表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BuSvic;Vobamtio  作者: 皆麻 兎
Episode5 事件の真相を知って得るものとは
21/29

#19 明らかになった事

「人化の術を…一部だけ、解いた・・・だと!?」

苦悶の表情を浮かべるニーズホッグの瞳には、一部だけ術が解かれた武人が映っていた。

人の姿をとってはいるが、両手の指先が爪のように尖っているのと、()が金色に輝いている。明らかに、普段の彼ではなかった。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

雄たけびをあげた武人は、足を地面から蹴ったかと思うと、瞬く間にニーズホッグへと飛び掛る。

「くっ・・・!!」

首筋に噛み付く寸前でニーズホッグに止められたが、それさえなければ勢いよく噛み付いていただろう。

「ぐおっ・・・!!」

体から引き離すために、ニーズホッグは武人を右足で蹴り飛ばした。

勢いよく飛ばされたので、保健室の壁に激突する。

 速い…!!

私は人化の術が一部解けて明らかに強くなっている武人(ミドガルズオルム)を目の当たりにし、驚きを隠せない。

「ロキ・・・。どうして、貴方まで…?」

眼前にいる敵の事は武人に任せ、私はロキに事の経緯の説明を求めた。

「・・・たまたま、そこにいる負傷した巫女を武人(ミドガルズオルム)と見つけただけさ。その成り行きで・・・かな。それと…」

「それと…?」

言いかけた先が気になった望琉は、首を傾げながらロキに問う。

すると彼は、顎で戦っている彼らを指しながら、口を開く。

「人型のままでは、到底あの龍には敵わないだろう。だから、術の解き方やかけ方を熟知している僕がいた方が、何かと有利だろうしね」

「成程…」

そこで同調した辺りで、ようやく貧血による眩暈が治まったのである。

「あとは、あの女が何処かに潜んでいなければいいけど…。あぁ、そうだ」

何かを思いついたロキは、望琉の方を見下ろす。

「君だったら、巫女グロアの気配を探り当てる事ができるのでは…?」

「…何故、そう思うの?」

邪神から問いかけられたニブルヘイムの巫女は、眉間にしわを浮かべながら問い返した。

「んー…。何となく…かな?確かニーズホッグに人化の術を教えた巫女グロアは、アスガルドの神ではない。それに、ヴァン神族でも僕みたいに巨人の血を引いている訳でもない…。となると、彼女は君と同類か近しい者なのでは?と思ってね」

私らの前で語るロキは、少しだけ得意げに見える。

その態度に望琉は不満があったようだが、言い返さなかった所を見るとロキが言った言葉はあながち嘘ではないらしい。

「…すぐ近くとは言い難いけど…この学校の敷地内にはいるわね」

「望琉…もう解ったの?」

少し考え込む素振りを見せた望琉だったが、すぐに何かを察知したようだ。

 もしかしたら、望琉。地脈を理解しているのかな…?

ロキと話す望琉を見つめながら、私はそんな事を考えていた。

地脈とは、地面の下を流れている気の流れのような者。それを熟知していれば、気配を探ったり、相手の居場所を探し当てる事ができるという。それを扱えるのが誰かは知らないが、ミーミルが持つ知識として、頭の中に浮かんできたのである。

「…っととと!こら、まだダメだよミーミル」

自分で立ち上がろうとしたが、ロキは私の腰に回している腕を離してくれない。

「いや…。もう、自分で立てるし…」

そっぽを向きながら述べると、ロキはクスッと笑ってから口を開く。

「今は、辞めておいた方がいいよ。僕から離れた途端、あいつらに噛み付かれないとも言い切れないし…」

表情は見えないが、そう口にすることで、彼は私を宥めた。

 こういう非常時だと、私ってば本当役立たずだな…

戦闘において、自分に戦う能力がない事は、すごく残念な気がした。こうやって他者に迷惑をかけてしまうのだから。


「はぁ…はぁ…」

そうこう考えている内に、ミドガルズオルムとニーズホッグが、互いに息を切らしながら睨み合っていた。

しかし、体のあちこちにある傷は、(ニーズホッグ)の方が多い。

「くそっ…。おい、モーイン…!?」

敵は部下を呼び出そうと声を荒らげていた。しかし――――――――――

「敗北を悟ったのか…ニブルヘイムに逃げたわよ」

床に広がっている制服の上に座る望琉が、嫌味な口調で言い放つ。

その台詞(ことば)は本当のようで、実際、姿を消すまでは望琉に押さえつけられていたかのように制服は広がっていたのである。それを悟った敵は、舌打ちと同時に、服のポケットから手探りで何かを取り出す。それは、何か文様が描かれた小さなメモ用紙だった。

「それは…!!」

頭上でロキの声が聞こえる。

私達はそれが何を指すのかわからない中、ニーズホッグは、その紙の一部を歯で噛みちぎる。

「ぬっ…!?」

その行為に、流石の武人も反応を示したようだ。

「魔力が段々上がっていく…まさか!?」

抑えられていた魔力が次第に大きくなるのを感じ取った瞬間、嫌な予感が襲う。

「…そのまさかのようだ。成程、グロアは術式を紙に記してかけた…という訳だ」

ロキが苦々しい声で語る。

実際に人化の術を使える彼がそう言ったのだ。おそらくは、正しいのだろう。

「腕が…!?」

望琉の声で我に帰った私は、視線の先に映るものに目を見開いて驚く。

ニーズホッグの両手両足だけが、どす黒くて大きな龍の手足に変貌していた。どうやら、術式が書かれた紙を一部破る事で、人化の術が少し解けたのだろう。

「父上っ!!」

「海見・・・・!!!」

――――――――それは、一瞬瞬きをした直後だった。

武人と望琉が叫ぶ声が同時に聞こえ、彼らが動揺の表情(かお)を見せている事で危機を察知したものの、相手が速すぎて捉えられなかったのだ。

「ぐっ・・・!!」

私を抱えていたロキは、そのまま仰向けで地面に倒れこむ。

「んなっ・・・!?」

気がつくと、私のお腹を敵の大きな手が押さえつけていたのである。

そして、私の下には地面に叩きつけられたロキの姿がある。敵の左手は2人同時に潰すほど大きな手ではなかったが、私とロキを押さえつけるには十分な大きさをしていた。

「この距離ならば、貴様ら二人の首を跳ねるのは、そう難しくないよな・・・!!」

腕で押さえつけながら、ニーズホッグは私達の上に覆いかぶさっていた。

「人化の術を少し解いても・・・理性が残っているの!?」

私はお腹を締め付けられて苦い表情を浮かべながら、目の前で起こっている事を分析する。

「はぁ…。全く、お前が馬鹿で助かったよ」

「ロキ…?」

彼も敵の手と私の体重で締め付けられて苦しいはずなのに、余裕綽々な態度に、疑問を覚える。

「…何が言いたい」

それを不快に感じたのか、ニーズホッグの眉間にしわが一つ増える。

表情こそは見えないが、邪神がフッと哂っている声だけが耳元に響いた。

「こういう事態を、僕が想像していなかったと思うか?…って事」

「っ…!!?」

ロキが言葉を最後まで紡いだ後、一瞬にしてニーズホッグの姿が消える。

「もしや…フェンリル!?」

その後、ロキと私がゆっくり起き上がると、そこには巨大な狼。そして、その牙に捕まっている敵の姿が目に入った。

肉眼で見るのは初めてだが、この場に現れた巨大狼こそ、いつもは犬の姿をしたロキの息子フェンリルだったのだ。

「…フェンリルは武人とは異なる術で、犬の姿をしているからね。自由に解く事もかける事ができるから、こうやって正体を現すのも訳ない。…目には目を。化物には化物を…ってね」

彼が言う事は最もだが、何だか父親が口にするような台詞(ことば)ではないようなとこの時は感じていた。

「ぐ…ぐ…」

フェンリルの牙に挟まれたニーズホッグは、身動きが取れない。

相当の痛みがあるのか、苦悶の表情(かお)を浮かべている。

「…さて、フェンリル。そいつは僕にとってもどうでもいい奴だから…。食べるなり、魂を砕くなり…好きにするといいよ」

ロキは自分の息子に、冷徹な命令を下す。

最初はその大きな瞳をこちらに向けていたフェンリルも、今の言葉に同意したのか、すぐに獲物の方へ視線を移す。

「…くそっ」

「あ…!!」

ニーズホッグが舌打ちをしたのが耳に入ってきた直後、フェンリルの牙の間に敵の姿はなかった。

あるのは、校医として身につけていた白衣と、黒いYシャツのみ。

「逃げられました…か」

「武人…!」

気がつくと、瞳の色が元に戻った武人がいた。

どうやら、人化術をかけ直したのだろう。

「…まぁ、あの様子からして…しばらくはこの世界に来る事はないわね。魂が砕けそうな感覚もしたし…」

そう口にしながら、安心したのか、ため息まじりの望琉が地面に座り込んでいた。

「…下ろすよ」

「あ…うん」

ロキが一言だけ口にすると、私を地面にゆっくりと下ろしてくれた。

その後身軽になった邪神は、覚醒したままのフェンリルに近づく。

 あ…フェンリルが小さくなっていく…

ロキがフェンリルの毛に触れて詠唱を始めたと思いきや、教室の端から端までありそうな巨大狼は次第に小さくなり、最終的には普段の犬の姿に変貌した。

『父ちゃん、ごめん…。あいつの魂を砕けなかった…』

犬の姿になったフェンリルは、申し訳なさそうに父親へ詫びていた。

「気にしなくていい、フェンリル。そのうっぷんはアスガルドに帰れたら晴らすといいさ」

そんなフェンリルを抱き上げたロキは、頭を撫でながら息子を宥める。

 フェンリル…相手が実の父親だからか、何だか嬉しそう…

先程はあんな巨大狼だったのに、そんなフェンリルがちょっと可愛く感じている自分がいた。

 とりあえず…

私は、また目眩を感じ始めていた。

「望琉…」

「ん…?海見、どうしたの?」

視界が細くなる中、私はニブルヘイムの巫女の名を呼ぶ。

「少し疲れたから・・・寝させて・・・ね・・・」

「寝るって・・・海見!!?」

望琉の声が目の前で聴こえた直後、私の視界は真っ暗になる。

気絶というより、疲労がたまっていたのだろう。私はそのまま、丸一日ずっと眠りにつくのであった。



「・・・さて、話って何かしら?海見」

フレイヤが私を見下ろしながら尋ねる。

ニーズホッグらとの攻防から2日後、体力が回復した私は、放課後に望琉や武人やフレイヤを呼び出し、フェンリルがいる警備員室を訪れていた。

「本当は、ロキにも聞いてほしかったけど・・・」

「…父上は、意外とご多忙で…。代わりに、僕が話を聞きますよ、海見」

視線が自分に移ったのに気が付いた武人は、穏やかな笑みを浮かべながらそう述べた。

「…じゃあ、本題に入ります。今回の事件をきっかけに解った事。起きた出来事を、一応皆に伝えておこうと考え、今日はこうやって呼び出しました」

こんなかんじの前置きで、私は話を切り出す。

『改まって…どうしたんだ?海見?』

真面目な口調で話しているせいか、フェンリルが不思議そうにしていた。

その後、右手でそっと首筋に触れる。噛み付かれはしたが、丸一日休んだことで魂が安定したのか、その傷はもうない。しかし、その時の記憶は消えるはずもないので、私は一瞬だけ身震いした。

「海見…大丈夫?」

「あ…うん。ありがとう。大丈夫だよ、望琉」

心配そうな表情(かお)で見つめてくる彼女に、私は笑顔で答えた。

「奴らが私を拉致して殺そうとしたのは、“ユグドラシルの根が伸びている泉を枯れさせる”のが、やっぱり一番の目的だったようね。そして…血を奪って吸い殺そうと、奴は私の首筋に噛み付いたの」

「なっ…!!?」

それを聞いた望琉や武人。そして、フレイヤが驚く。

『…保健室の近くに到達した際、血の匂いを感じたのは、そういう訳だったんだな…』

しかし、その状況で一番冷静だったのは、嗅覚のきくフェンリルだった。

「その時…不思議な現象が起きた」

言葉を紡ぐ私の心臓が強く脈打つ。

「不思議な現象…?」

首を傾げているフレイヤに構う事なく、私は話を続ける。

「噛み付かれた直後に私が見たのは、白い布だった。その後、髭を生やした中年男性が、その布を外して私を“ミーミル”と呼んだの」

「それって、もしや…!?」

武人の台詞(ことば)を聞いた私は、黙って首を縦に頷いた。

「という事は…黒龍(ニーズホッグ)に噛み付かれたのをきっかけに…一時的に、アスガルドへ戻れた…って事!?」

望琉は分析するかのように述べたが、彼女の表情は戸惑いを隠しきれていない。

「…でも、武人が私の名前を呼ぶのとほぼ同時に、魂がこの世界に呼び戻された」

そう言い終えた私は、残念そうな表情を浮かべながら、下に俯く。

「では、何らかの衝撃を魂が受けた事で、一時的に神界へ帰れたって事ですね?」

「…ご名答。でも…解ったのは、それだけではないよ、武人」

彼の言葉に対し、更に付け足す。

「このミッドヴェルガに魂が引き戻されたって事は…私の肉体の一部が、この世界にあるのではないか…っていう仮説」

「肉体…。あぁ、首から下の胴体の事ね」

私の言葉を更に付け足したのが、フレイヤだった。

 …フレイヤは、肉体から魂を切り離せるセイズ術式の使い手…。だから、気が付いたんだろうな…

そんな事を考えながら、彼女を見上げていた。

大昔、アース神族とヴァン神族の戦争が締結して講和が結ばれた際、私は人質として敵方に差し出されていた。しかし、一緒に人質となっていた神ヘーニルが、ヴァン神族の期待に添える神でなかった事に屈辱を感じた彼らは、私の首を斬首し、アース神族に送り返そうとそこらへんに捨てたらしい。

 そこでオーディンが見つけて首を持ち帰ったんだろうけど…。おそらく、その時には胴体は見つからなかったんだろうな…

彼らに説明する中、私はそんな事も考えていた。

『…要は、海見が神界へ帰るための手がかりに進歩があった…って事だよな?』

「うん…そうだね」

無邪気な口調で問いかけるフェンリルに、私は苦笑いを浮かべながら応えた。

 …“動かないはずの胴体がどうやって、このミッドヴェルガに入り込んだ”という、新たな疑問が生まれたけど…

私は出た答えと共に、新たな疑問が生まれたのを実感していた。

「…って事は、あんたは人間と同様、魂・肉体・精神の3つで構成されている…って訳ね。本当、巨人族って謎が多いわ」

少し呆れ気味な口調で、フレイヤが呟く。

「…まぁ、ユミルの直系だと、普通の神とは異なる点も多いって事でしょう。…兎に角、少しでも神界に戻る手がかりがわかったのだから、良かったと思うしかないわね」

「そう…だね。とりあえずは、進歩があった事を喜ぶのが先…だよね」

望琉の台詞ことばを聞いた途端、私は少しだけ安堵した。

 …あまり、私の生まれ方とか諸々を詮索されるのは、いくらフレイヤでも嫌だし…助かったな

私は心の中で密かに、望琉に対して感謝の念が浮かんでいた。


こうして、今回の猟奇殺人事件を通して、神界(アスガルド)へ帰る手がかりが少しでも得られたのである。新たな疑問は生まれたが、ずっと進歩がなかった事が少し進んだだけでも、私は正直嬉しかった。しかし、こうしている間にも、神界の事態が変わりつつあるのを、この時は当然知らなかったのである。


いかがでしたか。

やっと、この回でこの章が終了といったかんじです。


今回出てきた”地脈”ですが、これは北欧神話とは全く関係のない作者が考えた能力の一種みたいなものです。一方で、セイズ術式をフレイヤが使えるというのは本当。これに関しては、あとオーディンも使えるらしいですね!


さて、次回から新章突入。しかし、どんなエピソードを入れるかはまだ構想練り中。まだ出てきていない神もいるし、後々の展開の事を考えてやっていかねばならないかんじです!


では、ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します!!

(無論、不快にさせるような文章は書いたら即削除しますので、ご了承ください)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ