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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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救出 第3章 新たなる仲間

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 アーロンが自衛隊に護衛を依頼してから2日後。

 汎用護衛艦[うらづき]は単艦でパスメニア港を出港した。

「航海長、操艦。両舷前進原速赤黒なし」

[うらづき]艦長の(おお)(はや)幹男(みきお)2等海佐が指示を出す。

 ヘリ搭載護衛艦[ふそう]艦長の高上(たかがみ)直良(なおよし)1等海佐の同期である。

「航海長、いただきます。両舷前進原速赤黒なし、クルバル商会商船との合流海域に向け、針路をとります」

 航海長が復唱し、目標海域との最短距離を出す。

 板垣は[うらづき]の司令席から双眼鏡を覗き、前方の海上を見た。

「対空、対水上、対潜警戒を厳にせよ」

 大早が艦内マイクで警戒を高めるように指示を出す。



 2日前、アーロンが板垣に商船護衛を依頼した時、板垣はどうするか決めたのだが、他の意見も聞いておくべきか、と判断し、笠谷と佐藤を[やまと]の司令官室に呼んだ。

 板垣は2人に護衛依頼のことと、その見返りについて説明した。

「私はこの依頼を受けようと思っている。ミドルフォートは交易により数多くの国と友好関係を築いている。つまり情報収集がしやすくなる。2人はどうだ?」

 笠谷も佐藤も、板垣の決定に従うと言って了解した。

 板垣はアーロンに護衛を引き受けることと、いくつか条件を出した。

 アーロンは商会の名誉にかけてすべての条件をのんだ。

 その日の夜に、緊急の幕僚会議を開き、護衛任務について細かく調整した。派遣する護衛艦などである。

 派遣艦は汎用護衛艦[うらづき]に決定した。

[うらづき]は艦長以下多くの乗員が商船の護衛を経験しているからだ。

 そして、板垣、佐藤、笠谷、異世界組(数人)が乗艦した。

 なぜ、彼らが乗艦したかと言うと、高度な判断と決断、さらに現地についてから情報収集を行うためだ。異世界組は情報提供と誤解による戦闘を回避するためだ。



 予定通りクルバル商会の商船と合流した。

 商船から小舟が下ろされ、[うらづき]に2名が乗艦した。

 2名は軽装の鎧と片手剣を吊るした。まだ、15、6歳の少年だった。

「ミドルフォート海上騎士団騎士見習いケネスです!」

「お、同じく、ラースです」

 2人の少年は緊張した声で、叫んだ。

「キルリック教国まで案内を頼む」

 板垣は挙手の敬礼をして、穏やかに言った。

「はっ!お任せください。キルリック教国でしたら、航海演習で何度も訪れております」

 ケネスはきっぱりと答えて胸を張った。

 この世界の海図は自衛隊員の世界のように衛星などの精密な測定をしていない。人の目で作成されたものだ。そのため信頼性は低い。

 結局は人間の目であり、経験者である。それなら、乗艦している王族でもいいのでは、と思うだろうが、王族だとあまり信憑性が無い。

 なぜなら、王族は船の中にいるだけで、操船は船乗りがする。これでは航海の勘は得られない。実際に船を操船した事のある者が必要なのだ。

 板垣は2人の幕僚と2人の見習い騎士を連れて、艦橋に上がった。

「司令官、艦橋へ」

 板垣の姿を見ると、先任の海曹長が直立の姿勢をつくり、大声で告げる。

「司令官に敬礼」

 艦橋に詰めていた士官、海曹士たちが一斉に振り返り、挙手の敬礼をした。

「そのまま作業を続けてくれたまえ」

 板垣は艦橋にいた士官たちに言って、答礼した。

[うらづき]は商船の速度に合わせて航行した。

「クルバル商会の商船、後方600メートル」

 右舷のウィングの見張り員が双眼鏡を覗きながら報告した。

 波も穏やかで、天候にも風にも恵まれている。順調な船旅だ。



[うらづき]の出港を見送った陸上自衛隊の久松(くまつ)(しょう)()2等陸尉は[しれとこ]の暴露甲板で、手すりに身体をあずけ、缶ジュースを飲んでいた。

「やれやれ、今日も暑いな・・・」

 久松はぎらつく太陽を眺めながらぼやいた。

 第1甲板では、体育服装に着替えた陸自隊員たちがランニングしている声が響いている。

「先客がいたか・・・」

 声をかけられて久松は声がした方に振り向いた。

(なお)()

 そこには、スポーツ飲料を持った(たか)()直哉3等陸尉の姿があった。

(ちっ、チビかよ)

 自分の憩の場所に現れた小柄な青年を見て、久松は物凄く小声で心中でぼやいた。これなら知られないだろうと思って・・・

「おい!今、心中で舌打ちとチビって言ったろう。殺すぞ」

「いいや。別に・・・」

 久松は、これでもわかるのかよ、と心中で叫びながら首を左右に振った。

「まあいい」

 高井はそう言って、久松と同じように手すりに身体をあずけた。

 そして・・・

「正吾。お前の親友として言う。もし、次の作戦があったら、辞退しろ」

「藪から棒になんだ?」

 友人の突然の申し出に久松は表情を変えず、尋ねた。

「2度も、幸運はない。敵に対して一瞬でも躊躇えば死ぬぞ」

「・・・・・・」

 久松は黙り込んだ。

「人を撃つのと的を撃つのは違う。相手の顔を見た時、引き金を引けば相手の人生が終わる。そう思うと引けなかった・・・」

 久松は長い沈黙の後、友人に告白した。

「人を殺して何も感じないのは異常者だけだ。罪悪感のない殺人は新たな殺戮を生み出す。戦場では戦場の名のもと罪の意識は緩和される」

 高井は友人として、久松に語った。

「じっくり考える事だ。答えを出さなければ、本当に死ぬぞ。死ななくても、それで後悔する事になる」

「なあ、直哉。お前は答えを出したのか?」

 久松は友人に問うた。だが、彼は笑みを浮かべるだけであった。

「じゃあ、な」

 高井はそう言って、艦内に戻った。



 当たり前のことだが、航空自衛隊の人間が護衛艦に乗る事はない。それは笠谷を含めて空母航空団に所属する航空自衛官たちも同様だ。

 確かに陸上基地と艦艇は違うということを身体に教えるため、護衛艦に研修として乗艦する。

 しかし、あくまでも空母要員としてで、あるため、乗艦する艦も[ひゅうが]型護衛艦や[いずも]型護衛艦と言った、ヘリ空母に類する艦だ。

 完全なる戦闘艦である護衛艦に乗艦することはない。

 笠谷も1ヶ月間ヘリ搭載護衛艦[いずも]に乗艦した事がある。

 汎用護衛艦[うらづき]は、[やまと]型航空母艦と比べれば小さい。

[うらづき]は[あきづき]型汎用護衛艦の同型艦であり、全長150メートル、基準排水量5100トン。これまで登場した汎用護衛艦の中では大型艦である。

 しかし、[うらづき]を[ひゅうが]型やそれ以降のヘリ空母や航空母艦と比べるのはおかしいものだ。

 空自の人間としては他の護衛艦に乗艦するという事など、滅多に経験できるものではない。

 笠谷は士官室で会食を終えた後、自衛隊手帳を取り出し、[うらづき]の生活等について記録するのであった。

 ボールペンを走らせながら笠谷は苦笑した。

 記録したとしても、それをどこに報告するのだ、空幕(航空幕僚監部)なのは確かだが、元の世界に戻る手段も見つかっていない状況下だ。はたして意味があるのか。

「コーヒーです」

 傍らからコーヒーカップを2つ持った3等海尉が1つ、笠谷の前に置いた。

「あ、ああ。ありがとう」

 笠谷はデジタル迷彩服を着た若い3尉に向き、礼を言った。

「何をなさっているのですか?」

 3尉がコーヒーをすすりながら、尋ねた。

「ああ。これ、空幕に報告するために、護衛艦の生活について記録している」

「そうですか」

 笠谷もコーヒーをすする。

「どうですか、護衛艦と空母の感想は?」

 彼の問いに笠谷は困った表情をした。

「俺が勝手に思っているだけかもしれんが、[やまと]や[いずも]と比べるとやはり違うように思う」

 笠谷は答えながら、佐藤2佐に聞いてみるか、と思った。

「自分は[うらづき]にしか乗ったことがありませんから、わかりませんが・・・排水量が違いますから、そうでしょうね」

 3尉がそう言って、席につこうとしたその時だった。

 ズン、と下の方から押し上げられるような感覚がしたかと思うと、艦がまるで何かに衝突でもしたらしく激しい揺れに襲われる。

「きゃっ!?」

「危ない!」

 立っていた女性自衛官がよろめいたが、士官の1人が支えた。

 突然のできごとに、士官室内の士官たちが転倒したり、コーヒー等を床にこぼした。

「な、なんだ、なんだ!?」

「何かに衝突したのか!?」

 士官たちは騒然となった。

 すかさず、警報ブザーと全艦放送が響いた。

「合戦準備!対潜戦闘用意!これは演習ではない!繰り返すー」

 士官室は修羅場となった。

 何が起こったかわからないが、士官たちは慌てて自分の持ち場へと向かって駆け出す。

 合戦準備とは、総員戦闘配置を意味する号令である。

「合戦準備?」

 笠谷は慌てて自衛隊手帳をしまい、戦闘指揮所(CIC)へと向かい駆け出した。

 CICへ向かう途中、また艦内が大きく揺れたのであった。



 笠谷がCICに飛び込むと、すでに佐藤がいた。

 副長(砲雷長)の怒号がCICに響く。

「ソナー、なぜ探知ができなかった!」

「目標は海流に身を任せて接近してきたと思われます。この海域の海洋データがありませんので、探知は困難です」

「馬鹿者!お前等の訓練不足だ!」

「すみません」

 水上艦が水中目標を探知する方法はそう多くない。基本的にはアクティブ・ソナーとパッシブ・ソナーの2つである。

 アクティブ・ソナーは、発信音波の反射を利用して目標を捕捉するのだが、アクティブ・ソナーを使用すればこちらの位置も知られる事になる。よほどのことがないかぎりまず使用しない。

 パッシブ・ソナーは目標が発する音を拾う仕組みだ。

 海中を進む以上はなんらかの音は必ず出る。海流に身を任せていたとしてもなんらかのかすかな音はでる。だが、その小さな音がたんなる自然現象なのか、そうでないのかを解析するには海洋データは不可欠だ。さらにソナー員も優秀でなくてはならない。

 海洋データがないのだからこの1件にかんしてはお手上げだ。

「目標は?」

「深度50で距離1500をたもちながら本艦の周辺を回遊しています」

 ソナー員の報告に笠谷と佐藤は顔を見合わせた。

「こちらの様子を窺っているな」

「司令官」

 板垣と大早がCICに姿を現した。

 佐藤は上官の言葉にうなずいた。その判断は正しいだろう。

「ソナー。目標が何かわかるか?」

「わかりません。聞いたこともない音紋です・・・いや」

 板垣の問いにソナー員が何か思いあたるかのような口調でつぶやく。

「なんだ、推測でいい。思いあたるものがあるのなら言ってくれ」

「はっ、信じられませんが、こいつはマッコウクジラに似ています」

「マッコウクジラ?」

 板垣は首を傾げる。

「まさか白鯨じゃあ・・・」

 佐藤の言葉に板垣たち船乗りはその言葉に思いあたるものがあった。

「あの伝説の・・・」

 副長が代表して言ったが、ソナーから再び報告が入る。

「も、目標再度接近!」

 ソナーからの報告は悲鳴に近かった。

「うっ!?」

 再び鈍い衝突音が艦を襲った。

 隊員たちは近くのものにしがみつく。だが、衝撃は前回より軽い。

「目標再び距離をとります!」

 ソナーが報告する。だが、報告はそれだけではなかった。

 目標との距離が1000メートルになった時、新たな音紋を捕らえた。

「高速スクリュー音2つ!」

 ソナー員が調整し、その正体をつかむと、絶叫した。

「魚雷音聴知、速力50ノット、目標に向かって急速接近中!」

「なんだと!?」

 板垣が絶叫する。

 CICに詰めていた隊員たちも驚愕する。

「命中まで5、4、3、2、1」

 轟音と衝撃が[うらづき]に届いた。



 艦橋では騒然となっていた。

 距離1000メートルで巨大な水柱が上がり、海が生物の血液と思われるもので広範囲に赤く染まった。

「今度はなんだ!?」

 航海長が叫ぶが答えられる者はいない。

「いったいなんですの!?」

「これはどういうことです!?」

 2人の王族が状況を尋ねるが、当然答える者はいない。



 艦橋は艦橋で混乱していたがCICではさらに混乱していた。

「司令官、艦長!水上レーダー、目標を探知、右舷前方3000に2隻!」

 レーダー員が報告した後に今度は通信士が絶叫した。

「艦長。通信が・・・」

 通信士は一瞬言葉を詰まらせ、この世界ではありえない事を報告した。

「それが・・・その不明艦から、アメリカ海軍と名乗っているのですが・・・」

 板垣、大早、笠谷、佐藤の4人が顔を見合わせた。

 板垣は通信機に飛びついた。

 通信士が通信回線を繋ぐと、板垣は英語で言った。

「こちら日本国海上自衛隊第1統合任務艦隊護衛艦[うらづき]。私は当艦隊の司令官の板垣海将。本当にアメリカ海軍なのか!応答されたし!」

 すると、一瞬間を置いて向こうからも同じくらい慌てたような早口で返答が返ってきた。

「・・・こちらアメリカ合衆国海軍艦隊総軍所属巡航ミサイル原子力潜水艦[フロリダ]。私は艦長(キャプテン)のケイリー・エヴァンズ大佐です」

 板垣は通信機から女性の美声が響いた。

 久々に聞く現代人の言語と国名である。しかも、日本の最大の同盟国であるアメリカだ。これは喜ぶべきだろうか。

「キャプテン(大佐)・エヴァンズ。先ほどの魚雷攻撃は助かった。感謝する」

 板垣は礼を言ったが、ケイリ―に、感謝の言葉を受け取る余裕はなかった。

「イタガキ海将。状況はいったいどうなっているのです。説明しがたい現象が起きたと思ったら、本国との通信はおろか、GPSも何も受信できないのです」

 板垣のランクは軍では中将に相当する。米海軍では艦隊司令官に任命される階級だ。

 ケイリ―は大佐であるから米海軍では板垣より3つ下である。

 板垣は2人の幕僚と顔を見合わせた。

 それはどのように説明するべきか、困っているようだった。

 だが、今は、この世界に漂流した新たな仲間に初めから説明している暇はない。

「キャプテン・ケイリ―。先ほど我々は謎の巨大生物に襲われたばかりだ。貴艦が撃退してくれたが、魚雷攻撃で大量の血が海に広まった。血の匂いに気づいて他の巨大生物に襲われる可能性がある。今はこの場から退避する必要がある」

「了解しました。[ノースダコタ]にもそう連絡して、貴艦と行動を共にします」

 ケイリ―はすばやく判断し、板垣の決断を了承してくれた。彼は内心でほっとした。

 板垣は通信機を置くと大早に振り向き、うなずいた。

 大早もうなずき返すと、指示を出した。

「当海域から離脱する。取り舵20度。商船にも連絡。SH-60Kを1機発艦。周辺海域の捜索・警戒にあたらせよ」

 艦長の指示により、航海長が復唱し、部下たちに指示を出した。

 ちなみに1番気合が入っていたのは第5分隊(飛行科)であった。

 燃料の節約という事で航空機の出動が制限されたため、今まで、ほとんど出番がなかったからだ。

 SH-60Kの発艦命令が出ると、整備士や整備員たちは歓声の声を上げた。

 SH-60Kは[うらづき]から発艦すると、周辺海域の捜索と警戒を行ったが、海洋生物はすべて血の海になっている海域に集まった。

[うらづき]に近づく生物はいなかった。


 救出第3章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回もよろしくお願いします。

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