表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国のレギオン  作者: 高井高雄
103/113

完結篇 後篇 第4章 最後の航空決戦 前篇

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです

 F-0の戦闘が短すぎるため、前篇と後篇に章分けしました。このような事になってしまい申し訳ありません。

 E-2Dのレーダーが[やまと]に接近する航空機群を捕捉したのは、陸自の第1任務団が上陸してから、1日後であった。

「18機の戦闘機、攻撃機と思われる編隊が[やまと]に接近中!」

 レーダーオペレーターが報告する。

「[やまと]に緊急連絡!」

 機長の言葉に副操縦士が[やまと]に連絡する。



 E-2Dからの緊急連絡を受けた[やまと]では、スクランブルを報せる警報ブザー音が鳴り響いた。

 パイロット待機室に待機していたパイロットたちは部屋を飛び出し、飛行甲板に駐機しているF/A-18Jに飛び乗った。

 笠谷と北井もF-0[素戔嗚(スサノオ)]に飛び乗った。

 後部座席に座った北井はすべてのシステムをオンにし、慎重に計器類をチェックする。

「全システム異常なし」

 彼女から報告に笠谷はうなずき、自分もシステムをチェックする。

 異常はどこにもない。

「エンジン始動」

「エンジン始動」

 笠谷の指示に北井は復唱し、エンジンを始動させる。

 誘導員たちの誘導に従い、F-0を移動させる。

「[やまと]コントロール。発進準備完了」

「[やまと]コントロールから、ホワイトフォックス1。第2カタパルトに移動後、待機せよ」

[やまと]の副長兼飛行長の城嶋(じょうしま)七海(ななみ)2等海佐の声が通信機から聞こえる。

「ホワイトフォックス1から、[やまと]コントロールへ、第2カタパルトへ移動後、待機する」

 笠谷はF-0を第2カタパルトに移動させると、機を待機させた。

「最終チェックを行う」

 笠谷の指示に北井は機体の最終チェックを行った。

「すべて異常なし」

「ラジャ」

 北井から報告を受けた笠谷は[やまと]の管制室に連絡した。

「こちら、ホワイトフォックス1。最終点検終了。発艦に異常なし、発艦許可願う」

「こちら、[やまと]コントロール、ホワイトフォックス1、発艦を許可する。幸運を」

「ラジャ」

 笠谷は進路上に人影、障害物がない事を確認した。

「オールクリア」

 誘導員がゴー・サインを出した。

「発艦!」

 笠谷はスロットルを全開にし、エンジン出力を最大にした。

 F-0がものすごい勢いでカタパルトから射出され、そのまま飛び上がった。

 笠谷は操縦桿を引き、高度を高くとる。

「何度、操縦しても、すごい性能だよ。こいつは」

 笠谷はF-0の性能を感じてそうつぶやいた。

 F-0を与えられてから、何度も操縦、模擬戦を行っていたが、F-15JやF/A-18Jとは比べものにならない性能の良さに舌を巻いた。

 ようやく慣れて来て、今度はその操縦性能、戦闘能力に驚いた。

 機体のデータは頭の中に入れていたが、その能力はそれ以上だった。

 しかし、試作型とはいえこれ程の機の試験演習を任されるとは、水島海将補とは何者だ?と思ってしまう。

 ()(しま)3等空佐に言わせれば、東南アジアの紛争の状況しだいでは、戦闘データ収集のために、実戦投入も防衛省は考慮に入れていたらしく、水島は貧乏くじを引かされた・・・と、気の毒がっていた。

 何か、問題が発生すれば全ての責任を負わせるためだと。

 水島自身は、疫病神とは友達だから問題ないとあっけらかんとしていたが・・・

「ブラックナイト1。ホワイトフォックス1の後方につきます」

 通信機から香西(こうざい)(さとし)3等空佐の声が聞こえた。

 ブラックナイト1のコール・サインを持つ香西のF-0が笠谷機の後方についた。

[やまと]から発艦したF/A-18J隊もF-0の後方につく。

「[やまと]から01隊へ」

「ホワイトフォックス1。[やまと]どうぞ」

「敵の飛行隊は12機。恐らく戦闘機と攻撃機であると予想される」

[やまと]からの通信を受けると、笠谷は出撃したパイロットたちに言った。

「全機、今の通信は聞こえたな。相手は恐らく[フランカー]だ。[フランカー]は俺とブラックナイト1が引き受ける。お前たちは他の機だ。気を引き締めて行け。油断するなよ」

 笠谷の言葉にパイロットたちは気を引締めて「ラジャ」と返答した。



[やまと]艦載機が発艦していくのを板垣は挙手の敬礼で見送った。

(頼むぞ。笠谷2佐以下パイロットたち)

 板垣は心中の中でつぶやいた。

 全機撃墜し、全員無事に戻ってきてほしいのが、彼の本音だが、それが叶う訳のない願いである事は板垣も知っている。

 敵も必死なのである。今度の戦闘は今まで以上に厳しいものであると、自覚している。

「佐藤。敵の動きからどう見る?」

 板垣の問いに佐藤は少し考えてから、答えた。

「ここで戦闘機隊を出撃させたところを考えますと、ナチス・ドイツは最後の航空決戦を挑むのでしょう。狙いは我々・・・空母[やまと]です」

「航空決戦にしては戦闘機の数が少なすぎるのではないか?」

「恐らくドイツ軍には戦闘機がもうあまりないのでしょう。敵の移動要塞を核攻撃で消滅させたから、ミレニアム帝国本土には我々の戦闘機に対抗できる戦闘機、攻撃機がないのでしょう」

 右腕の言葉に板垣はうなずいた。

「私も君と同意見だよ。という事は・・・」

 板垣はある言葉を言おうとしたが、口にできなかった。

「これまでの経験から、敵の航空部隊は基地に帰還する事は考えてないでしょう。ミレニアム帝国本土にある航空基地はどれも遠いですから・・・スーサイド・アタックを仕掛けてくるでしょう」

 板垣が言おうとした事を佐藤が代わりに言った。

「それもあるだろうが、その攻撃隊が核兵器を積んでいる可能性があると思うか?」

 板垣は佐藤に顔を向けた。

 佐藤は考えることなく答えた。

「可能性は否定できませんが、私はないと思います」

「根拠は?」

「もし、仮にあったとしたら、クーリッタン島への戦略ミサイル攻撃の時点で核兵器を使用しています。しかし、使用されたのは通常弾頭だけ、NBC兵器は使用されませんでした」

 佐藤は少し間をあけてから、続きを言った。

「すでに我々は戦術核兵器を使用しました。にもかかわらず、戦略ミサイル攻撃では使われませんでした。この事から、彼らは核兵器を持っていないのでしょう」

「なるほど。状況証拠を並べればナチス・ドイツが核兵器を持っていない事につじつまが合う。しかし、お前はあるかもしれないという事が頭の中にあるようだな」

 板垣の指摘に佐藤はうなずいた。

「はい。あくまでも私の推理は状況証拠を並べただけで、これ、という物的証拠がある訳ではありません。だから、二重三重の防衛はしておいて損ではないでしょう」

 佐藤の言葉に板垣は踵を返した。

「そうだな。すでに我々は[レイク・エリー]と[きくづき]の2隻を失っている。彼らを過小評価するのは危険だ。今度はどんな策で仕掛けて来るかわからない」

「はい。また[あさひ]砲雷長の来島(くるしま)3佐に頼らなくてはなりません」

 佐藤の言葉に板垣はうなずいた。

「アマテラス・イージスシステムを使いこなせるのは彼女だけだ。彼女に賭けるしかない」

 アマテラス・イージスシステムに定着してしまった新防空システムはどういう訳か[あさひ]砲雷長にしか使いこなせないと噂されるようになった。

 板垣も噂を鵜呑みにしているわけではなく、ちょっと言ってみたかっただけである。

 佐藤は少し苦笑したが、何も言わず、板垣の後を追った。

 板垣と佐藤はCICへと早足で急ぐのであった。

 その途上、板垣の表情は険しくなった。

(水島海将補と高沢(たかざわ)3等海尉の得た情報が正しければ、奴は必ず現れる)

「司令官、どうされました?」

 佐藤が、怪訝な表情で聞いてきた。

「・・・君には、話しておくべきだろうな・・・」

 板垣は歩きながら、今まで自分の片腕にさえ秘密にしていた事を話した。

「・・・・・・」

 佐藤の歩みが止まる。

「・・・笠谷2佐は知っているのですか?」

「この事を知っているのは、俺と水島、島村、岩澤、高沢だけだ。笠谷は知らない・・・恐らく、彼の性格を考えればどれ程、証拠を積まれても信じないだろう・・・余計な心配をかけたくなかった・・・」

「・・・確かに・・・私もあの件には不審を持っていました・・・しかし・・・」

「佐藤、君はそれでいい。こんな、褒められない事に手を出すのは俺たち上位者の仕事だ」

 ため息まじりにつぶやく佐藤に答えて、板垣は歩みを早める。



 F-0のレーダーが18機の敵機を捕捉した。

「敵機発見!」

 後部座席にいる北井が報告した。

 笠谷もレーダーを表示しているディスプレイを見た。

「ん?」

 敵戦闘機、攻撃機を表示している光点からおかしなものを発見した。

 敵航空機群の中にIFF(敵味方識別装置)が反応する光点があった。

 コンピューターを操作し、IFFを発信している機を確認すると、笠谷は驚いた。

「こいつは・・・」

「まさか・・・」

 北井からも驚愕している声が漏れる。

 IFFを発信しているのはトルネード1のコール・サインを持つ篠原(しのはら)弘樹(ひろき)3等空佐だ。

 第2次ラペルリ攻防戦で行方不明になったはずの篠原機だ。

「トルネード1、応答しろ」

 笠谷は篠原機に通信する。

「・・・・・・」

 応答はない。

「篠原!応答しろ!」

 笠谷が叫ぶ。

「クッククク・・・」

 通信機から聞こえた笑い声は間違いなく篠原のものだった。

「どういうつもりだ。篠原!?」

 笠谷は自分の声が熱を帯びるのを感じた。

「なぜお前が!?」 

「俺もネオナチス派なんだよ」

 篠原は笑みを含んだ声で応答した。

「!!?」

「なぜ、日本人がナチスに?て、思ってるだろう・・・ネオナチスに国籍は関係ないんだよ。要はナチスの思想に賛同すれば、誰でも同志なのさ」

 篠原は再び笑い声を上げた。

「貴様は、貴様を信頼していた仲間を・・・国を裏切ったのか!!」

「仲間?・・・国?・・・くだらんな・・・」

 篠原は笠谷を馬鹿にしたような口調で、告げた。

「なあ、考えてみろよ。俺たちの国は命懸けで守るに値する国か?政治家どもは与野党で足の引っ張り合い、国民は国民で誰が平和を守ってやっているか考えもしないで、のほほんとしてやがる。挙句、自衛隊は違憲だの、税金泥棒だのとぬかしやがる。こんな奴らを守るのは馬鹿馬鹿しいと思わんか?」

「篠原。お前、そんな事で」

「そんな中、ネオナチス派の連中にあった。彼らは俺の考えを理解してくれた。そして、平行世界に飛ばされた。幸運な事にネオナチス派が大勢いる世界にな。それなら、やるべき事はわかっている」

 篠原は再び笑みを含んだ声で言った。

「俺は俺のやりたいように生きる。仲間(ネオナチス)とともにな」

「キスカ島での待ち伏せも、第2次ラペルリ攻防戦もお前が流したんだな」

「ああ。そうだ。しかし、人生はうまくいかない事ばかりだ。お前たちは予想以上の抵抗をし、俺の計画を打ち破ってくれた。最初のキスカの時に俺の計画通りなら、お前らは全滅していた。だが、結果はF/A-18Jが4機しか撃墜できなかった。ラペルリ攻防戦でもそうだ、本来ならアンタは死んでいたはずだった」

「貴様の補佐の(まき)(かわ)2尉はどうした?」

「ああ、俺の説得に耳を貸さなかったから、SSに引き渡した。どうなったかは俺も知らないな」

 篠原の言葉に笠谷は頭のネジが飛んだ。

「貴様は軍人でも自衛官でもない。ただのテロリストだ!」

「なんとでも言え。それより、その戦闘機は見た事がないが・・・第2統合任務隊のお持ち込みか?」

「貴様に答える義務はない!」

「まあ、今さらどうでもいいがな、あんたらには[やまと]と共に消えてもらう」

「貴様の思い通りにはさせん!!」

「ちょ~っと、失礼」

 急に、通信が割り込んできた。

「コラ!!完治、勝手に・・・」

 香西の声が聞こえた。

「まあまあ、いいじゃないスか」

 香西の補佐の来島2尉は、いつもの軽い口調で答える。

「完治?ああ、あの変人砲雷長の弟か・・・」

「そうそう、変人の弟。んで、あの大変人海将補の弟でもあったりする・・・って、そんな事を言う奴はおねーちゃんに言いつけるぞ」

「・・・自分で言ったんだろ」

 ふざけた口調の来島に、篠原は呆れた口調で応じる。

「・・・大変人を甘く見るなよ、あの人のお友達関係は常識外れだからな。第1統合任務艦隊の消失事件と、ドイツ連邦海軍の艦隊の消失事件が酷似してるのに目を付けて、密かに調査していた、ドイツ連邦軍の情報員とかと地味にお知り合いだったりするし・・・まあ、そんな変友関係から、元の世界で、ネオナチが世界中の物陰でコソコソしてるってのは、知ってたみたいだがアンタの事も、そのお友達から知らされてたってさ。んで、こっちに飛ばされてキスカの戦闘データから、アンタが情報を流したからだと気付いたものの証拠は無い。板垣司令官も、内通者がいるのに気付いていたのか警務官の高沢さんに調査させていたが、これも証拠が無い。だったらどうする?ネズミが自分から出て行くように仕向ける・・・」

 キスカ島に突然現れたSu-27、板垣は疑問を感じていた。まるで自分たちの行動を読んでいたかのようだ・・・と。

 内通でもない限り、ここまで迅速に対応できないはずだ。

 そこで、考えたくもない事だったが高沢に、密かに調査させていた。しかし、情報が少なく頭打ちの状態だった。

 そんな時に、第2統合任務隊が召喚されてきた。偶然とはいえ、水島の情報が突破口となる。

 しかし、状況証拠だけでは篠原を拘束できない。そこで、水島の具申を受け、わざと第2統合任務隊の情報を篠原に流した。篠原が自分で苦労して手に入れたかのように錯覚させるよう小細工を弄した。

 水島は、ほかの全てを奪われても、F-0の情報だけは守るつもりだったから、それは徹底していた。同時に高沢も動く、警務隊が調査の手を伸ばしているように見せかけたのだった。

「上手く手土産を持って逃げれたと、思ってたんだろうが・・・全部、板垣司令官と姉貴にはお見通しだったって事なんだよ。ここに、アンタが出しゃばってくる事もな、ナチ連中にとって、アンタの利用価値はこっちに居てこそだ。情報を仕入れたり、内部工作をさせたりな・・・姉貴が言ってたぜ、粗大ゴミの処分にさぞかし困るだろうな、とね。第2統合任務隊の情報など、第1統合任務艦隊と米海軍の情報に比べれば大した事は無い、ナチスの上層部はそう判断するだろうとな。アンタは姉貴の手の上で踊ってただけだよ、間抜け野郎・・・そうそう、この通信回線オープンだから。せいぜい後ろに気を付けな、今頃怒り狂っているのが最低1人はいるかもな」

来島の声音はふざけた言葉とは裏腹に低く冷たい。

「俺も、貴様を地獄に叩き落としてやりたいほど、怒ってるがな」

 01隊のパイロットの1人が通信に割り込んだのはその時だった。

「ホワイトフォックス1。こいつは自分に任せてください」



「ホワイトフォックス1。裏切り者は私が引き受けます」

 通信に割り込んだのは第1001飛行隊所属の大森(おおもり)3等空佐だった。

 篠原の同期であり、01隊のナンバー3の実力を持つパイロットだ。

「笠谷2佐。貴方は[フランカー]を墜としてください」

 笠谷はディスプレイを見る。

 敵戦闘機群の中に2機のSu-27[フランカー]が2機いる。

 他の戦闘機はF/A-18Jで対処できるが、[フランカー]だけはF-0でなければ対処できない。

「笠谷2佐!行ってください。こいつは俺が」

「ラジャ。篠原は任せる」

「ありがとうございます」

 笠谷は大森に任せ、今度こそSu-27を撃墜してやると決意するのだ。

「篠原さん」

 後部座席にいる北井が怒りに満ちた口調で通信機に言った。

「貴方は最低よ」



「加藤さんと蒔川の仇、取らせてもらう!!」

「やれるものなら、やってみるがいい!」

 大森と篠原の空戦はまさしくエース同士の対決だった。

 同じ性能、同じ戦闘技術。

 後ろにつけば、すぐに振り切る。

 それが何度も繰り返された。音速をこえる一騎打ち。

 他の戦闘機群もすでに敵味方入り乱れての空中戦を展開していた。

 そんな中で2機の同型機の戦闘は異様だった。

 日の丸をつけた2機のF/A-18J同士が戦う。訓練であれば見慣れた光景だが、これは訓練ではない。

「これで、チェックメイトだ!」

 大森機の後ろを取った篠原はAAM-5を選択し、大森機をロックオンしようとした。

 大森は操縦桿を押し、急降下した。

「逃がすか!」

 篠原は不敵な笑みを浮かべた。大森の得意の戦法だ、今さら引っかかるものか。

 篠原は勝利を確信した。

「!!?」

篠原は何かを感じた。とっさに操縦桿を倒し、急旋回する。

先ほどまで、篠原機がいた空間を影が高速で通り過ぎた。

SM-2だ。

「あの女の仕業か!正気か!?」

 航空戦の真っ只中に対空ミサイルを撃ち込むような、暴挙に出るのは1人しかいない。

 しかし、なぜか誰も味方を誤って撃墜するとは思わなかった。

 彼女なら、そんなヘマはしない。

 SM-2は1機のミグを直撃し、海に叩き落とした。

(・・・せいぜい後ろに気をつけな・・・)

 完治のあの言葉は、自分にではなく姉に対するメッセージではなかったのか・・・

「あの姉弟、俺の事を馬鹿にしやがって!!」

 それは、ほんのコンマ数秒だった。篠原の前から大森機が消えた。

「なんだと!?」

 その時、篠原機のコックピット内にミサイル接近のアラーム音が鳴り響く。

 フレアをばら撒く余裕すら与えず、一瞬の隙に後方に回り込んだ大森機が放ったAAM-5が篠原機に直撃する。

 残っていた燃料、AAM、増槽に誘爆し、篠原機は跡形もなく吹っ飛んだ。

 無数の破片が海上に降り注いだ。

「篠原、お前は何が望みだったんだ?」

 無数の破片が浮かんだ海上に目をやって、大森はつぶやいた。

 仲間を裏切ってまで、ネオナチスに何を見出していたのか。それを知る者はいない。



「トルネード1。撃墜」

[あさひ]CICで、いつもとは違う声で対空レーダー員が報告をする。

「引き続き、対空警戒を厳にせよ。敵機のほうが数が多い、何機かはこちらに向かってくるはずだ」

 稲垣の指示に、レーダー員は対空レーダーに目を凝らす。

(動揺している・・・)

 稲垣は心中でつぶやいた。

 あの、通信に衝撃を受けなかった者はいないだろう。

 自分も、そうだ。

「君は知っていたのか?」

 自分の隣に立つ砲雷長に声をかけた。

「いいえ、姉は弟には事実を告げたようですが、私には何も・・・」

「そうか・・・」

 さすがに、あの状況でのSM-2発射の具申には驚いたが、来島の指示は的確だった。

「18機のうちの5機が[やまと]に向かって高速で接近してきます!」

「対空戦闘用意!!アマテラス・イージスシステム起動!!」

 稲垣の命令を、来島が復唱する。

 対空戦闘の火蓋が切って落とされた。


 完結篇後篇第4章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月22日まで予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ