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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第19話 独立運動

カルディア歴334年12月。

シルバーピークタウンでのダンジョン攻略から3か月ほどがたち、この街での活動が日常となりつつある。ノエルとソフィアは冒険者として活動をしつつ、この国が自分達にあっているのかを肌で感じ取りつつ情報も仕入れていた。


そんなある日の事、この国を揺り動かす大きな事件が起きる。

 セリアディスは元々アルティスディアの領土であり、血統主義的な考えを強く持っているアルティスディア貴族に反発した一部の貴族や民達が袂を分かつ形で独立をした国だ。まだアルティスディアだった頃に南方の亜人国家ヴェルグラドが占領下に入っており、セリアディスの独立時にヴェルグラドはセリアディスの属国になった。


 そして近年になってそのヴェルグラドがセリアディスの支配から独立しようという機運が高まっているという噂があったのだが、とうとう決起したという報せが入った。これを受けてヴェルグラド領内でセリアディス軍とヴェルグラド反乱軍の衝突が勃発。セリアディスは戦力をヴェルグラドへと向けざるを得なくなる。


 しかしセリアディスは決して大きな国ではない。この内戦状態の中でアルティスディアが黙っているだろうか?そんな不安も市民の間に流れていた。久しくなかった国家情勢が大きく動く状況の中で、アルティスディアでは会議が行われていた。


 そして会議の結果、セリアディス侵攻が決定する。エレナがそれを知ったのはR(ルーン)T(タクティクス)U(ユニット)の大隊長であるエドワード・トリステインからの召集を受け、大隊長の執務室での事であった。


「セリアディス侵攻は早くて3月になるだろう。そしてエレナ・アッシュフォード、お前にはこの作戦での小隊長を任せる事にした」

「私が小隊長でありますか?」

「そうだ。お前はこの部隊の特性に適した人材であり小隊長を任せられると判断しての事だ。今回の任務ではイーストフォートガード内部に潜入し、この砦の門を解放。後に敵背後から奇襲を仕掛けて本体と合流するまでがお前たちの役割だ」

「工作と奇襲・攪乱が任務という事ですね」

「そうだ。小隊はお前を含め4名で組む。編成は私が行うので決まり次第また通達する。以上だ。質問は?」

「いえ!ありません!」

「よし。潜入に必要な魔法などもしっかり頭に叩き込んでおけ」

「ハッ!失礼いたします!」


 エレナは歓喜した。自分の努力が認められたのだ。しかしこれはあくまで過程に過ぎない。ここで結果を出さなければ軍は簡単に自分を見捨てるだろう。なんとしてもこの作戦で成果を出さなければ、そう胸に刻み作戦の結構までの準備を行う。そして翌週、エレナが小隊長となる部隊のメンバーが決まった。



 

「エレナ・アッシュフォード、お前の指揮する小隊の部下を紹介する。カイル・セラフィム、トリスタン・ゲイルウィンド、アリアナ・テラコーヴァの3名だ。お前たち!この部隊では爵位による上下関係は通用せん!エレナ・アッシュフォードは私がその実力を認め小隊長に任命したものだ。例え貴族であろうと口答えは一切認めん、心しておけ!」


 紹介された三人は背筋を伸ばしエレナに自己紹介を始める。


「カイル・セラフィムです!恩恵は小隊長殿と同じ全属性であります、よろしくお願いします!」

「トリスタン・ゲイルウインドです!地以外の恩恵を受けております、よろしくお願いします!」

「アリアナ・テラコーヴァです!水以外の恩恵を受けております、よろしくお願いします!」


 カイルは全属性、トリスタンとアリアナは3属性持ちだ。初めての部下を前に緊張しつつもエレナも返答する。


「エレナ・アッシュフォード。この小隊の指揮を任されたからにはこの任務を成功に導くと約束しましょう。みんなの力を当てにしている、よろしく!」

「ハッ!」


 三人とも特に爵位などを気にする者たちではないようだ。そして作戦結構の日時まで小隊全員で訓練にあたった。


 皆それなり以上の実力を持っており、魔法のみならず武術にも問題は無いように見える。だが手合わせをした限り魔法と物理攻撃の合わせに甘さが見えた。エレナもかつて教官に嫌というほど指摘された部分だ。そういった練度を高めていく。


「カイル!あなたは風属性は得意みたいだけど、その程度なら私も出来る。風だけに拘らず魔法の練度を高めなさい。それと攻撃と魔法の組み合わせがまだ甘い!」


「トリスタン!魔法の練度が足りてない!攻撃は私と同じかそれ以上の力があるのだから、もっと小さな魔法と組みあわせて相手の隙を作り出すなどの工夫をなさい!」


「アリアナ!地属性の練度は認めるけどそれ以外が全くなってない!特に体力に難があるのは作戦遂行に致命的よ!少ない期間を有効に使って少しでも体力をつけるか、自身の魔法でサポートする様に工夫しなさい!」


 練兵場では日々このようなエレナの叱咤が飛び交う。エレナ自身もまた自分と近いレベルの者たちを教える事で学ぶことが多かった。特に個人の得意不得意を把握し、作戦の遂行に関してどう使うべきかという事を考える毎日が続く。


 作戦はエレナ小隊ともう一小隊で行う。エレナ小隊は優秀だが若手で構成された部隊の為、先行する小隊とは別ルートで潜入し、このサポートもしくは代理での作戦遂行が任務となる。作戦の日が刻一刻と近付く中、エレナと仲間たちはその力を示す為に日々練度を上げていった。




 一方、ノエルとソフィアはこの国の内乱についての情報を仕入れながらシルバーピークタウンでの活動を続けていた。幸い、自分達にはそれほど影響はないが物価などの変動や今後の情勢の傾き方次第ではまた移動する事を考える事も視野に入れていた。


 何より気になったのは巷でアルティスディアの侵攻があるのでは?という噂がある事だった。確かにアルティスディアにとってはヴェルグラドに軍を割いている今、セリアディス奪還は絶好のタイミングだ。そんな中、冒険者ギルドで傭兵部隊への参加要請が張り出される。


 どうやらアルティスディアが攻めてくるという噂は本当のようだ。残存する正規軍では守り切れないと判断し、傭兵を雇う事にしたのだろう。こちらは砦を守る戦いだ。そうそう簡単に越えられるとは思えないが、もし砦が破られれば恐らく今のセリアディスではアルティスディアには勝てないだろう。


「さて、どうしたものかな。この国のことは結構気に入り始めた所なのだが」

「私もです。それに戦争になったら治療を必要とする人も多いですよね?」

「そうだな。ソフィアの力が役に立つだろう」

「ノエルさんはどうしたいですか?」

「ソフィアがもしこの戦争で傷つく兵士たちを癒したいというのなら、俺はソフィアを守る」

「私は…この国がなくなるのは嫌です!」

「なら決まりだ」


「傭兵の募集だが救護班とその防衛に参加したいのだが」

「承知しました。ソフィアさんが救護担当でノエルさんがその防衛という事でよろしいですね」

「ああ。状況次第で俺を使ってくれて構わない」

「それも伝えておきましょう」


 冒険者ギルドで攻防戦へ傭兵としての参加要請に応える旨を伝えた。こうしてノエルとソフィアは砦の攻防戦の参加する事になる。




 そして四か月後、運命の日が訪れる。

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