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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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閑話 その3

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 ラペルリ防衛戦の、少し前の話。

 久松は久しぶりの休暇に、夏島に上陸していた。

「ふう~、たまには1人で繁華街でもぶらついてみようかな」

 ここのところ、何かと忙しかった。本当に忙しかった・・・色々と。

 たまには、のんびりと1人の時間を楽しみたいと、心底思う。

 しかし、世の中そううまくいかない事を、思い知る事になる。



「久松、お主も休みか?」

「カカカ、カーラさん?どうしてここに・・・?」

「なんじゃ、その反応は。妾がここにいてはおかしいか?」

「・・・いえ、そんな事はないです」

 頭痛の原因第1号の登場に、嫌な予感を覚えた。

「あ、久松2尉、2尉も休日ですか?」

 にっこりと、笑顔の2号の登場に、さらに嫌な予感。

「・・・まさか、直哉も休日・・・とか?」

「だったら、なんだ?」

 ジト目で睨む3号。

「・・・・・・」

 嫌な予感の大当たりに、久松はため息をついた。

「久松、お主もいっしょに昼食を食べにいかぬか?(かなめ)に教えてもろうたのじゃが、たいそう美味なスイーツがある店があるそうなのじゃ」

「要って誰?」

「自分の1番上の姉です」

来島多聞くるしまたもん3等陸曹が、代わって答えた。

「3曹の姉って・・・!!ま、まさか、水島(みずしま)海将補!?・・・いつの間に知り合ったの!?って言うか・・・海将補を呼び捨て!?」

「・・・いちいち過剰な反応をするな、板垣司令官さえ呼び捨てなんだから、水島司令を呼び捨てるのは当然だろ」

「マジ・・・?」

「姉は、細かいことは気にしませんから問題はないですよ」

 多聞の言葉に、久松は問題ありまくりだろうと思った。



 ところで、なぜカーラに高井と多聞が同行しているのか。

 1人で外出させると、何かしらの問題が必ず起こるからだ。

 見た目15、6歳の少女であるし、目を引く美少女であるから当然良からぬ事を考える輩に目を付けられる。

 駐屯騎士団と警務官(MP)、憲兵(MP)が治安維持に目を光らせているとはいえ、抜け穴が全く無いわけではない。

 実際、カーラを拐かそうとした輩がいたのだが、彼らの末路は言うまでもない。

 駐屯騎士団に引き渡された連中を見た者は、どっちが被害者か加害者かわからなかったほどだった。

 一応、カーラの身柄を預かっている陸自としても、何かあるごとに警務官(MP)が出向くのではたまったものではない。

 そこで、カーラを拾って来た張本人の高井に、彼女の護衛というより、お目付役を命じたのだった。

 そんなこんなで結局、久松も同行するはめになった。

「・・・そうじゃ、久松も直哉に言うてくれぬか?たまには正妻と2人でいっしょに出かけよと。妾ばかりが直哉と出かけるのは不公平じゃからの」

「・・・正妻?」

「だから、勝手に決めるな」

 高井が仏頂面で割り込む。

「まったく、いつも言っておろうが、お主ら人に限らず命に限りのある者は、次代を担う存在を産み育てるのが、存在意義じゃと。少しは笠谷を見習ったらどうじゃ」

「・・・ハーレム幕僚のなにを見習えと?」

「そんな事をしたら、姉たちに叱られますから無理です」

「そう言えば、多聞。お主はどんな女が好みなのじゃ?」

「もちろん、姉たちのような女性です」

 すがすがしい程の即答だった。

「お主の姉のような女は、なかなかおらぬぞ」

「・・・いねーよ」

 高井がボソリとつぶやく。

「・・・もしかして・・・3曹って・・・シスコン・・・?」

「こいつのシスコンぶりは、筋金入りだ・・・知らなかったのか?」

「・・・・・・」



 等々、ワイワイと言いながら目的の店の側まで来たときだった。

「キャアァァァ!!」

「誰かそいつを捕まえてくれ!!食い逃げだ!!」

 悲鳴と怒号、食器の割れる音と物の壊れる破壊音とともに1人の体格のいい男が店から飛び出してきた。

「おわっ!?」

 男は、4人に気付くとカーラを避けて、なぜか久松を羽交い締めにした。

「近づくな!さもないと、こいつを殺る!!」

「な、何で?」

 男に締め上げられて、身動きできない久松にナイフが突きつけられる。

「そこをどけ!!俺は本気だぞ!!」

 唾を飛ばしながら、男が吼える。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 3人が、一瞬でアイコンタクトを交わした。

「殺りたきゃ殺せ」

「そうですね、人質を取った時点で逃亡は無理ですから。人質くらい逃げるのに足手まといなのは、いませんからね・・・ご愁傷さまです」

 非情ともいえる、高井と多聞の会話。

「お・・・お前ら、わかっているのか?俺は本気だぞ!」

「もちろん。お前がそいつを殺れば、俺は堂々とお前を殺れる」

「さあ、ひと思いにどうぞ、どうぞ」

 多聞のいつもの、いい笑顔がこれ程恐ろしいとは思わなかった。

「・・・お前、もしかして・・・ものすごくかわいそうな奴なのか?」

 同情するなら、首を絞めてる力を緩めてほしいと、久松は思った。

 そういえば、カーラの姿が見えない。

「・・・お主、妾の楽しい時間をよくも邪魔してくれたの・・・覚悟はできておるかえ?」

「「!!?」」

 まったく気配を感じさせず、カーラが2人の背後に立っていた。

「覚悟!!」

 その時だった。「多聞!!」の声とともに1つの影が飛び込んできて、久松とナイフを弾き飛ばし、男を見事な背負い投げで地面に叩きつけた。

 周囲で事の成り行きを見守っていた、ヤジ馬からヤンヤの喝采がおこる。

「姉さん!?」

「あれ?多聞・・・じゃあ、こっちは・・・」

 来島は、多聞と久松を交互に見てようやく状況を把握したらしい。

 冷笑を浮かべるか、何を考えているかわからない無表情のどちらかしか見た事の無い久松にとって、わずかに顔を赤らめて恥ずかしそうにしている来島は、何かカワイイと一瞬だけ思った。

「せっかく、妾が成敗しようとしたのに・・・邪魔をするでない」

「・・・すまない、多聞が人質にされていると聞いたので、つい・・・」

「・・・親バカ・・・いや、姉バカだな・・・」

 高井が、呆れたようにボソリとつぶやく。

「ひどいな姉さん。自分は人質になるようなマヌケじゃないですよ」

 それは、俺がマヌケだと暗に言ってるのか。と、地面に尻餅をついたまま久松は考えた。

 それに、多聞が人質にされていると勘違いしなければ、来島は完璧に自分を見捨てていた可能性がある。

「え~と、確か・・・久松2尉だったな。怪我はなかったか?」

「ハ・・・ハハハ・・・アリガトウゴザイマス・・・来島3佐・・・」

 かわいた声で笑いながら、久松は差し出された来島の手を握り立ち上がった。

 不運な食い逃げ犯は、白目を剥いて気絶していた。

「・・・予想外な事があったが、上手くいったな・・・芝居は疲れる・・・」

「そうですね。少しドキドキしました」

「嘘だ!!特に直哉!!お前、目が本気だったぞ!!」

「当たり前だ、本気の芝居をやらなきゃバレるだろ」

「・・・・・・」

 もう2度とこいつらとは出かけない。そう心に誓う久松であった。


 閑話その3をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 閑話シリーズは本章で完結です。

 次回から完結篇前篇です。

 次回の投稿は今月の15日まで予定しています。

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