頭を落としそうになる。


 珍しいって、あんただって死霊系アンデットの上位種で珍しい部類だろうが。


 私がジト目で見ていると、デュラハンの男性は慌てて言い直した。


「すまん、ウィルオウィスプだったな。それより見てくれよ、あれじゃあこの街道で山脈を越えられないだろ」


 デュラハンが指差す方向を眺めると、その先で巨大な炎が煌々と燃え盛っていた。



 モーントの街から魔王国までかなりの距離がある。疲労ぜず、食事や睡眠の必要もない私は昼夜を問わず5日移動して、ここまでやって来た。


 この先に行けば王国と魔王国との国境である山脈が聳えている。

 その山脈の麓に宿場町があるのだが、その町の更に手前の街道上で巨大な炎が上がっているのだ。


 山脈を越える為の街道は、ここの他にも一本あるにはあるが、ここから迂回するとなると馬車では7日以上掛かる事になる。

 話を聞くと、前に止まっている2台の荷馬車もモーントの街から来たらしいが、戻って諦めた方がマシだろうと思う。


 因みにモーント街から魔王国の王都まで行くにはこの街道が一番早い。それでもここまで馬車だと10日以上は掛かっているだろう。

 モーントの街から最初から別ルートで山脈を越えるには15日は掛かる。更に山脈を越えてからも王都まで10日は掛かる。

 この街道で山脈を越えれば、王都までは残り3日で到着する。

 おそらくだが、このまま迂回して魔王国の王都を目指せる程の食料は積んでいないと思う。どこかで補給する事まで考えたら諦めた方がマシってもんだろう。


 私がそんな事を考えていると前方の巨大な炎に変化があった。

 巨大な炎の翼のようなものが、天へと伸びて行くように炎の上に立ち上がった。


「お、おい、アレって!」


「まさか! 嘘だろ!」


 デュラハンとスケルトンの顔色が変わる。


「え、何? あの翼みたいなのが何かわかるの?」


 私の問い掛けに答えず、二人の男性は目を見張る。


「ねえ!」


「あ、ああ、アレって、ふ、不死鳥(フェニックス)じゃないのか!」


 え、え〜! 不死鳥(フェニックス)って伝説の魔獣の! マジでか!

ーーーーー[次回予告]ーーーーー


 ヘプルバーン大池で見つかったウチ。

 スライムやあらへん、豹柄スライムやねん。


 領主はんに頼まれた荷物を飲み込んで運んでるとこやったけど、なんやでっかい炎が街道を塞いでるやんか。

 マヒナちゃんはその炎の正体を確かめに行ってまうし、ウチにどないせいっちゅうん。


 次回[誕生日祝いを届けよう[中編]]


 中編って、2話で終わらせる予定やなかったんか! それで何! この丸いのもウチが飲み込むんかい!




 【作者からのお願いです】


 読者様からの反応を何よりの励みとしています。

 ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。

 お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。


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