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Ep10、終わらせよう。



 証言するためだけにわざわざ来てもらったクララさんを見送る。夜分遅くだったため、ちょっと眠そうだ。


「申し訳ありません、わざわざ…」


「いいえ、本当にありがとうございます。言葉では表し尽くせないほどです…」


解放されたように、晴々とした笑顔でクララさんが笑う。わ、綺麗だ。


 明るい日の下で、クララさんの内側にカールしている長い淡い金髪にピンク色の甘い瞳がよく映える。小顔でとにかく、透明感のある美人さんである。字もえげつなく綺麗だった。


「実は、医者の幼馴染が地元にいるのです。その人と結婚するつもりでして」


こっそりと、見送る時に教えてもらった。長年想っていた、アルファの男性らしい。ハクト、という青年で、クララさんを迎えに来ていた。


 細縁眼鏡をかけた、優しそうな男性だ。お似合いである。


「ぜひ、結婚式にもいらしてくださいな」


ふんわりといい香りをさせ、柔らかな笑みを浮かべてクララさんは去っていった。なんか女子力の権化みたいな方だ…。


 僕も見習おうかしら。うん、無理そうだね。



◇◇◇



 カルカートスたちとは別の小屋に、カーミーラは閉じ込めてある。だいぶ回復して、もうぜんぜん歩ける父様とヴァリアンと一緒に、僕はその小屋へと向かった。モニカと一緒にしたら何が起こるかわかんなかったし…。


 ドアを開けると、存外落ち着いた表情でカーミーラは座っていた。一時、薬で意識を失っていたと聞いたけど、こちらも元気そうだ。


「…家は、取り潰されるのですか?」


しばらく見つめあったあと、少し掠れた声でカーミーラが聞いてくる。


「そのつもりです。領地はクララさんの家の…、ダンデ家のものになるかと」


そう、とあまり興味もなさそうにカーミーラが言った。あれ、意外かも。


「敬語を使わなくても結構ですわ。わたくしは罪人ですもの」


どこかほっとしたような顔になりながらもカーミーラが言う。カルカートスが爵位を奪われたのはもう、知っているはずだ。


「ヴァリアン様、怪我は痛みませんこと?リユラル様も…。申し訳ないことをしました」


突然対応が変わった思惑が掴めず、ついヴァリアンを庇うように一歩前に出た。少し悲しそうにカーミーラが笑う。


「わたくしを捕まえてくださったこと…。兄を捕まえてくださったこと、感謝します」


ほたほたと、その頬を涙が伝い落ちた。不意に心が決まる。


「…あなたに刑を言い渡します。ウラル地方の墓守になること、そして結婚をせずに生きること」


そのことを告げたとたん、大きく目が見張られた。地方にはそれぞれ大きな教会がある。ウラル地方はカーミーラの生まれた地。そして、彼女の想いびとの眠る地だ。


 ウラル地方、と信じられないように繰り返す彼女の目から、先ほどとは違う大粒の涙がこぼれた。


「…ユーリ、ユーリっ…!」


名を呼びながら、静かに彼女は涙を流している。


 ヴァリアンに暴力を振るった物を許すことはできない。けれど、調べれば簡単に彼女の過去はわかった。


 出来の良い兄と比べられていたこと。想いあっていた平民のベータ女性、ユーリとの関係が家族に知られ、挙句にユーリが殺されたこと。結婚のできない性別だったこと__ベータ女性同士だったこと__が原因だった。墓を壊されるという脅しで、兄の指示に従うしかなかったことも判明した。


 そんなことがわかってしまったら、一方的に刑を下すのもできない。甘いとはわかってるけど、せめてこれくらいは許されないだろうか。


「ありがとう、ございます…っ」


その後は声にならない声だった。



◇◇◇



「…ヴァリアン」


ぼうっと部屋から外を眺めている。その視線の先にカーミーラの部屋があることに気がつき、つい名前を呼んでしまった。


「はい、にぃさま」


すぐにヴァリアンが反応してくれる。


「…なにか、罰に希望はある?」


前も聞いたことだけれど、何もないと言っていた。自分を虐げていた相手が甘い罰を受けるのはやはり、嫌なのではないだろうか。


「えっ、ないです!…ただ、カーミーラが別に、悪い人じゃなかったんだなあって改めて」


ちょっと複雑です、と義弟は笑う。でも人が殺されなくてよかった、と付け足した。


「ヴァリアン、ぎゅってしていい?」


「えっ?はい」


いい子というか、いい子すぎるというか。僕が家族だからねと抱きしめてしまった。


「ねぇ、敬語やめない?」


「へ?」


いや、自分でも唐突だったとは思ってる。戸惑ったようにヴァリアンが目を泳がせた。


「に、にぃさん…?」


「うん、そう。社交的な場はともかく、2人の時はそれがいいな」


距離がちょっとありそうでイヤなんだよね。そう言うと、なんだかくすぐったそうに笑われた。


「うん、わかり…わかった、にぃさん」


「…ふへへ」


なんだか僕もこそばゆい。言い出しといてだけど、嬉しくなってしまった。



◇◇◇



 ライラ家の家宅調査で、トキャールが大量に押収された。国家で禁じられている薬なので王様たちに引き渡され、内密に処理されたらしい。その後、領地とカルカートスたちはクララさんの家に引き渡されたんだとか。栽培に関わっていた人間も検挙された(ただし、内容を知っている人間だけ逮捕。ほとんどが何も知らない農民だった)。


 僕もその場にいたんだけど、まあカルカートスは悪い人だったよ。うん。


 山のように出てくる証拠、証拠、証拠。なんかいろいろ金を横領してたみたいで、父様が頭を抱えてた。あらら。


 ただ、手紙の中に思い出したくもないヤツの文字を認めてしまった。僕の処刑を決めた本人であり、元婚約者__レギルアス・レ・ギルザルーテ。


 あまりに嫌すぎて、一瞬千切り捨ててしまおうかと思った。見なかったことにできないかなぁと。ここで繋がってたのか、なるほどね。


 あいつと婚約したのがそもそもの失敗だった。ので、対策として、早めに他の人と婚約しちゃえばいいのではないだろうか。


 社交界にオメガが出られるようになるのは14歳。ちなみにアルファは10歳。なので、それまでに婚約者をゲットしたい。できればいい人を。


 しかし…。ギルザルーテ家とライラ家の繋がりはなんだったのかな。僕?僕を倒したかったんだろうか。


 ライラ家は僕を反逆者として弑し、血縁者として政治の実権を握りたかったのだろう。ギルザルーテ家は、僕の名誉を落として自分の地位を上げたかった。なら、ここはどこで繋がった?


 地方の男爵家と、四大公爵家のうちの一つ。接点があまりあるようには思えない。


 …なーんか、やな予感するかも。


 そして悲しいことに、僕のこの予感は大抵当たる。警戒は必要かもね。


 ただまあ、僕が社交の場に出るまでにはあと3年。その間に僕も、自分自身を成長させればいいさ。





 

これで第一章が終わったため、一度お休みします。

一応続く予定なのですが、まだ投稿できる量ではなく…。

安定した投稿ができないままぐだぐだどこかで途切れてしまいそうなのでそうしました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

読んでくださっている皆さま、ありがとうございます…!


長期休暇の時に書き上がり次第、また投稿しますm(_ _)m


(投稿後、後書き部分を少し変え、誤字修正を行いました)

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