第2次ラペルリ攻防戦 第8章 悪夢再び
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
真冬らしい寒さになってきましてね。みなさんは体調の方はいかがですか?風邪やインフルエンザに注意してください。
バン!と、ものすごい勢いでサブリナは机を叩いた。
「それはどういう意味だ!」
皇帝軍の将校(大佐)は面倒そうにもう1度説明した。
「グラング・バー島へ援軍を送るにも、近海にいるレギオン・クーパーの船が邪魔で、送る事ができない。そこで、マルカリア竜騎士団には、できる限り大量の爆薬を竜に取りつけて、敵艦に体当たりしてもらいたい。レギオン・クーパーの戦艦・・・イージス艦には大量のミサイル等がある。うまく行けば誘爆し、轟沈する、という事だが、何か問題でも・・・」
「大ありだ!」
サブリナは再び机を叩いた。
「つまり、それは我々に死ねと言っているのか?体当りをすれば竜と騎士たちは確実に死ぬ!」
「その通りです」
銀白色の髪と目の将校、クラウス・フォン・シュテールング中佐があっさり言うとサブリナは唖然とした。
「我々の世界では、この行動をカミカゼと呼んでいます」
「カミカゼ?」
サブリナはその単語を口にした。
「そのカミカゼ、とやらがなんなのか知らんが・・・いや、知りたくもないが、その真似事を私の部下たちにしろというのか?」
「感情的になられては困りますね」
クラウスの言葉にサブリナはどうやったらそうならない事ができる、と言いたい。
騎士である以上、死ぬ覚悟はできている。だが、最初から死ぬ前提の戦術等、戦術とは言えない。そんな事などあっていい筈がない。
彼女の部下たちの中には、新婚の者もいれば、これから結婚する者だっている。そんな彼らに、このような命令ができる訳がない。
「先日、貴女は自分たちだけでレギオン・クーパーを倒す方法がないかと、我々に聞いたではありませんか。我々は慎重に検討した結果の答えを出しただけです」
「ああ、私は貴公たちにそう聞いた。だが、このような事を受け入れられる訳がない!この命令だけは受けん!」
「貴女がそうでも、貴女の部下はそうでもありませんよ」
クラウスの言葉に彼女は「なに」と言った。
その時、ドアからコンコン、とノック音がした。
「どうぞ」
クラウスがそう言うと1人の少女が入ってきた。
「パトリシア?」
入って来たのは彼女の従卒のパトリシアだった。
「待っていましたよ。どのくらいの者が志願されましたか?」
クラウスがパトリシアに問うた。
「体当りに志願した竜騎士は25人です」
「なっ!」
「41人中25人が志願したのですか、十分ですね」
「どういう事だ、パトリシア!?」
サブリナは従卒に聞いた。
「すみません。サブリナ様。彼らから団長には内密で、志願者を集めるように指示されていまして・・・」
「そういう事ですよ。団長」
クラウスの言葉にサブリナは彼を睨んだ。
再びパトリシアに視線を戻し、言った。
「これは名誉の戦死なんかではない!ただの犬死にだ。お前の両親が深く悲しむぞ」
パトリシアはサブリナの目をじっと見て言った。
「レギオン・クーパーが現れてから多くの同胞が命を落としました。私は友や上官を失ってから、奴らを殺してやると誓いました」
少女は騎士として、決意のこもった表情で続けた。
「だから、どんな手段を使ってでも、息の根を止めてやる・・・私はずっと、そう考えていました」
「・・・・・・」
パトリシアの言葉にサブリナは何も言えなくなった。
すると、少女はにっこりと笑った。
「どうせ、人は死ぬ時は死にます。大事なのはどう死ぬかです。奴らに我々の意志とプライドを見せてやります」
「パトリシア。君の覚悟は十分にわかった」
大佐が言った。
サブリナはクラウスと大佐を睨み、出ていく。
「カミカゼ隊の護衛は我々が行う。君たちは海面ぎりぎりを飛行し、敵艦に突っ込めばいい」
「はっ!」
敬礼をして、部屋を出ようとしたパトリシアだが、踵を返してクラウスの前に立った。
「クラウス様、私たちに復仇の機会を与えて下さり、ありがとうございます」
「パトリシアさん、作戦の成功を祈っていますよ」
「はいっ!必ずご期待に応えてみせます。どうか、お元気で・・・」
これから、死にに行くとわかっているはずなのだが、パトリシアは笑顔を浮かべていた。
「・・・しかし、まさか極東の黄色人種の猿真似をする事になるとはな・・・」
パトリシアが、退室してから大佐は嫌悪感を浮かべて吐き捨てた。
「彼らに心理的な衝撃を与えるには、もっとも効果的と思われますが・・・特にアメリカ軍にとっては」
「それは否定しない。だが、ほとんどの将兵が私と同じ心境だという事を忘れてもらっては困る」
「私の仕事はいかにして敵に勝つかを考える事です。感情などという下らないものに、惑わされる事はありません」
クラウスは悪魔のような冷笑を浮かべていた。大佐は頭を左右に振る。
「貴官が敵でなくて良かったと心底思う」
グラング・バー島近海で対地支援と警戒にあたっているミサイル巡洋艦[レイク・エリー]がいた。
アメリカ海軍ミサイル巡洋艦[タイコンデロカ]級である[レイク・エリー]はミサイル防衛艦として第7艦隊に所属していた。
「艦長。コーヒーです」
アメリカ海軍のデジタル迷彩服を着た艦長の、大佐はブリッジの艦長席で水兵からコーヒーカップを受け取った。
「艦長。機関の状態の報告にきました」
「それで、どうだ?」
艦長が聞くと、機関長は報告した。
「部品を交換すれば問題はありませんが、よろしいですか?」
「ああ。やむを得んだろう」
艦長がうなずくと、機関長は部品の交換に取りかかった。
それから1時間後、[レイク・エリー]の対空レーダーが接近中の多数の航空機を探知した。
[レイク・エリー]はただちに対空戦闘に入った。
[レイク・エリー]が敵航空機の襲撃を受けている事を知らされた[ボノム・リシャール]は上空援護としてF-35Bを2機発艦させた。
コール・サイン・シャーク2-6のパイロットはジェニファーという女性中尉だ。
「シャーク2-6より、[レイク・エリー]へ現在の状況を知らせよ」
ジェニファーからの通信に[レイク・エリー]から慌てた様子で返答がきた。
「こちら巡洋艦[レイク・エリー]、現在敵攻撃機と近距離で交戦中」
「シャーク2-6、ラジャ」
ジェニファーはリーダー機にぴたりとくっつき[レイク・エリー]に急行した。
「シャーク2-1より、2-6、敵の攻撃機をレーダーで捕捉した。AIM-120Cで攻撃する」
「ラジャ」
ジェニファーは液晶画面をタッチし、AIM-120Cを選択する。
「行くぞ、FOX1!」
リーダーの発射命令で、ジェニファーは発射ボタンを押した。
撃ち出されたAIM-120Cはロックして敵機を追尾し、命中する。
[レイク・エリー]からもESSMが次々とセルから発射されている。
ジェニファーはAIM-120Cをもう1発撃ち、使い切る。
AIM-9X[サインドワインダ]に切り替えた。
「[レイク・エリー]より、シャークへ、見張り員が低空で接近する竜騎士群を発見!身体に大量の爆薬を巻き付けている。スーサイド・アタック(自殺攻撃)と思われる。敵航空機は本艦が対応する。貴機は竜騎士にあたってくれ!」
「シャーク2-1、ラジャ。2-6、行くぞ!」
リーダーの声が通信機に入る。
「ラジャ」
ジェニファーは操縦桿を倒し、機体を旋回させる。
「スーサイド・アタック・・・」
彼女の脳裏に母の顔が思い浮かぶ。
ジェニファーの母は、あるビルに勤めていた。お腹には5ヶ月になる弟か妹がいた。その日、あの惨劇が起きた。旅客機がハイジャックされ、そのビルに突っ込んだ。母ともう1つの命は死んだ。その翌日から彼女の将来なりたい職業が変わった。
惨劇前まで、ジェニファーは学校の教師になりたいと思っていたが、惨劇後は父と同じく海兵隊になると決めた。
「させない!」
ジェニファーは叫んだ。
「させてなるものか!お前たち全員、1匹、1人残らず叩き落としてやる!」
彼女は聞こえるはずのない竜騎士に向かって叫んでいた。
一方のカミカゼの中でも、1人の少女が騎乗のまま叫んでいた。
愛騎アルに騎乗したパトリシアは灰色のレギオン・クーパーの船を見て叫んでいた。
「この日が来ることを待ち望んでいたぞ!お前たちにも苦しみを与えてやる、絶望を与えてやる。お前たちを地獄に墜としてやる!」
パトリシアはレギオン・クーパー(レイク・エリー)の船を睨んだ。
「私の大切な者たちを奪った恨みを思い知れぇぇぇぇぇ!!!」
2機のF-35BはAIM-9Xを竜に撃ち込む。たちまち4騎を撃墜した。
ここで2機のF-35Bはミサイルを使い切った。
F-35Aとは違いBタイプには固定武装の25ミリ機関砲を装備していない。機関砲ポッドを装備する必要がある。
この2機には25ミリ機関砲ポッドを装備しており、ミサイルがなくなったとは言え、何もできない訳ではない。
竜騎士たちは馬鹿ではなかった。散開し、ジグザグに飛行し、[レイク・エリー]に突進していく。
「くっ!」
ジェニファーは舌打ちをした。
1騎の竜をロックし、機関砲の発射ボタンを押した。
F-35Bの機銃掃射で1騎また1騎と海面に落ちていく。
[レイク・エリー]もCIWS、25ミリ単装機関砲等が火を噴き、次々と竜と騎士を血祭りにあげていく。
ついに1騎が[レイク・エリー]に近づき、いきなり、空高く急上昇し、[レイク・エリー]の真ん中に急降下し、体当りした。
ドイツ連邦軍の高性能爆薬が爆発し、[レイク・エリー]の艦体を揺らした。
「あっ!」
ジェニファーはその光景を見て、声を上げた。
「シャーク2-1より、[レイク・エリー]。被害状況を知らせよ」
リーダーの声に、警報音が通信に入りながら[レイク・エリー]から返答が入った。
「・・・艦内に火災発生!イージスシステムがダウン!死傷者多数!」
「なんてこと!」
ジュニファーはぼやいた。
[レイク・エリー]中部甲板から黒煙が上がっていた。
「シャーク2-6。これ以上、スーサイド・アタックをさせるな!」
「ラジャ!」
彼女は叫び、機首を竜に向ける。
25ミリ機関砲弾がなくなるまで撃ち続けた。
パトリシアは敵の竜からの魔法攻撃等を受けなかった。
手綱を巧みに操り、蛇行しながら海面スレスレを飛び、黒煙を上げているレギオン・クーパーの船に向かった。
「ごめんね、アル」
パトリシアは愛竜に謝った。
「ごめんなさい、お母様、お父様、兄上・・・」
少女は謝罪すると、レギオン・クーパーの船を睨み、手綱を引いた。
急上昇させ、そのまま、急降下させた。
パトリシアとアルは一撃を与えたところへ突入した。
爆薬が爆発し、再び艦体を揺らし、奥へと打撃を与えた。
「・・・メーデー、メーデー、メーデー。こちら[レイク・エリー]。国際救難周波数で交信中。敵の自殺攻撃により沈没しつつあり、艦長より総員退艦命令が出た、至急救援を請う!」
[レイク・エリー]の救難信号と救難通信はすべての回線で発信された。
[レイク・エリー]が自殺攻撃で撃沈された事を報告されると、[やまと]のCICにいた板垣、笠谷、佐藤は顔を見合わせた。
[ながと]から、救難ヘリの発艦と、現場海域へ急行中との通信が入った。
それを了承し、救助活動の指揮を水島に任せると、板垣は渋い顔をして口を開いた。
「竜騎士団を、使ったとはいえ・・・旧日本軍の過ちをそのままそっくり、利用するとはな・・・」
「・・・おそらく、我々が受ける心理的な打撃も考慮しての、作戦でしょう・・・とくに、米軍にとっては悪夢の再来と言ってもいい・・・」
笠谷は考えをまとめて言った。
「我々にとってもですよ・・・過去の過ちを、視点を変えて見せられたわけですからね」
佐藤も口を開く。
「人間の思いつく事は、結局同じ・・・という事かもしれません」
「ライオンに追い込まれたシマウマはライオンよりも凶暴ってやつだな」
板垣の例えに2人の幕僚はうなずいた。
「人間のみならず、追い込まれた動物は何をしでかすかわかりません。戦史でも、肉弾戦は米軍、英軍もしています。ただ、日本軍のインパクトが強すぎて、公にはなりませんでしたが・・・」
佐藤の言葉に板垣の背中に冷たい汗が流れた。
よく誤解されているが、自殺攻撃はマインドコントロールされているから行うと思っているが実際は異なる場合もある。死の恐怖に完全に追い込まれ、発作的に起こる衝動なのだ。
そして、それが最高になると組織的になるのだ。
「海兵隊からの報告でも、あきらかに肉弾戦を仕掛けようとした兵士たちがいました。組織的になっているのは確実でしょう」
笠谷の言葉に板垣はさらに渋い顔になった。
「本格的になったら、大事だぞ」
板垣の言葉に佐藤が1つ、とんでもない事を具申した。
「司令官。[フロリダ]に搭載されている戦術核弾頭トマホークによる。要塞島攻撃を具申します」
佐藤の具申に、板垣は驚いた。
CICにいる者たちが一斉に佐藤に振り向いた。
「核攻撃だと!」
声を上げたのは笠谷だ。
「核を使わなくとも、[やまと]の航空攻撃と通常弾頭のトマホークによる攻撃を行えば・・・」
「いえ、それではラペルリ連合王国・・・ミレニアム帝国本土にいるナチス・ドイツ軍、ミレニアム帝国軍の将兵たちをギブアップさせる事はできません」
佐藤は笠谷に向いて、きっぱりと言った。
「確たるものがありませんので、推測でしか言えませんが、敵が特攻をしてきたのは今のところ自然発生的なものでしょう。しかし、このまま行けば組織的になるのは時間の問題でしょう」
佐藤は、なぜか、額に流れ出した汗を拭った。
「ナチスを含めてミレニアム帝国軍の戦う意思をくじくには、それなりのインパクトを与える必要があります」
「核を使えば要塞島にいる将兵たちは全員死ぬぞ。人としてそれだけの人命を奪うのに躊躇いはないのか?」
笠谷の言葉に佐藤は表情を変えず、告げた。
「あるに決まっている。俺だって人間だ。しかし、幕僚として、今後、敵が最悪の選択をした場合の人命の損失をほうっておく訳にはいかない」
佐藤が板垣に向かって言った。
「司令官。核弾頭トマホークが命中するのに、20分はかかります。一刻の猶予はありません」
「・・・・・・」
板垣は目を伏せ、考え込んだ。
笠谷は形見の懐中時計を握り、板垣に言った。
「私は反対です。全航空戦力による攻撃を具申します」
板垣はゆっくりと目を開けて、決断した。
「笠谷。お前の気持ちはよくわかっている・・・と思う。だが敵の航空戦力は予想以上のものであった。私としてもこの作戦だけで人命と装備を失う訳にはいかん」
板垣も笠谷の持つ懐中時計の意味は知っている。
「全責任は私がおう」
そう言うと板垣は佐藤に向き、言った。
「核攻撃を許可する」
「はっ。通信士、[フロリダ]に繋げ」
佐藤は通信士に指示すると、通信士は[フロリダ]に繋いだ。
「繋がりました」
通信士の報告に板垣は通信機を持って、静かに言った。
「キャプテン・エヴァンズと話したい」
笠谷はじっと懐中時計を見ながら、板垣の英語を聞いていた。
そして、真琴は何も言わず、ただ、記録していた。
第2次ラペルリ攻防戦第8章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の28日までを予定しています。




