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9/12

桜時雨(恋愛)

夢で見たようなそうでなかったような?

恋愛です。


時間は無限にある。

 でも人間の時間は有限だ。

 だから伝えようと思った。




 季節は春。

 淡いピンクが絨毯を引くように舞い散る季節。

 僕は彼女と出逢った。

 静かに彼女は空を見上げていて。

 そして小さく息を吐いた。

 綺麗な声で。

 優しい音色で。

 なにかの歌を歌っていたのを覚えている。

 その時に不意に、僕は声をかけたくなったんだ。


「何を歌ってるの?」


「大切な人に教わった歌。」


 最初の会話はこんな感じだったと思う。

 その言葉はどこか悲しげで、僕の胸をぎゅっと締め付けるものがあった。

 聞けば彼女は隣のクラスの女子らしい。

 あまり見かけないなとも思いつつ彼女を見つめた。

 容姿端麗…とはいえないが可愛らしい雰囲気で。

 横顔はそれでも惹きつける何かがあった。


 多分この時に好きにはなっていたんだろう。

 だけど、でも言えなかった。

 それは、それが恋なのかわからなかったから、僕は口を閉じた。



 季節は変わって梅雨。

 雨が降る日が続き、気持ちも憂鬱で。

 春のあの日以来、隣のクラスを覗き見て彼女を確認する毎日が続いていた。

 登校している日と、していない日があるようで。

 たまたま彼女と食堂で食事を一緒にしたことがあった。

 小さなお弁当箱に詰められたお弁当は女性らしく可愛らしかった。


「随分と少食なんだね。」


「あまり食べられないの。だからこれで充分よ。」


 小さく微笑んで彼女は言った。

 なので僕は気になることを聞いてみた。


「たまに学校に来てない日があるね。大丈夫?」


「大丈夫よ。すこし調子が悪いだけだから」


 会話こそ少なかったけれど、そうして話して、僕は彼女が好きだと感じた。

 この頃から一緒に食事をしたり、登下校を一緒にするようになった。


 季節は梅雨を過ぎ、本格的な夏になった。

 彼女は夏休み前から調子が悪くなって、テストも保健室で受けていたことをきいた。

 ある日、LINEの通知音がなる。

 夏休みも中盤に差し掛かった頃、涼しい夜のことだった。


「逢いたいな。」


 送られてきた一文に、少々目を見張る。


「どうしたの?急に」


『うん。なんとなく』


「なんとなくって」


『あなただから逢いたいの。

ダメかな』


「どこであうの?」


『学校の近くの喫茶店。』


「あぁ。あの黒猫の居る?」


『そうそう。あそこの紅茶。

すごく美味しいの。

後珈琲とか』


「じゃあ待ち合わせは何時にしようか」


『______くらいかな』


「わかった。じゃあまたあとで。」


 こんなやりとりをして慌てて準備を始めた。

 バタバタとした準備を終えて家を飛び出す。

 夏の匂いがただよい、鈴虫がリンリンと騒がしい道を自転車ではしりぬける。

 目的地の店に着き、カランと店のドアを開けると。

 黒猫が甘ったるい声でにゃあと一鳴きした。

 赤いリボンが可愛らしいこの猫はきららというらしい。

 この店のバイトのお姉さんが拾ってきたとか。

 可愛らしい声を耳にして席に座って、クーラーがよく利いた店で猫と戯れつつ彼女を待つ。

 少し遅れて彼女はみせにやってきた。

 白いワンピースに黒の上着。

 可愛らしい服装でつい見とれてしまう。

 よくみるとうっすら化粧もしているらしい。

 姿を見つけて彼女は正面に座る。

 彼女を目にすると、キララという黒猫はどこかに行ってしまった。

 それを見届けてクスリと笑ったあと、かのじょはくちをひらいた。


「ごめんね?急に逢いたいなんて言って」


「いや、いいよ。どうしたの?」


「あの…あのね?私…もう逢えないかもしれないから。それを伝えたくて」


 そう言われ、思考が固まって。

 そのあと、何を話したか正直覚えてない。

 ただ、彼女は入院するとだけ伝えて帰っていった。




 それからしばらくしてLINEの通知音がなった。

 あの日から彼女のことを考えない日はなかった。

 だから通知音がなって慌てて画面を見た。




『あの日から結構時間経っちゃってごめんね?

なんだかんだあってなかなか話せなくて。

たぶん私もう本当にあなたに逢えないかも。

がんばってみたけれど。

好きな事もっとしたかったな。

きっと、楽しかったんだろうな。

でも今できることやらないと。

すごくあなたと話せて嬉しかった。

ありがとう』


「え!?」



『また、ね?』



 一方的に、彼女から来たメッセージはそれだった。

 それ以降彼女から連絡が来ることはなかった。













 季節は移り変わって秋。

 文化祭だの体育祭だの終わって一息ついた頃。

彼女の訃報を聞いた。

 それは突然に、訪れた。


「彼女が、亡くなったらしい」


 学校の近くにある、喫茶店のマスターが教えてくれた。

 結局、ずっと言わなかった言葉を飲み込んだままだった。

 どうしようもない悲しみを抱き、整理のつかない感情を吐き出すように、そして言わなかったことを後悔するように。

 落ち葉が舞い散る季節に、微かな声で呟いた。



「理由なんてあれこれ考えてはみたけれど、やっぱり俺は…あの春から君が好きだった。

理由なんて無かった。

俺も……君が好きだった。」







 季節はまた巡って。

 君と出会った春になった。

 隣には君は居ない。

 風に舞い散る桜色が掌に落ちてきた。


 また、きっと、いつか恋をするだろう。


 それはきっと、とても美しい恋になる。

 この、桜の花びらのように。

なんか、自分で書いててあれですけど、恋愛はハッピーエンドがいいと思うんですよね。うん。


ありがとうございました。

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