エピソード4.5 怪しい男
〈エピソード4.5 怪しい男〉
留美は夜空に打ち上げられる大輪の花火を見ていた。
花火の下に見える家電量販店に設置された街頭テレビではゲームの映像が流れている。
闘技場のような場所で戦う青年の姿は修一によく似ている。
それを見て、留美はまさかねと苦笑いした。
「修一さんがゲームの世界の中に入っちゃった、なんてことはないよね。さすがに、荒唐無稽すぎるし」
自分も文芸部員だけあって小説はよく読む。
だから、そういうファンタジー的な発想も出て来るのかもしれない。
「でも、私は宗教とかには疎いけど、異世界の存在とかは割と信じてるんだよね」
自分でも子供染みていることは自覚しているが。
「宇宙にある星とかと同じで、世界だってたくさんあっても、別におかしくはないし」
この世に一つしかないものなどない、という言葉には留美も賛同できる。
人間の空想するものは、必ずどこかに存在しているという言葉にも。
まあ、さすがに神様の存在までは信じていないが。
そんなことを考えていると、盛大だった花火が終わる。
「気がかりなことが多すぎて、今年の花火は何だか楽しめなかったなぁー」
そうぼやくと、留美も疲れてきたので、そろそろ家に帰ろうと思う。
が、祭りが行われている通りを出て、人の少ない道を歩いていると、留美はふと気づく。
誰かが自分たちを付けていることに。
「どうしたの、お姉ちゃん? そんなに怖い顔をして?」
弟の勇人がりんご飴を舐めながら顔を上げた。
「何でもないわよ。お父さんたちがお寿司を取って置いてくれるはずだから早く家に帰ろ」
留美は電柱の陰に潜んでいる男をちらりと見ながら言った。
「私、お寿司だーい好き」
妹の佳代は留美の内心など知らずに、天真爛漫な声を上げた。
「二人とも、ちょっと早く歩くけど、ちゃんとお姉ちゃんについて来てよ」
留美は急き立てられるように歩く。
すると、馬脚を露すように、自分たちを付けている人物も姿を見せた。
「やっぱり、気のせいなんかじゃなかったか……」
留美は夏にもかかわらずトレンチコートを着た不審な男が、自分たちを付けているのを確認する。
途端に、体から気持ちの悪い汗が噴き出した。
「まるで、探偵みたいな男の人だね。でも、あの格好はちょっとステレオタイプすぎるかも」
歩いている人の中にも、トレンチコートの男を訝るように見ている者たちがいた。
あんな格好で歩いていれば嫌でも人目を惹く。
尾行を目的としているのなら、間抜けな服装としか言いようがない。
とはいえ、トレンチコートの男が恐怖を感じさせる存在であることに変わりはないが。
「まあ、私なんかに尾行していることを気付かれるようじゃ、大した人じゃないのかもしれないけど」
留美は姿を見え隠れさせているトレンチコートの男を引き離そうと、とにかく、早足で歩く。
自分一人ならともかく、弟や妹もいるのでは下手な動きを見せるわけにもいかない。
男が尾行するだけで何もしないという保証はどこにもないのだ。
留美は息が弾むのを感じつつ、勇人と佳代の手をしっかりと握りながら家路に付いた。




