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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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第2次ラペルリ攻防戦 第5章 独断の救出

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 松野と宮林は武器庫から、89式小銃と9ミリ拳銃、そして、背嚢の中にできるかぎり、予備弾倉を入れて持ち出した。

 食糧も5日分入っている。

 松野、宮林、イングリットは飛行甲板に出た。

「準備はいいわね?」

 イングリットは2人の顔を見て、最終確認をした。

 2人はうなずくと、イングリットは「ナオユキを助けにいくわよ」と言った。



[やまと]の管制塔内には5人の管制官が監視していた。

 飛行甲板の監視カメラの映像を見ていた空曹が声を上げた。

「おい、何かおかしいぞ!」

 仲間の管制官たちが寄ってくる。

「警務官(MP)に知らせた方がいいな」

 管制官が艦内電話に飛びついたその時だった。飛行甲板に青白い光が発生した。

「な、なんだ!?」

 光がおさまると、飛行甲板に1頭の白銀の龍がいた。

「なっ!」

「龍だと!」

 管制官たちが驚きの声を上げる。

「どうなってる!?」

「俺が知る訳がない!」

 管制官の1人がモニター上に2人の自衛官がその龍に乗る所を目撃する。

「おい。迷彩服を着た2人が龍に騎乗するぞ!」

「なんだと!」

 先任者である空曹長がマイクに飛びつく。

「おい!龍に騎乗する自衛官に告ぐ!君たちには出動命令は出ていない!ただちに龍から降りろ!」

「おい!警報を鳴らせ!」

 1人の海曹が警報ボタンを叩く。

「繰り返す!君たちの行動は重大な隊規違反である。命令に従わないのなら、法的処置をとる。今すぐ、龍から降りろ!」

 だが、龍は大きく翼を羽ばたかせ、空高く飛び立った。

 その光景を管制官たちは呆然と見る事しかできなかった。



 仮眠をとっていた板垣にCICにいた佐藤から緊急連絡が入った。

「なんだと!イングリットさんが女性自衛官2人を連れて、ラペルリ連合王国に向かっただと」

 そこまで聞いて、板垣はある程度見当はついた。

「という事は・・・」

「ええ。乗っている自衛官は松野海士長と宮林陸士長です」

「わかった。話はCICで聞く」

 そう言うと板垣は艦内電話を切った。

 デジタル迷彩服に着替え、板垣は早足で司令官室を出た。

 CICに入ると、空自の管制官たちの怒号が聞こえた。

「無許可出動中の自衛官に告ぐ!ただちに帰投せよ!貴官たちは許可のない出動をしている。すぐに帰投せよ!これが最終警告である」

 管制官は間を空けて警告した。

「応じなければ撃墜する!」

 そこまで聞くと板垣は佐藤の横に立った。

「佐藤。状況は?」

「はっ、司令官。イングリットさんは先ほどレーダーから消えました」

 板垣は訝しげな表情で、部下を見た。

「ステルス機でもない龍が、なぜ、消える」

「恐らく、対空レーダーが探知できない低空を飛行しているのでしょう」

 佐藤の言葉に板垣はデジタル迷彩帽を深く被った。

「・・・・・・」

「司令官・・・」

「お前の言いたい事はわかっている・・・と思う」

 何かを言おうとした佐藤を止めて、板垣は言った。

「彼女たちは本来我々がすべき事をしている」

「はい。彼女たちは感情に流されてはいますが、敵地に降りたパイロット2名を救出に向かっています」

 板垣はわずかながら苦笑した。

「ふん。私も馬鹿だな」

 すると佐藤は笑みを浮かべた。

「司令官。私も、ではありません。私たちも、です」

 板垣はさらに苦笑した。

「そうだったな・・・通信士」

 板垣は通信士に振り向いた。

「陸自につなげ」



 月明かりに照らされた森林地帯で笠谷は倒木に身体を預け、手持ちと先ほど殺したドイツ連邦軍の降下猟兵が持っていた救急キットで負傷箇所の手当てと北井の手当てをしていた。

 水筒を取り、喉を癒す。

「だいたい、こんなものか・・・」

「ありがとうございます」

 手当てを終えた後、笠谷は降下猟兵の装備品を調べた。

「ん?」

 胸ポケットから、手帳が出てきた。

 念のため中身をすばやく確認するが、ただの日記のようだ。パラパラとページを開いていくと、1枚の写真が出てきた。

 赤髪の若い女性と自分が殺した降下猟兵が写っていた。

「・・・・・・」

 笠谷は死んだ降下猟兵を見た。

「許せとは言わん」

 彼はそうつぶやいた。手帳と写真をドイツ兵の胸ポケットにしまってやった。

 もしかしたら日記の中に必要な情報があるかもしれないが、それを押収する気にはならなかった。日記の中には妻とこれから産まれてくる子供について書かれていたからだ。

 その時、押収した無線機からドイツ語が流れた。

「第2陣の空挺部隊が到着した。第1陣の全兵士は日本軍のパイロットを捜索せよ。以上だ」

 ドイツ軍の無線を聞いた笠谷は彼らから奪ったG36Kを、持ってその場を離れる事にした。

 G36Kなら、アメリカが開催した射撃体験で射撃経験があるから、とりあえず使える。

 早く、陸自の地下施設に移動しなければならない。

 ナチス軍はともかく、連邦軍は暗視装置を使うから、見つかるとまずい。暗視装置なら死体から奪ったから、とりあえずなんとかなるだろう。

「!」

 笠谷はヘリのエンジン音が聞いて木影に身を隠した。

「このエンジン音、まさか、[ティーガー]か?」

 笠谷は暗視装置をつけて、空を見た。

 いた!!

 PAH-2(ティーガー)。ドイツ連邦陸軍が保有する対戦車・対地攻撃ヘリだ。

 武装は12.7ミリ重機関銃ポッドとロケット弾ポッドが見える。

(おいおい、厄介なのが来やがった・・・)

 笠谷は心中でぼやいた。

 当然、赤外線装置を装備している。[ティーガー]に乗るパイロットがその気になれば彼らの位置など簡単に捕らえられる。

 幸いな事にPAH-2はこちらの位置を発見していない。

 その時、草木が踏み付けられる音が耳に入った。

 笠谷はその方向に視線を向けた。

 10人程のナチスの兵士たちがこちらに向かっていた。

(まずいな・・・)

 犬が2匹、臭いを嗅ぎながら、確実に追跡している。

(いったい、どうやって、俺たちの臭いを見つけたんだ・・・)

 射出座席を発見したのか、等といろいろ推測する。

 だが、犬がいる以上、逃げるのは不可能だ。

 方法は1つしかない。

「北井。すまんが、少し寄り道する」

「はい」

 笠谷はG36Kを構え、ナチス兵が来るのを待った。

 ナチス兵がある程度接近すると、G36Kの引き金を絞った。

 G36Kが火を噴いた。

 自衛隊仕様のNATO共通弾と異なり、欧州人仕様のNATO共通弾5.56ミリ弾は少し反動が大きい。

 だが、それを制御しながら、ナチス兵の分隊に撃ち込む。

 30発弾倉が空になった時には、軍用犬1匹と4人のナチス兵を絶命させた。

 すばやく、空の弾倉を抜き、新しい弾倉を叩き込む。

 ナチス兵からも、単発音と連発音が響き、反撃してくる。

 1匹の軍用犬がこちらに全速力で駆け出してくる。

 軍用犬が笠谷に飛びつこうとした時、G36Kの銃床を犬の顔面に叩きつけた。

「キャン!」

 と声を上げて、地面に叩きつられた。その後、ぴくりとも動かなくなった。

 ナチス兵の銃撃がだんだんと正確になりだした。

(くっ、やはり、場数が違うか・・・)

 G36Kで応戦しながら、そうぼやいた。その時、だった。

「尚幸さん!目を閉じてください。閃光(スタン)発音(グレネー)()を投擲します!」

 この場で聞くはずのない女性の声に笠谷は驚いたが、その前にすべきことがある。耳を塞ぎ、目を閉じた。

 数秒後、ナチス兵がいるところで強力な閃光と爆音が発せられた。

 閃光(スタン)発音(グレネー)()は、人質奪還等を目的とした対テロ作戦用の非殺傷兵器だ。強力な閃光と爆音で、付近の人間に一時的に失明、眩暈、難聴、耳鳴りを発生させ、それに伴うパニック等を起こし、無力化させる。もともとは英国陸軍の特殊空挺部隊(SAS)の訓練用だったのを実戦配備したものだ。

「ぐわぁぁぁ!?」

「目が、目がぁぁ!?」

「くそ、何も見えん!!」

 ナチス兵たちの悲鳴が響く。

 そんな中を89式5.56ミリ小銃の連発音と3点射射撃音が響いた。

 目も耳も奪われたナチス兵を撃つなど、たやすい。

 わずか数分でナチス軍の分隊は全滅した。

「尚幸さん!」

 松野が89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)を構えたまま、彼の名を呼んだ。

 その声は震えていた。

「尚幸さん」

 個人用暗視装置JGVS-V8を鉄帽に装着した宮林が安堵した表情で言った。

「なぜ、ここにいる?俺の救出命令は出ていないはず」

 なんとなく見当はつくが、2人にあえて聞く。

「無断でここに来ました」

 松野が申告した。

「・・・・・・」

 笠谷は頭を抱えた。

「2人だけじゃないよ。ナオユキ」

 2人の後ろからイングリットが現れた。

「イングリットまで・・・」

「貴女たちは、わかっているの?」

 北井が鋭い口調で3人に言う。

「みんなで相談した結果なの」

 イングリットの言葉に笠谷と北井はさらに頭を抱えたくなったが、今はそんな事をしている場合ではない。

「話は後にしよう。行くぞ」

 と言った瞬間、銃撃を受けた。

 上空を見ると、PAH-2がこちらを見下ろしている。

 恐らくさっきの閃光発音筒の閃光を発見されたのだろう。

「かなりまずいな・・・」

 笠谷の言葉に4人の女性陣は、もう駄目だ、というふうに諦めた。

「?」

 笠谷の耳に聞き慣れた爆音が聞こえた。

 彼のよく知る爆音だった。

「どうやら、まだ、終わりじゃないようだ」

 笠谷が言い終えると同時に、PAH-2が爆発した。

「「「!」」」

 笠谷が空を見上げると、月明かりに照らされた日の丸のマークが見えた。

「F/A-18J[スーパーホーネット]」

 どうやら、板垣が笠谷たちのために寄越した救援だ。しかし、無許可で自分たちを助けに来た彼女たちの行動は、もはや笑うしかない。

「まったくやってくれるよ・・・隊規違反でもここまでされると、なんにも言えなくなる」

 笠谷の言葉に3人が顔を見合わせると松野が口を開いた。

「私たちにとって、尚幸さんは大切な人、・・・大好きな人だから」

 松野は頬をぼっと赤く染めた。

「その話は後にしよう。今はここを離れよう」

 3人はうなずき、周囲を警戒しながら移動した。

 再びドイツ軍の無線機から、無線が入った。

「パイロットを捜索中の各隊に告ぐ。敵のF/A-18Jが2機飛来した。捜索を中止し、橋頭堡に帰投せよ」

 宮林が無線機に顔を覗かせた。

「なんて、言ってるんですか?」

「ドイツ軍は俺たちの捜索を中止した」

 笠谷の言葉に3人はほっと胸を撫で下ろした。

 その時、左側から人の気配がして、笠谷はG36Kを構える。

 宮林とイングリットも反応し、構える。松野と北井は3人に遅れて、89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)とP228を構えた。

「笠谷尚幸2佐ですか?」

 森から1人の陸自隊員が現れた。

 顔面覆で顔を覆っているから特戦群(特殊作戦群)だろう。

「そうだ」

 笠谷は念のためG36Kの銃口を向けたまま、言った。

「我々は敵ではない。特戦群だ。貴方がたを助けに来た」

 特戦群(S)の隊員は手を挙げたまま、近づいてきた。

「合言葉は?」

 笠谷の言葉に特戦群の隊員は合言葉を言った。

「紅茶にはスコーン、緑茶には芋羊羹、コーヒーには何が合う?」

「了解だ」

 およそ、軍隊が使うような合言葉ではないなと思いながら、笠谷は銃口を下ろした。

 松野と宮林も小銃を下ろす。

「ご無事で何よりでした」

 特戦群の隊員は手合図で付近に潜んでいる隊員に指示を出す。

「ここからは我々が迎えのヘリがいるところまで誘導します」

「頼む」

 特戦群の隊員を先導に笠谷たちは歩き出した。



 板垣の指示で、笠谷たちを発見すれば、ただちにSH-60Kを発艦させ、彼らを回収する事になっていた。

 笠谷たちを収容したSH-60KはF/A-18Jの護衛のもと、[やまと]へ向かった。

「第2部長。この空域はかなり危険なので海面すれすれを飛行します」

 第1空母航空群第101飛行隊隊長の北川(きたがわ)卓也(たくや)2等海佐が、夜間飛行用のパイロット用暗視装置を一時的に外して、キャビンに振り返った

「ああ、それでかまわない」

 笠谷からの返事を聞くと、暗視装置を装着し、高度をできるかぎり下げた。



[やまと]に帰還したSH-60Kは、収容者たちを吐き出すと、甲板作業員たちに誘導された。その後、整備員たちに点検される。

 松野、宮林、イングリットの3人は両手に手錠をかけられ、拘束されていた。

 笠谷と北井は治療と検査のため、医務室に搬送された。

 海自の警務官(MP)たちが彼女たちを艦内に設置されている営倉に連行する。

 脱走に加え、警衛海曹に対する暴行行為、物品の無許可持ち出し、武器の不法所持とその使用。

 米軍や旧日本軍であれば銃殺刑は確実の犯罪だ。

 だが、ここは異世界だ。裁判にかけようにも、日本が存在しないため、それは不可能だ。

 この1件は板垣が全責任を負う事を告げたため、彼女たちの処置は6日間の営倉入りだけである。

 軽い処分ではあるが、これにはアルシア、佐藤の2人がいろいろと手を回したのである。



 医務室で検査と治療を終えた笠谷は一応個室の病室に移されていた。

 鎮静剤のおかげで身体の痛みは十分にとれた。

 病室のドアからノック音がし、笠谷が、どうぞ、と言うと、疲れた様子の板垣が入ってきた。

「司令官」

「そのままでいい」

 起き上がろうとした笠谷を板垣は止めた。

「申し訳ありません。私の技量不足で貴重な機体を失いました」

「なあに、お前の責任じゃない」

「篠原3佐は?」

 笠谷が尋ねると板垣は無言で首を左右に振った。

「そうですか・・・」

「とりあえず、今はゆっくり休め」

 板垣は部下の肩に手を置き、言った。

「松野たちの処分を軽くしてくださり、ありがとうございます」

 笠谷のお礼に板垣は手を振り、何も言わず、病室を出た。



「笠谷2佐と北井3尉は無事だったか・・・」

「はい、なお無断で出動した陸、海の士長2名及び1名は営倉入りだそうです」

 第2統合任務隊旗艦[ながと]の司令室で三枝(さえぐさ)理子(りこ)・タチアナ・シュタインベルク1等海佐からの報告を受けながら、水島(みずしま)(かなめ)海将補は、小さく息をついた。

「恋は盲目というが・・・無茶をする・・・隊規違反もいいところだが、個人的には称賛するぞ」

「・・・・・・」

「あの時の私に、彼女たちの10分の1でも行動力があれば・・・と、思ってしまう」

「それは、無理です」

 三枝に断定されて、水島は振り返った。

「当時の司令と彼女たちでは、その立場も責任も異なります。個人的感情で動かれては困ります」

「・・・わかっている」

 司令室のドアを叩くノックの音に、2人の会話は途切れた。

「入れ」

「失礼します。来島(くるしま)完治(かんじ)2等空尉、命令により出頭しました」

「呼び出された理由はわかるか?」

「・・・もしかして、アレの事?いや、あっちの件・・・思い当たるフシがありすぎてわかりません!!」

「・・・1度[ながと]のアンカーと一緒に海に沈むか?頭を冷やすには丁度いいぞ」

 相変わらずの弟に、かなり本気の冗談を言う。

「うちの姉たちはどうしてこんなに冷たいかなぁ。弟が場をなごまそうとしてるってのに・・・」

「お前の冗談は、品がない」

「・・・やっぱり、本気でグレようかなぁ・・・」

「好きにしろ。三枝、すまないが席をはずしてくれ。私はバ完治(かんじ)に話がある」

 もう1人の姉と同様に、弟を叩き斬る。

「お姉さんをからかうのはやめなさい。基本、天然でも冗談は通じないのだから・・・」

「大きなお世話だ!」

 余計な1言を言って、三枝は退室した。

「まず、言っておく。板垣司令官には話を通してある、正式な辞令はラペルリ防衛戦の後だが、お前を含めて、試験飛行群4名のテストパイロットに[やまと]への転属を命じる。笠谷2佐の指揮下に入れ」

「今さら・・・?」

 来島は、眉をひそめた。

 自分を含めて、全員が万全の出撃態勢を整えていた。今回が絶好の機会だったはずだ、そうすれば[フランカー]ごときに、いいようにされなかった。

「・・・この段階で、切り札をだせなかった。これは、板垣司令官も承知している事だ、お前には話しておくが、まだ誰にも言うな」

 水島の話に、来島の表情が段々と険しくなった。

 第2次ラペルリ攻防戦第5章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月の15日までを予定しています。

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