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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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完結篇 後篇 第6章 総力戦

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 第1任務団、第1任務群、第1支援群、第33海兵遠征隊が上陸を完了してから、1週間後、群島諸国連合軍、亡命ミレニアム軍も上陸し、数を増やした。

 自衛隊、米軍の輸送艦、強襲揚陸艦はフル使用で、亡命ミレニアム軍を揚陸させた。

「こうして、再び、ミレニアム帝国の土を踏む事になるとはな・・・」

 亡命ミレニアム軍司令官ウーリ・デラー少将(ゲネラール・マヨーア)は太陽を眺めながら、つぶやいた。

「不思議な気分がしますね」

 彼の副官であるラルフ・ファルツェル少尉(ロイトナント)が声をかけた。

「ああ。この国には居場所がないというのに、ここに来るとなぜか落ち着くな」

 ウーリはラルフに振り返った。

「我々ドイツ人にとってもこの国は我々の故郷のようなものなのでしょう」

「そうだな」

 ウーリはうなずいた。

「そうだ。貴官はこの戦争が終われば、どうするつもりだ?」

 司令官の問いにラルフは困った表情をした。

「さあ、どうでしょう。この戦争が終わった後に考えようと思っています。閣下は何か考えているのですか?」

 副官の問いに、ウーリは用意していた答えを口にした。

「我々はこの国を無茶苦茶にしてしまった。戦争が終わったら、この国のより良い未来を築くために、残りの人生を使うつもりだ」

「より良い未来ですか・・・」

「どうした。何か気になる事でもあるのか?」

「第1次世界大戦で敗北したドイツは、戦争はもうたくさんだ、という事で民主制になりました。その時のドイツ人はより良い未来を築くと思っていましたが・・・」

 ラルフが言おうとしたところをウーリは言った。

「が、ドイツ人はヒトラーを選んだ」

「そうです。どんなに民主制にしても、その国民がきちんと善政と悪政を理解していなければ、我がドイツと同じ道を歩んでしまうのではないですか」

 ラルフが言っている事はもっともな事だ。

「だが、我々ドイツ人は苦い経験をしたと考えられないか?」

「それは確かに」

「そうだろう。我々はその事を自ら血を流して学んだ。ヒトラーを教訓にその事をミレニアム帝国臣民に伝えていけば、我々と同じ過ちをする事はないだろう」

 ウーリの言葉にラルフはうなずいた。

「では、閣下。ミレニアム帝国をより良い未来にするために、一刻も早く戦争を終わらせましょう」

「そうだ。戦争が長引けば将来的に双方共に苦い思いをする。それを元に戻すには何世代にもわたる事になる」

 ウーリとラルフは砂浜に顔を向けた。

 砂浜には、エアクッション艇、とか言う揚陸艇が忙しく往復し、亡命ミレニアム軍の戦車、車輛、物資を陸揚げしている。

「しかし、よくこれだけの数の兵士が集まったな」

 ウーリはそれが不思議でならなかった。

 彼が捕虜収容所でドイツ軍将兵たちを集めて、日米軍と共同してドイツ軍と戦うと言った時、ドイツ軍捕虜たちは動揺した。

 しかし、しばらくしてから、1人のドイツ将校が立ち上がり、亡命ミレニアム軍に入ると言い出すと、次々に立ち上がる兵が続出した。

 彼ら陸軍将兵たちはSSがこの世界で行った非道な行いに不満を持っていたのであろう。だからこそ亡命ミレニアム軍に志願してくれたのだろう。

 SSに不満を持つ者はウーリだけではなかった。ドイツ陸軍将兵の中にも不満を持つものがいたのだ。

 もちろん、志願しなかった者もいたが、日本軍とアメリカ軍が群島諸国に釘を刺し、志願しなかった者の安全は保障されている。

「さあ、ファルツェル。作戦会議を開く、参謀たちを集めてくれ」

「はっ!」



 ミレニアム帝国本土上陸後は、静かなものであった。

 ゲリラ戦術による、妨害工作が警戒されたが、不思議な事に目立った動きもなく、施設隊による敵地に進む進撃路が完成していた。

 AH-1SもしくはAH-64Dの支援を受けながら、10式戦車小隊と90式戦車小隊は2列縦隊になって敵地に侵攻していた。

 後続部隊は89式装甲戦闘車や96式装輪装甲車に分乗した普通科部隊と87式自走高射機関砲である。

 妨害らしい妨害を受けずに、部隊は内陸部の広大な平原まで、進攻した。

 もうじき夜が明ける。そんな時間帯だったが、周囲は真っ暗闇だった。

 しかし、10式戦車や90式戦車には赤外線暗視装置が装備されているため、昼だろうが夜だろうが関係はない。

 戦車がもっとも力を発揮できる平原にもかかわらず、敵戦車の姿はなく、不気味な静けさが、その場を支配していた。

 情報では、いまだ皇帝軍(ナチス・ドイツ軍)は、戦車大隊を数個保有しているはずだった。

 自衛隊、米軍を問わず疑問を持たれているのが、なぜこれ程の戦力を平行世界に送り込んだのか?だ。

 もし、元の世界でこれだけの戦力が残っていれば、何もかも失った日本と違い、ドイツは降伏しなかったかもしれない。

 それはそれで、更なる戦火の拡大につながったと思うが・・・

 一体、この計画を立てた人物は、何を望んでいたのか。

 ナチス・ドイツ軍と直接対決をするたびに、その疑問がどんどんと膨れ上がっていくばかりだった。



 第1任務団と第2任務群の進撃部隊はそのまま前進した。

 2個戦車小隊の先任指揮官である浦安(うらやす)(けん)1等陸尉は先導の戦車に乗り込んでいた。

 浦安は液晶モニターを赤外線暗視モードに切り替えって、360度一回転させた。

(どうも様子がおかしい。敵はなぜ出てこない)

 これが罠だと言う可能性も十分ある。敵陣深く引き込みそこに高射砲や重砲を浴びせる。

 迎え撃つ側にとっては、これ程有利な状況はないはずだ。

 いくら10式戦車や90式戦車でもこの戦法を使われたら、無傷ではすまない。

 実はナチス・ドイツ軍とネオナチス派のドイツ連邦軍も上陸した自衛隊、米海兵隊を迎え撃つべく出撃していた。

 浦安は液晶モニターを操作し、進撃部隊のさらに前方にいる無人偵察機FOOSM(遠隔操縦偵察システム改)が送信している画像を映し出した。

 FOOSMの画像を受信してから、数分後、赤外線暗視カメラいっぱいにナチス・ドイツ軍の戦車を捕らえた。先導をティーガーⅠ、ティーガーⅡと言った重戦車、後衛をⅣ号戦車、Ⅴ号戦車等の中戦車が前進していた。

「全車!敵がやってくるぞ!」

 浦安はヘッドセットで2人の部下と各車の車長に叫んだ。

「隊形を変える。全車横列に移動!」

 浦安の命令で、敵を迎え撃つためもっとも効率のいい隊形になる。

「隊長!敵の戦車大隊の最後衛に重戦車マウスがいます!」

「マウスだと!?」

 砲手である陸曹からの報告に浦安は驚愕した。

 FOOSMからの映像を受信している液晶モニターを睨むと、確かに最後衛に重戦車マウスがいた。

「あれが史上最大の超重戦車・・・」

 浦安はマウスを見て、そうつぶやいた。

 マウスは、ナチス・ドイツ軍が開発した史上最大の重戦車である。

 独ソ戦でソ連軍はドイツ軍戦車より、性能の高い戦車を開発し、戦場に投入してきた。

 ヒトラーは、それに対抗するべく超重量戦車の開発を指示した。

 そこで生まれたのがマウスである。

 マウスは防御力、攻撃能力が高く、10式戦車や90式戦車の砲弾では装甲を貫くのは難しいだろう。

 戦車砲も128ミリ砲と大口径ではあるが、自衛隊の主力戦車の120ミリ滑腔砲には及ばない。

 しかし、脅威である事には変わりない。

 それなのに、妙な興奮を感じる。

 写真でしか見た事が無い超重戦車が目前に在り、しかも動いているのだ。

 こんな、機会が訪れると誰が思うだろう。

 浦安はマウスと一騎打ちしたいという感情を押さえ、上空から支援しているAH-64Dに無線連絡した。



 戦車隊から、無線連絡を受けたAH-64D隊の指揮官である榊原(さかきばら)茂雄(しげお)1等陸尉は、僚機に攻撃目標を指示した。

「ビックベア1からビックベア2。地上部隊から攻撃要請が入った。マウスとか言う超重戦車を狙うぞ」

「ビックベア2から、ボス。マウスって、どんな戦車ですか?」

 僚機からの疑問に榊原は簡単に説明した。

「開いた口が塞がらないほど、バカでかい戦車の親玉みたいな奴だ」

「ビックベア2。了解」

「ビックベア3と4は地上部隊の護衛を続けろ」

 榊原の指示に居残り組のAH-64Dのパイロットは少し不満があるような口調で「了解」と返答した。

「敵は史上最大の超重戦車だ。獲物としては最高の獲物だ。今までの獲物とは格が違う」

「しかし、たったの2輌じゃ、獲物にしても少なくありませんか?」

 副操縦士兼射撃手の宮沢(みやざわ)3等陸尉がつぶやく。

「何を言っている。2輌だからこそ、獲物してはかなりでかいんだよ」

「そうですか」

 榊原はAH-64Dをマウスがいる方向に機首を向け、前進した。

 ナチス・ドイツ軍の戦車大隊は進撃部隊からさほど離れていない距離にいた。

「いたぞ!」

 榊原が叫ぶと宮沢はヘルファイア対戦車ミサイル(AGM-114)を選択し、最後衛のマウスにロックオンする。

「ロック完了」

「発射!」

 榊原の命令で宮沢は発射ボタンを押した。

 AH-64Dから2発のヘルファイア対戦車ミサイルが発射され、一切の狂いもなくマウスの砲塔上部に向かった。

 戦車の弱点である上部は装甲が一番薄いのだ。

 ヘルファイア対戦車ミサイルはマウスの上部装甲を貫き、爆発した。車内の燃料、弾薬に誘爆し、マウスは一瞬のうちに爆発した。

「ずいぶんとよく燃える」

 もう1機のAH-64Dも最後のマウスを撃破した。

「こちらビックベア1。マウス2輌を血祭りに上げた」

 榊原は10式戦車小隊長の浦安に報告した。

「こちら10式戦車小隊。了解した。後の戦車に関しては我々だけで対処できる。ビックベア隊は後続の歩兵部隊を撃滅してくれ。無人機からの情報では戦車隊の後方にいる」

「ビックベア1。ラジャ」

 地上部隊と通信を終えると、榊原は各パイロットに通信した。

「次の獲物は後続の歩兵部隊だ。俺たちの出番だ。行くぞ!」

「「「おお!」」」

 AH-64D隊は全機、進撃部隊から離れ、ナチス・ドイツ軍の戦車大隊後方にいる歩兵部隊に針路を向けた。

「どれだけいるんだよ」

 対地レーダーが捕らえたナチス・ドイツ軍の歩兵部隊を見て、宮沢がつぶやいた。

「1個連隊どころではないな。3個連隊規模だ」

 榊原が対地レーダー見ながら、敵兵力の規模を口にする。

「こいつは我々だけでは対処するのは難しいですね」

「そうだな」

 宮沢の言葉に榊原がうなずいた。

「こいつは、ハリアーの応援がいる」

 榊原がそうつぶやくと、すぐに、航空護衛艦[ながと]に通信した。

 AV-8Jの支援要請をしたのだ。

[ながと]からはすぐにAV-8Jを出動させると、返答が返ってきた。

 AV-8Jが来るまで、AH-64D隊は今ある弾薬をすべて使用し、ナチス・ドイツ軍の歩兵部隊に攻撃を加えた。

 チェーンガン、ミサイル、ロケット弾を駆使した。

 ナチス・ドイツ軍を3分の1撃破したところで、AH-64Dの弾薬が尽きたが、その後にAV-8J隊が現れた。

 AV-8Jは爆弾や対地ミサイルを使い装甲車やトラックを撃破し、逃げ惑うナチス・ドイツ兵たちの頭上から機銃掃射を加えた。

 一瞬にて、地獄絵図の完成だ。



 一方の進撃部隊はナチス・ドイツ軍の戦車大隊を射程距離におさめていた。

「来たな」

「目標を確認!」

 浦安と砲手の声が重なった。

 車長用のハイビジョンカメラが接近中の重戦車群を捉えた。

 おびただしい数の戦車に浦安は圧倒されたが、自衛隊の戦車は第3世代と第4世代戦車である。どんな数を取り揃えようと、所詮は10式戦車、90式戦車の敵ではない。

 こちらは相手を完全に捕捉しているが、敵は我々の位置を特定できないだろう。

 辛うじて、駆動音とキャタピラ音で、存在を把握できるだけだろう。

 断然こちらが有利である。

「各車。焦らず、確実に1輌づつ撃破していけ、いつも通り、落ち着いてやれ」

 浦安はそう言った後、砲手に先導の戦車を狙うように指示した。

 基本的に先導の戦車が先任指揮官が搭乗する指揮戦車であるからだ。

「照準よし」

 砲手からの報告に浦安はうなずいた。

「撃て」

 浦安の指示で砲手は発射ボタンを押し、120ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を発射した。

 APFSDSはティーガーⅠの正面装甲を貫き、砲塔を吹き飛ばした。

 10式戦車小隊と90式戦車小隊は正確無比の照準で先導にいるティーガーⅠ、ティーガーⅡを撃破していく。



 突然攻撃を受けたナチス・ドイツ軍の戦車大隊は混乱した。

 夜間行軍のため、速度をかなり落として前進していたら、何の前触れもなく砲撃を受けた。

 いきなり大隊長車が爆発し、大隊長車の近くにいたティーガーⅠ、ティーガーⅡが次々と撃破されていく。

 戦車大隊は混乱し、任意の目標を砲撃していた。

 だが、その砲弾が敵に当たる訳がない。

 その間も、敵の戦車の砲撃は確実にこちらの戦車の数を減らしている。

 状況を冷静に分析した1人の中隊長が各車に落ち着くように無線で連絡したが、指揮系統が混乱しているため、もはや無駄な行動であった。

 その中隊長も数10秒後に敵戦車の砲撃を受け、彼以下4人の乗員は炎に包まれた。

 半数近い損害を出してから、ようやく明るくなってきて、周囲が確認できるようになった。

 1キロ、2キロと視界を確保した。

 ここで、自分たちを狙っていた戦車の姿を確認し、ようやくまともな砲撃を行う事ができた。

 しかし、敵戦車は信じられない程の速さで、走行し、なかなか照準がつけられない。

 だが、敵戦車は正確な照準でこちらの戦車を砲撃している。



 明るくなった事から、停止間射撃から行進間射撃に切り替え、戦闘を続行した。

 10式戦車と90式戦車はコンピューター制御による照準で確実に目標を捕捉する事ができる。このため、走りながら撃っても、外れる事はない。

 稀に敵の戦車砲弾が命中するが、10式戦車も90式戦車の装甲を破る事ができず、すべて弾き返される。

 だが、敵もなかなかもので、降伏する気配をまったく見せる事はない。

「こいつら、かつての日本人のように玉砕するつもりか」

 浦安は敵の行動を見て、そう感じた。

 結局、ナチス・ドイツ軍は降伏する事がなく、最後の1兵が死に絶えるまで頑固に抵抗した。



 自衛隊とは別ルートで進撃をしていた海兵隊第33海兵遠征隊、戦車小隊に上空支援のAH-1Z[ヴァイパー]から、こちらに向かって来る戦車小隊の情報が届いた。

「レオパルト2A5だと!?」

 思わず、ジョセフ・エリック・アダムズ2(スタッフ)軍曹(サージャント)は聞き返した。

 最新型ではないとはいえ、現代ドイツ軍の戦車の名にさすがに驚きを隠せない。

「どれだけ戦力を送り込んでやがったんだ、ネオナチ野郎は・・・」

 よくもまあ、自国と世界の目を欺いてここまで戦力を拡大していたとは・・・驚きより開いた口が塞がらないほど呆れた。

 しかし、最高速度が約75キロに複合装甲、44口径120ミリ滑空砲と今までのナチス・ドイツの主力戦車とは比べものにならない脅威であるにも関わらず、ジョセフの心は奇妙な高揚感を覚えていた。

(こいつは、譲れない。レオパルトを撃破するのは俺たちだ)

 自衛隊は、史上最大の戦車マウスを撃破したらしい。

 それを聞いた時、ジョセフは自分たちがやりたかったと残念に思った。

 レオパルトなら、相手にとって不足はない。

 AH-1Zの情報では、レオパルト2A5は3輌。

 こちらは4輌だ。

 自分が、一騎打ちを望んでいるように、他の車長もそう思っているかもしれない。

 これは、早い者勝ちになりそうだ。



 レオパルト2A5、3輌は横隊で平原を進んでいた。

 後方に歩兵部隊の姿は無く、上空に支援の戦闘ヘリも戦闘機も無い。

 現代戦ではあり得ない事だった。

 戦車の性能が、いかに優れていても、歩兵部隊との連携と上空支援があってこその戦車戦だ。

 無謀を通り越して、無茶以外の何ものでも無い。

 それでも、中央の指揮戦車の車長席に座る、ネオナチス派ドイツ連邦陸軍少尉アクセル・ディックハウトは落ち着いた表情で車載モニターに映るM1A2戦車を眺めていた。

(彼らは必ず、戦車戦を仕掛けて来る)

 奇妙な事だが、彼はそれを信じて疑わなかった。

 それは、彼自身の望みでもあったからだが。

「世界1の戦車大国は、今も昔も我がドイツだという事を見せつけてやるいい機会だ」

 アクセルは、そうつぶやいた。

 双方の、射程距離に入った。



「ファイア!」

「ファイエル!」

 ほぼ同時の砲撃命令が下る。

 120ミリ滑空砲が同時に火を吹く。双方の戦車隊は散開し、回避行動に移る。

 外れた徹甲弾が地面を抉った。

「次弾装填!」

 自衛隊の戦車と違い、どちらも自動装填では無いため、装填手の装填速度が勝負だ。

 まれに、装甲に当たるが、複合装甲を貫けず致命傷を与えられない。

 戦術を度外視した、格闘戦の様子を見せ始めた。

 これには、上空待機中のAH-1Zも歩兵部隊もただ見守るだけしかできなかった。

 広大な平原を、轟音を轟かせながらM1A2とレオパルト2A5は激しい砲撃戦を繰り広げている。



 現代戦車同士の、激しい戦いは永遠に続くかと思われた。

「フン、さすがに、戦争大好き国家の軍だ。世界中の紛争に呼ばれなくても、首を突っ込んでいただけはある」

 アクセルは、M1A2の戦いぶりを皮肉な表現で称賛した。

 第2次世界大戦後、祖国は自分たちの非を受け入れた。

 それはいい、確かにナチス・ドイツが行った非人道的行為は許されない事だ。大日本帝国が行った事も同様だ。

 だが、戦勝国はどうなのだ?彼らは非人道的行為を行わなかったと、胸を張って言えるのか?

 戦後にしても、アメリカとソ連の対立で世界は2つに別れたではないか。

 大国同士の戦争は無かったが、その傀儡国家の代理戦争ともいうべき紛争でどれだけの血が流れた?

 結局、戦勝国とやらも、敗戦国と同じ穴の貉ではないか。

 アクセルは、それが許せなかった。悪党は堂々と悪党になるべきだ、正義の仮面なぞ被るべきではない。

「さあ、悪党同士の下らん戦いに、決着をつけよう」



「こいつは、厄介だな・・・」

 ジョセフは、つぶやいた。

 レオパルト2A5の機動性能、防御力は予測を上回る。

 これについては、ドイツが日本と同じく湾岸戦争時まで、軍の行動を防衛のみと憲法で定めていた事もある。

 戦闘データとは、実戦をして初めて得ることができる。

 情報があまりにも少なかったのもある。

「指揮戦車より達する」

 その時、小隊長の中尉(ファーストルテナント)より、通信が入った。

「使用砲弾を変更、使用砲弾M829E2」

「・・・劣化ウラン弾・・・」

 確かにこのまま、砲撃戦を繰り広げていては砲弾の無駄遣いだ。

 しかし、これまで普通の徹甲弾を使用していたのも、劣化ウラン弾が危険な重金属を弾芯に使用しているからだ。

 イラク戦争で絶大な破壊力を発揮したものの、その後の残留放射能による環境や健康に与える被害報告の真偽はともかく、元の世界と異なる世界で使用するのは正直遠慮したい代物だった。

「復唱はどうした?」

「り、了解。使用砲弾M829E2」

 ジョセフは復唱する。



「走り回るのにも飽きた。勝負をつけるか」

 アクセルは、全車輛にM1A2の正面から全速で突っ込むよう指示を出した。

 さすがに、M1A2の防御力は並ではない、距離を取っての砲撃では埒があかない。

 日米軍とも、カミカゼ特攻では散々な目に合っている。

 こちらが、ことさら突撃の気配を見せれば、特攻を疑うはずだ。

 そこに隙が生まれる。賭けには違いないが、レオパルトの機動性ならヒットアンドアウェーも不可能ではない。

「特攻を仕掛けるつもりか?」

 正面から全速で突っ込んでくるレオパルトに、ジョセフは血の気が引く思いだった。

 戦車そのものを、砲弾と化すなど正気の沙汰ではない。

 小隊長の命令がヘッドセットから響く。

「突撃!!」

「怯むな!ファイア!!」

 正面から突撃してくる、レオパルト2A5にM1A2の滑空砲が火を吹いた。



 勝負は一瞬だった、

 M829E2は、レオパルトの複合装甲を貫き爆発する。

 3輌のレオパルト2A5は炎に包まれた。

「ふ・・・さすが・・・は、悪・・・党・・・」

 アクセルのつぶやきは、炎の中に消えた。

 完結篇後篇第6章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 レオパルト2A5については実戦データがほとんどなかったため、私の想像で書いた部分がありますので、実際とは異なるかもしれません。

 次回の投稿は4月2日までを予定しています。

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