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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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救出 第4章 ケイリ―の決断

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 2時間ほど船を走らせた後、[うらづき]と商船、原潜2隻が停船した。

[フロリダ]と[ノースダコタ]は[うらづき]から300メートルの距離で浮上した。

 2隻の原潜から2隻のゴムボートが準備されていた。

 それぞれのゴムボートから3人の海軍軍人が乗り込み、[うらづき]に向かった。

 ラッタルを下ろす暇がなかったので、梯子が下ろされた。

 最初に乗艦したのは先ほど通信してきた女性艦長だ。

 一目で白人女性だとわかる風貌だった。肩まで伸びた金髪と青い瞳、なかなかの美人である。

 しかし、板垣を驚かせたのはその若さだ。

 板垣は派米訓練や環太平洋(リム)合同()演習(ック)などで米海軍の士官と何度も顔を合わせている。若い大佐や少将(1つ星)等にも合ったことはある。だが、女性で、ましてや特殊な原潜の艦長をこの若さで任命されるとは、とても信じられなかった。

 板垣が心中で驚いているのが、わかったのか、女性大佐は一瞬だけはにかむような笑みを示したが、すぐに彼女は一切の感情を消し、軍人としての顔になり、敬礼した。

「アメリカ合衆国海軍大佐ケイリ―・エヴァンズです」

 ケイリ―は見事までの日本語で名乗った。

「日本国海上自衛隊海将板垣玄武」

 板垣も答礼する。

「イタガキ海将。1つ私情を挟んでしまって申し訳ありませんが、[ふそう]艦長高上直良1等海佐はご無事でしょうか?」

 ケイリ―の質問に板垣は面食らったが、答えた。

「あ、ああ。今はパスメニア港にいる」

「そうですか」

 ケイリ―はほんの一瞬だが、嬉しそうに喜んだ。

 その後に、2人目の米海軍軍人が甲板に足をつけた。

 2人目は男で、黒髪に濃褐色の目、顔立ちから東洋人の風貌だ。

 その男も敬礼し、名乗った。

「アメリカ海軍[ノースダコタ]艦長ユウリ・ブラウン中佐です」

 こちらも完璧な日本語だった。

 日系米国人か、と板垣たちはそう思った。

 ユウリは中佐の平均年齢だったため、板垣たちは内心ほっとしていた。

 後の2人は艦長たちの付き添いだった。

 板垣は士官室に案内し、2人の艦長を座らせた。

 板垣、笠谷、佐藤の3人が座ると士官室係がコーヒーを持ってきた。

「それで、なぜ、本国との通信が途絶えているのですか。いえ、それ以前に貴艦隊は3ヶ月前に消息不明になっています。日米で大規模な捜索をしたのに、欠片すら見つからなかったのに・・・それを含めた説明をお願いします」

 ケイリ―がコーヒーを一口すすってから、尋ねた。

「3ヶ月?元の世界では、そんなに経っているんですか・・・」

 佐藤が驚いた口調で言った。

 2人の艦長は佐藤の言葉を見逃さなかった。

「元の世界?」

 ケイリ―がつぶやく。

 板垣が咳払いして、口を開いた。

「実は貴女がたを含めて我々は平行世界に飛ばされた。ここは、我々の知る世界ではなく、別の世界。つまり異世界だ」

 板垣は爆弾を炸裂させた。

 ケイリ―以下3人の米海軍軍人は目を丸くした。

 しかし、突然、ここが異世界だ、と言われてそれを受け入れられるわけがない。

 もし、受け入れられるのなら、それは頭がおかしいとしか言えない。

 4人の米海軍軍人を代表して声を上げたのは2人の艦長ではなく、ユウリの付き添いで同行した黒人の海軍士官の「そんな馬鹿なー!」であった。



「という訳なの」

 板垣たちから一通りの説明を聞いたケイリ―は、自艦に戻り、士官たちを集めて、説明された事を話した。

 士官たちは上官からの信じがたい説明に場の空気は尋常ではないくらい重かった。

「艦長。つまり我々はパールハーバーが日本軍機に襲撃される前に現代からタイムスリップした空母[ニミッツ]と同じ状況というわけですか?」

 若い少尉が言った。

「そんな映画があったわね。私も学生時代に何度か見た事があるわ」

 少尉の言葉にケイリ―は2、3度うなずきながらつぶやいた。

「だが、あれはタイムスリップだろう。今の状況とは大きく異なる」

 アメリカ海軍のデジタル迷彩服を着た集団の中では、場に合わない森林用の迷彩服を着込んだ長身の男が突っ込んだ。

 彼はアメリカ海軍特殊戦コマンドNavySEALs(ネイビーシールズ)に所属する士官だ。

 彼の名はマックス・ウォーカー大尉である。白人男性で彼の腹心の部下カーター特務曹長の話ではもうすぐ子供ができるらしい。

「どちらかと言えば我々は、空想小説作家の考えたような、世界に飛ばされた言うところだろう」

 マックスの言葉に士官たちは顔を見合わせた。

「副長はどう思うの?」

 ケイリ―はクリストファーに顔を向け、助言を仰いだ。

[フロリダ]の艦長になって半年。女性初の[オハイオ]級巡航ミサイル原子力潜水艦の史上最年少の艦長。これは大変名誉なことだ。

 だが、彼女の現実は苦悩の連続だった。

 艦長就任を喜んでくれたのは郷里の友人たちと軍人経験のない母方の祖父母と親戚たち、従姉弟たちだ。そして支持率低下に悩む大統領と上院、下院の議員たちだけだ。

 軍経験者である祖父、父、現役海軍少将の兄は誇ってはくれたが、喜んではくれなかった。

 現場の兵は特に、だ。現場は女性のトップなど望んではなかった。部下の掌握など海軍上層部は最初から期待等していなかった。そんな状況下を哀れんだ兄は上層部に手を回し、優秀な副官を[フロリダ]に配属させた。

 それがクリストファーだった。

 海軍に入ってからずっと原潜で勤務し「俺の人生は原潜で終わる」と公言していた。

 そのため、出世が遅く、こんな有様になった。

 しかし、下士官や兵の空気は誰よりも弁えており、あらゆる面で上官であるケイリ―を補佐した。

 そのかいもあり、[フロリダ]の乗組員たちはケイリ―に対する意識は変わった。

 ケイリ―はクリストファーをもっとも信頼している。

 士官たちの視線がクリストファーに集中する。

「小官は事実だと思います。イタガキ海将とはRimpac(リムパック)でなんどか会食した事がありますが、海将は決して冗談を言うような方ではありません。現実主義者です」

「私もそう思うわ。イタガキ海将とは会ったことはないけど、Rimpac等で兄は何度も顔を合わせているわ。会食等でいろいろと打ち解けたそうだし、仮想敵艦隊として戦って彼の人となりをある程度理解したそうよ。兄から聞かされた彼と、私が直接話した彼を慎重に検討した結果、イタガキ海将は決して冗談を言ってないわ」

「それから、イタガキ海将の言う事を裏付ける証拠があります。GPSはおろか本国との通信、ラジオ放送まで受信できません。これは我々の世界ではありえない事です」

 クリストファーの言う通り[オハイオ]級戦略原子力潜水艦はその任務の特性上、通信システムは最新鋭のものが設置されている。それが受信できないのはまずありえない。

 士官たちは決定的なものを突き付けられ、重い空気が流れた。

「自衛隊が言っている仮説は私も読んだ事があります。世界は1つではなく、いくつものの世界が存在する。だが、平行しているがゆえにお互いが存在している事を知覚できない」

 エド少佐が言った。

 彼も少佐にしては若い方に入る士官の1人だ。

「問題なのはこれからです。我々は艦隊総軍司令部とも海軍作戦本部とも通信が途絶えています。これからどうするのです?」

 エドの言葉に士官たちの視線が一斉にケイリ―に集中した。

 なぜなら、この世界に飛ばされたアメリカ海軍の中では彼女が最上級である。不満をもつ者もいるが、指揮官は彼女だ。

 ケイリ―は天を仰ぎながら、考えた。

 潜水艦乗りである以上、彼女の決断は早かった。

 ケイリ―は士官たちを見回すと、海軍大佐の威勢のある口調で言った。

「私たちはいま完全に孤立した状況。でも、同じ状況に置かれた仲間がいるわ。合衆国最大の同盟国である二ホン。これは神の加護と言うべきね。そこで私はこの決断に全責任をおうことを誓うわ。これより私たちはイタガキ海将の指揮下に入り、作戦行動を共にするわ」

 女性の声である以上威勢差は半減するが、彼女が「いいわね」と聞くと。

「「「イエス・マーム!!」」」

 士官たちは了承した。

 ケイリ―はこの後、[ノースダコタ]艦長ユウリと通信した。板垣の指揮下に入る事を伝える。ユウリもケイリ―の決断を評価し、自分もそうすると言った。

 ケイリ―とユウリの意見が合った以上、話は早い。だが、ケイリ―はもう1つやらなければならない事がある。

 ケイリ―は発令所で艦内マイクを持ち、スイッチを入れた。

「総員に告ぐ。私は艦長ケイリ―大佐。これから私が言う事はすべて事実である」

 ケイリ―はすべてを話した。異世界に飛ばされた事、日本艦隊の指揮下に入る事を、伝えた。

 数分後、下士官や兵たちから了承の返事が各所から報告された。

 この後[ノースダコタ]からも乗員の支持を得た、という報告を受け、ケイリ―はアメリカ海軍を代表して、板垣の指揮下に入る事を伝えた。

 板垣は新たな仲間を迎える事を素直に喜び、彼女たちを歓迎した。



 謎の生物に襲撃されてから、翌日。汎用護衛艦、商船、2隻の原潜は目的地であるキルリック教国に向かっていた。

「状況は?」

 仮眠をとった板垣はCICに訪れて、先に来ていた副長に尋ねた。

「ソナーにはまったく反応ありません。前方2000にいる[ノースダコタ]からも何の報告もありません」

「一連の事件の犯人はあの巨大生物だったのではないでしょうか?」

 水雷長が言った。

「かもしれんな・・・」

「何かひっかかることでも?」

 板垣の反応に不思議に思った副長が尋ねる。

 彼は笑みをつくって、否定した。

「いやいや。そういう訳ではない。おそらく昨日襲った奴が一連の犯人だろう。いったいなんだったんだろう、と思ってな」

「我々の世界の海にも、まだ判明していないことは数多くあります」

 水雷長の言葉に板垣はうなずく。

 彼の言ったように現代の海では解明されていないことが多い。

 これまでの地球の生命は誕生しては絶滅するを繰り返した。原因はいくつもあるが、1番の原因は、気候の激変によるものだ。

 これにより、大量の生物種が死に絶えたのである。

 しかし、海洋の深部にいた海棲爬虫類は生き残ったかもしれないと主張する海洋生物学者もいる。

 深い海の底は気候の変化の影響を受けにくいからだ。

 例えるのなら、シーラカンスだ。この古代魚は2億年も変わらない形態のまま生き残ったのである。

 海にいた生き物は生き残りやすいのだ。

 潜水艦などが稀に巨大生物や未確認生物を探知することがある。

 板垣も船乗りだから、都市伝説として聞いたことはある。

 本人はそれを信じている方に入る。



 板垣が薄暗い室内に詰めていた頃、佐藤は艦橋横のウィングに出ていた。

 快晴の空に穏やかな海はとても気分がいいものだ。

 ウィングに2人の隊員が出ており、双眼鏡を覗き、穏やかな海を睨んでいた。

 佐藤は2人の見張り員の邪魔にならないように海面を眺めた。

 何頭かのイルカの群れが目に映った。ジャンプしながら[うらづき]に並行して、ついて来ている。

 それだけならよく見る光景だ。元の世界でも、よく潜水艦(浮上航行中)や艦船に並行して高くジャンプする。

「気持ちよさそうだなぁ」

 イルカたちを見ながら佐藤はコーヒーをすする。

 1匹のイルカがジャンプする。

「ん?」

 佐藤は一瞬目を疑った。

 先ほどジャンプしたイルカはおかしかった。いや、イルカではない。明らかに人であった。それも10代前半の少女だ。

 佐藤は、疲れているのかな、とつぶやきながら目を閉じた。

 しばらく目を閉じて、目を開き、海面を凝視した。

 すると、海面から何かが空高く飛び上がった。

 それをはっきりと視界に捕らえると佐藤は凍りついた。

 かわいい少女だった。だが、その姿は異形だった。上半身は普通の人であったが、下半身は真っ青な美しい鱗に覆われていた。

 佐藤はその少女と目が合った。

 少女はニッコリと笑い。海の中に戻った。

 佐藤は石のように固まった。

 少女の正体が何か検討がつく。

 人魚だ。

「・・・りょう、首席幕僚!」

 傍らからかけられた声に佐藤は我に返った。

 佐藤は声のした方に振り返ると見張り員の1人が心配した表情で見ていた。

「どうしました?ずっと固まっておられましたが、お疲れのようでしたら、自室に戻られては?」

「ああ、いや、これぽっちも疲れていない」

 佐藤はさっきの人魚の事を聞こうと思ったが、すぐに打ち消した。

 見ていないのなら、どうせ信じてもらえないだろうし、言ったら、即医務室行き決定だろう。

「そうですか」

 見張り員が首を傾げながら、つぶやいた。

 佐藤はコーヒーを飲み干すと、艦橋に戻った。

 人魚の1件は心の中にしまっておくことにした。



 それから3日後、[うらづき]はキルリック教国の港町に入港した。

 商船は埠頭に横づけすると、積み荷を降ろし始めた。

 案内役の騎士見習い2人は[うらづき]の作業艇に乗り込み、キルリック教国の港に上陸した。

 彼ら2人は会長からの手紙を教皇に渡すためだ。

 2人は最寄りの教会に行き、その手紙を渡した。

 教会の責任者は、クルバル商会会長直々の手紙だと知ると、すぐに教皇に届ける手配をした。

 教皇に届けられるすべての書類等は、まず各教会に届けられ、厳重な査定を行ったうえで教皇のもとへ届けられる仕組みだ。

 2人の見習い騎士は届けられる事を[うらづき]に連絡した後、商船に戻った。

 彼らの任務はここまでである。



 2日後、[うらづき]に来訪者が訪れた。

 キルリック教国の教会から派遣された司教1名と従者が1名だった。

 板垣たちが出迎えると、士官室に案内した。

 2人の来訪者が異世界の軍艦を見て驚いたことは言うまでもない。

 司教と名乗った中年の男性は白い神官服に身を包んでいた。

 士官室には、司令官の板垣、笠谷、佐藤、フレア、アルシアの5人と司教に従者の2人だ。

 まず、口を開いたのは司教だった。

「このたび、貴重な交易品を積んだ商船の護衛をしていただき、ありがとうございます。これも神のお導きによるものでしょう」

 司教の言葉に板垣たちは複雑な表情をした。

 仮に彼の言う神が存在するのであれば、とんでもないことである。

 米軍関係者がいないのは救いであろう。ケイリ―やユウリは大丈夫だろうが、下士官や兵は怒鳴る者もいるだろう。

「教皇猊下も大変感謝しております。猊下からの親書をお届けします」

 司教は立ち上がり、親書を板垣に手渡した。

 板垣は親書を開き、目を走らせた。

 内容を略すると、こうだ。

 レギオン・クーパーに対し、できる範囲の支援を約束すると書かれていた。

 板垣は幕僚2人に渡すと頭を下げて、お礼の言葉を言った。

「ありがとうございます」

 司教は恐縮した。

 その時、慌てた様子で士官室のドアがノックされた。

 板垣が、入れ、と言うと、海士が1人慌てて入って来た。

 海士はメモを板垣に渡した。

 メモには[やまと]に残っている艦隊幕僚長の島村(しまむら)三郎(さぶろう)1等海佐から、緊急連絡、と書かれていた。


 救出第4章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回からは1話づつ投稿させていただきます。何分ご迷惑をおかけします。

 次回の投稿は今月の6日を予定しています

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