第2次ラペルリ攻防戦 第9章 ファイア・ワン
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
もうすぐ、今年も終わりますね。みなさんはこの1年いかがでしたか?私はこの1年色々ありました。もちろん、みなさんもそうでしょう。来年は私も含めみなさんもより良い1年でありますよう祈っています。
巡航ミサイル原子力潜水艦[フロリダ]の発令所では、受話器を持った艦長ケイリ―・エヴァンズ・高上大佐がいつも以上に真剣な顔をして、板垣の要請を聞いていた。
「了解しました」
ケイリ―はそう言って、受話器を置いて、しばらく、考え込んだ。
「艦長?」
副長のクリストファー・ロジャース中佐は彼女の様子がいつもと違う事を察し、上官に声をかける。
「・・・・・・」
ケイリ―はデジタル迷彩柄の迷彩帽を脱ぎ、それをしばらく眺めていた。
「艦長?」
「聞こえているわ・・・」
ケイリ―は小声で言った。
彼女はデジタル迷彩柄の作業帽を被り直し、つぶやいた。
「・・・クリス、私は合衆国海軍の軍人である事に誇りに思っていたわ。アメリカ人として、世界の平和のために戦うこと、人々を守るためにこの命を懸ける事・・・そのための覚悟もあった・・・」
「核攻撃ですか」
クリストファーは上官の言葉を察し、自衛隊に何を要請されたのかをあてた。
「艦長。少しよろしいですか?」
クリストファーの言葉にケイリ―はうなずいた。
「私の祖父はある巡洋艦に乗っていました。第2次世界大戦の事です。その巡洋艦はアメリカ本土からある兵器を極秘裏に輸送していました。その巡洋艦は日本海軍の潜水艦に撃沈されました」
「原子爆弾・・・」
ケイリ―の言葉に彼はうなずき、続けた。
「祖父をはじめ、ほとんどの乗員は自分たちが何を運んだのか知らされてなかったそうです。しかし、父はそれを誇っていました。祖父たちの運んだ原子爆弾によって、アメリカは世界に正義を示したと・・・ただ、口には出しませんでしたが、私は子供心に疑問を持っていました。アメリカは正義を示したのに、なぜ戦争の火種はあちこちに残っているのかと」
クリストファーはそこまで言って、本題に入った。
「艦長。日本人は2度も原爆を落とされた国の国民です、核の恐ろしさ・・・持つ事の恐ろしさ、使う事の恐ろしさ、それがもたらす結果の恐ろしさ・・・それを身を持って理解している民族です。それでも彼らは核攻撃をする事を決めたのです。それがどれほどのものなのか、我々にはわかりません。しかし、想像はできます」
クリストファーの言葉にケイリ―は薬指にはめられている結婚指輪を一瞥して、決断した。
「コード4。発動」
ケイリ―の指令に艦内にそれを知らせるブザー音が響いた。
「ゴー・サインが出た。核攻撃目標の位置を報せ」
クリストファーの指示で、目標の位置等が報告され、核弾頭トマホークにデータ等が入力されていく。
ケイリ―とクリストファーは発射装置に発射キーを差し込む。
「入力完了」
先任士官からの報告に、ケイリ―はカウントした。
「3、2、1。ファイア1(ワン)」
彼女の合図で、2人はキーを回した。
[フロリダ]から1発の戦術核弾頭トマホークが撃ち出された。
その破壊力は数100キロトンであり、軍の拠点を完全に破壊若しくは消滅させる事ができる。
竜騎士団が、アメリカ軍の巡洋艦を撃沈したとの報告に[アヴァロン]は沸いていた。
自殺攻撃に批判的だった者たちでさえ、この作戦に称賛の声をあげていた。
ただ、この作戦を立案したクラウスは必ずしも満足していなかった。
彼が、本当に沈めたかったのは、アメリカのではなく日本の巡洋艦だったからだ。
目標を変更したのは、ネオナチスの将校から、攻撃力の高いアメリカの巡洋艦を撃沈するべきだ。という具申を上官が受け入れたからだ。
「次の楽しみにしておきますか・・・」
クラウスは、海を眺めながらつぶやいた。
しかし、もうこの作戦は通用しない。
「さて、どうしたものでしょうか・・・」
あの、巡洋艦は戦艦に比べれば装甲はさほど強くない。アメリカの巡洋艦で、それは立証された。
「Uボートを失ったのは痛いですが・・・空と海上からの同時攻撃ならどうでしょうね・・・」
彼の脳裏に炎に包まれて轟沈するワルキューレが浮かぶ。
もし、佐藤がクラウスと戦術家として相対したとしたら彼1人では荷が重いかもしれない。
しかし、その機会は訪れなかった。
クラウスの目に、海の彼方から[アヴァロン]に向かって飛翔して来る物体が映ったからだ。
グラング・バー島近海。
[レイク・エリー]沈没海域で、急行してきた[ながと]以下第2統合任務隊と共に乗員救助にあたっていた[ボノム・リシャール]では、CICで艦長が、ストップウオッチを片手にカウントダウンを行っていた。
「・・・5、4、3、2、1、着弾」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
[レイク・エリー]を撃沈されたことに対する報復。
しかし、無理やり納得しようにも、CICにいる全員が、ずっしりと重い石を心に抱えた感覚を覚えた。
ジャン・フリードマン少将も、この感覚を形容する言葉が思い浮かばなかった。
ただ、真っ白になったスクリーンを無言で眺めるだけだった。
「司令、[ながと]より通信が入りました」
「・・・繋いでくれ」
スクリーンの1つに映った水島の表情は、青ざめているように見えた。
[ながと]でも、核ミサイル発射の経緯は確認されているはずだ。水島の表情から、ジャンは彼女も自分たちと同じ感覚を覚えていると推測できた。
おそらく、[やまと]にいる板垣海将以下の乗員たちもそうだろう。
「・・・現在、35名を救助、12名の遺体を収容しました。この辺りの潮流から、流されて漂流している可能性を考慮して、捜索範囲を広げようと思います」
「了解しました。こちらも53名を救助、8名の遺体を収容。しかし、全乗員358名中100名近くは・・・」
おそらく[レイク・エリー]と共に沈んだだろう。
ジャンは目を閉じた。
油断があった事は否定できない。世界で最強の海軍に敵う者はいないと・・・
第2次大戦の、亡霊など取るに足りないと。
結果、板垣海将に最悪の決断をさせてしまった。
後悔と自責の念に苛まれる。
「後悔しても、現実を変える事はできません」
「アドミラル・ミズシマ・・・」
「今は、やるべき事に全力を尽くすべきです。考えるのは後からでもいい」
水島は、この世界に飛ばされて来た直後に自分の判断ミスで、3名の部下を失っている。当然、後悔と自責の念に苛まれただろうが、今はそれを教訓として前を見据えている。
「・・・そうですね。貴官の言う通りだ」
確かに、失われたものは帰らない。だが、ここで立ち止まっては失われたものに報いる事もできない。
この苦い思いを糧にして、自分たちは前に進むのだ。
ジャンはそう思った。
「命中しました!」
海曹の1人が報告した。
笠谷はその報告にぐっと歯を食いしばった。
CICのスクリーンの1つが真っ白になっていた。先ほどまで、核弾頭搭載のトマホークの映像を受信していた。
戦術核兵器であるから、放射能汚染は必要以上には汚染される事はない。
核兵器は、戦術核兵器と戦略核兵器の2つに別けられる。この2つの違いは威力の違いではなく、放射能レベルの違いだ。戦術核兵器はあくまでも通常兵器が発展したものである。
だが、その威力は広島型原子爆弾の10数倍以上である。
「ラペルリ連合王国の監視班より、報告。海上にてキノコ雲を確認!」
通信士が報告する。
「スクリーンに出せ」
板垣が言うと、監視班が撮っている映像を映し出された。
巨大なキノコ雲が上がっている映像が現れた。
「・・・・・・」
CICにいる者たち全員が無言になった。
室内は今までにない重い空気に支配された。
「この世界の後世の者たちはどう判断するだろうな・・・」
板垣がつぶやいた。
「彼らは決して、我々を許さないでしょう」
笠谷が答えた。
「そうでしょうね」
佐藤が沈んだ声で、言った。
やはり、頭でわかっていても、自分の具申がもたらした結果の恐ろしさに衝撃を受けているのだろう。
一瞬にして、多くの人命が消えたのだから・・・
満天に無数の星がきらめく。
ミレニアム帝国軍の前線のはるか後方、兵站部隊が展開している地区まで、前進した特戦群の小隊は散開する。
小隊長(1等陸尉)は双眼鏡を覗き、敵情を偵察した。
「シャーク本部、シャーク本部。こちらシャーク実働隊」
彼は無線で団司令部に連絡した。
「こちら、シャーク本部。シャーク実働隊、オクレ」
「兵站部隊の配置は昨日と同じだが、警備が厳重になっている各所に近距離対空ミサイル発射装置と発射台がある。さらに、携帯SAMを持ったナチス兵もいる。オクレ」
1尉は腕時計を確認する。
「了解。通信終わり」
無線を切ると、小隊内通信に切り替えて、各指揮官に状況を聞いた。
「アルファ・リーダー、配置についたか?」
「アルファ、スタンバイ」
アルファ・リーダーの3尉が答えた。
「ブラボー・リーダー?」
「こちらブラボー、いつでも行ける」
ブラボー・リーダーの准陸尉が答える。
アルファとブラボーは[ながと]から出撃するAV-8J隊の空爆誘導をする事になっている。
「チャーリー・リーダー?」
チャーリー・リーダーからはドイツ語で返事が返ってきた。
「チャーリー、いつでも行ける」
リーダーの3尉とその部下たちは敵の間近にいるので、ドイツ語で答えた。彼らは、ドイツ連邦軍とナチス軍の通信司令部の無力化と暗号表の奪取が任務だ。
「アラモー」
1尉は作戦開始の合図を出した。
それから20分後、チャーリー・チームがいるところで爆発音が響いた。
「こちらチャーリー、シャーク、応答せよ」
「こちらシャーク」
「通信車輛を破壊、暗号表を入手」
その報告に、1尉は小さくうなずいた。
「被害は?」
「1名、負傷。現在応急処置中」
「了解。完了後、撤収地点に移動せよ」
「こちら、チャーリー。了解」
AV-8J隊ももうすぐくるはずだ、いよいよ攻勢が始まる。
「通信封鎖解除!」
AV-8J隊の指揮をとる木曾川詩織3等海佐は部下たちに命じた。
HUDのデジタル時計を見ると、2400(フタヨンマルマル)となっていた。
「ターゲット・インサイト」
「ロックオン」
部下たちから報告が入る。
「攻撃を開始せよ」
木曾川の指示で、部下たちは空対地ミサイル(ASM)、誘導爆弾を発射ないし投下した。
「ターゲット1、アタック」
「ターゲット2、アタック」
「ターゲット3、アタック」
次々と報告が上がり、爆撃目標を潰していった。
弾薬、燃料等が誘爆する。周辺は太陽が昇ったように明るくなった。
爆撃報告をしている特戦群からは、すべて目標着弾、と伝えた。
日の出と共に、陸自部隊の通信回線が開かれた。
「全部隊、状況開始!」
地下司令部で、温厚な大学教授の雰囲気の神谷篤陸将が、普段の印象からは想像できない鋭い声で命じた。
地下壕に隠蔽されていた99式自走155ミリ榴弾砲、203ミリ自走榴弾砲が姿を現し、火を噴いた。
榴弾砲の砲撃と共に陸自部隊は前進を開始した。
10式戦車、89式装甲戦闘車を先導に敵戦車部隊の正面突破を行う。
第2独立戦車旅団第201重戦車大隊はこちらに向かってくる日本軍(自衛隊)の戦車小隊と遭遇した。
「弾種、徹甲!」
ティーガーⅠに乗る中隊長はそう指示を出すと、砲手に迷彩柄の重戦車に照準を合わせるよう命じた。
「ファイエル」
1個中隊のティーガーから一斉に88ミリ砲が火を噴いた。
88ミリ徹甲弾が直撃するが、カン!という音と共に弾き返された。
88ミリ砲の直撃を受けた10式戦車は揺れた。
戦闘室でティーガーⅠが砲撃する光景を見ながら、小隊長の浦安賢1等陸尉は冷静に部下たちに命じた。
「各車、ティーガーの88ミリ砲では10(ヒトマル)の装甲は貫けない。慌てず、1輌づつ仕留めろ!」
各車から、了解の返事を聞くと、浦安は砲手に言った。
「ナチ野郎に時代の違いを教えてやれ!」
「了解!」
砲手は1輌のティーガーに照準を合わせて、発射ボタンを押す。
自動装填された120ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾が撃ち出された。
コンピューター制御された徹甲弾はティーガーの正面装甲を貫き、砲塔を吹き飛ばし、炎上した。
燃える車内から2人のナチス兵が燃えながら出てきた。彼らは地面をはいずり回り、しばらくしてから動かなくなった。
ティーガー群は88ミリ砲、機銃、さらに拳銃まで使い、10式戦車に挑んだが、傷1つつけられなかった。
その間、10式戦車は確実にティーガーを仕留めていく。
89式装甲戦闘車も砲塔左右に搭載されている79式対舟艇対戦車誘導弾を発射し、ティーガーの装甲を貫徹し、破壊する。
砲撃音と爆発音が交錯し、爆炎と爆音が戦場を支配する。
地下壕から出た久松正吾2等陸尉率いる小隊は身を低くして、前線に応援に行くナチス軍に奇襲をかける準備をしていた。
1個中隊で連隊規模のナチス軍への奇襲である。兵力から見れば陸自側が不利だが、迫撃砲や対戦車火器が充実しているから、火力は十分だ。
それに奇襲をかけるのは彼らだけではない。
「中隊長より、各小隊状況を知らせよ」
イヤホン型の無線機から中隊長の声が聞こえた。
久松は小隊員を見回した。
84ミリ無反動砲を装備した砲手は前進する装甲車輛に照準を合わせていた。
「こちら久松小隊、準備完了」
そう言って、89式5.56ミリ小銃に装備している89式小銃照準補助具を覗いた。
「スタンバイ、スタンバイ」
中隊長がタイミングを計る。
「撃て!」
「撃てぇぇぇ!!」
中隊長の合図で、久松は叫び、89式5.56ミリ小銃の引き金を引いた。
84ミリ無反動砲の砲口から閃光が発し、砲手の後ろから後方噴射炎が尾を引いた。
発射された対戦車榴弾は装甲車輛の装甲を破り、炎上させる。
110ミリ個人携帯対戦車弾(LAV)や01式軽対戦車誘導弾の登場で旧式化しているが、榴弾以外にも照明弾、発煙弾と弾種へ切り替える事ができるため、今も現役だ。
89式5.56ミリ小銃、MINIMIが乱射され、次々とナチス兵が絶命していく。
狙撃手も配置されているから、ナチスの狙撃兵や指揮官を片付けていく。
「榴弾装填」
久松は装填手に指示を出し、歩兵を制圧していく。
さらにAH-64D2機が飛来し、上空から掃射を行って、ナチス兵がずたずたに引き裂いていく。
「突撃!」
ある程度ナチス兵に損害を与えると、中隊長は突撃の指示を出した。
89式多用途銃剣を装着した普通科隊員たちが、駆け出し、ナチス兵たちに襲いかかる。
久松も89式5.56ミリ小銃の銃床でナチス兵の顔面に叩きつけ、絶命させる。
至近に近づいた兵には銃剣を突き刺し、向かってくる兵には弾雲の嵐が待っていた。
ナチス兵の死体が次々と積み上がっていく。
しかし、陸自側も無傷という訳にはいかなかった。銃剣で腹を刺されたナチス兵は89式5.56ミリ小銃を力いっぱい掴み、腰に提げていたナイフを抜き、隊員の喉元に突き刺した。
数で勝っていたナチス兵だったが、次第に陸自側の方が数で勝るようになった。
その時、ナチス兵があるものを掲げているのを確認した久松は、部下たちに射撃を中止させた。
「撃ち方やめ、撃ち方やめ」
その後、無線で中隊長に報告した。
「中隊長!ナチス兵が降伏しています!」
「ああ、私も確認した。だたちに射撃中止を命令する」
その後、ナチス兵たちが両手を高く挙げて降伏した。
一方、ラペルリ北部の森林地帯では、PAH-2[ティーガー]2機に護衛されたナチス・ドイツ軍2個小隊が、群島諸国連合軍に奇襲攻撃をかけるべく進軍していた。
「!?」
少し開けた場所に、ポツンと1人の少女が所在なげに立っていた。
「・・・避難民か?」
逃げ遅れて、仲間とはぐれたのかと小隊長は判断した。エルフではなさそうだが、儚げで頼りなさそうな、白い髪の少女を見てそう思った。
「最初に言っておくぞ。おとなしく降伏すれば、命までは取らぬ」
いきなりの、上から目線の降伏勧告に小隊長は面食らった。
「・・・恐ろしさで、気が変になったのか?」
小隊長は、嘲笑った。ここで、騒がれても面倒だ。
ホルスターからワルサ―P38を抜き、少女に向けて発砲する。
しかし・・・
「交渉決裂じゃ。正妻、後は任せた」
パン、という音と共に発射された銃弾を、あっさりと素手で受け止めてカーラは無線機に話かける。
それと、同時に森の中から発射されたロケット弾が、PAH-2に襲い掛かった。
PAH-2は慌てて回避行動をとったが、回避できず、ロケット弾が命中した。
発射されたロケット弾は91式携帯地対空誘導弾改である。
「なっ!?日本軍!?」
「やれやれ、あの戦闘ヘリとやらは、妾が落としてみたかったのじゃが・・・」
物凄く物騒な事を言いながら、カーラは小隊長を殴り倒した。
「ちょっと、カーラ!危ないから戻って来なさい!!」
無線機から、南場1尉の声が響く。
「つまらぬのう」
そうぼやきながら、カーラは目にも止まらぬ速さで撤退した。
「撃てっ!!」
中隊副長の南場1尉の命令で89式5・56ミリ小銃、MINIMI、無反動砲等が一斉に火を吹く。
ナチス・ドイツ兵の頭上からは、ラペルリ軍の弓兵隊の放つ矢が雨のように降り注ぐ。
あまりに突然の出来事に、ナチス・ドイツ兵は反撃が出来ずに逃げまどった。
「人が親切で言った事を聞かぬからこうなる」
「・・・どう聞けばそう聞こえるの?火に油を注いでいるようなものじゃない」
しれっとした顔で、語るカーラに南場は呆れた顔で突っ込んだ。
陸自、群島諸国連合軍の進撃が続き、ドイツ軍、ミレニアム帝国軍と激戦が行われたが、兵站を叩かれ、さらに[アヴァロン]まで失ったため、将兵の士気はなかった。
日が沈むと、ナチスの将軍から全回線で通信が行われた。
「小官はナチス・ドイツ国防軍第301歩兵師団長ゲネラール・ロイトナント・ウイベルだ。我々は降伏する。だが、全将兵の安全と保護を要求する。これを受け入れられないと言うなら、我々は最後の一兵が死に絶えるまで抵抗し、自殺攻撃をする事も辞さない」
この通信を聞いた板垣は20分後に、全ての要求を承諾すると、解答を出し、軍使を送る事も伝えた。
軍使は笠谷と決まった。
笠谷は龍に変身したイングリットに跨り、月明かりの夜空の中を飛んでいた。
(ナオユキ、本当に私たちだけで大丈夫?)
イングリットの声が笠谷の頭の中に直接伝わった。
(ああ、大丈夫だ。彼らは俺たちを人質にするような事はしない)
イングリットが、ぐんと首を曲げて笠谷を見た。その金色の瞳は龍の目だが、いつもの彼女の目だ。
(あなたがそう言うなら、そうでしょうね)
イングリットは首を戻し、翼を羽ばたかせる。
2人以外には護衛の宮林が笠谷の後ろにいる。
イングリットはドイツ兵の誘導に従い、着地すると元の姿に戻り、総司令部に笠谷と共に入った。
「・・・・・・」
総司令部に入った笠谷はその光景を見て無言になった。
ウイベル師団長以下幕僚たちが拳銃自殺していたからだ。
「・・・・・・」
笠谷は彼らに挙手の敬礼をした。
第2次ラペルリ攻防戦第9章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は来年の1月4日までを予定しています。