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BuSvic;Vobamtio  作者: 皆麻 兎
Episode1 生徒に人気な神
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#4 境遇の似ている者同士

「きゃぁぁぁ~!この猫、超可愛いーー!!!」

フレイヤの叫び声が、店中に響く。

「ちょ…他のお客さんやペットの迷惑なんじゃ…」

それを聞いて私は、慌てて彼女を黙らせようとした。

学校からフレイヤに強制的に連れてこられたのが、駅前のペットショップ。古くからある商店街の入口付近にあるお店なので、薄い壁を通り越して隣の店や、大通りを行き交う人々にも響くような声を豊穣神は出していた。何故この場所に連れて行かれたのかはわからないが、猫に夢中になる彼女を見て、何となく理由が解ったのである。

 神界(アスガルド)で猫に引かせた戦車を持つのは、彼女だけだものね…

私は、あまりのハイテンションに呆れながら、そんな事を考えていた。豊穣の女神・フレイヤの所有物としてはブリージンガ・メンという首飾りがよく知られているが、猫の戦車を持つのも彼女だけだ。猫を馬の代わりにして馬車を引っ張らせる訳だから、猫に対して何か思うところがあるのだろう。それが、良い意味か悪い意味かは定かではない。

猫自体は彼女自身に警戒心むき出しで、近づく気配はない。しかし、子供のように無邪気な視線に迷っているようにも見えた。

「…お客さん。申し訳ないのですが、もう少し静かにやってくれませんか?」

「…何よ、あんた」

「こらっ!フレイヤ…!!」

フレイヤに対して女性店員が声をかけるが、物凄く鋭い視線で睨まれてしまう。

邪魔をされて明らかに不機嫌そうな彼女を、私はたしなめる。

「ここだと万人の目があるし、もしかしたら貴女と敵対する神がいるかもしれない。…だから、特殊催眠は使わない方がいいよ」

「!!」

私は、フレイヤの耳元でそう囁く。

それは、何も言わずに放置をしていれば、これ以上騒ぎを大きくしそうと考えての行動であった。

「…行くわよ」

「あ…うん」

やっと落ち着きを見せたフレイヤは、私の制服の裾を引っ張りながら歩き出す。


「さて…。ここなら、誰かに聞かれる事なく話ができそうね」

ため息混じりでつぶやきながら、フレイヤはソファに腰を下ろす。

 成程…カラオケボックスなら、多少の防音設備はあるし…そのためか

私はその後連れてこられた、カラオケボックスの部屋を見渡しながらそう思った。

「話って…何?」

フレイヤに次いでソファに腰掛けた私は、問いかける。

「どうして女の格好しているのとか、そういった事には興味ないの。ただ…あんたが知の巨人・ミーミルだと言うならば、私と境遇が似ているんだなって話!」

「境遇が…?」

私は、その台詞(ことば)に首を傾げる。

知恵の巨人である私にだって当然、知らない事はある。彼女の事もその一つで、豊穣神フレイヤは、アスガルドに住まう神族・アース神族ではなく、太古の昔に争っていたヴァン神族の女神という事実しか知らないのだ。

「…あんたでも、知らない事はあるのね」

「私は、全知全能の神…という訳でもないからね」

フレイヤの皮肉じみた言葉に、私もフッと哂う。

「…まぁ、細かい事はいいわ。私はね…遥か古代に起きていたアース神族とヴァン神族の争いを締結させるために、ヴァン神族側から差し出された人質なの。…最も、差し出されたのは私だけでなく、父上やフレイ兄さんも一緒だったけど…」

「…フレイって、アールヴ(=妖精族)を支配しているという…?」

私の問いかけに、女神は首を縦に頷いた。

「そう…だったんだね…」

そこで初めて、彼女が何故自分の事を「境遇が似ている」と言ったのかが理解できたのである。

私はどういう訳か、斬首された時の記憶しかない。しかし彼女はおそらく、人質として差し出されてから豊穣の女神となり得るまでに起きた出来事一つ一つを覚えているのだろう。

「慣れない環境に苦労した」と言いたげそうな表情が見てとれた。

「あんたは元が霜の巨人だから言えるけど…アース神族の奴らって、動物をちょっとした怪我しただけで、殺してフェルゲルミル(=ニブルヘイムにある泉)に捨ててしまうのよ!…あの猫ちゃん達だって、あたしが戦車の引き役にしなかったら、どうなっていた事か…」

「え…?」

思わぬ台詞に、私は呆気にとられていた。

「な…何よ、その表情(かお)…」

まるで、珍しいモノを発見したような()で私に見つめられているせいか、彼女が珍しく戸惑っていた。

 今の台詞からして、彼女は…

私は、この女神の性格を少し誤解していたのだと気がつく。

「じゃあ、猫に戦車を引く役目を命じたのは…殺される事を避けるため…?」

「…まぁね。それに、私の生まれ故郷があるヴァナヘイムでは、生き物を大した理由もなく殺すなんて習慣はなかったしね」

そう答えながら、フレイヤはそっぽを向いてしまう。

“性的な事にルーズ”という噂があったので、どうも“悪女”というイメージが抜けなかったフレイヤ。しかし、人前で威張ったり、ドSな発言をするのはおそらく、慣れない環境を生き抜くための見栄だ。そして、その内心は生き物を大切にする優しい精神(こころ)の持ち主なのだと、こうやって面と向かって話した事で解ったのであった。

「それに、ここだけの話…アース神族の奴らって、自分たちとは異なる種族を頑として認めないのよね。特にオーディンなんかは、利用価値がなければすぐにでも見捨てるみたいだし…」

「利用価値…か。確かにね…」

フレイヤの言葉に、私は同調の意を示す。

『…ええ。先も述べたけど、誰の仕業かはわからないけど、ミーミルたる貴女はこの世界に閉じ込められている。オーディンは私に”ミーミルを探し出し、連れ戻せ”と命じたの』

この時、私の脳裏にはニブルヘイムの巫女・望琉が口にしていた台詞(ことば)が浮かんでいた。

その後、私とフレイヤは黙り込んだまま考え事をしていた。場所がカラオケボックスなだけに、音楽が聞こえないと店員が不思議がる可能性はある。しかし、そんな事を気にしていられないくらい、私たちは考え事をしていた。

「あ…そういえば、少し話が飛ぶんだけど…」

「…どうしたの?」

先程までと同じ真剣な表情で問いかけてくるので、私も何も考えずにその返答を待った。

「あんた、知恵の巨人って事は何でも知っているんでしょ?だったら…」

「だとしたら…?」

少しもったいぶった言い方に、私はきょとんとしていた。

そしてフレイヤは、組んでいた足を逆にしてから口を開く。

「このあたしの美貌を更なるモノに高めるには、どうすればいいかも知っているんじゃなくて?」

「……はい…!!?」

急に態度が変わったので、私はめを丸くして驚く。

 前言、一部撤回…。やっぱりこの女神(ひと)、邪な性格しているわ…

そんな状況に、私は完全に呆れていたのである。



「じゃあ、フレイヤ。またね」

「ええ…“海見”」

私たちは互いに挨拶をした後、別れた。

 とりあえず、このミッドヴェルガの住人たちが活用している美容パックとかサプリメントの話をしてあげる事で、引き下がってくれたけど…

私は豊穣の女神とのやり取りで、強い疲労感がたまっていた。

 美に対する欲求が強く、トラブルメーカー…。でも、そう在り続ける理由はおそらく…

私は駅前の大通りを歩きながら考える。アスガルドを治める神・オーディンは女性を“利用するモノだ”という考えを持っている。それを見抜いたフレイヤは、破天荒で手を焼かせる存在になる事で、完全に支配されるのを防いでいるのだろうという考えが頭を巡る。

 神も、人間と変わらず…か

そんな思いを胸に、私は帰宅していったのである。


一方、私と駅前で別れたフレイヤは独り、人通りの少ない住宅街を歩いていた。

「…やぁ、フレイヤ」

「あんたも、この世界に来ていたのね…ロキ」

金髪碧眼の女神が持つ視線の先には、茶髪で赤い瞳を持つ青年がいた。

巨人族の血を引く神・ロキ。異種族出身の二人がその場に対峙する。

「さっき、君が通っている“学校”とやらを覗いてきたよ。…本当、ユミルが創りあげたこの世界は凝ってるよね!」

「…あんたの目的は、何?」

飄々とした態度で語るロキに対し、フレイヤは警戒心むき出しの口調で睨みつける。

「んー…アース神族の奴らがたくさんこの世界を行き来しているから、ちょっと観察にね!…ってだけでは、君は納得しないか」

「そうね。…ミーミル程の知恵はなくても、私にだって(ひと)を見る目はある」

「ふふふ…勇ましい事で…」

フレイヤの台詞(ことば)に、ロキは一瞬たりとも動揺する事はなかった。

時刻としては17時くらいになっていたので、二人に頭上には夕日が差し込んでいる。フレイヤの金髪は夕陽で少し光輝き、ロキの瞳は夕陽以上の業火が煮えたぎるくらい赤く染め上げている。

「まぁ、お互いのためにも余計な詮索はしないでおこう。君だって、この世界に来た本当の目的は知られたくないだろう?」

「っ…!!」

ロキの台詞に、フレイヤや動揺の色を見せる。

それを見逃さなかった邪神は、付け足すような形で言葉をつむぐ。

「…これから現れるであろう、他の神々(やつら)…。理由は様々だろうけど、その一つには必ずあの()が関わっているだろうね…」

「あの()…?」

「…知恵の巨人ミーミル。この世界ではどうやら、“黒智海見”と名乗っている女の事だよ」

「なんですって…!?」

遠くを見つめながら語るロキに、フレイヤはますます動揺の色がつのる。

ロキが突如彼女の方に振り向くと、それに反応したフレイヤは身体を震わせてしまう。

「…憶測だけどね。まぁ、オーディンがその首を持ち帰って復活させようと躍起になっているくらいだ。それに、彼…彼女は”知恵の泉”の管理者。その泉には世界樹ユグドラシルの根っこも伸びているからね。それを知っていれば、利用しようと考える者がいてもおかしくない」

「この世界ミッドヴェルガへの来訪者は皆、魂だけの存在…。この場で服従させてしまえば、そのまま神界で利用できると…?」

「…そういう事!まぁ最も、君たちヴァン神族に首を斬られた時点で、消滅したと考えるヤツもいるようだけどね」

「……」

“ヴァン神族”という言葉に対し、フレイヤは言い返す事ができなかった。

暮れ時から日没までのこの短い時間にて、豊穣の女神と邪神の会話は続く。フレイヤはこれから私に降りかかる出来事に哀れみの気持ちも持ちながら、沈む太陽を見つめる。

当然だが、彼らの会話を私は知る由もなかったのであった―――――――――――



いかがでしたか。

今回は美と豊穣の女神・フレイヤの意外な一面が見れたかと思います。

ただ、”優しい性格”や猫との関わり方は皆麻的な解釈でもあるので、本当のフレイヤはどんな神だったのか…と思うと、神話って面白いですよね。笑

最後の方でロキが登場しましたが、資料を見る限りだと、いろんな意味で活躍している神なんだというのを知りました。

今作品でも、ある意味キーパーソンとも言える人物になりそうです。

さて次回ですが…神々の貴公子・バルドルの事をチラホラ。

どんな解釈で描こうか、現在資料と睨めっこ中。


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします!


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