完結篇 後篇 第5章 最後の航空決戦 後篇
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
急遽改訂の後篇です。遅くなってすみません。
F-0[素戔嗚]。第5世代戦闘機F-22の機体をベースに、通常兵装とは異なる、新開発された兵装を装備した、ステルス戦闘機である。
機体の運動性能等はF-22とほぼ同性能だが、機体の軽量化により、格闘戦時の機動性能は大幅に上がっている。装甲は専用に開発された素材が使用され防御力は変わらない。
いずれはF-2と同じ、マルチロールタイプとして運用される予定であったが、試作型は対空戦闘に特化されているため、今まで出番が無かったのだ。
イヴァン・バラック少佐が操縦するSu-27は香西が操縦するF-0と交戦中だった。
「これが、日本の新型機の性能だと!」
イヴァンはSu-27が出せる最大速度で後ろについた日本の新型機を振り切ろうとしていたが、ぴたりとくっついて来る。信じられない飛行性能だった。
第4世代戦闘機の中で、F-15と並んで最高の性能を誇るこのSu-27が振り切れない。
イヴァンは冷たい汗が流れるのを感じた。
「この、新型機のパイロットの技量は並じゃない。ナオユキ並じゃないか」
シノハラも優秀なパイロットだったが、脅威は感じなかった。負ける気がしなかったからだ。
「・・・なら、この手はどうだ!?」
スロットルを下げ、速度を一気に落とし、機体を回転させる。
笠谷と初めて会ったレッドフラッグ・アラスカで、笠谷がフランカー相手に使った手だ。
あの時笠谷は被弾判定を受けていた状態だったが、自分は違う。
これなら、新型機の後ろを取れる。だが・・・
「甘い!」
香西は、減速回避を行ったSu-27を一気に追い越し、さらにスロットルを最大に加速する。
加速をそのままに、急旋回する。
「完治、大丈夫か?」
「全然、問題な~し。エネルギー充填完了っス」
「あのな~、気が散るから、そういうリアクションはするな」
すさまじいGに、来島に声をかけるが、いつもと変わらない様子に苦笑した。
「よし、一気に勝負をかける」
「ラジャ、兵装選択完了!!」
F-0は、猛加速で再び、Su-27の後ろを取った。
この時2人は、心の中で同じ事を考えていた。
(これ程の力量をもつパイロットと、F-15Jで勝負したかったな)と。
Su-27のコックピット内はロックされた事を報せる警報アラームが鳴り響く。
「ふん。日本は恐ろしい国だ」
イヴァンは後ろについている日本の新型機を見た。
(・・・私はF-15を手足のように扱えるように心掛けている・・・)
かつて、笠谷の言っていた事を思い出した。
この、新型機のパイロットも同じなのだろう。
新型機の下面から見た事もない大砲のような物が出ていた。それが閃光を発すると、次の閃光を見た時はイヴァンの身体は機体ごと蒸発した。
イヴァン機に使用された兵器は日米が総力を結集して開発した指向性エネルギー兵器である。
「なあ、篠原はなぜネオナチス派になったんだ?」
「・・・多分、あの人は俺たち自衛官の中で、1番現実が見えてたんじゃないですかね・・・変わっていく世界に目を背けて、今にすがっている政治家や国民が許せなかったんじゃないかと・・・正しいかそうじゃないかは置いといて、利己的な目的でネオナチになったわけじゃ無いと思いますよ。だからって、それを認める気はありませんけどね」
来島は、いつになく真面目な口調で答えた。
「つくづく、人間てのは面倒な生き物だな・・・」
ため息まじりに香西はつぶやいた。
笠谷はもう1機のSu-27と正面に対峙していた。
何度も交錯しあい、互いに相手の後ろを取ろうとするが、お互いがそれを許さない。
笠谷は、正直相手の操縦技術に舌を巻いた。
F-0の飛行性能に引けを取らない技術の持ち主は1人しか思い浮かばない。
「やはり、あのフランカーは・・・」
笠谷は後ろを取る事を断念し、Su-27の正面に出た。Su-27も正面から突っ込んでくる。
このまま、なにもしなかったら、確実に正面衝突だ。
レーダーを表示しているディスプレイを見れば2機の距離がどんどん近づいていく。
笠谷は前方にいるSu-27のパイロットがディルク・ゴルテン大佐だと予感していた。
この予感は当たっていた。
「笠谷さん。エネルギー充填完了しました」
北井からの報告に笠谷は指向性エネルギー兵器の発射ボタンに指をおいた。
日本神話の中で、荒ぶる男神の名を持つF-0が、最高の空の強者と戦えることに喜びに震えているのが、指先から感じられる。
それは、笠谷自身の心をそのまま映しているのかもしれない。
ディルクに対して、笠谷は何の恨みも憎しみもない。
ネオナチス派だったとしても、空戦の王者である彼に、尊敬と憧憬ともいえる感情は消える事はなかった。
だからこそ、全力で戦える事に喜びの様なものを感じていた。
それは、ディルクも同じだった。1度は撃墜したとはいえ、不完全燃焼のような勝利は、彼自身が不満だった。
1度敗れた男は、再び自分の前に立った。それに、奇妙な喜びを覚える。
「ディルク!決着をつけよう!」
「これで終わりだ!」
この時、笠谷とディルクの声が重なった事など2人は知る訳がない。
笠谷は指向性エネルギー兵器の発射ボタンを押した。
キィィィという音と共に、機体下面が光った。
指向性エネルギー兵器はわかりやすく言うならば光学兵器だ。光の速さでレーザーを発射させ、目標を蒸発させる。
光の速さであるため、2度目の光が見えたら、すでに命中しているのだ。
当然、回避も不可能。
ディルクが操縦するSu-27はあっさりと蒸発した。
しかし、簡単にやられる男ではなかった。
「!笠谷さん。ミサイル2基。接近中!」
北井の報告に笠谷は操縦桿を右に倒し、右に急旋回する。
「北井。合図したらチャフをばら撒け!」
「はい!」
笠谷は十分にミサイルを引き付けた。
「今だ!」
北井がチャフの発射ボタンを押す。
チャフがばら撒かれ、2発のミサイルのうち、1発がチャフにひっかかった。
だが、もう1発のミサイルはそのまま、接近する。
「北井。もう一度チャフだ!」
「チャフ残量は0です!」
「くそぅ!」
笠谷はぎりぎりまで引きつけて、回避飛行しようと考えたが、突然、頭の中に少女の声がした。
(カサヤさん。貴方はここで死んではいけない人です)
「リン。なのか?」
リンの声だった。
(カサヤさん。生きて下さい)
リンがそう言うと、目前まで迫ってきたミサイルが突然自爆した。
「いったい何があったんでしょうか?」
北井が驚いた口調でつぶやいた。
「リン・・・いや、精霊となったリンが助けてくれた」
笠谷の言葉に北井は首を傾げた。
笠谷は何も言わず、自分の腕に巻かれたサンニのくれた糸製のお守りを見た。
(・・・精霊が守ってくれるんです)
あの時、真剣な顔で自分にこれを渡してくれたサンニを思い出す。
自分を慕ってくれる、女性たちの思いが自分を支えてくれている。
笠谷はそれを強く感じた。
「笠谷2佐、やりましたね」
香西から、通信が入る。
「ああ・・・F-0の戦いは終わった・・・」
自分たちの切り札。それだけに、この機は空戦能力に特化しているため、F/A-18JやAV-8Jのように、様々な状況に応じて投入できないという欠点がある。
これからの戦闘に、Fー0の出番はないだろう。
最初で最後の航空決戦だった。
「スイマセン、戦闘後の余韻に浸っているところ申し訳ないんですが・・・敵戦闘機の猛攻に、F/A-18J隊が苦戦しています。援護に回る事を具申します」
来島の声に、レーダーディスプレイを確認する。
「そうだな、ブラックナイト1、残りの敵戦闘機群に当たる、俺に続け!」
「「ラジャ」」
2人の声が重なる。
アマテラス・イージスシステムを起動した[あさひ]は[やまと]を含む全護衛艦の全兵装、レーダーシステムを指揮下に置いていた。
「全システム、すべてオールグリーン」
担当官の報告が次々と入る。
「ターゲット5機、以降、A、B、C、D、Eと呼称。優先迎撃目標を算定します」
第1統合任務艦隊は、[あさひ]を頂点に[はつかぜ]、[うらづき]の三角の陣形の中央に、[やまと]と[ふそう]を配置している。
「来島、どう思う?」
「・・・[やまと]への、特攻。これ以外にないと思います。このまま引き返しても燃料が持たない上に、陸上に不時着も不可能なら考えられるのは1つかと」
「・・・だろうな、俺もそう思う」
対空レーダーの光点を眺めながら、稲垣はうなずいた。
「お前なら、どうする?」
「SM-2とESSMによる迎撃・・・ですが?」
「セオリー通りだが、上手くいくか?」
稲垣は、チラリと来島に視線を向ける。
「・・・・・・」
「何か思うところがあるなら、俺が責任を取る。やってみろ」
「わかりました」
来島は1人の担当士官に指示をだす。
「各ターゲットの[やまと]への攻撃ルートと到達予測時間を算定してくれ。それと、[ふそう]の高上艦長に連絡を」
稲垣の予想通り、ユーロファイタータイフーン2機とミグ3機は、散開し[やまと]への特攻を試みようとしていた。
厄介なのは、ユーロファイターとミグに搭載された空対艦誘導弾だ。
対処法はあるが、その後ろから本体が突っ込んでくる可能性が高い。
できれば、向こうの射程内に入る前に、撃墜したいところだ。
「各艦のSM-2、データ入力完了」
「CIC指示の目標、撃ち方始め!!」
[あさひ]副長が攻撃指示を出す。
「発射指令!!」
「撃ぇー!」
[あさひ]と[はつかぜ]からSM-2が順次、発射され5つの方向に向かって飛翔する。
[やまと]のCICでも、[あさひ]の対空レーダーが映し出されている。
「[ふそう]の、連動システムが解除されました」
「どういうことだ?」
島村が、声を上げる。
「秋笠司令より、[やまと]防衛の戦闘指揮を、[あさひ]に委ねると通信が入りました」
「・・・いいだろう。許可する」
板垣は少し考え込んだが、すぐに了承した。
「司令官!?」
「おそらく、稲垣艦長に何か考えがあるのだろう」
板垣は、対空レーダーに映る5つの光点を見つめながらつぶやいた。
([ふそう]に、アマテラス・イージスシステムの縛りを外して、行動の自由を与えることに、何の意味が・・・)
佐藤は、眼鏡をかけ直しながら考え込む。
(・・・あの人の思考は読めないな・・・)
多分、これは来島の具申を稲垣が受けたのだろう。また、奇想天外な事でも思いついたのかもしれない。
「5・4・3・2・1スタンバイ!」
担当士官のカウントに合わせて、光点が2つ消滅した。
「ターゲットB、E撃墜!SM-2、2基はチャフに妨害された模様。1基はなお、ターゲットAを追尾しています」
光点が、1つの光点に追いつこうとしている。
「5・4・さ・・・!?、ターゲットC撃墜?・・・これは・・・」
担当士官が、予想外の出来事に驚きの声を上げた。
「おそらく、CがAを庇ったと見るべきだな・・・これは・・・何がなんでも、特攻を実行する気か・・・」
稲垣の背中を冷たい汗が流れる。これ程の覚悟の敵を相手にするのは、恐怖すら覚える。
「残存機より、行動目標が分離、ASM(空対艦誘導弾)と、思われます!!」
「ESSM、撃ち方始め!!」
来島の指示で、[あさひ]指揮下の[はつかぜ][うらづき]からESSMが発射される。
すでに、距離が縮まりSM-2は、使用できない。
「ターゲットD、及びASM全弾撃墜!ターゲットA、ESSMをかわして、なお接近中!!ESSMの命中しにくい、海面すれすれを飛行していると思われます」
「[やまと]との距離10000を切ります!!」
担当士官が、悲鳴混じりの絶叫を上げる。
竜騎士と違い、音速の戦闘機ならあっと言う間の距離だ。
「・・・勝った」
来島は、口の端を釣り上げて笑った。
「「「???」」」
CICの全員が、来島に振り返った。
「ESSM、第2射撃ち方始め!」
[やまと]のウイングで見張り員は、こちらに迫り来る敵機を確認した。
「真っ直ぐ低空で本艦に、突っ込んできます!」
「回避行動!最大戦速!」
艦長の立吉一三男1等海佐が叫ぶ。
CIWSが旋回し、砲撃準備に入る。
「距離5000!!」
その時だった。
突然、海面が盛り上がり、複数の水柱が立ち上がる。
「対潜魚雷!?」
その映像をCICのモニターで見ていた佐藤が叫んだ。
突然立ち上がった水柱に驚いたのは佐藤だけではない。
ただ1機、生き残ったユーロファイタータイフーンのパイロットも、操縦桿を引き急上昇で躱した。
しかし、そこに[あさひ]と[ふそう]から発射された、ESSMが襲い掛かった。
「ターゲットA撃墜」
「ふうぅぅぅ」
[ふそう]のCICで、樹村はその報告を聞きながら、大きく息をついた。
突然、高上からとんでもない指示を出された時は驚いた。
「指示を出したら、対潜魚雷を射出しろ」である。
(何で?)と思ったが、まさかこんな使い方をされるとは思わなかった。
高上から指示されたのは、タイミングはこちらから指示をするから、魚雷を自爆させろ、だった。
しかし、こんな奇策の小道具に対潜魚雷を使われるのはどうも、釈然としないものを感じる。
魚雷の射出や自爆のタイミングなど、相当計算されているのだろうが、樹村からすれば、物陰から飛び出て驚かす子供の悪戯と同レベルにしか感じられないのだが・・・
「・・・よくもまあ、こんな手の込んだ事を・・・」
呆れた口調で佐藤はつぶやく。
「神風特攻は、外道の策だ。それだけに正攻法は通じにくい・・・外策には奇策で対抗するという訳だな・・・」
板垣も苦笑するしかない。
「私はあの姉妹の上官にも部下にもなりたくないですね・・・心臓がいくつあっても足りそうにない・・・」
島村はため息まじりにつぶやいた。
最後の航空戦は、敵戦闘機18機中12機を笠谷以下第1001飛行隊が撃墜、6機を[あさひ]を中心とした護衛艦隊が撃墜で幕を閉じた。
自衛隊側の損害はF/A-18Jが4機撃墜された。
1機を除く3機のパイロット6名は無事脱出、生還した。
完結篇後篇第5章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の26日までを予定しています。




