表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/108

エピソード3 始まった戦争

〈エピソード3 始まった戦争〉


 俺たちは騎士や兵士、傭兵などが寄せ集まった三万もの軍勢の真っただ中にいた。


 軍勢から迸る熱気は、並々ならぬものがある。


 対する魔王バロールの軍勢は、何もない平原を挟んだ向こう側にいる。その軍勢のほとんどがモンスターたちだ。


 小鬼の顔をしたゴブリン。


 醜い豚の顔が付いたオーク。


 鬼の顔に屈強な体つきをしたオーガ。


 浅黒い肌をした耳の長いダーク・エルフ。


 そして、空を飛んでいるドラゴンにも似たモンスターのワイバーン。


 兵の数こそ同じくらいだが、バロールの軍勢の方が明らかに力がある。


 この力の差を覆すためには、敵の総大将のキング・オーガをできるだけ早く打ち取らなければならない。


 俺たちに任された役目は重大だ。


「私たちの軍勢が負けたら、ベルクスタは陥落する。そうなれば、たくさんの人たちが殺されるわ」


 イブリスはいつになく険しい顔で言った。


「その時になったら、俺たちはどうする?」


 俺は死の恐怖よりも、大きな戦いに参加できる高揚感の方が勝っているのを感じながら尋ねた。


「私たちはゲートの魔法で逃げるだけよ。ベルクスタ人々は嫌いじゃないけど、一緒に死んでやる義理はないわ」


 イブリスはこの戦いに負けるようならベルクスタの民は見捨てる、と同義のことを言っているのだ。


 そのためか、声の方にもかなり冷徹な響きがあった。


「でも、そんなことをしたら胸を張ってこの世界にいることはできなくなる。できれば、そういうしこりのようなものは残したくない」


 良き恥を晒しながら生きるのは嫌だな。


 男なら死ぬ時も前のめりと言うし。


 まあ、本気で命を捨てるつもりはないし、こういうのは覚悟の問題だ。


「なら、勝つしかないわね。戦争なんて勝った者が正義だし、負けた者は何も言う資格はないわ」


「そうだな。認めたくはないが、それが戦争の現実だよな」


 俺が力強く頷くとバロール軍勢が太鼓の音を鳴らしながら、一気に攻めてきた。


 当然、角笛を吹く俺たちの軍勢もそれを迎え撃つ。


 両軍の兵士たちが真っ向からぶつかり合うと、血みどろの殺し合いが始まった。


 あちらこちらから人間やモンスターたちの断末魔が聞こえて来る。


 それを見て、俺も心が逸るのを感じた。


 これが本物の戦争か。


 想像以上に悲惨なことになっているし、やはり、ハリウッドの映画とかで見る戦争とはわけが違うな。


 心の中にあった高揚感も、この光景を見たら、どこかに吹き飛んでしまったし。


 俺は戦況を正しく見極めるために、動きたくなる衝動をぐっと堪える。


 その間も、残酷な殺し合いは続いた。


「予定通りの乱戦になってきたな。敵の方も浮足立っているように見えるし、行動を起こすなら今かもしれない」


 戦いが始まってから三十分が経った。


 俺たちは騎士たちに守られたエリアで戦いの行方を見守っていた。


 俺たちの軍勢は良く持ち堪えているが、劣勢には変わりない。


 作戦の実行が必要だ。


「ええ。良い頃合いになって来たし、そろそろ動くわよ。あんたも戦場のど真ん中を駆け抜けなきゃならないんだから、怖気づかないようにね」


 イブリスの言う通り、機は熟したと言ったところだ。


「分かってる。それじゃあ、行くとするか」


 俺は鞘からオリハルコンの剣を引き抜くとエリシアに声をかける。


「エリシア、魔法であのワイバーンを何とかしてくれ。空から一方的に攻撃されるとこちらの士気が下がる」


 ワイバーンは炎も吐けるみたいだし、これ以上、放置していたら被害は甚大になる。


「はい。数は多くありませんから、アクア・ジャベリンの魔法で倒し切れると思います」


 レベルが四十になったエリシアなら任せても大丈夫だろう。


「頼む。アメイヤは前線に出て思いっきり派手に戦ってくれ。そうすれば近くにいる騎士や兵士たちを鼓舞できる」


 英雄の槍を振るうアメイヤは注目の的になるはずだ。


 そうすれば、前線の騎士や兵士たちの士気を高めることもできる。


「分かった。みんなの進む血路は私が開く」


 アメイヤは死と隣り合わせの役目を請け負っても顔色一つ変えなかった。


「任せた。俺は御輿のようなものに乗っているキング・オーガを倒しに行く。体が透明になるバニッシュの魔法を使ってな」


 どうすれば、キング・オーガに近づけるかはしっかりと考えてあったのだ。


「たとえ透明になっても、ダーク・エルフはお兄ちゃんを感知できるかもしれない。だから、気を付けて」


 アメイヤの指摘を受け、俺は小さく首肯した。


「分かった。では、作戦開始だ!」


 そう言うと、俺たちは互いに任された役目を果たすべく別々の方向に散った。


 俺は戦場を一直線に進んで行く。


 近くを俺が通り過ぎていると言うのに、気付く者は誰もいない。


 まるで幽霊にでもなったような気分だ。


 俺はスイスイとした動きで、敵陣の奥へとひたすら突き進む。


 キング・オーガが居るところまであともう少しだし、頼むから見つからないでくれよ……。


 そう思った矢先に、バロール軍の兵士の一人が、明らかに俺の存在に気付いているような動きを見せた。


「気を付けなさい、お前たち!」


 指揮官のような服を着たダーク・エルフの女が俺の行く手を阻んだ。


 ダーク・エルフの女は知性の低いゴブリンたちに指示を与えている。それを受け、ゴブリンたちもキョロキョロし始めた。


「敵には凄腕の魔法の使い手がいるわよ。もっと周囲に気を配りなさい」


 そう言うと、ダーク・エルフの女は透明なはずの俺にレイピアで突きかかって来た。


「やはり気付かれたか。アメイヤの忠告は聞いておいて良かったな」


 俺は稲妻のような剣撃で迫り来るレイピアを弾き返す。


「こんな人間の若造が、バニッシュの魔法を使えるとはね。大したものだけど、それもこまでだわ」


 ダーク・エルフの女は勇猛果敢にレイピアで攻撃を仕掛けて来る。が、所詮、俺の敵ではない。


「女性は斬りたくなかったんだが、この状況じゃそういうわけにもいかないか」


 俺はレイピアによる突きを軽々と打ち払うと、ダーク・エルフの女の体を剣で袈裟懸けに切り裂いた。


「キャー!」


 ダーク・エルフの女は絶叫を上げると血だまりに沈む。手加減をしてやるだけの余裕は今の俺にはなかった。


 でも、一応、急所は避けておいたから、このダーク・エルフの女も運が良ければ助かるかもしれない。


 俺は魔力を大きく失うことを覚悟で、バニッシュの魔法をもっと強くかけ直す。


 すると、今度はダーク・エルフたちも俺の存在に気付けなくなった。


 それを受け、俺は一際、目立っているキング・オーガのいる方に全力で駆けて行く。


 ここは迅速な行動が求められる。


「お前が総大将か。勇気があるなら、高みの見物を決め込んでいないで、この俺と勝負しろ」


 俺は御輿のようなものに乗ったキング・オーガの真ん前に出ると、バニッシュの魔法を解いた。


 その理由はキング・オーガが人間に倒されたところをはっきりと見てもらうためだ。


「貴様のような小童が、この俺と勝負するだと? くだらない冗談にもほどがあるわ!」


 三メートル近い体躯を誇るキング・オーガが吠えた。


「怖いのか? お前のところまで辿り着いた俺のことが。それじゃあ、総大将というのも、ただの肩書だな」


 俺は挑戦的に言って笑う。


「抜かせ。そこまで言うなら勝負してやろう。その代わり一対一だ。誰かの力を借りようとしたら、即座に兵たちをけしかけるからな」


「分かった」


 これこそ、俺が望んでいた通りの展開だ。


「その意気や良し。退屈を持て余していたところだし、思いっきり暴れさせてもらおう」


 そう言って、キング・オーガは御輿のような台座から飛び降りる。そして、大きな棍棒を振り上げて俺に攻撃を仕掛けてきた。


 それを俺は腕の筋肉を撓めて、剣で受け止めて見せる。


 確かに、キング・オーガは凄い腕力を持っている。


 が、レベルが四十の俺が力負けするほどのものではなかった。


「俺の棍棒を真正面から受け止めるとはな。口先だけの小僧ではなかったか」


 キング・オーガは感心したように言った。


「お前の方こそ、モンスターのくせに正々堂々とした勝負をしてくるとは見上げたもんだ」


 俺の挑発に乗せられただけではないように思える。


 キング・オーガの目には、他のモンスターたちにはない知性の光が宿っているし。


「魔王バロール様は寛大な方よ。行き場のなかったモンスターや亜人たちの居場所を作ってくだされた」


「居場所だと?」


「そうだ。だからこそ、バロール様を貶めるような戦いはできぬし、この俺も武人としての誇りを見せてくれるわ!」


 粗暴なキング・オーガにこれほどの忠誠心を持たれるとは。


 魔王バロールも噂通りの悪い奴、というわけではないのかもしれない。


「なら、俺も小細工は使わない。真っ向勝負で、お前を打ち倒して見せる!」


 そう猛々しく叫ぶと、俺は剣を構えた。


「面白い!」


 豪快な笑みを浮かべたキング・オーガは猛然と俺に殴り掛かって来た。


 俺はできるだけ多くの兵たちに注目してもらうよう、すぐには決着を付けないようにする。


 その気になれば、レベルが二十八のキング・オーガを打ち取るのは簡単なことだったが。


 俺とキング・オーガは何度も互いの武器をぶつけ合った。


 その周りをたくさんのバロールの兵たちが見ている。


 信頼か、それとも恐れのためか、誰もキング・オーガの加勢には入らなかった。


 俺はそろそろ潮時だなと思いながら切り札の技を繰り出す。


「「「必殺、デストロイ・クラッシュ!」」」


 俺の放った重い一撃は棍棒を断ち割り、キング・オーガの胸を深々と切り裂いた。


 キング・オーガは血飛沫を上げながら大きく仰け反る。その口からは血の泡が溢れていた。


 間違いなく致命傷だし、これは紛れもなく戦争だ。


 相手の命は奪いたくないなどと言う、甘ったれたことは言っていられない。


「まさか、この俺が貴様のような小僧に打ち取られるとはな。ま、魔王バロール様、万歳!」


 絶え絶えの声でそう叫ぶと、キング・オーガは地面へと頽れた。


 すると、たちまちバロールの兵たちが太鼓を叩き始める。総大将が打ち取られたことを伝えているようだ。


 これを好機と見たのか、人間とエルフとドワーフの軍勢が角笛を盛んに吹き鳴らして、敵陣に突撃し始めた。


 結果、バロールの軍勢は予定していた通り、総崩れになる。


 俺もキング・オーガの護衛についていた強者のオークやオーガたちを屠っていき、この戦の勝者が誰であるかを知らしめた。


 そして、完全に勝敗が決したことを悟ったバロールの軍勢はみな退却をし始める。


 それを見て、俺たちの軍勢は割れんばかりの勝鬨の声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ