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Ep4、お勉強。





「ぅあ〜っ……」


やっと勉強から解放されて僕はベッドに飛び込んだ。愛しい枕よ…!


 そして改めて、政治構造ムズカシイ…。


 中身が17歳だからいけると思ったんだけど、自分がどれだけ世間知らずかをしっかりと学ぶことになってしまった。しかもエメリックが先生とか聞いてない。


 政治構造をドゴスと叩き込まれた。容赦がなかった…。


 でもおかげで、なんか謎だったところがいろいろしっくりくる。僕の家ってそんなすごかったのか。


 この国には王様がいらして(微妙に仲悪かった記憶だけある)、それでその下に公爵がいる。その下に侯爵とか伯爵とかがいるんだけど、僕はその公爵家の中でも四大公爵家と呼ばれるすごいところだ。


 だからお金いっぱい使っても怒られなかったんだな。まあ散財させて反感を買うようにする目的だったろうし、最後にこってり怒られたけど。


 ちなみに思い出したくもないレギルアスも第四公爵家の一人だ。四大公爵家の中でも特に新参者である。僕の家は三番目に古株です。


 …まあ、だから政略結婚したんだしね。ケッ。


 二度と婚約なんてしないぞバーカという気持ちでいっぱいである。まあ、それは置いといて。


 領地、広かったんだね。


 ちなみにカーミーラは僕の家の(公爵領の)男爵家の人間だった。ライラ男爵だっけ?の妹らしい。男爵の名前はカルカートスというようだ。それなりに領地が狭い上に僻地らしかった。


 エメリックは侯爵らしい。びっくり。位をあんまり気にしたことがなかったから知らなかったな。なんで仕えてくれてるのか謎なので今度もう一度聞いてみよう。


 しかしこれでだいぶ土台がキッチリしてきた気がするな。ようやくわかってきたよ。


 土地の感覚とまともな金銭感覚を叩き込まれた二日間だった。


 あとヴァリアンが寝る前に来てくれるようになった。一緒に本を読んだりするようになって、なんか僕の寝つきがよくなった。

 


◇◇◇



「これで明日から普通に運動していいんだよね?」


 書庫に本を戻して、僕は大きく伸びをしながらルリアに尋ねる。お医者さんがそう診断してくれてたはず。


「…ほどほどでお願いしますよ?」


「わかってるって」


今回の件でかなりの人に心配をかけてしまったようだ。流石に反省してるので、しばらくはのんびり日課にしようと思う。


「…!…っ!!」


「……?」


珍しいな。こんなに言い合いの声が屋敷に響くことってあんまりないや。ただでさえ静かな屋敷だし、夜だから余計に響く。


 ルリアと顔を見合わせて、声がする方に向かう。途中まで普通に歩いていたけど、僕がいきなり走り出したのを見て、ルリアが驚いた顔をしている気がした。


 …なんか、すごく嫌な予感がする。当たらなきゃいいけど…。


 その願いも虚しく、たどり着いたのは一つの部屋だった。ヴァリアンの部屋だ。


「いやだっ!にいさんが、大切なものって言ってた」


「だからだって言ってるでしょ!早く盗って来なさいよ!アンタの役割はそれしかないんだから」


泣いてるようなヴァリアンの声。それに重なるように響く高い声。高慢な声は、嫌というほど聞き覚えがある。


「…リユラルだよ、開けて!」


ルリアに片手で指示を出して、もう片方の手でドアを叩く。マナーなんてこの際言ってられない。


 内側から弾かれるようにドアが開いた。髪の乱れたモニカが、僕に縋るような目を向ける。


「助けて、リユラル様っ…!」


それには答えず、部屋に駆け込んだ。キーンと頭が痛くなるほど強い花の香水の匂い。部屋の中央に立つのは、紫の髪を振り乱したカーミーラだった。


 手には、鞭。前にしゃがんで泣きじゃくるヴァリアンの前に仁王立ちになって、その手が振るわれる。


「っ」


考える余地なんてなかった。地面を蹴り、ヴァリアンを抱きしめて転がる。肩に衝撃が走った。


「いっ……、。何をしていらっしゃるんですか、カーミーラ様」


ヴァリアンの頭を抱きしめ、強く胸に押さえ込む。カーミーラの声を聞かせたくなかったし、見せたくもなかった。


「廊下まで声が響いていましたよ。一体何をお話になっていたのです?」


腹の中が熱い。怒りがぐらぐらと煮えたつようで、声が少し震える。


「…っ」


「言えないのですか?」


やばいな、止まれないかも。こんな幼い子に何をしているんだよ、と後から後から怒りが湧いてくる。ヴァリアンの笑顔とか、安心した寝顔とか、そういう記憶が頭をよぎる。


「う、うるさいのよ!オメガのくせにっ、何を」


「やたらとオメガを軽蔑していらっしゃいますが。…下に見ていたそれに追い詰められるあなたは滑稽ですね」


ギリギリで保っていた糸がプツリと切れた。怒りに任せて言葉が口から溢れでる。言い返す言葉がなくなったのか、カーミーラが頬を朱に染めて腕を振り上げた。


 …あ、まずい。言いすぎた。ヴァリアンに怪我が及ばないよう、必死に抱きしめる。


「カーミーラッ!」


打たれる。そう思って歯を食いしばった瞬間、部屋に低い声が轟いた。


「…私の息子たちに、何をしている」


父様だ。よかった、ルリアが呼びに行くのが間に合った。


「に、さま」


「大丈夫。大丈夫だよ」


ヴァリアンが僕を案じるように離れようとした。ダメだよと手に力を込めると、恐る恐る抱きしめ返される。


「こ、これは違うのです!」


「何がだ?」


昔の父様みたく、威厳のある朗々と通る声。それが硬いまま問われたら、僕でも少し怖かった。


 カーミーラをレイルドーシャが拘束する。動きを奪われたカーミーラが睨みつけたのは、ヴァリアンだった。


「っ、アンタのせいよ!」


ヴァリアンの耳を塞ぎ、目を塞ぐ。何を言うかは分からないけど、絶対に聞かせない方がいい。


「アンタがっ、アンタがいるからいけないのよ!わざわざアタシが拾ってあげたのに!アタシの子として扱ってあげたのに、役立たずがっ」


……怖い目になったレイルドーシャがカーミーラの気を失わせたため、言葉がそこで途切れた。


「…にぃ、さま」


ゆっくりと、泣きあとの残る顔でヴァリアンが僕を見る。心細そうな手をそっと包み、抱き上げた。


 夜も遅いし、あとは大人に任せた方がいい。僕は関与するべきじゃないし、一刻も早くヴァリアンはこの部屋から出た方がいい。


 立ち上がった僕を、ルリアが追ってくる。ヴァリアンを引き取ろうとした手を軽く首を振って拒み、抱きしめる。


 心臓の音が、小さく響いていた。



◇◇◇



 僕は医術は門外漢なので、ヴァリアンはお医者さんに任せることにした。打たれた肩をルリアに手当てしてもらいながら、頭をフル稼働させる。


 …カーミーラは、『アタシの子として扱ってあげた』と言っていた。じゃあ、本当はカーミーラの子ではないのだろうか。セリフから察するにそういうことだろうが、ヴァリアンは『父様とカーミーラの子』という肩書きだったはずだ。つまり階級偽造をしていたことになる。誰が?カーミーラだろうか。


 もう一つ、ヴァリアンの行動について。まあこれはカーミーラが黒幕だと自白してくれたようなものだ。前世でもそうだったとしたら、ヴァリアンは操り人形のようなものだったのだろうか。小さい頃に記憶に刻まれた上下関係は残りやすいという文献があった気がする。


 僕が処刑された時、5歳年下だったからヴァリアンは12歳か。あまり考えたことはなかったけれど、その年齢なら支配から抜け出せなくても無理はない。むしろあの表情を思うと自我は残っていた方なんじゃないだろうか。


 カーミーラが黒幕だとすれば行動にも納得がいく。大抵カーミーラと一緒に行動してたしな。


 もともと今回と前回では切り離して考えようと思っていたし、今はもうヴァリアンを警戒なんてできない。だって可愛いもん。というか利用しようとか思ってたけど、それじゃカーミーラと一緒になっちゃうし、ヤダ。


 詳しいことは、あとで父様に聞こう。今はモニカの事情聴取が行われているだろうし。


 …それにしても、父様が『私の息子たち』って言ったの、意外だなぁ。前回は僕のこと息子だと思ってなさそうだったし。今回は何かやらかしてないからまだ優しいんだろうか。


 そういえば、前回の父様はなんだったのかな。一瞬カーミーラがヴァリアンみたいに懐柔したのかと思ったけど、それだとあんな抜け殻だったことの説明がつかない。


 …まぁ、父様はこの際どうでもいいや。僕あの人にあんま興味ないし。


 最優先なのはヴァリアンの安全確保。今はとりあえず、それでいい。


 何かまだ引っかかることはあるけど、それはきっと、明日の僕が考えるさ。





 

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