↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

第2話:ふたりで一人前のナビゲーター



「瞬、もう少し右! あ、そこ段差があるから気をつけてね」

「了解、ストップ……よし、超えた」

車椅子の押し手を握る僕——瞬の手に、葵の声がダイレクトに響く。

病院の敷地を抜け出し、僕たちは初めて街の歩道へと踏み出していた。

僕の視界は 相変わらずぼやけた光と影の混ざり合いだ。けれど、葵の背中越しに届く葵の指線と声が、まるで暗闇の中に引かれた一本の鮮やかな線のように僕を導いてくれる。

「ねえ瞬、右側を見て。いま、大きなひまわりが咲いてるよ。太陽に向かって、威張るみたいに胸を張ってるの」

「へえ……ひまわりか。黄色が眩しい感じ?」

「そう! 眩しくて、ちょっと暑苦しいくらいの黄色。……あ、左手からは甘い匂いがしてきたでしょ? パン屋さん。焼き立てのクロワッサンが並んでる」

葵が言葉を重ねるたびに、白く霞んでいた僕の世界に、色と形が吹き込まれていくようだった。

見えないはずのひまわりの黄色が、焼きたてパンの香ばしい黄金色が、僕の頭の中に鮮やかに広がっていく。

「葵はすごいな。まるで魔法使いみたいだ」

僕がそう言うと、葵は車椅子の上で誇らしそうに胸をはった。

「当然でしょ。私は瞬の『目』なんだから。……ねえ、もっとスピード上げてみない?」

「え、大丈夫? 怖くない?」

「瞬が押してくれてるんだもん、全然怖くないよ。風を感じたいの!」

僕は押し手を強く握り直し、ゆっくりと足を速めた。

ジョギングほどの速さで駆け出すと、夏の生ぬるい風が勢いよく僕たちの頬を撫でて吹き抜けていく。

きしむ車輪の音と、葵の弾けるような笑い声。

一人でいた時は、一歩踏み出すことすら恐怖だった街角が、葵と一緒ならこんなにも眩しく、愛おしい場所に変わる。

「瞬、まっすぐ進んで! この先に、すごく眺めのいい坂道があるの!」

「おう、任せろ!」

葵が僕の「目」になり、僕が葵の「足」になる。

不完全だったはずの僕たちは、風を切ってどこまでも走っていける気がしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。