59 偽物は本物には敵わない
「そ……そんな……! 一体誰がそんな事を……」
ティアナの声は怒りに震えた。
羽ペン魔道具はティアナのアイデアから始まった物だが、多くの魔法師達が協力している。
魔法師達のこれまでの努力を踏み躙られた気持ちになり、許せなかった。
ルカスはティアナの手を握り返した。
「――大丈夫だ。この件は俺が今日中に調べよう。王太子の手の者が絡んでいる可能性が高いだろうな」
ティアナは顔を上げるとルカスの言葉に頷いた。
「そうですね……。恐らくこんな手の込んだ事をするのはあの方の仕業でしょう」
――ようやく形になった羽ペン魔道具が人々の信頼を失いかけている……。
負けるわけにはいかない。
今動かなければ、悪い噂が本当になってしまう。
人々の信頼を取り戻すには……!
「ルカス様! ウェズリー家の名で早く本物を配りましょう。本物の魔道具には魔法師の印が付いている事も伝えるのを忘れない様にして……」
アンジェリカはティアナの言葉にハッとする。
ティアナ考案の世界樹と黒猫の印の事を思い出したのだ。
「そ、そうですわね! ではわたくしが責任を持ちまして試供品を配る手配をしますわ! ルカス様は偽物を出回らせた不届き者を特定して下さいませ!」
そう言うと、アンジェリカは振り返る事なく一目散に部屋を出て行った。
「ふふっ。アンジェリカに任せておけば大丈夫ですわ。わたくしは早馬を出してお母様に知らせますわね」
フレデリカはにっこり微笑むと、使用人にすぐに港町へ手紙で知らせる様に伝えた。
***
ルカスの調査は迅速だった。
王城周りの雑用係の動き、搬送の経路から偽物の出所をすぐに洗い出したのだ。
膨大な調査書をティアナに差し出すと説明を始めた。
「偽の羽ペン魔道具は、王都の流通網を使って計画的にばら撒かれている。製造資金だが、王太子の側近であるラキアスという男から出ている事も判明した」
ティアナはギュッと唇を噛む。
「王太子の仕業……ですね」
「恐らく、王太子レイブンの目的は我々魔法師の商売に対する妨害だろう。評判を落とし、自分達の利益に結びつけ、魔法師を弱体化させて政治的な影響力を削ぐ……。魔力が年々衰えてきた焦りもあるのだろうな」
ルカスの瞳が冷たく光る。
「ルカス様、羽ペン魔道具の試供品を入れる紙袋に説明文の書いた紙片を入れましょう。偽物と本物の見分け方として、魔法師の創った証しであるマークの説明があれば!」
ティアナの提案にルカスはニヤリと笑った。
「そうか! 口頭だけじゃなくて、羽ペンが入っている紙袋に見分け方の説明文があれば、必ず読んで貰えるだろうな」
羽ペン魔道具のペン先に光る世界樹と黒猫のロゴマークを説明する紙片作りはアンリが担当した。
当初は羽ペン魔道具を入れる紙袋の中に説明文の紙片を入れようと試みたが、すぐに考えを変える。
「小さな説明の為の紙片が入っていても気付き難いだろ?」
アンリは試作品の紙袋をティアナに渡した。
「わあっ! 可愛いです!」
羽ペン魔道具の紙袋に説明用の紙片を一枚一枚入れる代わりに、アンリは羽ペン魔道具を入れる紙袋の真ん中に初めから魔法師のロゴマークが刻印された物を準備したのだ。
白い袋の真ん中に世界樹と黒猫のロゴマークが描かれていて、その下に『偽物に注意!』の文字が。
「凄いです! 入れ物の袋が可愛いし、これなら難しい説明文を読むよりも簡単だし、何よりこの紙袋を持っている人が周りの人に知らずに宣伝している様なものですからね!」
アンリはゴホンと咳払いをした。
「いや……。このアイデアはティアナの義姉君のフレデリカ嬢だ。私が試供品の紙袋に入れる為の説明文を見せたらもっと効果的な物を提案されて……」
普段はおっとりしているフレデリカは、効率よく物事を考える才がある。
彼女曰く、『なるべく無駄な動きはしたくない』からなのだとか。
そんな彼女にとって、アンリの創る魔道具はどれも魅力的なのだそうで、フレデリカはいつも個人的にアンリに様々な魔道具の試作品を依頼しているのだ。
「よし! では早速ウェズリー家に、ロゴマーク付きの羽ペン魔道具の試供品を王都中に配って貰おう! 我々は、明日偽物魔道具の回収作業と本物の試供品の反応を調べるぞ!」
***
――アンジェリカお義姉様の迅速な働きで翌日には本物の羽ペン魔道具が王都中に配られた。
ルカス様と共に王都の市場の大通りに立った私は、働く人々の中にちらほらと白い羽先が見えるのを確認する。
「王都の市場に真っ先に試供品を配るとは、流石だな。アンジェリカは商売の才があると思うよ」
甘い焼き栗の匂い、美味しそうな魚を競り落とす威勢のいい呼び声、カラフルな果物や野菜が山積みになった市場は活気に満ち溢れていた。
「ティアナ、あとであの美味そうな焼き栗を買って帰ろう。テリー達が喜ぶぞ!」
ルカス様は、私達の本来の目的をすっかり忘れて市場の珍しい食べ物を吟味している様だ。
「もうっ! ルカス様? 今日の目的は私達の試供品がちゃんと皆さんに使って貰っているかを確認する為なんですよ?」
私が頬を膨らませて抗議すると、ルカス様はポン、と私の頭を軽く叩いた。
「ハハッ、悪い。ティアナと出掛けるとつい目的を忘れてしまうな」
美しい黄金に輝く瞳が甘く細められ、柔らかく微笑むルカス様に思わず見惚れて私の顔は真っ赤に染まった。
「る、ルカス様、あちらの野菜の競りが始まる前に羽ペンの試供品を試して頂きましょう!」
ドキドキする胸の鼓動を誤魔化しながら、私は野菜が山積みになっている一角に集まり始めた集団を指差した。
予め市場のあちこちには長机が設置され、ウェズリー家の紋章が刻印された木箱の中には羽ペン魔道具が入った紙袋が置かれている。
『ご自由にお使い下さい』と書かれた木箱を不思議そうに見つめる人々。
魔法師のロゴマーク入りの紙袋を開けた商人達が顔をしかめた。
「おい。これって最近王都に出回ってるペテン師が作った不良品じゃないか? インク無しで書ける羽ペンだなんて嘘を言って高額な金を騙し取られた連中が大勢いたらしいぞ!」
「あぁ、俺の仲間も騙されて大量に購入したらしい。タダで配るだなんて怪しいな」
その言葉に私は憤り、大声で叫んでいた。
「違います! それは偽物です。私達魔法師が作った羽ペン魔道具は本物なんです! 本物には必ずこのマークがあるので確かめて下さい!」
商人達は、胡散臭そうに私達を見ると紙袋にあるロゴマークと、手に取った羽ペンのペン先に光るロゴマークを繁々と見つめる。
そして、木箱に刻印されたウェズリー家の紋章を確かめると互いに顔を見合わせた。
「ウェズリー家のお墨付きならば……試してみるか?」
商人達から絶大な信用を勝ち取っているウェズリー家が自分の実家だという事が誇らしく感じる。
ルカス様が羊皮紙を懐から取り出し、羽ペンを手にした商人に手渡した。
最初、疑い深そうにしていた商人が羊皮紙に羽ペンを走らせた瞬間、顔が思わず綻ぶ。
インクを浸さずとも滑る様に線は伸び、筆跡は全く滲まない。
その場にいた全員が低く唸った。
「こりゃあ、全然違うな……。偽物はすぐに分かるぞ! この羽ペンこそ本物だ!」
「こ、この羽ペンを本当にタダでくれるのか?」
商人達が我先にと木箱に群がり、あっと言う間に私達の羽ペン魔道具の試供品は無くなった。
「よし! 偽物を買ってしまった商人達に声を掛けて欲しい。市場の広場に偽物を持って来てくれたら我々が回収して、試供品と交換しよう」
ルカス様の言葉に商人達は大喜びで偽物の羽ペンを大量に持って来てくれた。
広場に集められた偽物の羽ペンは、インクが一瞬だけ滲むだけですぐに使い物にならない粗悪品だった。
ルカス様は集められた大量の偽物を人々の目の前で破壊すると、火に投じた。
人々はその光景に安堵の声を上げ、噂は噂でしかなくなり、魔法師のロゴマークは信頼の証しとなった。
「良かった。ルカス様、これで私達の邪魔をする王太子も手出し出来なくなりましたね!」
けれど、ルカス様はフリフリと首を振った。
「どうかな? あの馬鹿王太子はこんな事で諦める様な奴じゃないぞ? まぁ……これから何が起きるか、見ものだな」
――ルカス様の予想はすぐに現実となった。
読んで頂き有難うございます(^^♪
次回、王太子の企み「は成功するのでしょうか( ゜Д゜)
お楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡




