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42 ルカス様のマナの形は誰も知らない

 

「ル、ルカス様? 見なくても大丈夫ですからっ」


 いきなりシャツを脱ぎだすルカス様に目のやり場がなくなり、私は思わず目を瞑る。

 恥ずかし過ぎて、胸の鼓動が止まらない。


「? なんで? ティアナはアンリのマナの形はしっかり見たくせに俺のは見ないつもりなの?」


 うっ! そんな事を言われてしまうと反論出来ない……。


「マナの形を教えるって事は命を預けるって意味なんだよ」


 ええっ?


「ちょっと待って下さい! では、私もテリー様もルカス様も……アンリ様のマナの形を知ってしまいましたよ?」


 知らなかったとはいえ、他人の命は預かれない。

 私が泣きそうな顔をしていると、ルカス様の温かい手がポスッと私の頭を撫でた。


「心配するな。魔法師は魔力を使ってマナの形の痣を消す事が出来る。その時に自分の痣の形を見た者の記憶を消し去る事が出来るんだ。ほら、ティアナもアンリのマナの形を思い出してごらん? 思い出す事が出来ないだろ?」


 ルカス様に言われるまま、先程見たアンリ様の痣の模様を思い出してみる。


「ええっと……あら? ルカス様、私……アンリ様のマナの形の痣……まだ覚えているのですが」


 すると、ルカス様が舌打ちをした。


「チッ! あのキザ野郎……! 大胆な奴だな。喧嘩売ってんのか……」


 苛立つルカス様に質問する。


「あの……痣の形を覚えているのは良くない事……ですか?」


「いや……。ティアナは悪くない。むしろ、アンリが何を考えているのやら。魔法で痣の形を消す時に掛ける魔法は選択出来るんだ。普通は見た者全ての人間の記憶は消せるけど、覚えていて貰いたい人物を特定して永遠に消せない記憶にする事も……あいつめ!」


 つまり、アンリ様はマナの痣を消す時に私だけは憶えていて貰いたかったって事?


「普通は伴侶や子供、親とかが対象なんだよ。だから気に食わない」


 ルカス様の背中から冷たい憎悪の炎が揺らめく。


「ルカス様、多分アンリ様は星占い師だった過去の自分と決別して、恩返しをしたい人々にずっと覚えていて貰いたいのでは」


「フン。だからってティアナは俺の妻だぞ?」


 不服そうなルカス様の口から妻、という言葉を聞いて胸が高鳴る。

 ルカス様にとって妻とは一緒に暮らす家族の事に過ぎないのに。


「アンリ様は騎士道精神で私に忠誠を誓ったみたいなんです。ですから……キャッ」


 私の言い訳を最後まで聞かずに腕を引っ張られ、いきなりはだけた左胸に私の手が導かれる。


 トクントクン、とルカス様の鼓動が私の掌に伝わって顔が熱くなる。


「ティアナ、目を開けて? 俺のマナの形は生涯忘れないでくれ」


「は……はい……」


 私は勇気を振り絞ってそっと手を離し、薄らと目を開ける。


 そこに飛び込んで来たのは天才魔法師の心臓に浮かび上がった炎の形をした痣だった。


「――綺麗……」


 アンリ様のマナの痣は黒い星の形をしていた。


 でもルカス様の痣は……。


 燃える炎の形と赤にオレンジと金色が混ざった様な不思議な色の痣。


「――覚えていてくれ。俺のマナの形を覚えている事が出来るのは、ティアナ……お前だけだから」


「は……はい。忘れません」


 マナの形を覚えている、という事はその命を預かるに等しい事。

 ルカス様が私を信頼して下さる証し……。


 妻……としてではなく、正確には家族だ。

 ルカス様は多分、子供の私を妹の様に大切に想って下さっているのだろう。


 だから今だけ……。

 今だけは私だけがルカス様の秘密を知っている。


 今の幸せを噛み締めよう。

 ルカス様が認めたただ一人の家族として。



 ***



 ――ルカス達が部屋を出て行った後、テリーはアンリに胸に現れたマナの痣を隠す魔法を教えていた。


「この痣を隠す魔法を掛けると、痣も隠せるし、痣を見た人物も痣の記憶がなくなるんだ。便利でしょ?」


「記憶を失くす……」


 テリーが不思議そうな顔をした。


「? いい事だろ? 魔法師のマナの形は家族以外……いや、家族でも出来れば教えない方がいい。マナの形を覚えられたら悪用されかねないからな。さっきアンリが言ってた様に魔法師の命を奪う魔道具を作る事だって可能かもしれないんだ。分かったらさっさと、その痣を消しなよ」


「テリー様……特定の人物には私のマナの形を覚えて貰う事は可能でしょうか」


 テリーは驚いてアンリの顔を見つめる。


「出来なくもない……けど、何の為に?」


「私には忠誠の決意をティアナに見せる必要があると思います。ですから……」


 真剣な顔でお願いするアンリに、テリーは厄介な男だと思う反面、先輩を敬う態度に好感も持った。


 なにしろ魔塔歴が長い先輩のテリーに対して、子供扱いをする後輩が多いのだ。

 ティアナは違う。

 テリーをいつも尊敬してくれている。


 テリーはコホン、と咳払いをして魔法書をアンリに手渡した。


「この魔法書の145ページには、マナの形の痣を消す前に特定の人物の記憶だけは消さない魔法の呪文が記録されている。ティアナが、さっき見た記憶は消えない」


 アンリの表情がパっと明るくなる。


「ありがとうございます。私の命を預ける姫が出来て光栄です!」


 テリーから魔法書を受け取り、呪文を唱えたアンリは静かに瞳を閉じる。


 すると、テリーの目の前でアンリの左胸に浮かんだ痣は綺麗に消えた。

 同時にテリーの中でアンリが持つマナの形の記憶も消えていた。


「はい、お見事。魔法書を読んですぐにこの魔法が使えるんだから君はやはり天才だ。ルカスと同じで敵に回したくないタイプだな」


「よかった。これで私にもティアナをお守りする覚悟を示す事が出来ます」


「ティアナに忠誠を誓うとか、ルカスの前ではやらないでよ? あの男は面倒くさい奴だから」


 テリーの言葉にアンリは苦笑した。


「確かに。これからはティアナに迷惑を掛けない様にそっとお守りします」


 美しい顔のアンリはパチンとウインクをする。


(くそ。やっぱりこいつ、嫌いだ! 優雅で大人の色気があって、それでいて優しい心も持っていて……。ルカス……油断してると本当に一瞬でティアナの気持ちが変わる可能性だってあるぞ?)


 ルカスだけが恋のライバルになると思っていたテリーは思わぬ伏兵が現れて動揺していた。


「言っておくけど、ティアナはまだ子供だ。そして彼女と一番年齢が近くて気持ちが通じ合えるのはこの僕。今は、レイブン王太子の毒牙からティアナを守る為にルカスと結婚しているけど、ティアナと最後に本当に結婚するのは僕になるから!」


「なるほど。つまり、ティアナからはその様な気持ちを伝えられた、という事でしょうか。将来のお約束でも?」


 アンリの歯に衣着せぬ言葉にテリーは頬をカッと赤らめた。


「そっ、それは無い……けど。あんな年の離れた男にティアナは似合わないっ」


「貴族令嬢の政略結婚の年齢差で言えば全くおかしくはありません。今のティアナのご年齢が幼いだけの事。あと、5~6年もすれば誰が見てもお似合いのご夫婦として見られるでしょうね」


(くそっ、何も言い返せない……! でも、だからこそ僕には伸びしろがある)


 テリーはキッ、と睨みつけると魔法書をアンリに改めて手渡す。


「この魔法書、魔塔に書かれていない秘密の魔法も沢山載っている。この希少な魔法書を貸す代わりに魔道具を作る魔法を教えてよ。ルカスの結婚式の魔道具は君がかなり手助けしたみたいだね? あのルカスよりも魔道具では君と同じ、いや、……上かもしれない。僕はあいつに負けたくないんだ」


 アンリは驚いて目の前の幼い魔法師の決意に満ちた瞳を見つめた。


「――ティアナは、貴方の人生を変える魔法を持っているみたいですね。分かりました。お教え致しましょう。その代わり、貴方が知りうる限りのルカス様の生い立ちや魔法の力を教えて下さい。忠誠を誓った姫の夫の事は把握しておかないと」


 テリーはこの時、ほんの一瞬アンリの瞳に冷たい氷の様な温度を感じた。


(でも、この男を利用しないと僕はいつまで経ってもルカスと肩を並べる事は出来ない。ティアナが安心して離婚出来る男になりたい)


「――了解。温室育ちの君には少々聞くだけで不快になる話になるかもだけど、この魔塔の人間は殆どが複雑な生い立ちだ。それでも聞きたい?」


「はい。複雑な生い立ちでしたらこの私も負けてはいませんからね」


 アンリはにっこり微笑んだ。


読んで頂きありがとうございました。テリーには新たな恋のライバル登場ですが、魔法師として伸びしろがあるので将来が楽しみですね(#^.^#)

ご感想、レビュー宜しければお願い致します!

次回は新婚ティアナが魔導士達をルカスから紹介されます。

勿論その中には、ルカスを慕うオリビエ様も( ゜Д゜)

お楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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