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黒き空のハルピュイア  作者: 心鏡
二章 錯綜
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十八話 変わっていくこと

「そりゃ必要だろうさ。でも今じゃない。」



一体戦士長が私らに何の用かと思いきや、そんなことだったなんて。

男どもに繁殖のことで心配されるなんて、鼻で笑っちまうよ。

どうせ男なんてものは、一等冷え込むようになりゃ急にだらしなくなって、やることやったら卵にゃ見向きもせずにどっかいっちまう。

寒さを越えて、空腹を越えて生まれた赤ん坊を見つめるのもあたし達だけのものさ。

いっちょ前に飛べるかどうかってなるまで男は赤ん坊の可愛いところだけを見つめて、互いにうちの子は可愛いなんて宣うもんだから、呆れちまうよ。

そりゃ今は前と勝手が違う。

新たに洞を探すのも難しいかもしれないし、手頃な干し草も見当たらないかもしれない。

生活圏を広げて、また人間どもと接触しやすくなるかもしれない。

でもさ、あたし達だってただ守られてるわけじゃない。

ちゃんとやること見据えて覚悟してるもんさ。

「ならば、今やるべきとしていることは何だ。」

「そりゃ、見て分からないかい?木の実集めさ。もちろん乾実を主にね。」

「寒さを越えることが難しいか。」

「前より暖かい所へ来たって言ってもこの空だ。植物達も元気を失くしてるし、もっともっと暖かい方へ移動していくだろうさ。そんな状況で実りの季節に期待できるもんかね。それに、いざ人間共が来た時にゃ洞にこもらなきゃならないし雨が降ってもそうだろう?どれだけあっても足りないなんてことはないさ。」

「尤もだ。私達の得る肉は何日も持たないだろうしな。だが、寒さが強くなれば山頂に保管するなりできるかもしれん。」

「ほんとに向き不向きってもんがあるね。凍り切った肉を一体どうやって食えるようにするんだい。」

「洞にこもっていれば洞の中は暖まる。十分に溶けるだろう。」

「その間に肉がだめになっちまうよ。昔みたく日干しできるわけじゃないんだ、諦めな。そんなことするなら雪の積もる晴れた日に戦士達が何をできるのか考えておきなよ。」

「…すまない。せめて、周囲の洞の位置は確認しておく。使えるかどうかはまた判断してもらわないといけないが、頼む。」

「あいよ。互いにできることをやろう。」

そう言うと、戦士長は飛び立とうとする。

「ちょっと待ちな。姫様には会っていかないのかい。」

戦士長は外した視線をあたしに戻す。その目が恨めしそうに細まる。

少しばかり間が空いて、ほぅっと戦士長が息を吐く。

「…今はどこに?」

「サラと一緒さね。っと…ああ、居た居た。呼んでこようか。」

「すまない、頼む。」

まるで乗り気ではないその声にからかいたくもなるが、まぁ立場を尊重してあげようかね。

戦士長の弱さを、少しでも知ってるってだけで、実にいい気分だし。

噂じゃ、もうナヴィドに先頭を譲って補佐に回るって話だけど…その隣で補佐に回れる人は必要なんじゃない?いや必要さね。

寒くなる頃に、あたしの名前が出るような事があれば、言うことなし。

そんな上機嫌さも姫様に会うまで、いや他の女たち、特にメフリなんかに会うまでには引っ込めておかないと、また何言われるか分からない。

姫様とサラは、撓垂れた葉が丸く集まった枝をいくつもつける木の上で、実と苦戦していた。

「何やってんだい?」

「あっライラーさん。見て下さいよこの木の実!トゲトゲが一杯ついてて…中に実はありそうなんだけど…。」

「少ないだろうけど、割れてるものだけにしておきな。ちょっと器用にやらないと取れないよ。ま、とりあえずは枝ごとにしておきな。後から洞で教えてやるさね。」

「ありがとうございます、ライラーさん。」

「…姫様はこんなこと、手伝わなくても良いんですよ?」

「もう、そうやって私を叱る人は居ません。ですから私は私にできることを、出来る限りやりたいと思います。…お邪魔でしたら、すみません。」

「いえいえ!進んでやって頂けるならこちらもありがたいです。あ、戦士長がお呼びですよ、ほら、あちらに。」

視線を誘導すると、姫様は話の内容を推察されたのか、目が細まる。

そんな仕草はやっぱり親子なんだなぁと思わせるもので、戦士長の妻になればこんな聡い良い子がついてくるのだと思えば一層やる気もでる。

戦士長にそんな素振りは今まで全然なかったし、これからもないと思ってた。

でも戦士長から身を引いて、独りのプラヴァシになったとき、それは変わるかもしれない。

そんな期待もあるし。

「さて、サラの方はサボってなかったみたいだね。…姫様はどう?」

「相変わらず素敵ですよ!」

ああ、そうじゃない、そうじゃないんだけど、悪気なく言われると許せる。ずるいやつめ。

「そんなことは皆分かってるさね。仕事、手伝ってもらえそう?」

「ああ、そっちですか!」

そっちしかないの、そっちしか。

「十分手伝ってもらえると思いますよ!あたいなんかよりずっとやる気もあるし物分りもいいです。ただ、初めてやるってこともあって、枝に止まらないと作業は難しそうですね。」

「ああ、そりゃそうさね。あたし達もすぐにできるようになるわけじゃないし。」

木の実採取で必要なのは停滞飛行だ。止まれる枝があればいいけど、なけりゃ飛びながら行うしか無い。

あたし達の体は小鳥たちと比べりゃ大きい、大きすぎる。

だから木々の間でうまく飛ぶには腕を大きく広げずに半分ほど広げて小刻みに動かさなきゃいけない。

それで維持するもんだからすごく疲れるし難しい。

腕は広げてゆっくりと動かすようにできてるから、それに慣れちまってると、咄嗟な時に腕を広げてしまって身動き取れなくなるなんてことも少なくない。

「だから、今日はどんな木があって、どんな実があって、どうやって取るのかなんてことを一緒に見て回ってます。」

「ふうん、まぁいいんじゃない。飛び方も教えられそうかい?」

「教えたことはないですけど、たぶん大丈夫です。」

何も大丈夫な根拠はないけど、まぁ急ぐ話でもなし。そんな飛び方ができなくてもやることはいくらでもある。

「そうかい?じゃ、任せたよ。」

サラの方は、こんな特別な仕事ばかりしていることがどういうことなのか分かってるのか、いや分かってないんだろう。

分かるようになるにはもうちょっと先にだろうけど、その時に恨み節を聞くのも楽しみさね。

サラが一人で教え方について悩み始めたのを見て離れる。

あたしの方でもやらなきゃいけないことはある。

先祖達の腕は殆ど持ってこれてない。

だから服の替えもないし(プーヤーは戒めだとか言って黒くなった服をそのままにしてるけど)、風よけや熱に浮かされた時の布団もない。

その代わりになる葉や草を探したり、それを干せるような平たい木も見つけなきゃいけない。

何から手を付けようか。

「やぁ、お楽しみだったね。今度は考え事?」

「メフリか、どっから見てたんだい。あんたまでサボりだしたんじゃ若いのに説教できないさね。」

「戦士長と談笑してたのは皆見てたんじゃないかな。ライラーも結構注目されやすいことを自覚しなよ。」

「談笑なんていいもんじゃないさ。相談されてただけさ。」

「恋愛について?」

「…くだらない、くだらないよメフリ。あの人の口からそんな話が出るなんて蛇が空を飛ぶくらいあり得ないさ。」

「ま、そうだね。何の話?」

「…本当の話もくだらない話なんだけど、番う為の洞と、抱卵の為の洞が必要なんじゃないか、って話。」

「ありゃ、確かに変な話だ。でもまぁ、数が減って、人間共のせいで更に減るかもって考えたら焦っても不思議じゃないか。」

「それにしたって、時期が早すぎだよ。そう伝えたら協力できることがあれば協力したいってことで終わったよ。」

「つまんないねぇ。もっと色のある話をすればいいのに。」

「煩い。あの人を前にしてそんな話ができるならしてみればいいさ。」

「あはは、そりゃ無理だ。で、今の考え事は?」

「腕が足りない。人手が足りないって意味じゃなくてね。」

「そうだと思って、ずっと探してた。使えると思うけど、判断して欲しい。」

「了解。流石に気が回るね。」

実に頼りになる。一度冗談でまとめ役の交代を仄めかしたけど柄じゃないと断られた。

まぁあたしもそう思う。

姫様と戦士長が怒鳴り合ったあれから、皆ちょっと変わった。

覚悟なんて言葉、使ってても皆どこかふわふわしてたんだと思う。

それがあれから皆の中でうまく嵌ったみたいで、良い方向に動いてる。

姫様の言ってることも、戦士長の言ってることも分かる。

どちらしか選べないことも。

でも、決断しなきゃならない時に皆が満足して選べるようにあたし達自身でその選択肢を良い物にしなきゃいけないんだ。

だから、あたし達も頑張るからさ、姫様と戦士長も手を取り合って欲しいな。

あたしはそう思う。


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