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試験-1

 私はいつも、すごい人に囲まれている。

 パパやママはいつだって、私に驚きをくれた。その友人達も、私をあやすのに魔術や魔法を使っていたのだから、憧れない方が無理というものだと思う。

 そしてなんとか入学した魔法学園でも、同室になったのは、ものすごいカリスマを持った元お姫様なケラマと、秘めた才能を持った獣人の女の子であるミル。正直第一印象がよくなかったナリスにしたって、普段の授業をみていれば、優秀さは嫌でも伝わってくる。

 そんな人達に囲まれていると、どうしたって自分の平凡さが目に付いてしまう。

 憧れただけだった世界に入っていっても、結局のところ私は脇役でしかないんだろう。


 「…レ、ヤーレ」

 ふと気付いたら、2段ベッドの上から、ミルが身を乗り出してこちらをのぞき込んできていた。たいしたことじゃないけど、お話ししてるところだった。

 「大丈夫? 返事なかったけど」

 「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと眠くて」

 「あ、ご、ごめん。起こしちゃった?」

 「いやいや、気にしないで」

 ちょっと体を動かして大丈夫アピールをしていると、勉強机からケラマも戻ってきた。

 「とはいえ、そろそろお休みするのも、よいかもしれませんね」

 やっぱりお姫様は真面目なのか、ケラマは部屋でも夜1、2刻ほど勉強している。うーん、私には真似できないなぁ。

 「そういえば最近特に勉強してるけど、やっぱりそろそろ難しくなってきた?」

 ケラマはすごく頭が切れるけど、なんだかんだいってまだ10歳らしいし、私達と同じ内容なのだから難しいと感じることもあるはず。というかそうであってほしい。私だって、正直授業の半分くらいは分かってないし。

 当のケラマは少し毛恥ずかしそうに微笑みを向けてから、部屋の灯りを落とした。とはいっても、まだベッドライトがあるからどこに居るかくらいは見える。

 「そうですね、それに、私たちがどれだけ解っているか、そろそろ試されるといいますし」

 ケラマの話し方は独特で、時折なにを言ってるか分かりにくいことがある。えーっと、この場合は……解っているか、つまり理解力を……テストする。つまり試験か。

 「って試験!?」

 思わず大きく体を起こしてしまい、ベッドの天井に頭をぶつけた。

 「っぅ~~」

 「だ、大丈夫?」

 「大丈夫大丈夫。というかごめんね」

 2段ベッドの1段目でいう天井は、2段目(ミル)にとっては床になるわけだから、ちょっと申し訳ない。

 「それより、もうすぐ試験って本当なの」

 「はい。もうすぐ長いお休みになりますから、その前に」

 「確か、その成績に応じて宿題が出たりするんだっけ」

 「時には、直に教え直されるとか」

 「つまり、補習ってこと? っていうか、ミルも知ってたの!?」

 「え、うん。最初にもらった資料にも書いてたし」

 そういえばそんなものがあった、気が。というかあんな1度にいろいろ渡されても全部目を通せないし。

 ま、まあいいか。

 「とりあえず、今日のところは寝よっか。明日も授業あるわけだし」

 2人から賛同の声をもらえたので、電気を消して少し大げさに布団をかぶった。

 うん、未来のことは未来に考えればいいんだ。


 そんなわけで翌日(未来)。当然のことながら、特に何も考えていない。とりあえずはまあ日々の授業を真面目に受けるとしようじゃないか。

まずは……歴史の授業か。ミルやケラマと一緒に一般棟に向かう。

 教えてもらったところによると、試験のあるのは魔女見習いとしてのカリキュラムの内「読み書き」「算術」「歴史」「生活」の4科目だけである。これ以外の科目は適宜能力を試しているため、まとまって試験を行わないでもよいとされている。4科目で済むのは助かる話ではあるな。

 ちなみにこの4科目と「体操」に関しては、教科生と呼ばれる、魔女見習いでない生徒も受けることになっている。そのためいわゆる魔女棟ではなく一般棟で受けることになる。のだけど、毎回行ったり来たりは結構面倒くさい。

 「これこそなんか魔術とかでばびゅーんっていけたら楽なのにね」

 「でも、ワープはまだ誰にも作れてない魔術なんでしょ?」

 「そうだけど、そこまでは言わなくても、例えば寝てる間に勝手に行きたい場所に着いてるとかさ」

 「そうしましたら、ヤーレさんは、体操のときに倒れてしまわれそうで」

 頬に手を当てて心配そうな目を向けてくるケラマ。……まあ、たしかに私は体操もあまり得意ではない。小さい頃からあまり体が丈夫でないこともあって、決定的に体力が無いのである。だからこそ楽をしたいというのもあるのだけど、まあたしかに体力作りの一環にはなるかもしれない。

 そんなことを考えている内に一般棟の教室に着いた。魔女棟の教室と比べて、広いこと以外にはあまり違いはない。広い分魔女見習い以外の子供達もいるから、べつにがらんどうって感じでもないし。

 いつもの席より少し前に陣取って、態度からやる気を出していこう。


 *****


 決して勉強が好きとはいえないけれど、ここでの授業は基本的に楽しい。というか、わくわくさせられる。

 「――といったところで、はい、ここでヤイヌ王の腹心が裏切ります」

 教師である『眼鏡梟』の言葉とともに、目の前で偉そうな服を着た恰幅の良い男、おそらくはなんとか王が背中からナイフを突き立てられる。王を刺した男は引き抜いたナイフを掲げ、後ろにいたらしい仲間達の元へ雄叫びを上げながら下がっていく。

 「こうしてヤイヌ王は打ち倒され、旧バルゼンヌ王国における第2次レオーヌ王朝は終わりを迎えるんですね。そうしてしばらくの政争のあとにようやく新しい王が決められます」

 なんとか王を打ち倒した仲間達は初めこそお互いを讃え合っていたようだったけれど、すぐにお互いを攻撃し始めた。

 「旧バルゼンヌ王国においては特別な宝玉を持つことが王権の象徴だったそうですから、まあ要するにその宝玉をしばらく持つことができれば王として認められたそうです。それができたのがウェンド・マムスノイン王だったわけですね」

 やがて争いの中からひとつの腕が上がってきた。その手には、眩しく輝く石が握られていた。これが噂の宝玉、ということなのだろう。

 一応書いておくと、この目の前に現れている光景はすべて魔術による産物である。特に『眼鏡梟』はこういう視覚に関わる魔術が得意な魔女で、たぶんこの魔術も自作のものだろう。こういう魔術は魔法陣が細かくなってしまうか、あるいは魔法陣を途中で書き換えるような繊細な操作が必要になるらしい。『眼鏡梟』に関しては特に後者の技術に秀でていて、話ながらでもよどみなく映像が動いている姿を見ると、『鳥』の魔女であるのは単に改名が気に入らないからという噂も――。

 「そうして、旧バルゼンヌ王国は滅亡したわけですね」

 ……なんとか王が裏切られたというかんとか王国がいつの間にやらなくなっていた。結局、どういう話だったっけ。


 *****


 お昼休みになって、今日は食堂でミルやケラマと一緒にご飯を食べることになった。そのついでに今日の授業についていろいろと聞いておいた。

 「つまるところ、ヤーレさんは、魔術や魔法を見ると、そちらにばかり、目を向けてしまわれると」

 ケラマにあっさりと現状の問題をまとめられてしまった。いやまあそうはそうだけど、それだけじゃないというか。

 「いやでも、やっぱり気になるでしょ。どういう魔術なんだろうとか」

 ミルの方に救いを求めたけれど、ふいと視線を逸らされてしまった。

 「さ、最初はそうだったと思うけど、いまはもう慣れたというか」

 「慣れっ……まあほら、私って初心を忘れないタイプというか」

 「そういう問題……なのかな」

 なんとなくケラマの微笑みに歪みが見える気がする。

 「ともあれ。すこし考え方を変えるのが、よろしそうですね」

 「えーっと、授業で集中できないなら、授業外でがんばる、とか」

 「えーっ! 面倒くさい……」

 つい思ったことが出てしまった。ちらりとケラマの方を見ると、なんだろう、ものすごい圧を感じる。

 「そうですか」

 「あー、じゃなくて、ほら。まあ自習できるだけの学力もないというか。ほら、勉強するのにもそれだけの能力が必要というかさ」

 「なるほど」

 それで納得したのか、ケラマもあの圧のある笑みをやめてなにか思案している様子に変わった。

 何を考えているか分からないけれど……まあ悪いことにはならないだろう。うん。たぶん。

 そうだといいな。

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