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32 聖夜の結婚式は地味ではない(1)

 

「レイブン殿下! 王都の大聖堂から田舎の寂れた教会まで蟻の子一匹でも入場させないように伝令を出しました! また、非常時の為に蓄えていた結界魔道具も装備しましたので、転移魔法で侵入しようとする魔法師を事前に捕らえる事も出来ます」


 執務室で、テキパキと報告をするラキアスを満足そうにレイブンは眺めた。


(フフフ……。ルカスの奴、今頃悔しがっている頃だな。魔力がどんなにあろうとも、富と権力が絶大なこの私には到底敵う事はない! 無能な婚約者に愛想を尽かしたティアナが私に恋心を抱くのも時間の問題だな)


 レイブンは舞踏会の夜に抱き寄せたティアナの細くしなやかな腰の感触を思い出し、同時にルカスの生意気な態度も思い出していた。


「ルカス……汚らしい平民の分際で私の運命の女神に手を出すとは……。まぁ、これで嫌でも権力の前では自分は無力なのだと悟るだろうな……」


 ラキアスは、そんなレイブン王太子の姿に一抹の不安を抱えていた。

 チラリ、とレイブンの顔色を窺う。


「殿下、ルカスは確かに生意気な魔法師ですが、まだ婚約破棄もしていない状況ですので他人の婚約者の話はお控えになった方が……」


 ――――バシン!


 カッとなり苛立ったレイブンがラキアスの頬を叩いた。


「お……お赦し下さいっ。わたくしが……間違っておりました……っ」


 ブルブルと震えながらラキアスが跪く。


「ラキアス……。お前、この頃少し思い違いをしている様だな……。私はこの国の王子だ。王位継承者の私に逆らうとは……。お前の様な無能な男を側近にしている事が本当に情けないよ。お前よりも、リリアの方が余程役に立つ。少しはリリアを見習うのだな」


 ギロリ、とラキアスを睨みつけるとレイブンは執務室を出て行った。


 ***


 レイブンに初めて平手打ちされたラキアスは顔を真っ赤にしながらブルブル震えていた。

 幼い頃から共に遊び、共に学び、成人してからは彼の片腕の側近として、なくてはならない存在なのだと自負していた。


 それなのに!


「くそっ! たかが星占い師の小娘の浅知恵をそこまで尊重されるとは! リリア令嬢……うまく取入ったな……」


 レイブン殿下の心を惑わすティアナやルカスも、当然気に入らない。

 しかし、この私に脅威をもたらす人物……それは、リリア令嬢だ!


 幸い、何度も持ち上がっては消えたリリア令嬢とレイブン殿下の婚姻の打診は今回も流れた様だ。


 星占い師は婚姻し、子が出来ればその能力は消えてしまうという。

 サフィール公爵は、王家と婚姻の結びつきよりも先祖から受け継がれてきた星占い師の血筋を絶やしたくないのだろう。


「つまり……あの鼻っ柱の強いリリア令嬢の高い鼻をへし折り、この私に従わせる事が出来れば……レイブン殿下からの信頼を独占出来る……」


 ラキアスはニヤリと嗤うと、サフィール公爵家に使いを出した。

 外出禁止令が出ていても、唯一許されるのは兵士達と星占い師のリリアのみ。


 ラキアスは、自分が考え出した邪悪な計画にゾクゾクした。


「明日は年に1度の赤い月が昇る聖なる夜だ。優しい女神はこの私に贈り物を下さるだろう」



 ***


「ところで赤い月の昇る日って本来はお祭りをするおめでたい日なんですよね?」


 明日の結婚式の準備も整い、ウェズリー家ではティアナが焼いたクッキーを食べながら、年に一度訪れる赤い月が話題になっていた。


 ルカスは、星型のクッキーを齧りながらコクリと頷く。

「毎年、1年に1回だけ真っ赤な月が昇る日を『聖なる夜』って呼ぶくらい神聖な日なのに……よくも不吉な日にしてくれたもんだ」


 フレデリカはルカスをじっと見つめるとフフフ……と意味深に笑った。

「まぁ……ルカス様って意外とロマンティックなのですね? 赤い月の昇る聖夜と呼ばれる日は別名『恋人たちの夜』と言われていますものね」


 ――ティモール王国には有名な神話がある。

 月の女神に恋をした若い太陽の神が、人間に変身して毎晩女神に求婚する。

 しかし、毎晩自分に求婚しにやって来る青年がまさか太陽の神だとは知らない女神は首を縦に振らない。

 女神に恋をしているのは彼だけではないから。


「ああら、それは仕方がないですわ! ただの人間では女神様と釣り合いませんもの。でも美しい女神に恋をしてしまったのね。素敵ですわ」

 ティアナの隣のソファでクッキーを食べながらアンジェリカが興奮している。


「でも……太陽の神様は美しいだけで女神様に恋をしたの?」


 ティアナの疑問に、義母のローズが書棚から本を取り出す。

「そうね……。神話って詳しい心の描写が書かれていないから、想像するだけだけど……自分にない美しさを太陽の神は月の女神に感じたのかもしれないわ」


 ティアナはドキリとした。

(自分にない美しさ……それは恐らく容姿だけじゃないのかも)


「う~ん……確かに……。神話に出て来る太陽の神って物凄く美しい姿ですものね。美しい顔なら自分の顔で見飽きているかも……」


 アンジェリカは3枚目のクッキーに手を伸ばしながら挿絵に見入っている。


「あっ! お義姉様ったら、本にクッキーの欠片が入ってしまいます!」


 ティアナに注意されてアンジェリカは慌ててクッキーを口に放り込んだ。


「あらあら。ティアナに注意されるようではレディーとは言えませんわね。それで……この後、女神様は求婚を受け入れるのでしたわね」


 フレデリカがアンジェリカからクッキーの入った皿を取り上げた。


 ローズがページを捲る。

「沢山の国の王から求婚された女神は誰からの贈り物も手に取らなかった。最後に青年が……」


 アンジェリカがソファからすくっと立ち上がり、ティアナに向き合うと跪いた。


『どうか、私と共に生きて下さいませんか? 私の願いに応えて下さるなら明日の晩、貴女の月を赤く染めてみせます』


 ティアナがフフッと笑ってコクリと頷く。


 ルカスがムッとして、ティアナを膝の上に乗せた。

「きゃっ! ルカス様?」


「――本当にティアナの家族は皆仲が良いな……。この神話の日が明日の夜なんだ。聖夜に不吉な事が起きるだなんて嘘の予言をした星占い師の方が罰当たりだぞ?」


 ローズが心配そうな顔で頷く。

「サフィール公爵は、娘のリリア嬢が星占い師になってから娘の力を政治に利用し過ぎている。あれでは令嬢がお気の毒だわ」


 ティアナは、リリアという名に聞き覚えがあった。


(なんだか聞き覚えのある名前だわ……。何処かで……あっ!)


「ルカス様、あの……急な話で申し訳ありませんが、今から大聖堂へ行けますか?」


 ルカスはきょとんとしている。

「? 行けるけど……理由は?」


(どうしよう……絶対に変な女だと思われちゃう。でも……知らんぷり出来ないし)


 正直、知らぬ振りも出来る。

 彼女の占いの結果、今沢山の人々が困っている。

 それでも……。


「夢の中で、赤い月が昇る前日……リリア様が兵士達に襲われる夢を見ました」


 アンジェリカが憤慨した。


「んまあっ! この状況になった元凶を助けに行くですって? 結婚式前夜に騒ぎを起こすなんて」


「――大丈夫ですの? 明日は大切な結婚式だというのに……怪我でもしたら……」


 フレデリカが不安そうに顔を曇らせた。


「いや……待てよ? むしろ、今日移動した方が得策かもしれない」


 ルカスは、ニヤリと笑う。

「レイブンも、まさか前日に我々が動くとは思っていないだろうしね」


 ――ルカスの作戦で聖なる夜の前日に、ティアナ達は大聖堂に向かう事になった。

 後にこの決断が一人の人間の人生を変える事になるとは、この時誰も想像すら出来なかった。


読んで頂きありがとうございました(^^♪


もしも面白いと感じて頂けたら次話への励みになります。

次話もお読み頂きたいので、宜しければブックマークを宜しくお願い致します(^^)


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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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