桜時雨 女目線(ファンタジー要素あり)
前回の桜時雨の女の子目線から書いたものです。
恋愛と、ファンタジー要素がふくまれます。
苦手な方は引き返すことをお勧めします。
どこであろうとも、時間は有限である。
しかし私の時間は、無限に存在した。
だから、不思議だった。
こんな私に、あの子は何を伝えようとしたのだろうと。
その答えを、知っていながら。
季節は春。
暖かい桜の色が、新しく道を踏み出した彼らを包み込むように舞い散る、そんな季節。
私は、あの子と出会った。
美しい桜の花を仰ぎ見て、小さく息を吐き出し、私は歌っていた。
いつか愛おしい人に教えてもらった、大好きな子守唄を。この世界の言葉では無い言葉で。
桜の花は風に踊り、私はその中で歌った。
なんて心地いいのか。
そんな中に、少しばかりの感傷が通り過ぎようとした時、近くにいたその子は話しかけてきた。
「何を歌ってるの?」
まさか話しかけてくるとは思わなかったので、とっさに「何も」と答えようとしたが、その子の顔を見て思いとどまった。
「……大切な人に、教わった歌。」
その子は、あまりにも"彼"に似すぎていた。
そのあと、その子と少しばかり話をした。
どこのクラスなのかとか、そんな他愛もない話。けれど私は嘘をついた。
クラスに覚えはないし、学校にも通ってい無い。
隣のクラスと答えた時の、あの子の不思議そうな顔は納得できるもの。だって隣のクラスにい無いんだから。
多分、この時にはまだ気づいていなかった。
あの子が話しかけてきた理由も、妙に見つめられていたわけも。
知っていたとしたら、きっとそれ以降は会おうとはしなかったと思う。
だって私は、この世界の人間ではないのだから。
私は少しバカになっていたのかもしれない。
気づいたら季節は梅雨に入っていた。
雨が降りしきるこの季節は、人の気は落ちるというが、私も例外ではなかった。
つまらない嘘をついたせいで、私は学校に通うことになった。
しかも、少しばかりズルをして。
毎日来ていたわけではなかったのだけれど、あの子はいつも私を見つけては妙な視線を送ってきた。
なんなのだろう。
まさか、隠していることがばれたのだろうかと、そんな考えにとらわれ始めた頃、私がお弁当を開いている目の前に、その子は現れた。
「随分と少食なんだね。」
お弁当の中身を見て心配そうに言う。
「あまり食べられないの。だからこれで充分よ。」
優しい子なのだと、思い知った。
そしてそれが、彼に似ていると、此の期に及んで思ってしまった。
「たまに学校に来てないね。大丈夫?」
「大丈夫よ。時々すこしだけ調子が悪くなることがあるだけだから」
だから、甘い私は冷たくすることすらできなかった。
それからというもの、学校に行く頻度を少し増やした。
理由は、聞かないで欲しいな。
私にもよくわからないもの。
学校に行けば、その子は必ず私を見つけては話しかけてきて、途中まで帰るなんてこともするようになった。
この時にはすでに、私はあの子の本心に気づいていたんだと思う。
気づいていて、甘えてしまったのだと思う。
時は流れて、季節は夏になった。
私は限界を感じて、錯覚の術を施して、学校に行くのをやめた。
あの子には「体調が悪くなった」と、誰かから教わるのだろう。
少しばかり胸が痛んだ。
限界なのはわかってた。けれど、彼によく似た人になんて、そうそう会うこともない。
最後くらいなら……
私はある日、端末の通知音をあの子に伝えた。
「逢いたいな。」
文面はそれだけだった。
なのに、返信は驚くほど早くきた。
『どうしたの?急に。』
驚いているのか、それとも……
「うん。なんとなく。」
『なんとなくって。(苦笑)』
嘘だった。本当は、最後に顔を見ておきたかった。あの人によく似て、優しいあの子の。
「あなただから逢いたいの。
ダメかな。」
断られるかとも思ったが、そうではなかった。
『どこであうの?』
「学校の近くの喫茶店。」
『あぁ。あの黒猫の居る?』
一度一人の時に行ったことのある喫茶店。最後にするにはちょうど良い場所。それに、黒猫にも伝えなければならないことがある。
「そうそう。あそこの紅茶。
すごく美味しいの。」
初めて飲んだ時の、あの感じ。
そして、あの人が飲んでいたコーヒーも。
「後、珈琲とか。 」
私はさりげなく付け足した。
『じゃあ待ち合わせは何時にしようか。』
「____くらいかな。」
『わかった。じゃああとで。』
そんなやりとりをして、そこでの会話は終わった。
私も支度をしなくちゃ。
「行かないほうがいいと思うが」
後ろからの声に、私は構うことなくその場を後にした。
たどり着いた喫茶店、カランと扉を開けると、足元で黒い猫がニャァと一泣きして出迎えてくれた。
この猫は私がここに来る前に拾った猫だった。名前をつけたまでは良かったのだが、飼えない現状がある事で、この喫茶店に来た時に細工して、世話をしてもらえるようにした。
この子もきっと、私の事は覚えていないだろうな。
そこから視線を巡らせると、その子は頬を赤くしながらこちらを見ていた。
その正面に座りながら口を開く。
「ごめんね?急に逢いたいなんて言って。」
「いや、いいよ。どうしたの?」
「あの…あのね?私…もう逢えないかもしれないから。それを伝えたくて。」
当然嘘だった。
のだが、目の前の少年はそれを聞いた瞬間、驚きを隠せない表情で固まってしまった。
たまらず、私は目をそらした。
「入院するの。それだけ伝えたくて……。それじゃぁ」
私はそそくさと店を出て行った。
これで諦めたくれるだろう。
そう、信じて。
しばらく時は流れ、私は久しぶりにあの桜の木下に顔をのぞかせてみた。
すると、そこには先客がいた。
「っ!?」
あの、男の子だった。
焦った、と言うより、驚いたのかな。
どっちでも同じか。
多分、この時に気づいたんだと思う。
私は、あの人に似た、あの男の子と、ずっと一緒にいられたらなんて、幻想を抱いていた事。
もう少し、ここで楽しんでみるのもありなのかもしれないという、気持ちがあった事を。
「、、、っ、、何を、しているのよっ」
私はすでに、間違いを犯していたのだと、この時に思い知った。
それからしばらくして、私は久しぶりにあの子の通知音を鳴らしてみた。
たった、一回だけ。
「あの日から結構時間経っちゃってごめんね?
なんだかんだあってなかなか話せなくて。
たぶん私もう本当にあなたに逢えないかも。
がんばってみたけれど。
好きな事もっとしたかったな。
きっと、楽しかったんだろうな。
でも今できることやらないと。
すごくあなたと話せて嬉しかった。
ありがとう。」
それを最後に、私はその世界を後にした。
場所も、世界も、時間も変わり、季節は秋になっていた。
私は帰るべき場所に変える事ができ、こうして昔の事なんかを思い出している。
あの世界で、いろんな事情を知っている人たちに助けられながら、間違いを犯して、苦しい思いをさせてしまった男の子の事。
私があの時、本当は何を考えて、何を感じていたのかは、わからないまま。
最後のメールの文面が、なぜあんなものになったのか。
「理由なんてあれこれ考えてはみたけれど、やっぱり、わからないままね」
季節は巡って、春になった。
隣には愛おしいものの存在があって。
次あの子にあったら、ちゃんと話して、謝れたらいいな。
叶わないものとわかっていながら、儚く舞い散る桜の花のように、私はしばし、願ったのだった。
淡い雰囲気を作ろうと思って失敗した感じがしてなりません。
つらいいいい。
ありがとうございました




