表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BuSvic;Vobamtio  作者: 皆麻 兎
Episode6 盗まれたミョルニルの槌
22/29

#20 相手の要求に苦戦するロキ

「あ…ブラギだ…!」

私は、見覚えのある神の名を小さめの声で呼ぶ。

「しかし…詩人が舞台の演奏者とは、また面白いものですね」

右隣に座っていた武人が、その神に感心していた。

「…とりあえず、二人共静かにしなさいよ。駄目なんじゃない?上演中のおしゃべりは…」

「…ごめん、望琉」

少し声量が大きくなってきた所で望琉に注意され、私達は黙り込んだ。

1月の三が日が過ぎたある日。まだ冬休みで高校はお休みのため、とある神によって招かれた舞台を私達は見に来ていたのである。

 『ニーベルンゲンの指輪』の2作目『ワルキューレ』…か。ユミルは、人間たちがこんな芸術作品を造り上げる事も、知っていたのかな…?

私は舞台を見つめながら考えていた。

今回、私達を舞台に招いてくれたのが、アスガスドでは“長髭の神”や“詩人”と謳われている神ブラギ。武人が年末に偶然彼と会ったため、この公演のチケットを無償でもらったらしい。どうやら、特殊催眠を使ってオーケストラに入り込み、今回はハープ奏者として楽劇の演奏者をしているようだ。

因みに、『ニーベルゲンの指輪』とは、ワーグナーという作曲家が作曲したという楽劇で、オーディンの血を引くヴォルスング族の青年・ジークムントを始めとし、その父オーディンをヴォータン。ヴォータンの妻であるフリッグをフリッカと名前を変えた登場人物がいる。また、ヴァルキュリアの一人であるブリュンヒルデも登場する事から、アスガルドの神々について描かれた作品なのだろう。

武人や望琉は“神”ではないとはいえ、オーディンとフリッグがこういった形で題材にされているのを不思議に思ったのだろう。黙り始めてからは、二人共舞台に釘付けだった。私も、演奏部分ではブラギのハープ音に耳を澄ませながら、楽劇を楽しんでいたのである。

 

「あら…?」

「どうしたの?望琉…って」

『ワルキューレ』終幕後、劇場から出ようとした際、望琉が一点を見つめていた。

そのため、私は横から覗き込むと、彼女が何を見ていたのかがわかる。

「雷神トールと父上…。父上はともかく、こういう場に一番合わなそうな(かた)がいますね」

武人も気がついたらしく、その人物の名を口にした。

トールは背が高いため、こうした人だかりが多い場所だととても目立つ。何やら彼は、不機嫌そうな表情を浮かべながら、ロキと話をしていた。

「父上~!!」

そう声に出しながら、武人は人ごみを掻き分けながら駆け出していく。

「…武人って、この世界でいう所の、“ファザコン”ってヤツかしらね」

「…ありうる話だね」

そんな状態を、望琉や私は少し呆れ気味に眺めていたのである。



「…ミョルニルの槌が盗まれた!?」

「おい!!でけぇよ、声!!!」

私が驚きの声をあげるが、トールはそれより大きな声で自分を黙らせた。

あれからロキやトールと会った私達は、劇場近くのレストランで夕食を食べていたのである。

「…君の方が大きいと思うよ、トール」

その状態をロキは、ため息混じりでいなした。

因みに席順としては、私と望琉が隣同士。そして、武人とロキが隣同士となり、トールが一人誕生日席の位置に座っている。

 …武人が止めに入ってくれなかったら、きっとトールの隣に無理矢理されていたのかもなぁ…

私は、ジュースを飲みながら、そんな事を考えていた。

「そんなくだらない事よりも、ロキ。犯人はわかっているの…?」

望琉はトールの事をそっちのけにして、邪神へ問いかける。

「うん。だからこそ、今日はその犯人をトールに見せるために、舞台を見に来ていたんだ」

その問を待っていたかのように、ロキは彼女に答えを出した。

「その犯人って…もしかして、舞台に立っている人間の中にいる…とか?」

「あぁ。ロキが言うには、舞台でオーディンの役をやっていたおっさんらしいぜ」

私が恐る恐る問いかけると、不機嫌そうな口調でトールが答える。

「…オーディンの役をやっている奴の名はスリュム。君と同じ巨人族で、ヨトゥンヘイムの一部を治める王だよ、ミーミル」

「え…?でも、何故、ヨトゥンヘイムの巨人が、このミッドヴェルガに…?」

「…さぁ?トールから逃げるためだったのか、単なる事故か…。理由は、本人にしかわからないんじゃない?」

聞き慣れない名前を聞きつつも、私とロキの会話は続く。

「…彼が犯人だと僕が知った時、一度スリュム本人に交渉をしてみたんだよ。そうしたら、“ある条件をクリアすれば、自分はトールにミョルニルの槌を返す”と言っていたんだ」

「それは…意外と物分りの良い巨人(もの)なんですね、父上」

ロキの台詞(ことば)に武人が反応するが、彼は腕を組みながら大きなため息をつく。

「その条件ってのに…苦戦している?」

「…まぁね」

望琉がどういう状況なのか悟ったのか、ロキの顔を覗き込みながら言う。

どうやら、あのロキですら悩んでいるようだ。

「…んで、その条件ってのが“フレイヤを嫁に欲しい”…だそうだ。俺、あの女苦手なんだよな~…」

「まぁ、それ以前に…彼女にはまだ相談していないけど、言っても絶対に応じてくれないだろうさ」

「…激怒しそうですね」

「うん、確かに」

トールやロキが口々に言う中、「嫌がって激怒しそう」という武人の意見に、私は賛同していた。

「…でも、どうするの?このまま、そのスリュムって奴に槌を預けておくはずもないでしょうに?」

望琉の一言を皮切りに、その場にいる全員が黙り込んでしまう。

 誰か身代わりにするってのもあるけど、それを応じてくれる女神はいるのかな…

私もどうすれば解決できるのか、少し考え事をしていた。

「あ…」

沈黙が続く中、何か閃いた私は、ポロッと声が出る。

「何か、妙案が浮かんだのですか?海見」

その声に気が付いた武人が、私に問いかけてきた。

 思いついたのはいいけど…これ、本人は了承してくれるかなー??

私は、少し不安な思いを抱えつつも、閃いた策を口にする。

「トール神が女装して花嫁になりきって、隙を見て取り返す…ってのは?」

「なっ…!?」

私の提案に、その場にいる全員が驚く。

特にロキは思いつきもしなかったようで、珍しく動揺していた。

「…でも、それが一番の最善策…かもね」

私に同調するロキは、意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「ヨトゥンヘイムの巨人は、普通の人間に比べると少し大きいですからね。別に彼が化けても問題ないでしょう。肥満体質でもないですし…」

そんな中、武人はしれっとした態度で呟く。

 …この親子、もしや面白がっている…?

私は、彼らを見てそんな事を一瞬考えいていた。

「なっ…なんで、俺がんな気持ち悪ぃ事を…!!!」

「…でも、フレイヤ以外の女神だって、身代わりは嫌がるでしょうよ?」

「んじゃあ、てめぇはどうなんだよ」

不機嫌そうな声で、トールは望琉を睨みつける。

「…無論、私も却下。と言っても、神でもなく…ましてや、ニブルヘイムの巫女たる私だったら、速攻でバレると思うけど」

「…だったら、言いだしっぺのお前が行けよ」

「え…?」

望琉に言われて納得したトールは、今度は私に矛先を向けてくる。

「えっと…」

私は答えづらくて、口を濁してしまう。

「…彼女はもとより、この仮想世界から抜け出すことのできない身の上。そんな事をやらせられるはずがないでしょう」

武人が、トール神を強い視線で睨みつけながら言う。

 …フォ、フォローしてくれるのはありがたいけど…。武人、何かトールに対してだけ刺々しいのは、何故だろう…?

そんな疑問が浮かんでいた。

「…だったら、花嫁の侍女として、望琉ちゃんが行けばいいんじゃないか?」

「!!」

ロキの思わぬ発言に、望琉は目を丸くする。

望琉は口元に指を当てながら考える。全員の中で沈黙が続き、私はその成り行きを見守っていた。

「…仕方ないわね。トールはともかく、ロキには借りが一つあるし、侍女としての同行ならば、私が行ってあげるわ」

「そうこなくっちゃ♪」

ため息混じりで呟く望琉に、ロキは少し得意げになっていたのである。


その後、レストランを出た私達は解散し、私は望琉と二人で帰宅していた。

「巨人の国ヨトゥンヘイム…か」

「海見…?」

私の呟きに、望琉が反応する。

「いや…そういえば、私が管理している泉も、あの世界にあったなー…とか思って」

「…その時の事、覚えていないの?」

「一応、オーディンが泉の水を飲みに来たの辺りは覚えている。…でも、それ以外がちょっとあやふやかも…」

私は彼女に、ありのままを話した。

というのも、自分が管理している知恵の泉の事。一度人質としてヴァン神族の元へ連れて行かれた事もあるので、泉の管理人としての記憶があやふやなのだ。記憶がないというのとまた違ったかんじだが、とにかく曖昧な状態である。

「あぁ、因みに、今回の件で侍女を引き受けた理由だけど…」

「何か、他にも理由があるの?」

私は“ロキに借りを返す”以外で、彼女が今回の件を引き受けた理由がわからず首をかしげていた。

「せっかくヨトゥンヘイムを訪れる事になるから…貴女が管理しているという、知恵の泉も行ってみようかと考えたからなの」

「望琉…」

「ただ、ロキや武人がいる前ではあまり口にしない方がいいと判断して、今に至るわ」

「そっか…。うん、よろしくね」

“何故すぐに言わなかったのか”と問いかけるより早く、彼女は答えを出してくれた。

「これで、胴体を見つける手がかりが得られればいいけど…」

「…え?」

「…なんでもない」

望琉がポツリと呟いたが、声が小さかったので聞き取る事ができなかった。



こうしてその翌日、トールと望琉は、一足先にアスガルドへ帰還。そこから数日後、スリュム本人と交渉を終えたロキも、アスガルドへ帰還していった。

私と武人は、帰れない&今帰っては何かと不都合なので、この仮想世界で、彼女が戻るのを待つ事となる。

私としては正直、ミョルニルの槌自体はどうでも良かったが――――――――――この武器がトールにとって必要不可欠な武器(もの)だと知るのは、もう少し後になりそうだ。


如何でしたか。

この章では、資料にもあった神々の実際のエピソードを元に書いたオリジナル混じりの話となります。なので、トールが花嫁代理やるのもそうだし、女装するってのも。笑

ただ、実際のお話では、トールの女装を提案したのがヘイムダルだそうです。また、侍女に扮するのも望琉じゃなくてロキ。また、実際の話だと花嫁の事を聞いたフレイヤは、首飾りがちぎれる程激怒したそうで…なんで、海見や武人が予測していた事は、本当にそうなるという事に。笑


次回ですが…

次の回は自動的に、望琉視点の話になると思います。

海見はミッドヴェルガ出られないから、ヨトゥンヘイムでの事の流れは見えませんしね。苦笑

では、次回もお楽しみに☆彡


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します(^^


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ