47 悪夢の世界には二度と戻らない
――『夢見の魔法』を使い、うなされているティアナの悪夢を見たルカスは驚愕した。
「魔塔が……。俺達の魔塔が破壊されている……?」
魔法師がこの世に誕生した時から魔塔は破壊される事なく存在していた。
その魔塔が、兵士達の手によって破壊され……魔法書や、魔道具が略奪されている。
魔塔の破壊と略奪を指揮しているのは、王太子レイブンだ。
そして、彼が持っているのはトネリコの木で出来た魔法の杖だった。
「あれは……もしや、魔力が無い者でも魔法師の様に……いや、それ以上の力を持つ事が出来る魔道具なのか? これは未来に起きるかもしれない事……? それともティアナの想像の世界か……」
――ティアナと王太子の結婚は阻止したので、この悪夢が現実に起きる確率は低い。
しかし、あまりの生々しさにルカスの胸は痛んだ。
(ティアナ……。こんな恐ろしい悪夢を見ているなんて! 俺はどうすればいい……)
魔力暴走はルカスの迅速な手当てで落ち着いたティアナだったが、悪夢は更に続いた。
***
ここは……夢の中?
身体が動かない……。
声が出ない……。
そうだわ。ここは、私が王太子レイブンに殺された16歳の少女だった時の夢。
レイブンが魔道具を手にし、冷酷な顔で私を見下ろしている。
魔道具作りを依頼されたアンリ様が発明したのは、魔力暴走を引き起こす魔道具と、その暴走した魔力を吸い込む魔道具だ。
「ティアナ、お前の力は素晴らしいよ。流石は妖精姫。毒殺には失敗したが、魔塔主ルカスはこの魔道具の力で、もはや敵ではない。だが、魔道具の魔力が魔塔の破壊で枯渇したのだ。最後の戦いになる。妖精の魔力を暴走させるぞ!」
私は弱々しく首を振る。
レイブンはトネリコの木で出来た魔道具をチラつかせている。
トネリコの木で出来た魔道具の杖は魔力を吸い込む力があり、その杖にはめ込まれた赤い魔石で出来た魔道具は魔力を暴走させる力があるのだ。
私の魔力を赤い魔石で出来た魔道具で暴走させ、暴走した魔力をトネリコの木で出来た杖の魔道具で吸い込む。
この行為は王太子と結婚させられてからずっと続き、もはや私は死を待つばかりの身体になっていた。
そうだ。
確か、魔塔が破壊された日。
ルカス様を殺す目的の為に私の魔力は最大限まで暴走させられ、私はこの日、命を落とした。
早くこの悪夢から覚めなければ。
私の夫はルカス様!
王太子レイブンじゃない!
***
「ううっ……。ルカス様……ルカス様っ!」
「ティアナ! しっかりしろ。大丈夫だ。俺はここにいるぞ!」
ルカスに手を握られていたティアナは、ハッとして目覚めた。
「あ……ルカス様……。私、夢を見て……」
目覚めたティアナにルカスがホッとした顔をしている。
「あの人型の魔道具を見せた時から様子がおかしかったけれど……。トネリコの木に何か心配な事でもあるのか?」
ティアナは唇を噛み締める。
(どうしよう……。こんな、回帰前の話をしたら、ルカス様は私がおかしくなったと思うかもしれない……)
「トネリコの木にアンリが興味を示した時からだよな。もしかして、あの木で魔道具を作ると危険なのか?」
ティアナは意を決してコクリと頷いた。
「はい。何故そう思うのかは、今は聞かないで下さい。アンリ様は魔道具作りの天才です。そのアンリ様がトネリコの木は魔力を取り込む魔道具を創れると言った。それはつまり、魔法師から魔力を奪い、自分の物にする魔道具が出来る可能性があるって事なんです」
ルカスは真剣に聞いている。
「そうか。ティアナが恐れていたのは、そんな魔道具が出来たら俺達魔法師の滅亡に繋がるかもしれないって事なんだな」
「はい。アンリ様の様な魔道具作りの天才が悪い人間に利用されたら、恐ろしい事が起きるかもしれない。王家は喉から手が出るほど魔力を欲しがっています。この情報は、絶対に知られてはいけないんです!」
ルカスは必死に訴えるティアナの頭を優しく撫でた。
「分かったよ。ありがとう。ティアナの考えは正しい。アンリの様なまだ駆け出しの魔法師見習いは、先輩魔法師達がしっかりと導いてやらないと。明日、長老達に魔塔の掟の中に魔道具を研究する時に更に厳しい制約魔法を掛ける事を提案するよ。魔道具の材料を悪用して危険な魔道具を創る事が出来ないようにしないとな」
ルカスの言葉にティアナは胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます! でもそうなると、私とオリビエ様の魔法対決は? そもそも私、まだ魔法は使えませんよ?」
「ティアナもさっき言ってただろ? トリネコの木は魔力を込めるのに最適な木なんだ。それは元々この木が魔力を吸い込む微弱な力があるから。お前はまだ魔法は扱えないけれど、魔力を放出する力はどの魔法師よりも優れている。オリビエにも負けないさ」
「ええっ? 私はそんな事出来ませんよ?」
「ただトリネコの木に魔力を込めればいい。大丈夫。俺を信じろ。今回の対決は魔道具を創るのではなく、魔力対決だから」
自信たっぷりにルカスが笑うので、ティアナも思わずつられて笑った。
「ルカス様にそう言われると、なんだか本当に大丈夫な気持ちになります」
「オリビエは凄くいい奴なんだけど、仲良くなるまで時間が掛るんだ。真面目だからな。さてと。俺は明日の魔法対決の準備をしてくる。ティアナは明日に備えて寝ておけ」
――ルカスが部屋を出いくと、ティアナは沈んだ顔になる。
(オリビエ様の事……。凄く理解されているのね。分かってた事だけど辛い……)
ティアナはせめて魔法だけは負けたくない、頑張ろうと決心した。
***
――魔法対決当日。
魔塔の敷地内にある広場には大勢の魔法師達がオリビエとティアナの魔法対決を見学しに集まっていた。
魔法師の黒いローブを脱いだオリビエは身体にぴったり張り付く様な黒のドレスを着ていた。
白い肩がむき出しになったドレスは妖艶で、オリビエが歩く度にドレスのスリットから長くしなやかな足が見え隠れしている。
「オリビエ、ローブを着ていないと怪我するぞ?」
ルカスの忠告を無視してオリビエは鼻で笑った。
「何言ってんのよ! 私はね、優しいからハンデをあげているのよ。私は何処かの誰かさんと違ってズルい事は嫌いなの。ローブの下に魔道具を仕掛ける事もしていない。もしも圧倒的に私が勝ってしまったとしてもそれは実力だから。ああ、ルカスの奥さんはローブを着ていてもいいわ。ルカスが何か手助けするでしょうけど私は気にしない」
オリビエの挑発にルカスも笑った。
「俺は不正はしない。ティアナは実力でオリビエに勝てるよ」
ティアナは瞳を閉じるとルカスから贈られた魔法師のローブを脱ぎ捨てた。
「――これで、貴女と条件は同じです。私もズルい事は嫌いです。正々堂々と戦いましょう」
「フン! 生意気ね。その高い鼻、へし折ってやるわ!」
ルカスは木箱から人型で出来たトリネコの木を出すと、オリビエとティアナに手渡す。
「ティアナはまだ魔法師見習いで、魔道具は創れない。だから、この人型で出来た魔道具に魔力を込める対決をする。先ずはお手本として、オリビエから披露して貰おう」
「あら、懐かしいわね。子供の頃によくやったわ。いいでしょう。ただし、この魔塔で私よりも高い魔力を持つ女魔法師はいないわよ?」
オリビエは、人型の魔道具にそっとキスをすると、ジンジャーマンクッキーによく似た手の平サイズだったトネリコの木はムクムクと大きくなっていき、大人と同じ大きさに成長し、オリビエの髪色と同じ真っ赤な色に変わった。
それを見ていた魔法師達から歓声があがる。
「おお! 流石オリビエだな。呪文も唱えずにトネリコの木に魔力を込めただけで、人間と同じ大きさに成長させるとは!」
「この勝負、決まったな!」
――オリビエはティアナをじっと見つめる。
「この魔塔でルカスの妻として大人しく暮らすだけならいいけど、あんたが妻の立場を利用してルカスに意見するなら遠慮はしない。私は実力の無い奴は認めないわ! 貴族のお嬢様はお屋敷に帰りなさいよ」
冷たい瞳で睨みつけるオリビエに、ティアナの心は震えた。
(どうしよう……。オリビエ様に勝てなければ本当にこの魔塔を追い出されてしまうかもしれない……私、ルカス様ともう会えなくなってしまうの?)
――絶体絶命のティアナの胸は、不安と恐怖に押し潰されそうになっていた。
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