完結篇 前篇 第3章 前哨戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
海保(海上保安庁)の巡視船[しきしま]は群島諸国連合軍海賊討伐隊1個と共に海賊被害が相次ぐ海域にいた。
各船は6000メートルの間隔で航行し、警戒している。
その真ん中に[しきしま]がいて、海賊討伐船が海賊船を見つけると、彼らが貸与した通信機で、位置を知らせるのだ。
「船長!4番船より、海賊船を発見したそうです!」
防弾装備姿の通信士が船長である松野幸太郎2等海上保安監に報告した。
「機関全速!針路変更!」
「機関全速!針路変更!」
操舵手が復唱した。
[しきしま]のディーゼルエンジンが音を上げ、ぐんぐんスピードを上げていく。
「通信士。海賊船の数は?」
「1隻です!」
幸太郎の問いに通信士が答える。
「船長!現れた海賊船は不可解です」
「不可解?」
「はい。4番船の報告では、海賊船は戦闘準備をしているものの、4番船とは戦う気がないようです。まるで・・・」
「本船が来るのを待っているよう、か」
通信士の予測を幸太郎が引き継いだ。
「罠ですか?」
副長が尋ねる。
「いや、その可能性は低い」
幸太郎は首を振った。
「この海域には船等を隠す島はない。自殺攻撃は不可能だ」
「では、なぜ?」
「わからん。だが、何を仕掛けていようとも、本船に敵うとは思えん」
幸太郎はそう言って、レーダー員に振り返った。
「レーダーから目を離すな。どんなささいな反応にも注意しろ!」
「はっ!」
「艦長!レギオン・クーパーの船を発見!こちらに向かってきます!」
見張り員の報告に艦長アルビルはにやりとした。
「やっと来たな。白い船よ」
アルビルはそうつぶやくと水兵たちに命じた。
「旗を掲げよ!」
「はっ!」
水兵たちはメインマストにある旗を掲げた。
「さあ、白い船よ。私と戦え」
アルビルは白い船を見ながら、言った。
「船長!海賊船より、旗が掲げられました!」
見張り員の報告に幸太郎は双眼鏡を覗いた。
「あれは」
幸太郎は旗を見て目を丸くした。
2人の騎士が戦っているように描かれている。
その旗の意味は、貴船と一騎打ちを申し込む、である。
幸太郎もこの世界の海軍の常識を一通り勉強しているから、その旗の意味は知っている。
「そうか・・・」
幸太郎は笑みを浮かべた。
「船長?」
「いいだろう。その挑戦、受けてたつ」
そうつぶやくと、幸太郎は命じた。
「戦闘準備!敵船の一騎打ちを受ける。総員、64式小銃を武装せよ!」
「は?」
船橋にいた乗組員たちは顔を見合わせた。
「再度言う!総員、64式小銃を武装せよ!」
[しきしま]の武器庫が開放され、乗組員たちが64式7.62ミリ小銃、13ミリ単銃身機関銃を取り出された。
「急げ!武器を持ったら、すぐに甲板に出ろ!」
特別警備隊員の怒号が響く。
乗組員たちは64式7.62ミリ小銃に弾倉を叩き込むと、甲板に整列した。
89式5.56ミリ小銃の前型である64式7.62ミリ小銃は陸自では予備装備として残っているが、性能の良さから海保ではまだまだ現役だ。
13ミリ単銃身機関銃が設置され、弾薬が装填される。
これは12.7ミリ重機関銃(ブローニングM2)であり、海保の呼称である。
後部甲板には対人、対物狙撃銃を装備した狙撃手たちが配置につく。
万が一にも敵が[しきしま]に乗り込んできても、準備万端の態勢をとる。
「距離600!射撃位置まで400!」
船橋ではレーダー員の声が響く。
「船長。総員配置完了しました!」
次々と報告が上がってくる。
副長が不満な表情で上司に叫ぶ。
「せ、船長!海保が一騎打ちなんて聞いた事ありません!我々は海軍じゃありません、警察です!」
「数年前の海保はそうだったが、法の改正で准軍事組織になっているんだ。だから俺たちは警察権を持った准海軍だ」
そう言うと、幸太郎は船内放送で乗組員に言った。
「総員、被弾、衝突に備えろ!」
「ああー、こんな事が海上保安庁に知れたらぁぁぁ!」
「心配するな、責任を取るのは俺だ」
頭を抱える副長に、幸太郎は苦笑した。
「距離450!」
「敵船より、砲撃!」
見張り員が報告する。
砲弾は[しきしま]の至近で命中し、巨大な水柱が上がる。
その、水柱を縫うように[しきしま]は敵船との距離を詰めていく。
「距離400!」
「射撃開始!」
幸太郎の命令で、13ミリ単銃身機関銃、64式7.62ミリ小銃が火を噴き、曳光弾が木の板を貫徹する。
RFSに操作されたJM61機関砲の砲身が回転し、喫水線に向かって20ミリ砲弾が叩き込まれる。
[しきしま]にも砲撃を受けるが、装甲板が防ぐ。
[しきしま]は改装により、装甲板も強化されている。貫通能力がないこの世界の砲弾では貫徹する訳がない。
64式7.62ミリ小銃の弾丸が次々と水兵たちを絶命させていく。
敵船の甲板から弓兵が、次々と矢を放つのが見えたが風と波に煽られて、[しきしま]まで届かず、失速して海に落ちていく。
敵艦は、20ミリ機関砲が空けた穴に海水が流れ込み、傾いていく。
「射撃やめ!」
幸太郎の命令で海保たちは射撃をやめた。
敵船は沈むスピードを上げながら沈没していく。
沈没する船から、乗組員たちが海に飛び込んでいく。
船橋でその光景を見ていた幸太郎は部下たちに指示を出した。
「彼らを救助せよ!しかし、警戒は怠るな。おかしな行動をすれば容赦なく撃て!」
「はっ!」
[しきしま]から救助艇が下ろされ、彼らを救助した。
甲板には小銃や機関銃が光っている。
救助員たちの腰にはM5906がある。
彼らはおとなしく海保たちの指示に従い投降した。
輸送艦「しれとこ」のパイロット待機室で、AH-64Dのガンナーの宮沢3尉は読書をしていた。
そこへ、珍しく上機嫌の榊原茂雄1等陸尉が、鼻歌を歌いながら入ってきた。
「何か、いい事でもあったんですか?」
「おう、これを見ろ。ついに成功したぞ」
「?」
榊原の持っているお盆には、おいしそうな湯気を立てているサバの味噌煮の乗った皿があった。
「缶飯、じゃないですよね・・・」
「当たり前だ!!知り合いに頼んで特別にコツをレクチャーしてもらったんだからな」
「・・・そこまで、こだわりますか・・・」
宮沢は呆れたように、つぶやいた。
「まあ、本物のサバじゃないのが残念だが、サバみたいなやつだから良しとしよう。どうだ、特別に味見させてやるぞ」
満面の笑みを浮かべている榊原に、さほど好きでもない魚料理を勧められても正直困るのだが、断りきれずに宮沢は1口食べてみた。
「・・・う・・・旨い」
思わず、感想がもれた。
「そうだろう、そうだろう」
榊原はどや顔で、うなずいている。
「ところで、味噌焼きしか出来なかった1尉にまともな味噌煮をレクチャーしてくれたのは、誰なんです?」
ムシャムシャと、嬉しそうに成功品を頬張っている榊原に何気に聞いてみる。
「来島3曹の姉君だ。俺の嫁さんの料理も旨かったが、あの人はそれ以上だな。海将補にしとくのは、勿体ない」
「・・・・・・」
それは、違うでしょうと言いたいのを宮沢は押さえたが、そういえば、[しれとこ]の海曹たちの噂話で、板垣司令官が水島司令に肉じゃがを作ってくれるように頼んだとか、頼まなかったとか・・・
それはさておき、榊原にとっては大好物のサバの味噌煮を心ゆくまで堪能できるのは幸せなのだろう。
笠谷は自室で陸自から上がって来た上陸作戦の資料に目を通していた。
机の上にはバラカス諸島の地図が広げられていた。
バラカス諸島はミレニアム帝国本土に侵攻する際の重要な拠点になる。
笠谷は近接航空支援をどのようにすべきか、それを考えていた。
「・・・・・・」
笠谷は地図を睨みながら、思った。
(・・・この戦いで、俺たちはレギオン・クーパーとしての力を失うだろう)
これまで自衛隊と米軍はとてつもない猛威を振るった。だが、それは無限ではない。限りがあるのだ。
その時、コンコン、とドアからノック音がした。
「どうぞ」
笠谷が許可すると、空曹長が入ってきた。
「失礼します」
「どうした?」
「第2部長。これから食堂でカラオケ大会があるんです。是非とも審判員をしていただけますか?」
「いや、俺は・・・」
笠谷は断ろうとしたが、空曹長は1つ付け加えた。
「司令官や首席幕僚が審判長、審判員になるんです。司令官から絶対に連れてこいと、言われました」
「そうか、司令官が・・・」
笠谷は苦笑した。
板垣からのお誘いともなれば断る訳にはいかない。
「第2部長。戦争はいつでもできますが、こういう事はあまりできません。すべてが終わった後に皆が生きている可能性は低いですから」
「そうだな」
笠谷は立ち上がり、部屋を出た。
食堂に通じる通路を進みながら、笠谷は空曹長に尋ねた。
「曹長。子供はいるか?」
「はい。18歳になる息子がいます。今頃、元の世界で何をしているか、気になります」
雑談している間に食堂につき、笠谷は用意されている審判席に座った。
「来たな、笠谷」
隣に腰掛けていた板垣が言った。
「司令官、第2部長。始まるようです」
佐藤が声をかけた。
どこかで見た事のある衣装に着替えた陸海空の女性自衛官たち・・・いや、イングリットやアルシアの姿も見える。
前列には松野、北井、宮林がいる。
笠谷真琴がカメラを手に写真を撮っていた。
音楽が鳴り始めた。
曲は、48人のアイドルのヒット曲だった。もっとも、そんなに人数はいないが。
彼女たちは歌いながら、踊った。
「ああ、あれか」
笠谷はようやく思い出した。
妹の真琴が好きな曲で、よく家で彼女の友達と一緒に踊っていた。
もちろん、板垣も佐藤も知っている曲だ。
「あの衣装、どっから出したんでしょうね・・・」
佐藤が首を傾げて疑問を口にした。
「さあな」
「あんな衣装、日本に売ってるのか?」
板垣と笠谷がそれぞれ口にした。
「松野たちはともかく、アルシアたちはよく踊れるな」
笠谷がもっともな疑問を口にした。
「そりゃ、練習していたんでしょう」
佐藤が眼鏡を上げながら、答えた。
「しかし、洋楽を歌う隊員はいないのか」
板垣は少し残念そうにつぶやいた。
「司令官の好きな曲って、1970年代から80年代くらいのでしょう?ちょっと無理でしょう」
佐藤が突っ込む。
「そういえば、兄さん。昔の洋楽、好きだったよね」
真琴が話しに割り込んだ。
「まあな。古い音楽が好きだからな」
「ふ、古いって・・・」
笠谷の解答になぜか肩を落とす板垣。
[ノースダコタ]はミレニアム帝国軍軍港から出港した艦隊を追跡していた。潜望鏡を上げ、12隻の帆船を確認した。
12隻の帆船のうち、3隻の大型帆船はかなりの獲物だった。
鉄甲船だ。
「艦長。やはり沈めましょう。ハープーンの獲物には十分です」
「ふうむ」
戦術士官の言葉にユウリは考え込んだ。
ミレニアム帝国軍艦隊の針路から、目標はバラカス諸島だ。船の速度からかなり急いでいる。
バラカス諸島の制海権を確保するためだろう。
いずれにしても、この艦隊はデストロイヤーに沈められる。ならここで沈めてもなんの問題もない。
「貴官の具申を受けよう」
ユウリはサムに振り向いた。
「2番、3番、4番発射管にハープーン装填」
「アイ、艦長。2番、3番、4番発射管、ハープーン装填」
サムが復唱する。
「アイアイ・サー」
副長の指示に担当員が操作する。
魚雷発射管にハープーン・ミサイルが装填された事を知らせる緑のランプが点灯する。
「目標のデータ入力完了」
「発射準備完了」
戦術士官が報告する。
「発射管開け」
「発射管開きます」
ユウリはそう指示しながら、ストップウオッチを取り出す。
「1番発射」
「1番発射!」
「2番発射」
「2番発射!」
「3番発射」
「3番発射!」
戦術士官が発射ボタンを叩く。
[ノースダコタ]から撃ち出されたハープーン・ミサイルは海面を飛び出し、水平飛行にうつる。
3発のハープーンはそれぞれの目標に向かい飛翔する。
「命中まで10秒」
サムがカウントする。
「9、8、7、6、5、4、3、2、1」
その時、3万メートル先の海上で巨大な爆炎が起き、すぐに黒煙があがった。
ハープーンが命中したのである。
いかに、防御力を高めるために船体を鉄で覆われた帆船でも、ハープーンの直撃に耐えられるはずがない。恐らく轟沈どころか爆沈であろう。
残りの9隻の戦闘艦は呆然とその光景を眺めているだろう。
ユウリは鉄甲艦の乗組員たちが気の毒に思った。皇帝軍(ナチス・ドイツ軍)から情報を与えられているかどうかもわからない。
仮に与えられていたとしても、回避する術を知らないのだから。
ユウリ以下発令所にいる者たちは潜望鏡が捉えた画像を眺めていた。
「潜望鏡を下ろせ」
ユウリが命じると、潜望鏡が下ろされた。
「深度80」
「深度80」
潜航指揮官が復唱し、操舵員に指示する。
「ソナー。敵艦隊の様子は?」
ユウリがソナー員に艦隊の状況を聞いた。
「艦隊は散開し、でたらめに航行しています」
ソナーから報告にユウリは1つうなずいた。
「なるほど、敵も無能ではないな。だが、まだまだ詰めが甘い」
「そうですね。その程度の回避行動では、魚雷やハープーンの追跡を振り切る事はできません」
戦術士官が自信満々に言った。
「艦長が言っているのはそうではない」
サムが首を左右に振った。
「?」
戦術士官には、どういう意味かわからず、首を傾げた。
「我々の兵器は無限にはない。敵の残存艦隊は自分も狙われると、思っているからだ」
サムの説明に戦術士官が理解した。
「しかし、敵が我々の事情を知ったら、不利になります」
「そうだな」
ユウリは苦笑する。
戦術士官の意見はもっともな事だ。
しかし、相手は我々と同じだ。こちらの事情はわかっているだろう。
(しかし、それは敵も同じ、か・・・)
ユウリはそうであって欲しいと祈るのであった。
どちらにしても、自分たちにせよ、ナチスの亡霊にせよ先に兵器の尽きた方が敗れる。
あの魔女がいる以上、防衛戦では[あさひ]は無敵だ。しかし、攻撃力では決定打に欠ける。
今さらながら、[レイク・エリー]を失った事は大きな痛手だ。
「だが、俺たちは引く気はないがな。もう1つの世界にも守らなければいけない大切なものがあるからな」
完結篇前篇第3章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は2月1日までを予定しています。




