完結篇 後篇 第3章 ミレニアム帝国本土上陸戦
みなさん。おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
今週の前半は暑かったですが、後半はすごく寒いですね。早く暖かくになってほしいです。
ミレニアム帝国が朝を迎えたと同時に、空から恐るべき速さで鉄の竜騎士が襲来した。
その数、20騎。
20騎の戦闘能力は恐るべきものであった。
ミレニアム帝国海岸線の上空に来襲したのは空母[やまと]から発艦したF/A-18Jだった。
F/A-18J隊は海岸線にあるミレニアム帝国軍駐屯地や物資集積所に魔道兵器による空爆を加えた。
海岸線にあるすべての駐屯地、物資集積所を叩くと、反転し、上陸地点である海岸に機銃掃射と残った爆弾を投下した。
上陸地点の海岸線には防衛のためにかなりの数の兵力が待ち伏せをしていた。
しかし、竜騎士団はすでに無く、対空兵器を持たない彼らにはなす術がなかった。
弓兵部隊と、弩弓部隊が上空に向かって矢を放ったが、なんの効果もなかった。
F/A-18J隊は、防衛部隊にある程度の打撃と心理的ダメージを与えるために、海岸線の攻撃を行った。
海岸線に配置されたミレニアム帝国軍は悲惨だった。
空から襲撃する敵に対し、対抗する術がないミレニアム帝国軍兵士たちはじっとそれにたえるしかない。
穴を掘り、そこに潜んでいる兵士たちは爆風で頭をもっていかれないように身体を小さくする。
ASM(空対地ミサイル)の直撃を受けた塹壕からは、兵士の悲鳴が聞こえ、人間の焼け焦げる異臭が漂う。轟音と爆音により、兵士たちの心に容赦のない、恐怖と苦痛が刻まれた。
(なぜ、皇帝軍は来ない?)
彼らの心に、その疑問が浮かぶ。
皇帝軍でなければ、レギオン・クーパーに敵うはずがない。
恐怖に震えながら、心の中で叫び続けた。
しばらくすると、永遠と思われたこの攻撃も終わり、鉄の竜騎士たちが海の向こうへと消えっていった。
その光景を見て兵士たちは胸を撫で下ろした。
「やっと、終わったのか・・・」
1人の兵士がつぶやく。
「音が遠くなっている。そのようだな・・・」
隣にいる兵士がつぶやく。
「いったい何がどうなってるんだ。少し前まで、俺たちの国が攻勢だったのに、いつの間にか攻められる側になっている」
兵士が槍を握る力を入れる。
「そんなの俺が知るか。上からの指示はここを守る事だ。それ以外にない」
「俺たちの国は負けるんだな・・・」
「おい」
兵士の言葉に同僚が窘める。
「おい!貴様!いま、なんと言った!」
話が聞こえていたのか、部隊長が剣の柄に手をかけて、怒鳴った。
「い、いえ!何も!」
兵士は慌てる。
「嘘をつけ!貴様はいま、我が帝国が蛮族に滅ぼされると言ったな!」
「そのような事は申しておりません!」
兵士が泣きそうな表情で否定する。
「黙れ!この反逆者め!」
部隊長は剣を抜き、兵士の首を斬り落とした。
頭が地面に落ち、身体は血を噴き出しながら、地面に倒れた。
「いいか奴隷共!ここに反逆者がいるのなら、正直に答えろ!すぐにこの反逆者の後を追わせてやる!」
部隊長は剣を高く上げ、叫んだ。
「「「・・・・・・」」」
兵士たちは何も言わない。
言えるわけがない。ここで何かを言えば、すぐにあの兵士のように地面に倒れる。そんな運命を誰が受け入れる。
「ここに反逆者はいないのだな!」
部隊長はギロリと兵士たちを睨む。
言い出す者は1人もいなかった。
「よし、作業にかかれ!」
兵士たちは破壊された塹壕の修復と、戦死した同僚の遺体を穴から出した。
生き残った兵士たちは戦死した同僚たちが羨ましく思った。ここで戦死していれば、無謀な戦いをしなくてすむのだから。
生き残った彼らは明日に始まるであろう地獄に身を捧げなくてはならない。
板垣がミレニアム帝国本土上陸を決断したのは弾道ミサイル迎撃成功から、3日後の事であった。
念のためノインバス王国やマレーニア女王国等に講和工作が行われていないか、確認したが各国からは、状況に変化なし、と伝えられた。
ミレニアム帝国とは、今だに停戦交渉が行われていない、つまり作戦通りに本土上陸作戦を開始する事になる。
ミレニアム帝国本土上陸作戦はいくつかの段階を踏んだ上で行われる。第1段階はF/A-18J隊による空襲で軍事施設を徹底的に叩く。その後、第1上陸目標に機銃掃射等を行い可能な限り損害を与える。
第2段階は米海軍ミサイル駆逐艦[ズムウォルト]とミサイル駆逐艦[ステザム]による艦砲射撃とトマホーク巡航ミサイルによる攻撃で、敵の抵抗力を奪う。
十分な艦砲射撃を行ってから第3段階に移る。
もっとも防衛線の固い海岸線に米海兵隊が強襲上陸を行いいっきに敵の瓦解と戦意を喪失させる。
米海兵隊にはM1A2戦車や榴弾砲があるため、歩兵大隊と連携して、橋頭堡を確保しその後からやってくる敵の奪還部隊、増援部隊を殲滅できると期待されている。
しかし、米海兵隊の作戦行動は、その後の作戦への布石なのだ。
アメリカ海軍第7遠征打撃群は夜明け前に上陸地点から5000メートルまで近づき、海岸線に艦砲射撃を開始した。
強襲揚陸艦[ボノム・リシャール]から発艦したF-35Bが海岸線全域に爆弾を投下し、機銃掃射で障害をできる限り排除した。
ForceReconの1個小隊とこの作戦のために先に隠密上陸していた第33海兵遠征隊のB中隊が側面から奇襲し、敵を混乱させた。
敵が混乱したところで、[ボノム・リシャール]からAAV7A1に分乗したA中隊が出撃した。
A中隊が出撃したと同時にC中隊を乗せたCH-46EとV-22が発艦し、敵の後方に回り込み、強襲する。
AH-1Z[ヴァイパー]が発艦し、地上部隊の近接航空支援を行う。
AAV7A1が砂浜に上陸すると、兵員室にいた海兵隊員が素早く展開し、上陸地点の安全を確保する。
A中隊が展開したと同時に潜んでいたミレニアム帝国兵たちが飛び出してきたが、小銃から重機関銃が火を噴き、帝国兵たちがバタバタと倒れていった。
上陸地点の安全を確保すると、[ボノム・リシャール]に連絡し、LCACが出撃する。
LCACにはM1A2が乗っており、いっきに橋頭堡を築く。
M1A2が砂浜に乗り上げるとガスタービンエンジンを響かせながら、ミレニアム帝国の土の上を走行する。
戦車が上陸してから、ミレニアム帝国軍は巧妙に隠蔽した魔道砲を出現させた。奇跡的に空襲から助かった数少ない魔道砲だ。
「急いで、装填しろ!敵は目の前だぞ!」
魔道砲部隊の部隊長は装填を急がせる。
魔道兵は貫通能力を高める詠唱と破壊力を上げる詠唱を唱える。
「砲撃準備完了!」
魔道兵の報告に敵の魔道兵器に向けて、砲撃命令を出した。
「撃て!撃て!」
魔道砲が吼え、砲弾がM1A2の装甲に命中した。
だが、残念な事に何も起きなかった。カン!という音と共に砲弾は弾かれた。
現代の主力戦車(MBT)の装甲は魔道砲レベルの砲弾では貫く事はできなかった。
M1A2の砲身がゆっくりと旋回し、魔道砲陣地に向いた。
榴弾が発射され、魔道砲陣地はまばゆい炎に包まれた。
部隊長たちは一瞬のうちに絶命した。
強力な敵が強襲上陸した事はすぐに、ミレニアム帝国全軍に報告された。
ミレニアム帝国首脳部は敵が上陸したところに今後も上陸するだろうと予測し、全土に配置した守備隊に必要最低限の兵力だけを残し、兵を出すように通達した。
ナチス・ドイツ軍、ドイツ連邦軍の将兵たちもアメリカ海兵隊が上陸した海岸線に今後も大部隊が上陸すると推測した。
これは、アメリカ海兵隊が海外における緊急展開部隊であるから、それを疑う者はいなかったのだ。
軍事にくわしくない人は陸軍と海兵隊の違いがわからない人が多い。戦争になれば陸軍も交戦国に遠征するが、主任務はあくまでも国土の防衛だ。それに対し、海兵隊は始めから海外に遠征するように創設された軍だ。
わかりやすく言うなら殴り込み部隊である。
最高司令官から遠征が発令されると、真っ先に出動するのが海兵隊だ。
そんな部隊がもっとも堅固な防衛線を構築している海岸線に上陸するのだから、そこを橋頭堡にし、ミレニアム帝国内陸部に侵攻すると予測するのは当然である。
米海兵隊が強襲上陸した海岸線から離れた海外線で、朝日が昇り始めた。
兜を脱いだ1人の兵士が塹壕から顔を出した。
敵が上陸したとの、通達はあったものの、ここはそこからかなり離れている。
「早く飯の時間にならんかな・・・」
大きく伸びをしながら、大あくびをする。ここには、敵は来ないと守備隊長が言っていたから、呑気にそう思い込んでいた。
何気なく海を見て、彼は目を疑った。
海のはるか彼方、島を思わせる巨大な灰色の軍艦を中心に鉄甲艦、戦闘艦等おびただしい数の軍艦が、ずらりと並んでいたからだ。
彼に理解できたのはそれが、敵の軍艦である事だ。
味方の艦隊はすでに全滅している。だから、これ程の艦隊がここに現れる訳がない。
そして、鉄甲艦や戦闘艦は船腹をこちらに向けて、砲撃態勢を取っている。
「ひっ!!」
これが、何を意味するのかを理解した時、悲鳴混じりの吐息をもらした。
「敵襲!笛を鳴らせ!」
兵士は絶叫した。
「板垣司令官より、作戦開始を許可する。との命令です」
通信士の報告に、第2統合任務隊旗艦[ながと]の艦橋で水島はうなずいた。
「全艦、攻撃始め!」
「全艦に攻撃開始命令を」
水島の命令を三枝が復唱する。
[ながと]から、大音量の警笛が響く。これなら、手っ取り早く砲撃命令を伝達できる。
それを合図に、すべての艦の砲門が一斉に咆哮した。
海岸線に、無数の水柱と爆炎が上がった。
それは夜間にひそかに海岸線の沖に接近した第2統合任務隊と第2輸送隊、群島 諸国聯合艦隊から派遣された陸上支援隊だった。その後方には挺進団を乗せた輸送船が待機している。
これが、ミレニアム帝国本土上陸作戦の最終段階である。まず、米海兵隊が強襲上陸し、敵に新たなる上陸はないと思わせて、ミレニアム帝国全土の守備隊が米海兵隊殲滅のため、上陸地点に集結したところで、別の海岸線に大部隊を上陸させる事だ。
上陸部隊は神谷篤陸将指揮の第1任務団と笹木野吾郷1等陸佐指揮の第2任務群。群島諸国連合軍から挺進団である。
まず、最初に艦隊による一斉艦砲射撃による砲撃で守備隊に可能な限りの損害を与える事だ。
次に[やまと]から発艦したMA-1[キラー]によるピンポイント攻撃で守備隊に打撃を与える。
攻撃目標は移動式魔道砲、投石器である。
その後、航空護衛艦[ながと]から発艦したAV-8J隊に予備爆撃と機銃掃射を行い上陸地点の安全を確保する。
[ながと]から発艦したAV-8J隊は作戦通りに海岸線にいる守備隊に爆弾と機銃の雨を降らせる。
無人航空機(UAV)から情報をリアルタイムで受けているため、その攻撃は正確だった。
「海岸線の掃除は完了した。予定通り上陸を開始せよ」
AV-8J隊指揮官である木曾川詩織3等海佐は[ながと]に報告した。
「了解。挺進団を上陸させる。上陸地点への近接航空支援を行うように」
「ラジャ」
小舟に乗り移った挺進団の兵士たちは力いっぱいオールを漕ぎ、上陸地点に向かった。
上陸地点から数本の弓矢が飛来するが、大した事はなかった。
艦砲射撃と上陸前の航空爆撃がかなり効いているようだ。
「いいか!今のところ、敵から大規模反撃はないが、油断するな!これは俺たちを油断させる戦法だ。上陸したところをいっきに叩くつもりだ!」
部隊長が叫ぶ。
「上陸後!俺たちはラバリィー隊を守りながら、展開する。ラバリィー隊は俺たちの背後で、獲物を狩れ!いいな!」
「「「はっ!」」」
兵士たちが叫ぶ。
小舟の中にはサンニの姿もあった。
彼女はレミトンM700に視線を落とした。
サンニの相棒であるM700は万全な状態だ。いつも通りにやればそれでいい。
「もうすぐ!上陸だ!」
部隊長の言葉にサンニは顔を上げた。
砂浜までもうすぐのところまで来ている。
小舟が砂浜に乗り上げると、挺進団の兵士たちは素早く展開した。
狙撃部隊であるラバリィー隊は歩兵部隊の背後で匍匐ないし膝撃ちの姿勢で射撃を行った。
上陸開始と同時にここまで生き残っていたミレニアム帝国兵士たちがそれぞれの得物を持って襲い掛かって来たが、展開した挺進団の兵士たちの装備したAK101、M16、M1903A3、M3A1等が火を噴き、次々と絶命していった。
海岸線はたちまち、地獄と化した。
ラバリィー隊は遠くにいる弓兵を見つけては確実に仕留め、歩兵部隊はゆっくりと前進しながらミレニアム帝国兵を排除していく。
サンニは伏せ撃ちの姿勢でM700のスコープを覗いた。
「見つけた」
彼女は、M700の引き金を引いた。
銃声と共に7.62ミリライフル弾が飛び出し、狙った兵士の頭部を吹き飛ばす。
(1人目)
サンニは心中でつぶやきながら、2人目、3人目を仕留めていく。
武器の差はあるが、挺進団も無傷という訳にはいかなかった。ボルトハンドルを引いている最中に敵に斬られたり、矢が刺さたり、と少なからず犠牲は出た。
砂浜をほぼ制圧した挺進団は海上で待機しているレギオン・クーパーに合図を送った。
挺進団から合図を受けた輸送艦群はLCACを出撃させた。
LCACはジグザグ航行しながら、砂浜に近づいた。
なぜ、自衛隊が挺進団より、先に出撃しなかったかと言うと、挺進団の団長アーノルが自衛隊側に強く主張したからだ。
レギオン・クーパーのために上陸地点を確保する。だから、先陣を我々に任せてくれ、と。
いくら陽動作戦が成功していようとも、上陸後は激戦になると予想した自衛隊側はアーノルの申し出を却下するはずだったが、彼の説得に結局は折れた。
LCACは砂浜に乗り上げると、10式戦車と90式戦車を吐き出し、再び輸送艦に戻った。
輸送艦から発艦したCH-47JAも上陸地点に着陸し、普通科隊員を展開させた。
敵の抵抗はほとんどなく、陸自(陸上自衛隊)の第1陣が上陸した後には、ミレニアム帝国軍の戦意は喪失しており、抵抗という抵抗はなかった。
もともと守備隊の数も少なかったから、最初の支援砲撃と爆撃で半数以上を失い、挺進団との戦闘で戦う気力を失っていた。
あっさりとした上陸作戦に陸自の隊員たちは拍子抜けするほどだった。
「これからが、正念場だ。ここは、敵地だからな」
司令部で、神谷は表情を引き締めた。
そこに、温厚な大学教授の雰囲気はなく、軍人としての厳しさがあった。
「戦車戦では、無類の強さを誇るナチス・ドイツと真っ向から勝負する事になりますからね・・・戦術しだいでは、10式や90式でも苦戦を強いられる事にもなりかねません」
松来清治1等陸佐が、同意する。
「ナチスなら、女性や子供も使って来るという可能性も、考慮しておくべきでしょう」
考えたくもない可能性に、笹木野の表情も険しかった。
これは、末端の士に至るまで、全自衛官に認識されていることだった。
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誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
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