プロローグ
手を押さえつけられ、地に押し倒される。
口いっぱいに広がった、金臭い匂い。土の匂いがやたらと近くて、ギシギシと手の縄の軋む音がうるさかった。
想像もしなかった痛みと屈辱に体を震わせる僕のことを、蔑んだ表情でレギルアスが見下す。その口が、楽しくて仕方がないというように弧を描いた。
「レギルアスっ、お前っ…!」
「なんだ、リユラル。俺が何かしたとでも言いたいのか?」
嵌めたのか、と叫ぼうとした口を塞がれる。それを見て、にぃ、とさらにあいつの顔が歪んだ。
僕の、知らない笑顔。好きだって、愛してるって言ってくれた、あの笑顔は?
そんなの、嘘。ずっと前に知っていたのに、まだ僕は縋ろうとしている。
それを断ち切るように、切れ味のいい刃物みたいに、あいつの目と口が冷たくなる。
「戯言を言わないと精神が保てないのか?惨めだなぁ」
終わらせてやるよ。
残忍な笑みのまま、言い放たれた言葉。死刑通告。
そのことに気がついたのは、冷たいものが首筋に当てられてからだった。くっと歪んだ口元が、満足そうに僕を見下している。
…あ、死ぬ。
「っレギルアス!この……!」
裏切り者め。
そう叫ぼうとした瞬間、ドンという鈍い音がした。
ごろごろごろと視界が回る。何もわからないまま、ただ、周りが見える。
抜け殻のように僕を見る父さん。青ざめて唇を噛んでいるヴァリアン。悲鳴を上げながらも楽しげに見ているカーミーラ。
なんで。
違う、理由はわかってる。
じゃあ、どうすればよかったんだよ。
違う、それも知ってる。あの日、あそこにいなければよかったんだよ。あそこでちゃんと書類を確認しておけば、噂が出た時点で確認しておけばよかったんだ。そもそも、あいつと婚約しなければ。あいつを愛さなければよかった。
そうだよ。全部知ってるよ。でももう、遅いんだ。
…やり直したい。
もう一回、やり直しがしたいよ。
今度は、今度こそは、上手くやれるから……__。
◇◇◇
「…っ、はぁ、はぁ…!」
飛び起きて、肩で息をする。息を、する?
「…う、そ」
首が、ある。体、動く。手、熱い。
「僕…、生きて、る…?」
うそ。だってさっき、僕、殺された。首が、落ちて。ごろごろって、
「なんで生き…」
ぼろぼろといまさらこぼれ出した涙を手で拭う。視界が霞んで邪魔だ。いくら拭っても世界が歪む。
…歪む?
「違う」
さっきから、何か変だったんだ。耳と首筋がくすぐったい髪とか、体の軽さとか。
手が、小さい。見間違いじゃない。
小さい。
まるで幼子のような、小さくてまだ丸っこさの残る手。ずいぶん前に入らなくなったはずの服。お気に入りで、でも飲み物をこぼしてダメにしてしまったやつだ。それが、たしか、12歳で。
なんで、着てるの?
体が小さくなってる?…ちがう、これは。
「戻っ、た…?」




