エピソード3.8 創造神の使者
〈エピソード3.8 創造神の使者〉
迫り来る化け物を見て、留美はギュッと目を瞑った。
こんな訳の分からない状況で死ぬことに強い悔しさを感じながら。
が、待っていた死は訪れない。
その代わり、何かが爆発するような音が聞こえてきた。
留美が薄目を開けると、そこには金色に輝く猫がいた。
あれほど恐ろしい威容を誇っていた熊のような化け物は、いつの間にか煙のように姿を消している。
ただ、戦いのようなものはあったのか、コンクリートの地面には大きな焦げ跡のようなものが付いていた。
「大丈夫か、お嬢ちゃん」
猫は留美に向かって、そう言葉を発した。
「あなたは?」
猫が人間の言葉を喋ることは驚きだが、熊のような化け物が現れた時ほどのインパクトはなかった。
だから、留美も少しだけ冷静さを取り戻すことができた。
「おいらは創造神の使者、ラズエルだ。訳あって君を助けに来た」
「私を?」
「ああ。そのノートパソコンは常時、無線WiFiで繋がれていたんだ。そのパソコンが壊れたことで、おいらも異変を察知して、ここに転移することができたんだよ」
ノートパソコンは大きな足で踏みつぶされたように壊れていた。おそらく、あの熊のような化け物の仕業だろう。
「どういうことなの?」
「説明すると長くなるんだけど、現在、カツラギ・シュウイチを巡って、様々な勢力が蠢いている」
ラズエルは金色の瞳を輝かせながら言葉を続ける。
「君はそれに巻き込まれて、危うく殺されるところだったんだ」
ラズエルの言葉に留美も心胆を寒からしめられた。
「でも、化け物はともかく、警察官も私に酷いことをしようとしたんだよ」
「そうだね。ま、警察もおいらが言った勢力の内の一つさ」
「私はこれからどうすれば良いの?」
留美は縋るような目で自分よりも何倍も体の小さい猫を見た。
「どうすれば良いと言われても、おいら的にはいつも通りの生活してくれとしか言いようがないよ」
「そんな」
今の状況を解決してはくれないのかと、留美は心の中で失望した。
「とにかく、今日のところは家に帰りなよ。そして、気持ちを整理すると良い」
ラズエルは穏やかな声で、留美にそう言い聞かせる。
「こんなことがあったのに、気持ちの整理なんて何の意味があるの?」
留美は口を尖らせた。
「不用意な行動を取らないためにも、心を落ち着ける必要はあるさ」
「でも……」
「ま、警察だって、すぐに君を捕まえるようなことはしないだろうし、おいらも常に君を見守っている」
ラズエルは猫の顔で笑みを広げながら更に口を開く。
「だから、何が起きても大丈夫だ」
その言葉は、留美も信頼したいと思った。
「分かったよ」
留美が項垂れながら返事をすると、ラズエルの体が眩い光に包み込まれる。そして、忽然と姿を消した。
残された留美は放心したような顔をして、コンクリートの地面にヘナヘナと膝を突いてしまった。




