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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第20話 イーストガードフォート砦攻防戦

カルディア歴335年4月。

セリアディスがヴェルグラド反乱軍に戦力を向けている事を受け、アルティスディアは軍を動かす。セリアディスの東部と西部のそれぞれ存在する砦の内、西部のウェストガードフォートへ陽動を掛ける。主力は東のイーストフォートガードに集結。戦力の分散を図り東側から1万5千の軍勢が攻め入ろうとしていた。


対するイーストフォートガードの戦力は正規軍5000と傭兵1000人。この戦場にノエルとソフィア、RTUの二小隊が敵として相対する。そしてその小隊の一小隊の隊長がエレナだ。


日が沈み夜更けに進軍を開始したアルティスディア軍。これに対応すべくセリアディス軍も砦の守りを固めていた。国を守る運命の決戦の火蓋が切って落とされた。

 ノエルとソフィアはイーストガードフォート砦内部の救護施設に居た。前線からの負傷者などが次期に運び込まれた際にソフィアが治療班に、その護衛隊としてノエルが参加していた。喧噪は未だ遠く前線での攻防が続いているようだ。


 今回の防衛戦では事前にソフィアが最前線の部隊に対し『ヒーリンググロウ』という持続時間が長く継続的に傷を癒す魔法を掛けている。その効果を高める為に魔力を多めに消費し、そのお陰でソフィアはマジックポーションを飲み続ける事となった為、今はぐったりと休んでいるところだ。


 幸い、まだ戦局はどちらにも傾いていない。暫くはゆっくり休めそうである。救護班員であるソフィアが魔力が回復したとはいえポーションの飲み過ぎでぐったりしているというのも妙な話であるが、そんな事を考える余裕があるほどには砦内部はまだ安全だ。


 ソフィアの魔法の効果か国を守らんとするセリアディス軍の気迫か、防衛戦で数に不安のあるセリアディス軍は奮闘していた。そこに忍び寄る影が8つある事に、この時まだ誰も気づいていなかった。




 R(ルーン)T(タクティクス)U(ユニット)の小隊、比較的若い層で組まれたレッド小隊の隊長がエレナだ。もう一小隊、ブルー小隊が先行しておりこちらの面々はレッド小隊よりも軍の所属歴が長い者で構成されていた。レッド小隊の任務はブルー小隊の援護、もしくはブルー小隊が任務継続困難な場合はこれに代わって引継ぎ潜入工作を行うという物だ。


 セリアディス中央にそびえたつ山の険しい斜面を魔法を使って登り、砦の側面からの侵入を図る二個小隊。事前に内通者から砦内部の目立たない場所にセリアディス軍の兵装を用意させており、これを装備して紛れ込む事で作戦を遂行する。




 内部に侵入しセリアディス兵に紛れ各所に『ディレイドブラスト』という遅効性の爆発魔法を仕掛けていく。時間の細かい設定が出来るわけではないが、魔法行使の際にある程度大雑把に時間を決めておくことが出来る。この魔法を門の開閉に関係ない部分に複数設置し、敵の注意を逸らし混乱を招く。


 混乱に乗じて門の開閉装置を守備する兵を殺し、門を開けてから脱出。二班に分かれ一班は弓兵と魔法兵を奇襲し頭上からの安全を確保、もう一班は敵の背後から派手に魔法を撃ちながら本陣まで撤退するのが今回の任務だ。伏兵の存在はそれだけで脅威となり混乱を招く。成功すれば前線の部隊に大きく貢献できるだろう。


 エレナは隊員たちと別れ、担当する箇所に『ディレイドブラスト』を仕掛けていく。先に砦内部の地図も用意されており装備も砦の兵士たちと同様の為、作戦はスムーズに進んでいた。


 全てのポイントに魔法を仕掛けた後、合流ポイントでレッド小隊のメンバーたちと合流する。ブルー小隊も問題なく配置が完了したようだ。小隊ごとに分かれ、レッド小隊はブルー小隊の援護と成功後に砦上部の弓兵と魔法兵を排除するためのポジションへ着く。あとは魔法発動の時を待つだけだ。




 ソフィアは一休みしてだいぶ元気を取り戻していた。これほどポーションを連続で飲む事は人生でこれきりだろうと笑っているくらいだ。そんな時、不意に砦内部が騒がしくなる。突如、爆発音がしたのだ。ノエルはソフィアに待機を命じ、外の様子を確認しに行く。


 前線はまだ維持している為、別ルートからの敵が潜入している可能性が高い事が考えられる。内部は混乱しており慌ただしく兵士たちは動いていた。


 状況を把握しようと動くノエルは兵の中で殺気にも似た悪意のある気を発している人物を確認した。その者は確かにセリアディス軍の兵士のように見えるが、ノエルには他の兵たちとは明らかに違って見えた。


「おいあんた、この爆発はなんだ?」

「敵が紛れ込んだ可能性が高い!お前は傭兵か?急いで敵を探し出してくれ!」


「その敵が偽装しているとは考えないのか?」

「その可能性もあるな…」


「ところであんた…本当にセリアディス軍の者か?名前と所属を確認させてくれ」

「何を言ってるんだ、傭兵にそんな事を答える義務はない!命令だ、とっとと確認してこい!」


 明らかに気が乱れている。こいつは敵だと確信したノエルは容赦なく切り捨て叫ぶ。


「敵は兵士に偽装している!名前と所属が言えない者は敵だ!伝えて回ってくれ!」

「お、お前何を言って…」

「こいつの顔を見たことあるか?三色持ちなんて随分珍しいだろう?」


 ノエルが兵士の兜を取って見せると、その現場を見ていた正規兵は慌てて砦内部に伝達をする。


「あと何人紛れ込んでるんだ、厄介な事になったな」


 この状況の中でノエルだけが敵の正体を見破る手段を持っていると言っても過言ではない。100%ではないが、間違えたらソフィアに癒させればいいくらいの勢いで斬った。実際に当たりだったが。


 そして敵の狙いを考えるノエルはこの砦を奇襲するメリットについて思案を巡らせながら、残存する侵入者を探す。ある程度の人数の部隊で奇襲をするなら一気に攻め込んだ方が遥かに効率的だ。偽装の必要もない。そう考えるとまず人数はそれほど多くないだろうと判断できる。爆発は恐らく目を引くためだ。


(想定される敵は少数の工作目的、狙いは門の破壊か?防衛側の指揮系統の混乱か?)




 そう考えながら兵士たちを観察していると、門の開閉装置に向かう者たちを発見する。この状況で門の開閉装置へ向かうという事に不自然さを覚えるノエル。


「おい!お前たちの所属と名前を聞かせてもらおうか!」


 そう声を掛けながら相手の放つ気を探ると、先ほどと同様だ。やはり門の開閉装置の破壊が狙いかと判断したノエルはその3人を相手に戦闘を開始した。相手の戦闘能力はそこそこ高い様で、魔法を上手く使いながら接近して攻撃も試みてくる。


 ノエルはその魔法の発動の気配を感じ取り、遠距離魔法は刀で散らし阻害魔法は脚も使って散らす。太刀(天斬)の間合いに入ればこちらの物だ。敵の攻撃を躱しては斬り、また攻撃されては小太刀(命断)で弾いて斬り伏せる。敵の練度も中々の物だが、近接戦闘のみに特化し鍛え上げてきたノエルのそれとは次元が違い過ぎた。


「クソ!お前は一体なんなんだ!」

「ただの彩無し(いろなし)の傭兵さ!」


 そう言って侵入者と思われるものを全て切り伏せた。合計4人。これで全てとは限らない。その兜を取ると全員三色か四色の恩恵を持っているような外見だ。おおかたアルティスディアのエリート部隊様といった所だろう。


「侵入者はアルティスディアのエリート部隊かもしれん!全員兜を取ってお互いの姿を確認しろ!」


 ノエルは始末した侵入者の事を正規兵に伝えると、引き続き捜索にあたる。




 一方、エレナは焦っていた。あのブルー小隊がいとも簡単に偽装を見破られ倒された。それだけではない。その相手は()()()だった。魔法と戦闘に特化した部隊だが、より強い武力と魔法が効かない相手が目の前にいる。これは作戦の遂行が極めて困難である事を意味していた。


 こちらに疑いが掛かる前に撤退を指示すべきという思考と、せめて門の開閉装置の破壊か砦上部の兵の掃討だけでも遂行すべきかというその迷いが、小隊のメンバーが門の開閉装置へと向かっていくよう時間を与えてしまった。それは彼らの死を予感させるに十分だった。


「待てお前たち!」


 その制止の声は一瞬遅く、砦の外壁上部から開閉装置の方へと飛び出してしまった3人。小隊長として3人を守らなければ、そして最小限の犠牲でこの場を切り抜け撤退する覚悟を決め、自らもまた3人と合流する。


「待て!お前たちではその者には勝てない!散開して撤退だ!作戦は放棄する!」


 それは敵に自分達が侵入者であると告げるようなものだが、エレナが決死の覚悟で指示をした。この兄が相手ではまだそちらの方が生存率が高いと判断したからだ。そしてその判断は間違っていなかった。共に己を鍛えてきた部下たちがエレナの目の間で命を散らすその瞬間を、彼女は見る事となる。




 ノエルが周囲を確認していると、砦上部から複数の兵たちが降りてくるのが見えた。皆兜をしたままだが先ほどと同様の気を感じる。


「止まれ!兜を取って名前と所属を答えろ!答えなければ敵と判断し斬る!」


 その言葉に怯まず向かってくる3人。この場にはノエル以外の兵士は数人しかおらず、門の開閉装置の守護担当の兵がいる程度だった。ノエルを倒せば工作任務の継続が可能と判断しているのだろう。


「やはり敵だな。ならば容赦はしない」


 相手は3人。後方のもう一人が制止するような言葉を掛けているように聞こえたが、今は考えている余裕はなかった。一人は後方から魔法を放とうとしている。そして残りの二人で左右から時間差で攻めてくるフォーメーションだ。


 遠距離から放たれた魔法は地属性でノエルにとって最も消しやすい魔法だ。脚で大地を踏み気を流し、これを相殺すると向かってくる敵の風魔法を小太刀(命断)で斬り割き、太刀(天斬)で敵の盾ごと左半身を切って捨てる。その間に近づいてきた敵の槍を躱すと同時に敵の右脇に滑り込むように低く移動し胴を薙いだ。


 残った後方の敵は炎の風を浴びせてくるがこれを太刀(天斬)で斬り払い消し飛ばす。相手に近づき構えている剣ごと小太刀(命断)で真っ向から切り伏せた。


 後方で呼びかけていた侵入者はその様子を見て、膝から崩れ落ちていた。仲間の死に様を見て戦意喪失したのかと近付くと、その者が兜を取って両手を上げる。その姿を見てノエルは驚いた。ウィズダムアイルに居るはずの()()()()()だ。


「お前が敵としてここに来るとはな」

「私も、あなたがここに居て…まさか敵になるなんて思ってもなかったわ」


「その態度、降伏をするという意思か?」

「あなたに勝てるほど私はまだ修練を詰めていない、それは…自分が一番良く解っているもの」

 『修練』、その言葉がエレナから出てくるとは思っていなかった。この女は本当にあのエレナなのか?ノエルはそう考えながらもエレナに捕虜とする事を伝える。


「なら武器を放棄しろ。お前を拘束しセリアディス兵に引き渡す」

「分かりました」


 そう言うとエレナは大人しく従った。




「伏兵は他に居るか?そう大人数で潜入してきたわけではないだろう」


 ノエルはマジックポーチから縄を取り出し、拘束しながら問いかける。


「全てあなたが倒したわ。もう…私しか残っていない」

「そうか…おい!そこのあんた!侵入者の隊長格と思われる人物を捕虜にした。残存する侵入者はいないという事だが、念のため兵士たちで確認をしあって安全を確認してくれ!」


 ノエルは大きな声で近くにいる兵士に呼びかけた。


「よくやった!感謝する!」


 兵士はそう言うと捜索している者たちにこの事を伝えに行った。




「あなたに追い付いてキチンと話をする為に軍に入ったのに…なんでこんなことになっちゃたんだろう」

「悪いが今は戦時だ。悠長に話している暇はない」


「分かっているわ。ねぇ()()()()()、お願いがあるの」

「お願いだと?」


「ママはあなたを捨てなければならなかった『あの日』の事をずっと悔やんで懺悔し続けている。今は王都の食堂で働いているの、イザベラ・アッシュフォードと名を変えてね。いつか会ってあげて」

「…覚えておこう」




 その後、エレナは兵士に連行されて行った。砦内はやや慌ただしさが残るものの、一旦は落ち着いたようだ。前線の兵士たちが押されている様子もないという。このまま無事に防衛戦が終わってくれとノエルは願い、ソフィアの元へと戻った。

エレナの降伏シーンのイメージをDALL-E3に描いてもらいました。

挿絵(By みてみん)

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