完結篇 前篇 第4章 着任
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ミレニアム帝国皇帝ルドルフ・フォン・ゲルリッツ元帥はミレニアム統合軍の参謀たちを集め、御前会議を開いていた。
第2次ラペルリ連合王国侵攻が失敗し、ナチス・ドイツ陸海空軍とネオナチス派のドイツ軍に少なくない損害を出してしまった。
群島諸国連合軍と日米の艦隊は神聖なるミレニアム帝国本土に侵攻するという情報を掴み、その対策のために召集されたのである。
「恐らく、日米艦隊は帝国本土侵攻に際し、いずれかの戦略拠点を占領するでしょう」
参謀長が立ち上がり、説明する。
「どの島を占領すると思われる?」
ルドルフは地図を見ながら、問うた。
「はっ!日米連合軍に武器、弾薬が十分にありましたら、いくつかの島を占領するでしょうが、この世界に飛ばされてから、かなりの弾薬を消耗していると思われます。ならば、占領は1箇所。このバラカス諸島クーリッタン島を占領するでしょう」
「その根拠は?」
「バラカス諸島クーリッタン島は群島諸国とミレニアム帝国本土の中間地点にあり、戦略上極めて重要であります」
「ふうむ」
ルドルフは腕を組んだ。
「島の駐屯部隊は?」
ルドルフの問いに、参謀の1人が立ち上がった。
「群島諸国侵攻の戦略拠点でしたので、同島には、数個騎士団と兵団が駐屯しています。また、軍港も整備されています」
「しかしながら、先日派遣した艦隊は敵の潜水艦と思われる艦にロケット攻撃を受け、鉄甲艦3隻を失いました。2等臣民の、海軍力の増援は非常に難しいでしょう・・・」
会議室が静まり返る。
「敵の潜水艦の正体をつかむために、こちらも潜水艦を出動させました」
沈黙の中でネオナチス派の海軍大佐が口を開いた。
「それで?」
「ミレニアム帝国領海に潜んでいる潜水艦は原子力潜水艦[バージニア]級である事が判明しました」
全員の視線が海軍大佐に集中する。
[バージニア]級原子力潜水艦の説明を海軍大佐がする。
原子力であるため、燃料補給の必要がなく、1度潜ったら数ヶ月間は任務を遂行できる。魚雷等を多く積める上に厄介なのが12基のトマホークを搭載している事だ。
トマホークには核弾頭を搭載する事ができ、もし、核弾頭搭載のトマホークが帝都に撃ち込まれた場合、1発で壊滅する。
移動要塞[アヴァロン]には、実際に核弾頭搭載のトマホークが撃ち込まれ、破壊されたのは記憶に新しい。
仮に核弾頭を使わなくても、通常弾頭のトマホークでも、十分に帝都やその他の軍事拠点を壊滅させる事はできる。
現実を突き付けられて、参謀たちはどよめいた。
だが、1人だけ冷静な男がいた。
ルドルフである。
「貴官に問う」
元帥は海軍大佐に顔を向けた。
「貴官たちが持ち込んだ潜水艦で、[バージニア]級原子力潜水艦を撃沈できるか?」
ルドルフの言葉に海軍大佐は考え込んだ。
「難題ではございますが、不可能ではありません」
彼の言葉にルドルフはにやりとした。
「ならば、出動させよ」
「はっ!」
ルドルフはその後、若い1人の参謀に視線を向けた。
彼はここにいるナチス・ドイツ軍の将官の中では最年少の将官だ。名はヴェールター・フォン・カナリス中将だ。
「ゲネラール・カナリス」
「はっ!」
ヴェールターは立ち上がる。
「貴官に命ずる。バラカス諸島クーリッタン島に出向き、防衛指揮をとれ」
「はっ!」
御前会議を終え、ルドルフは自室である皇帝執務室に戻った。
「お疲れになりましたでしょう陛下。何かお飲み物をおもちいたしましょうか?」
執務室に控えていた、従卒のコルト・クーノ上等兵が声をかけた。
「うむ、頼む」
「はっ、何にいたしましょう?」
「そうだな。さっぱりした物がいい」
ルドルフの言葉にコルトはガラス製のコップに果実のジュースを注いだ。
皇帝である以上、酒を飲んでも誰も文句は言わないが、彼は公務中にアルコールの入った飲み物は口にしない。
その事について臣下から尋ねられた事があるが、その事についてルドルフはこう答えた。
「私が忠誠を誓ったあの方は公務中に酒を飲む事はなかった。部下である私が飲むのか?」
臣下はその後、何も言わなかった。
「どうぞ」
コルトが果実のジュースが入ったガラス製のコップを執務机に置いた。
これも彼の特徴である。
ルドルフはこの世界の王のように銀や金等で作られた食器類を使う事はない。彼は物で権威を表すのがあまり好きではない。権威はものではなく、己の力によって示すものであると思っている。
それに、彼は自身の肖像画すら描かせなかった。
臣下に質問を受けた事があったが、微笑むだけで答えなかったが。
ルドルフはコルトが注いでくれたジュースを1口飲んだ。
「気分が落ち着く」
もう1口飲んだ時に、執務室のドアからノック音がした。
「入れ」
ルドルフが許可すると、高級副官が執務室に入ってきた。
「失礼します。閣下、宰相閣下がお会いしたいと申しておりますが、いかがいたしましょう?」
「アルブレヒトが?会おう」
「はっ!」
高級副官に通され、ミレニアム帝国宰相であるアルブレヒトが執務室に入った。
「何の用だ?アルブレヒト、貴官の事だ、また重要な話を持ってきたのであろう」
アルブレヒトは頭を下げ、進言した。
「陛下。恐れながら申し上げます。ご結婚なさってください」
宰相の言葉にルドルフは面食らった。
「結婚?まだ戦争が終わってないのにか?」
「戦争等、関係ございません。陛下には皇統を存続させる義務があります。年が年でございます。一刻もはやくご結婚なさってください」
宰相の言葉にルドルフはわずかながらの笑みを浮かべて、立ち上がり、帝都を一望できる窓を眺めた。
「私は、結婚はしていた」
「それは陛下が別の世界にいた時でしょう。この世界ではご結婚なさっておりません・・・」
アルブレヒトが続きを言おうとしたが、ルドルフは手で止めた。
「私は、結婚はせぬ。次の帝国の後継者はこの地位に相応しい力を持つ者がなればよかろう」
ルドルフは宰相に振り返った。
「それ以前に、群島諸国連合軍はレギオン・クーパーを陣営に迎え入れた。我が帝国が滅ぶのも近いかもしれないぞ。ははははは」
「陛下!」
「閣下!」
宰相と高級副官が待ったをかけた。
「陛下。滅多な事を申しますな、そのような事を申されれば、兵や臣下たちに亀裂を生じさせますぞ」
「宰相閣下の申す通りです。帝国軍将兵だけではなく、我が軍の下士官や兵たちの士気にもかかわります」
2人に窘められて、ルドルフは再び窓の外を眺めた。
「貴官等の言う通りだな。いささか軽率な発言だった。以後気を付けることにしよう」
「お聞きくださり、ありがとうございます。宰相の身でありながら、出過ぎた真似をいたしました。お許しを」
ルドルフは何も言わず、2人を退室させた。
「閣下、私はお待ち申し上げていたのです。本来この皇帝の地位に相応しいのは貴方をおいて他にはいないのです」
1人になったルドルフは、ここにはいない人物に話かける。
恐らく、自分は生きてその敬愛する人物に再会する事は叶わないだろう。
だからこそ、自分は己の進む道を変えられない。
「来るがいい、日本軍よ。共に滅ぶか、いずれが生き残るか、決着をつけようではないか」
バラカス諸島クーリッタン島は、かつて、王国が繁栄していた。
その王国を旧帝国が侵略し、滅ぼした。
もはや、王国の名前がなんだったのか知る者はいない程、昔の出来事であった。
数100年前には王城が建てられていた所には、新たに建てられた城があった。
この城にクーリッタン島守備軍の本陣が置かれている。
執務室の部屋で、1人の壮年な男が不機嫌な顔で酒瓶を片手に、ミレニアム帝国本土から届いた書類を読んでいた。
「いかがなさいました?」
副官の問いに、男は酒瓶を飲み干した。
「読んでみろ」
男は副官に書類を叩きつけるように渡した。
副官は受け取り、書類に目を走らせる。
「わかっただろう。この島は俺の島だと言うのに、皇帝軍から送られてくる将軍にすべてを奪われる」
男は拳を力強く握りながら、吐き捨てる。
副官は、心中で、この島に左遷された時も、不機嫌だったではありませんか、とぼやいた。
男は、口が悪いせいで、皇帝軍から不興をかい、左遷された。
しかし、彼にとってはその左遷がいやに思えなかった。部下には不満があるように振る舞っていたが、本心は逆だ。
「あの皇帝軍の偉そうな面をみずにすむ」と彼の日記にはそう記されていた。
「この俺様が、なんだって下にならなくてはならんのだ。この島に着任する皇帝軍の将軍は俺より10も若いそうではないか。こんな馬鹿な話がある訳がない」
男は従者にもう1本酒瓶を持ってくるように指示した。
「将軍。恐れながら、今日はそのくらいにした方が・・・」
従者の言葉に男は無言で睨んだ。
「は、はい!ただいま」
従者は慌てて、主に酒瓶を渡した。
男は酒瓶のコルクを開けると、勢いよく飲んだ。
酒をある程度一気飲みした後、男は副官に言った。
「という訳だ。皇帝軍の将軍が着いたら、仕事がしやすいよう書類をまとめておけ」
「はっ!」
副官は右拳を左胸に当て、敬礼した。
「下がっていい」
男がそう言うと、副官は踵を返して、執務室を出て行った。
翌日。
クーリッタン島の軍港に整列した守備軍の将軍たちは、皇帝軍から派遣された将軍を待っていた。
伝令から皇帝軍の船が見えたと報告を受け、将軍として出迎えるために港に出向いた。
皇帝軍の巨大な船から、小さな小舟が下ろされ、桟橋に向かってくる。
小舟から1人の若い男がクーリッタン島の土に足をつけた。
背丈は普通ぐらいで、明るい茶色の髪の男。
彼が皇帝軍の将軍だろう。
しかし、とても将軍には思えない人物だ。実力重視の皇帝軍の将軍としては、かなり若い。
彼はその将軍を見た事がある。
まだ、帝都にいた頃、皇帝の傍らにいた参謀の1人だ。
(皇帝の腰巾着か)
将軍は、ある程度理解した。
(やはり、第2次ラペルリ連合王国侵攻軍が敗退したのは本当のようだ)
第2次ラペルリ連合王国侵攻軍敗退の情報はミレニアム帝国内でも皇帝軍のみにしか教えられていない。
それ以外には、一切伝えられていないのだ。
将軍は今のミレニアム帝国の現状を推測し、この島の重要性を理解した。
そんな事を考えていると、皇帝軍の将軍が彼の前に立った。
「ハイル・ヒトラー」
彼は皇帝軍の将兵がする敬礼をした。
「この度、クーリッタン島守備軍の指揮を任されました。ゲネラール・ロイトナント・ヴェールター・フォン・カナリスです」
ヴェールターと名乗った若い将軍は笑みを浮かべながら自己紹介した。
「お待ちしておりました。将軍」
彼はそう言った後、右拳を左胸に当て、敬礼し、続きを言った。
「皇帝陛下から、クーリッタン島守備軍の全指揮権を将軍に譲るよう命令を受けています。存分にお使いください」
「ありがとう」
ヴェールターという男は、相変わらず将軍には見えない男だと彼は思うのであった。
ヴェールターは司令部として使われている城に入ると、前将軍が使用していた執務室を間借りするのであった。
前将軍から戦力について説明が行われた。
「陛下から与えられた兵力は2個騎士団と3個兵団です。命令書には、ヴェールター将軍以下に皇帝軍と帝国軍から増援が来ると聞きましたが」
将軍を改め、副将軍になった彼は聞いていた以上に礼儀よく対応した。
ヴェールターは彼の評判を聞いているが、あまり関心はなかった。どんな将であれ、武人である事には変わりない。
武人ならわかり合えるところもある。
ヴェールターはそう思うのである。
「陛下より、新たな増援として皇帝軍から1個旅団、帝国軍から1個騎士団、2個兵団が送られてきます。これで、この島を守らなくてはなりません」
「それは素晴らしい。皇帝陛下はこの島を見捨てる訳ではないのですね!」
1人の参謀が感動したように叫んだ。
「本土から遠く離れたこの島を陛下は見捨てず、増援を寄越してくださいました」
「ああ。皇帝軍からも増援が来たからには、蛮族がレギオン・クーパー(異世界からの軍勢)を味方につけようとも、我々の勝利は揺るぎない」
帝国軍の参謀たちが歓声の声をあげる。
ヴェールターは一瞬だけ表情を引き締めた
そういう意味ではないのだがな、と彼は思った。
元帥は、この島を守るために増援を送った訳ではない。時間を稼ぐために援軍を送ったのだ。
つまりは、捨て石という事だ。
ミレニアム帝国本土は群島諸国連合軍と日米合同軍の侵攻に備え本土決戦の準備を構築している。
完成したばかりの新型単段式弾頭ミサイル発射台の構築を行っている。
準備ができしだい島の戦況に応じて集中砲火を行ったり、群島諸国に撃ち込む手はずだ。
ヴェールターの役目は、この島を攻略に来るであろう日米合同軍の陸海軍に、その間、彼らを効率良く使い捨て、敵軍に武器兵員の両面で出血を強いる事だ。
「貴官たちに1つお聞きしたいのですが、ニホ・・・いや、レギオン・クーパーについてどこまで知っています?」
ヴェールターの問いに、帝国軍参謀たちは顔を見合わせた。
「噂程度しか知りませんが、それでよろしいですか?」
「構いませんよ」
帝国軍参謀たちが、噂で聞いた話を話始めた。
「竜騎士団の猛攻をいともたやすく、撃退する」
「帝国軍の侵攻を2度までも防いだ最強の軍勢」
等と、あまり参考にはなりそうにないたわない情報だったが、ヴェールターは真剣に聞いていた。
「将軍。なぜ、今になって、レギオン・クーパーの事を?」
副将軍に尋ねられ、ヴェールターは笑みを浮かべて、答えた。
「私たちが捨てた元の世界では、貴官たちが知っているレギオン・クーパーは帝国主義の国だったんですよ」
「「「??」」」
帝国でないなら王国なのか?参謀たちが考え込んでいるのを見て、ヴェールターは、説明が足りなかった事に気が付いて咳払いをした。
「かつては天皇と呼ばれる皇帝を中心とした帝国だったのですが、世界大戦と呼ばれる戦争に敗れ、アメリカという大国に骨抜きにされたのが、今のレギオン・クーパーなのですよ」
噂でしか聞いた事は無いとはいえ、骨抜きにされてもそれほど強いとはどういう事だ?と全員の顔に書いてある。
「・・・説明すると、長くなってしまうのですが・・・少し休憩にしませんか?」
ヴェールターは頬杖をつき、従卒にコーヒーを持ってくるように、頼んだ。
従卒は全員分のコーヒーを淹れ、配った。
「知っていると思いますが、我々の世界の飲み物です」
ヴェールターはそう言いながら、コーヒーの香りを楽しむのであった。
帝国軍の参謀たちは、独特の苦みのある味に微妙な表情を浮かべている。
それを、微苦笑を浮かべて眺めながらヴェールターは、考えを巡らせていた。
日米合同軍はこちらの情報を相当収集しているようだが、それはこちらも同じだ。
恐らく、3個艦隊のうち1個艦隊をクーリッタン島攻略に差し向けて来るだろう。
問題はどの艦隊が出向いて来るかだが・・・その艦隊指揮官のうち2人はネオナチス派の将校が知る人物だったが、1人は誰も知らない。
ただ、噂では軍令部総長(海上幕僚長)に、才能を認められた人物だという。
もっとも、1度も戦争を経験した事の無い指揮官など取るに足りないという意見が大勢を占めているが。
ヴェールターは、経験が無いからと過小評価をする気は無い。たった1戦で全ての評価が覆るなど、軍隊では当たり前なのだ。
「さて、こちらは向こうの出方伺いですがね・・・ルビコンを前にする指揮官は誰になるのやら・・・」
ヴェールターの口許に、微笑が浮かぶ。
完結篇前篇第4章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は2月9日までを予定しています。