46 ジンジャーマンクッキーを魔法師達は食べた事がない
「それで? オリビエとの魔法勝負はどうするの?」
「色々考えたんだが、これにしようと思う」
テリ―の質問にルカスが答える。
ルカスとティアナの部屋に集まった一同は、ルカスが鼻歌を歌いながらクローゼットから出してきた木箱の中身に注目した。
「おやおや、これは懐かしい。これは我々魔法師が初めて魔道具を作った時の練習用の教材だ。ん~! 可愛らしかった子供の頃を思い出すねぇ」
ルカスの魔法で子供の様な変な前髪にされているバートが懐かしそうに覗き込む。
ティアナは小箱に入っている見覚えのある形をした教材を興味深そうに見つめた。
「あら。まるでジンジャーマンクッキーみたいですね! これが教材?」
茶色い小さな人型のクッキーに似ている教材を見て、思わずティアナは呟く。
「魔法師は、基本学校は無いから、先輩魔法師が新入りの魔法師に教材を使って魔法を教えるんだ。ところで、ジンジャーマンクッキーって?」
ルカスは木箱から、ティアナに指摘された人型の教材を取り出す。
「生姜の入った人形の形をしたクッキーです。クリスマス……ゴホゴホ、聖夜に食べるお菓子です」
テリーの瞳が輝いた。
「何それ? 美味しそう! ティアナ、今度作ってよ」
「フフフ……。勿論です。生姜入りのクッキーを食べるのは、今年風邪を引かない為のおまじないなんですよ!」
「やったぁ! ティアナのクッキー食べたら今年は風邪ひかなそうだね!」
「…………」
仲良く微笑みあう二人を無言で見つめるルカスの頬をバートが抓る。
「ルカス、顔! お前……子供相手に殺しそうな顔で睨むの止めなさい! あと、テリーも人妻に馴れ馴れしくし過ぎ! あ、でもそのジンジャーなんとかクッキーは美味そうだから作り過ぎたら僕ちゃんの研究室にもお裾分けして頂戴!」
バートの言葉にアンリが魔道具を差し出す。
「私の魔道具は、出来上がった食べ物を倍に増やす事が出来ますので、ティアナがジンジャーマンクッキーを私に作ってくれるなら、いくらでも増やせますよ?」
(こいつら……! ティアナのお菓子をハイエナの様に狙っているな?)
ルカスはムっとしてティアナの耳元で囁く。
「ティアナ、まさかこの俺よりも先に奴らに作る……とかは無しな? 俺が食った事ないティアナの料理は誰にも食わせたくない」
耳元の甘い囁きにティアナの頬は真っ赤に染まる。
「――っ! ルカス様、お菓子の話なのに変な色気を出さないで下さいっ! クッキーは今度皆さん全員にプレゼントしますから!」
生姜の味がするお菓子を想像しながらテリーは人型のジンジャーマンクッキーにそっくりな形の教材をゴクリ、と唾を飲み込みながら見つめた。
「ところでさ、この教材でどんな魔法勝負を?」
「この教材はトリネコの木で出来ている事は知っているよな? トリネコの木には微弱な魔力が元々備わっている。だから、この木材で魔法の杖や魔道具なんかも作る事が出来るんだけど、この教材はそのトリネコの木を人型に加工してあるだけなんだ」
ルカスの説明をティアナが真剣に聞いている。
「つまり……微弱な魔力があるだけのこの教材を使って魔法勝負をするのですね?」
ルカスが大きく頷いた。
「そうだ。新米魔法師はこの人型の教材で、魔道具を作る練習をしている。まぁ……。天才魔道具作りのアンリには不要の教材かもしれないが」
アンリはジンジャーマンクッキーの形をした教材を手に取る。
「いや……。これは中々面白い。確かにこの木材を使って色々なインスピレーションが湧き出て来る。私は独学で試行錯誤しながら魔道具をつくっていましたが、このやり方なら思う存分魔道具を創り出す練習が出来そうです」
「では、この教材を使った魔道具の作品での勝負……という事ですか?」
ティアナが不安そうにルカスを見つめる。
「そうだ。このトリネコの木に何故微弱な魔力があるかというと、元々この木には人間が持つ魔力を吸収する力があるからなんだ。だから、この教材で魔道具を創れば……」
ルカスの説明に、ティアナの表情が固まった。
(トリネコの木……魔力を吸い取る……? まさか……この木は……)
「ティアナ? どうした……顔色が……」
真っ青になったティアナに気付いたルカスが声を掛ける。
「――ルカス様、このトリネコの木って……。魔法師の魔力を枯渇させるほどの力を出す事は……」
ティアナの言葉にバートが吹き出す。
「あはははは~! 大丈夫だよぉ。このトリネコの木が人間の魔力を吸収するって言っても極微量なんだ。これまでだって……」
「いや…。面白い発想だ。このトリネコの木からなら、もしかするとティアナの言う様な魔道具を創り出そうと思えば……」
アンリの言葉にティアナは大きく目を見開いた。
「駄目っ! 駄目です! それは悪魔の実験だわ!」
「――ティアナ?」
ポロリ……とティアナの瞳から涙が零れ落ちる。
慌ててルカスはティアナを抱き上げた。
「悪い。魔法勝負の話はまた明日にする。ティアナが具合悪いから今日はお開きにしてくれ」
一同は驚き、顔色が悪くなったティアナを気遣い、それぞれの持ち場に戻った。
***
二人きりになった部屋で、ルカスは真っ青になったティアナをベッドに下ろし、魔道具のガラスの靴である『クリスタ』を脱がした。
途端にティアナは大人の女性の姿から、元の10歳の少女に戻る。
「ティアナ? 皆帰って貰ったぞ。大丈夫か? 一体何が……」
ルカスの呼びかけにティアナは震えながら胸を押さえる。
「ルカス様……胸が……苦しい……」
「ティアナ!」
涙を流すティアナの髪色が変化し始める。
魔力暴走の前兆だ。
すぐにルカスはティアナを抱き締めると、魔力を自分の中に取り込む。
ルカスが魔力を落ち着かせた事で、ティアナの身体から痛みが薄れ、顔色が元に戻り始めた。
しかし、ティアナは気を失ったまま、悪夢を見ている様だ。
「嫌……嫌ッ! お願い……やめて……」
うなされるティアナを見ていられず、ルカスは夢見の魔法を実行する。
ティアナの額に唇を寄せると、ルカスはティアナの悪夢の中を覗き込んだ。
「なっ……! なんだ……この世界は……!」
――それは、ティアナが回帰前に体験した恐ろしい記憶だった。
読んで頂きありがとうございます(^^♪
ティアナの魔力暴走……心配ですね( ゜Д゜)
トネリコの木の記憶とは?
次回お楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡




