完結篇 後篇 第2章 小さな炎
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
クーリッタン島陥落から2週間後、ミレニアム帝国南部で大規模な武装蜂起が行われようとしていた。
解放軍リーダー、アルトゥール・ローレンツ・フォン・コベリウスは蜂起前に彼について来てくれた者たちにこう演説した。
「ミレニアム軍の侵略により、僕たちの国は何の抵抗もできず、敗北した。多くの民が戦後、奴隷にされ、苦しい生活をしている。しかし、民の多くは元の暮らしに戻る事を願っている。僕たちはレギオン・クーパー(異世界からの軍勢)から力を与えられた。この力はミレニアム軍に対抗できる力だ」
アルトゥールはレギオン・クーパーの間諜であるハリーを一瞥した。
「ここまで力を貸してくれた皆に感謝の言葉を言いたい。ありがとう。そして国を取り戻したら、皆には僕と共に国を作り直すという大仕事が待っている。だから、今から言う事は可能な限り守って欲しい。死なないでくれ」
アルトゥールの言葉に彼に従う者は一斉に「御意」と頭を下げた。
アルトゥールに従うものに、彼の言葉に疑義を持つ者はいない。
「じゃあ、僕からは以上だ」
アルトゥールが言い終えると、今度は軍師であるマルティン・フォン・クラウゼビッツが広げられたミレニアム帝国の地図を見下ろしながら、口を開いた。
「まず、我々には拠点が必要だ」
全員がうなずく。
「拠点の重要性は言うまでもない。我々だけが蜂起しても、数で勝るミレニアム帝国軍の前では無力。我々が拠点をもつ事はこれまでミレニアム帝国に苦しめられた民衆に希望と蜂起の機会を与える事になる」
「それで、どこの城塞を叩く?」
1人の問いに、マルティンは指揮棒で城塞都市の1つを指した。
「バンザラ城塞」
マルティンの言葉に全員が満足したようにうなずいた。
バンザラ城塞はミレニアム帝国が建国される前まで、ある小国の王城であった。宗教国家であったこの小国は国外に多くの信者を持ち、現在のミレニアム帝国南部の象徴的な国でもあった。
ミレニアム軍に占領されてからは宗教は廃止され、財産等はすべて没収された。しかし、南部地方にいる多くの民衆はバンザラ城塞を神の城塞と信じている。
城塞の守備隊の数もさほど多くもなく解放軍の兵力なら十分に奪取は可能だ。
「バンザラ城塞が落ちれば、南部にいるミレニアム帝国臣民の心を掴む事が可能だ。我々に続き、多くの民衆が立ち上がるだろう」
マルティンが強い口調で言った。
「しかし、それだけ重要な城塞ともなれば、皇帝軍自らが出張ってくる可能性があるぞ」
1人の言葉にマルティンは薄く笑った。
「その心配はない。皇帝軍は海から攻めてくるレギオン・クーパーと群島諸国連合軍に備えなくてはならない。我々に力をさく余裕などない」
マルティンの言葉に全員が納得した。
確かにその通りなのだ。ミレニアム帝国軍の艦隊と竜騎士団がレギオン・クーパーではなく、群島諸国の1個艦隊に敗れたのだ。
ミレニアム帝国の衝撃はとても大きかった。
マルティンの言う通り、皇帝軍が小さな反乱1つに集中する事はできない。
「そこで、殿下。1つお願いしたい事があります」
「なんだい?」
「我が軍の名前を考えて頂きたいのです」
「名前?」
アルトゥールは首を傾げた。
「はい。解放軍ではありきたりで、インパクトに欠けます」
マルティンの言葉にアルトゥールは少し考えてから、口を開いた。
「カリューサ軍ってどう?」
アルトゥールの言葉に全員が賛同した。
「では、我が軍はカリューサ軍と呼称します」
マルティンが言った。
アルトゥールが言ったカリューサというのは、大陸に伝わる古い言葉で、子供に近づく悪霊を退治する矢、という意味である。
「マルティン」
会議が終わり、カリューサ軍の兵たちがそれぞれの準備に取りかかるのを、指揮していたマルティンにアルトゥールが声をかけてきた。
「僕たちは、ついにここまで来る事ができたんだね」
「御意」
「ロザーリエとフランツ兄様は喜んでくれるかな?」
「・・・・・・」
ロザーリエとフランツは、マルティンの妻と息子の名だ。
アルトゥールにとっては、乳母と乳兄弟の関係になる。
フランツとアルトゥールは、主従であったが、その関係は本当の兄弟のようだった。
この2人は、コベリウス皇国がミレニアム帝国に滅ぼされた時に命を落とした。
アルトゥールを逃がすため、ロザーリエはフランツをアルトゥールの身代わりにして追手を引き付け、2人で焼身自殺を図り、遺体の確認を困難にする事で追手の目を欺いたのだ。
そのため、幼いアルトゥールは、マルティンとともに、生き延びることができたのだった。
「マルティン、僕はねコベリウス皇国を再興するためだけが目的じゃないんだ。この大陸の人々が種族に関係なく、幸せに仲良く暮らしていける国を造りたいんだ・・・ミレニアム帝国に大陸の国々が蹂躙されたのも、人々の内にあった他種族への偏見と差別の心に付け込まれたからと思うんだ。もちろん、時間はかかるだろうし、ただの理想論と笑う人もいるだろう。でも、カリューサ軍に参加してくれた人たちは、種族の壁を越えて1つの目的のために集ってくれた・・・だから、不可能じゃないと思うんだ」
「殿下・・・」
「2人が、安心して安らかに眠れる世界を造る。この戦いをその第1歩にするつもりだ、だからこれからも力を貸してほしい」
毅然とした表情で自分の考えを語るアルトゥールにマルティンは片膝を付いた。
「御意のままに・・・」
「門を占拠せよ!」
解放軍を改め、カリューサ軍に所属する兵士たちは隠し持っていたM3A1[グリースガン]を取り出し、門を警備している衛兵たちに向ける。
M3A1の銃口が火を噴き、次々と衛兵たちを片付けていく。
衛兵たちは断末魔の叫び声を上げながら絶命していく。
「すっげぇーな。このジュウとか言う武器」
「ああ。これがあればなんでもできる!皇帝軍にも互角以上の戦いができる」
2人の若い兵士がM3A1を眺めながら、そう評価した。
「まだ、任務は終わっていない。早く門の制御室を押さえるぞ!」
隊長の言葉に兵士たちは門の周囲を固める者と門の制御室を押さえる者たちに別れた。
制御室には3人程の衛兵がいたが、すぐに血祭りに上げる。
「よし!門を開けろ!」
隊長の言葉に滑車を操作し、門を開ける。
「貴様等!何をしている!」
衛兵の1人が制御室に入り、怒鳴り声をあげる。
「うるさい!」
M3A1を持った兵士がそう怒鳴り返しながら、引き金を引く。
連発音を響き、衛兵を絶命させる。
「外の兵たちが待っている。早く開門させろ!」
兵士はM3A1のマガジンを交換する。
異変に気づいたバンザラ城塞の守備隊兵士たちが剣や槍を持って門に現れたが、すでに門は開門され、外で待機しているカリューサ軍の本隊が突入してきた。
彼らはM1903A3[スプリングフィールド]を装備しており、単発音が城塞内を支配する。
ボルトアクション式ライフルであるため、撃った後、ボルトハンドルを引かなければならない。
その間は大きな隙が生じるが、彼らは3人一組になって、発砲する事でその弱点を解決した。
1人が発砲すれば、2人目が発砲し、次に3人目が発砲する。
3人で交代しながら発砲すれば、弾が切れても、その隙をカバーすることもできる。
そして、この3人のチームに補給兵を1人つける事で弾薬の補給をスムーズにした。
バンザラ城塞の兵士たちは勇敢にも戦ったが、武器の差が歴然であったため、次々と命を落としていく。しかし、カリューサ軍の兵士たちもまったく無傷という訳ではない。接近戦に持ち込まれ、槍で突かれる兵士や剣で切り裂かれる兵士もいた。
M1903A3には銃剣を装着していたため、接近戦になっても対処できた。
「怯むな!前進しろ!勝利すれば皇帝陛下から褒美を貰えるぞ!」
バンザラ城塞守備隊の指揮官が声を上げ、兵士たちの士気を高めようとするが、カリューサ軍の武器の性能の前に、兵士たちは怖気づいてしまい。退却の姿勢を見せていた。
「逃げるな!逃げる者は敵前逃亡罪で家族も死刑だぞ!」
指揮官が怒鳴る。
しかし、その行動は自分が指揮官ですよ、と叫んでいるようなものだ。
城塞の高台に昇ったカリューサ軍の兵士たちは、兵に怒鳴る兵士たちを見つけてはM1903の引き金を引いて、仕留めていく。
「聞け!ミレニアム帝国軍兵士たちよ!これ以上の戦闘は無意味である。武器を捨てて投降せよ!お前たちの敵は我々ではない!皇帝軍や1等臣民、2等臣民が行った事を思い出してみろ!」
バンザラ城塞攻略の総指揮官が高台でミレニアム帝国軍兵士たちに叫んだ。
バンザラ城塞にいるミレニアム帝国軍兵士たちのほとんどは3等臣民か4等臣民が占めている。
指揮官たちを失った彼らは顔を見合わせた。
「わかった。俺はお前たちに従う!」
1人のミレニアム帝国軍兵士が叫ぶ。
「わかった。俺もだ!」
「俺も!」
次々と武器を捨て、投降する兵士たちが続出する。
バンザラ城塞陥落はあっという間にミレニアム帝国南部に知れ渡った。
もともと、ミレニアム帝国南部は複数の小国が存在していた。パルティニア神聖帝国がミレニアム軍に滅亡させられてから、すぐに南進が開始された。
半数の小国はミレニアム軍侵攻前に降伏し、半数の小国が徹底交戦した。
降伏した国は2等臣民として受け入れられたが、抵抗した国は3等臣民にされた。
だが、これは人間であればの話だ。
人間以外の種族は当然ながら3等臣民か4等臣民にされた。
ミレニアム帝国に併合された後も、たびたび暴動やレジスタンス活動が活発に起こったが、皇帝軍の迅速な行動ですべて初期段階の内に鎮圧された。
ミレニアム帝国皇帝は南部の反乱鎮圧に活躍した将兵たちに名誉臣民の称号を与えて功績を称えた。
活躍した兵士たちの出身地の町や村の住民には2等臣民ないし3等臣民に格上げし、帝国臣民たちに希望を与えた。だが、反乱に加担した者たちには悲惨な運命しか待っていない。
加担した者は、公開処刑され、その家族は人間以下として扱われる4等臣民にされた。
王侯貴族等、身分の高い者たちはもっと苛酷であった、老若男女を問わず、一族全て根絶やしにされた。
これはミレニアム帝国が強大な軍事力と恐怖で国内の治安を守っている事がわかる。しかし、度重なる出兵で駐留兵の数が不足し、さらに群島諸国に幾度となく敗北したため、その強大な軍事力と恐怖という抑止が崩壊しようとしている。
バンザラ城塞陥落はミレニアム帝国南部に住むすべての種族に新たなる希望を与える材料に相応しかった。
もともとミレニアム帝国に対する不信が強い南部には立ち上がっても負けるという事で誰も行動を起こさなかったが、ここまで起きれば、すべての者が思う。
「圧政者から自由を取り戻すのは、不可能ではない」と。
一度火が付けば、その炎はあっという間に広がる。
ミレニアム帝国南部各地で一斉に種族、民族が蜂起し、ミレニアム帝国軍の駐屯地を襲った。
南部の住民は、生きるために幾度となく駐屯地に潜入し、食糧等を盗んでいたため、駐屯地に潜入するのはたやすかった。
カリューサ軍の兵士たちも各地で行動を開始した。
ゲリラ戦は自衛隊と米軍から教育を受けており、その行動は速かった。
ミレニアム帝国軍の輸送隊を優先的に襲撃し、兵站を混乱させた。
そのゲリラ戦は南部だけではなく、ミレニアム帝国全土に広がり、帝国国内の兵站戦略を混乱させる事に成功した。
その行動に扇動され、皇帝や皇帝軍に不信に抱く者たちが帝国全土で発作的に破壊工作等を起こした。
彼らは、「圧政者を倒せ!!」をスローガンにレジスタンス活動を本格化させた。
この時、その光景を見ていた陸上自衛隊の特殊作戦群の隊員がこうつぶやいた。
「どこの世界も同じことを繰り返す。違う事は考えないのか・・・」
「目標を確認」
茂みの中に潜んでいる特戦群の隊員が双眼鏡を覗きながら、報告した。
「数は?」
「ナチス・ドイツ軍、1個戦車小隊と1個歩兵中隊が前進中」
双眼鏡を覗く特戦群の隊員が報告する。
「よし、作戦通りだな」
特戦群の小隊長は他の隊員に連絡した。
「前進中の戦車隊を叩く。対戦車班準備しろ」
小隊長の指示に茂みに隠れた対戦車班が携行式対戦車装備を肩から降ろし、構える。
彼らが装備している携行式対戦車火器は01式軽対戦車誘導弾だ。
赤外線誘導式の対戦車ミサイルである01式軽対戦車誘導弾は戦車や装甲車輛が発する赤外線を捉えて命中するため、目標に命中するまで誘導する必要がない撃ち放しが可能な携行式対戦車火器だ。
部隊内から01式軽対戦車誘導弾の事をマルヒトと呼称している。
対戦車班の隊員たちが、マルヒトの照準器を覗き、ナチス・ドイツ軍の中戦車に照準を合わせる。
「ロック完了」
対戦車班が攻撃準備を完了させる。
「よし、撃て」
小隊長の号令で対戦車班は対戦車ミサイルを発射させる。
撃ち出された対戦車ミサイルはすぐに安定翼が展開し、推進剤に点火され、空高く飛翔する。
マルヒトは2つのモードが存在する。
戦車の弱点である上面を攻撃するトップアタックと装甲が薄い装甲車輛の車体正面から命中させられるダイレクトヒットである。
攻撃目標が戦車であるため、モードはトップアタックである。
飛翔した対戦車ミサイルは迷う事もなくロックオンした中戦車の上面装甲を貫き、戦車を炎の塊に変えた。
「よし、後は彼らに任せるぞ」
小隊長がそう言うと同時に、茂みの中に潜んでいたレジスタンス勢力が立ち上がり、M1903A3やM3A1を撃ちまくりながら、突撃した。
ナチス・ドイツ軍の歩兵中隊は突然の攻撃に混乱し、連携がうまくとれずにいた。
レジスタンス勢力に驚いたナチス・ドイツ軍であったが、ドイツ軍として恥じる事のない抵抗をした。
しかし、数で劣るナチス・ドイツ軍の1個中隊はしだいに追い詰められた。
7割近い犠牲を出したナチス・ドイツ軍は降伏した。
「カリューサ軍の兵士たちよ!降伏した皇帝軍の兵士たちは殺すな。武器は奪っていいが、それ以外は奪ってはならない!」
レジスタンス勢力の部隊長が兵士たちに叫ぶ。
もちろんこれは彼らの考えではなく、自衛隊や米軍からの強い要求であった。
投降した兵士たちは全員人道的に扱う事と。
レジスタンス勢力は当然、その要求が不満であったが、レギオン・クーパーの力を借りなければこの戦争に勝てない事を承知しているから、渋々承知した。
特戦群とNavySEALsは現地のレジスタンス勢力と協力し、ナチス・ドイツ軍の増援部隊等にゲリラ戦を仕掛けていた。
当然ながらナチス・ドイツ軍が装備している武器はすべて奪い、新たに傘下に入ったレジスタンス勢力に提供した。
さらにCIAの工作員たちは群島諸国から派遣された間諜たちと共同して、情報収集と反政府活動を扇動した。
皇帝軍の力が弱まった今、反政府勢力に火をつけるのはたやすかった。
もちろん、彼らに武器や物資等の供与はまだ続いている。
ただし、それらを運ぶ船は自衛隊、米軍の輸送艦ではなく、群島諸国の貨物船が行っている。
なぜ、輸送艦が使用されないかと言うと、ミレニアム帝国本土上陸戦に使われるからだ。
完結篇後篇第2章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の11日までを予定しています。




