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Ep6、ピクニック行った。




 ごとごとごと。馬車が揺れる。


 僕はというと、一応外を眺めてるけど、心の中はそんな余裕は全然なかった。


 …なんで父様と二人きりなんですかね!?



◇◇◇



 いや、まあカーミーラの指示だったとしても流石にヴァリアンと僕を一緒に馬車に乗せるのは怖いんだろうね。一緒に寝てますけどね…。


 あとは僕が話したがってはいるのも察したみたいな?ありがたいけど超嫌だ。


 …そしてここは僕から話す流れですかね。ですよね。やだよ…。


「…父様」


「なんだ」


意を決して父様に声をかける。窓の外を見ていた父様も僕に目を向けた。眼光がとても鋭い。かっこいい通り越して怖い。


 でもホント、目がキラキラしてるっていうか生気があるよね。前がなさすぎたせいで余計に。


「ヴァリアンは誰の子でしたか?」


乗った時から聞かなきゃなとは思っていたことだ。僕にとってはともかく、社会的に見たら大問題である。


「父様とカーミーラの子でしたか」


「現在確認をしているところだ」


…そもそも、なぜ父様はカーミーラを妻として認めたのか。母様がいながら、あなたの子供と主張されたら否定できないようなことがあったのではないですか?


「…リユラル」


低い声が響き、反射的に背を伸ばす。


 …やば、声出てた…?


「その点に関しては、本当に申し訳ないことをした…。今更にはなってしまうが、私はアリシアを本当に愛している」


「っじゃあ、なんでやましい事があるのですか」


「…わからない」


は?


 カッと頭に血が上った。


 なんだよ、わからないって。そんなことくらい普通覚えてるでしょ!?


「…6年前、監察に行ったときに、カルカートス子爵の家に泊まった。考えられる状況はこの時しかないのだが、なぜか記憶がないのだ」


「記憶が、ない…?」


「ああ、ない…。靄がかかったように思い出せない。いくら思い出そうとしても、無理だ…」


苦しそうに顔を歪め、父様が吐き捨てる。頭に手を当てて、顔をひどく顰めて。なんだよそれ、ふざけんな。都合がいいように作り上げてるだけなんじゃないの?


 やり場のない怒りが全部形になって、逃げ出そうとしている。半ば八つ当たりのような感情があることに気づき、ハッとした。


 …落ち着いて、僕。ここで怒っても、いい事ないから。


 母様がいなくなったあと、庭の手入れをしていたのは父様だ。時折、母様花を手向けているのは父様だ。


「…カーミーラに対してはどう思ってるのですか?」


「ヴァリアンが私の子であれば、責任を取るつもりではあったが…。正直、彼女に対しては何も思っていない。本当に言い訳がましくなるが、彼女を好ましいと思ったことはない」


「では、夫婦の関係はないとおっしゃるのですか」


「そんなものはない!そもそも彼女は部屋に入れたことすらない」


…僕がそう言った瞬間、キッと強い目になって父様が大きな声を出す。その手は、母様のペンダントを握りしめていた。


 震えるその手をしばし見つめ、僕は1番知りたかったことを訊く。


「…父様はまだ、母様を愛しているのですか」


「私が生きている限り、アリシアを愛さなくなることはない。…いや、死んでも愛している」


「あ、そう…」


いや、惚気が聞きたかったわけじゃないんだけどね?


 なんだか予想外の返答すぎて拍子抜けだ。これ以上話を続ける必要も理由もないので、背もたれに背を預け、外に目をやる。飛ぶように外を過ぎていく森を見ながら、ふっと息を吐いた。


 …なんだ。父様、母様のこと大好きじゃん。


 母様が父様のことを不器用な人だと笑っていたけれど、本当にそのようだ。


 案外、このピクニックも本気で仲良くなるために言い出したものだったりして、ね。




◇◇◇



「にぃさま?」


「…ん」


つい寝てしまっていたらしい。コンコンという音で目を覚ますと、外からヴァリアンが覗き込んでいた。到着したんだ。


 馬車のドアが開けられると、ヴァリアンが手を差し出してきた。繋ぐ…、違う、エスコートか。


「っふふ、ありがとう」


可愛いな。手を取らせてもらって、階段を降りる。草に覆われた地面はふかふかで、咲き誇っている花はすごくいい香りがした。


 もともと母様は侯爵家の長女で、ここは母様の家が直接統治していた場所だ。隣でヴァリアンが、風に気持ちよさそうに目を細めている。


「きもちいぃです〜…」


最近、ヴァリアンはよく笑うようになった。安心しながら、僕はヴァリアンの隣に腰を下ろす。


「相変わらずいい景色だなぁ…」


「にぃさまは、ここに来たことあるんですか?」


うん、と答えて、軽く説明する。にぃさまの母様だから…アリシア様?とヴァリアンが首を傾げた。


「そうだよ。母様はね、自然が好きな人で…。お花を育てられるようにって、父様があのお庭も作ったんだって」


幼い頃に母様に聞いた話だ。確かこの原っぱでちょうど聞いたんだよな。


 ごろんと後ろに転がると、青空が視界一面に映る。ひょこんとヴァリアンが僕を覗き込んできて、思わず笑った。


「びっくりした?意外といいんだよ、寝っ転がるの。あとで服の草を取ることになるけどね」


ほら、と腕を伸ばすと、ころんとヴァリアンも横になった。


「…にぃさま、好き」


「んっ!?」


いきなりの好きにちょっとびっくりしてしまった。ヴァリアンは社交辞令が本当に上手だ。ついドキッとしてしまう。


「またそんなこと言って〜。僕を揶揄うのも程々にね?」


あ、でも家族として好きってことなのかな?それなら僕もヴァリアンのこと大好きだし。


 むすっとほっぺを膨らませたヴァリアンに言い直そうとしたら、いきなりヴァリアンが起きた。


「ボクはにぃさまがホントに好きなんです」


そう言って顔をずいっと近づけてくる。ちょっ、ストップ!


「待って!?それは大切な人にするものだから!」


「にぃさまだっていつもボクにしてくれてます!」


「あれは額だから!!」


ヴァリアンの下から抜け出して起き上がる。危ない危ない、ヴァリアンのファーストキスを奪うところだった。


「キスっていうのはね、大切…、えっと、大好きな人にね…?」


「大好きです!」


あれ?話が通じないぞ?


 …というか僕もわかんなくなってきてしまった。


「えっと、そうじゃなくてね?あの、恋愛的な好きっていう…」


「ボクはにぃさまが好きだし、笑っててほしいし、守りたいしぎゅーってしたいんですけど、これは『れんあいてき』な好きとは違うんですか?」


「えっと、えーっと…?」


だって義兄弟だし、あれでもアルファとオメガだから結婚できちゃうな?いや、その、えっと。それは家族的な愛…?え、守りたいって何。


「ルリア、にぃさまがー!」


「えっ、何事ですか…」


ルリアの呆れた声を聞きながら、僕はキャパオーバーに達したのであった。



◇◇◇



「にぃさま、これどうぞ」


ぷしゅーっとなった僕が木影で読書している間、ヴァリアンはルリアやモニカと遊んでいた。


 近づいてきたヴァリアンに目を瞑ってと言われ、言われた通りに閉じる。頭に何かが触れる感覚があって、ちょっとくすぐったいなと思ったら、目を開けていいと言われた。


「わ、リユラル様可愛い…!」


「似合ってますね!」


 …??


 いきなりメイドたちがざわつき始めた。というかニヤつき出した。なんだなんだ。


「花冠です、にぃさま。妖精みたいで綺麗ですよ」


ヴァリアンが満足そうな顔をしている。そんなものを作ってくれてたのか。でも僕が妖精に見えているのは大丈夫だろうか?


 メイドたちがにっこにこだ。ここはまともな感性を持っていそうなエメリックに聞くしかない。僕は花なんて似合わないと思うんだけど_


「とても似合ってると思います」


「なんで皆!?」


全肯定なの嬉しいけど恥ずいです。だいぶ。


 これはお返しに腕を振るわなきゃだね。よし。頑張っちゃおうと思う。母様にいっぱい作ってるから得意だしね。でも僕の美的センスは微妙なので、ルリアについて来てもらおう。


 ルリアと一緒に、ちょっと探していたら、ベストポジションに父様がいた。なぜか花の香りを嗅いでは首を傾げている。何をやっているんだろうと思って僕も摘んでゆっくり息を吸い込んでみた。


「…っ!?」


花の匂いがする。自然の、柔らかい、人工的すぎないやつ。


 それに思い至った瞬間、息を呑んだ。そうだ、匂いだ。


 カーミーラの匂いがキツいのはもう気にしてなかったけど、そうだよ。前、父様の部屋でカーミーラみたいな匂いがした。強い、花の匂いがしたから。でも、さっき、父様は。


 部屋に入れたことなんてないと言っていた。


 そうだ、毎回感じていた違和感はこれだ。匂いに気がついたのをきっかけに、全部が繋がっていく。


 カーミーラは、たまに匂いが揺らぐ時があったんだ。父様の部屋でしていたあの匂いと混ざった匂い。でも、父様を信じるとしたら、あの部屋は使用人しか入っていない。それに僕が体調不良になったのはおそらくあの匂いのせいだ。もし父様が長期間あの場所にいたら?


 もし、カーミーラの花の匂いが、もう一つを隠すためのものだとしたら?


 それに仮に毒性があるとして、記憶を失わせたり、五感を鈍らせたりするものだったら、父様の仕草は。


「っ父様、今、匂いがわかってますか!?」



 

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