お姉さまだけ…ずるい……!
こうしてシェイナやパティリエカだけでなく、ニューティももちろん、静香を丁重にもてなしてくれた。言葉が通じないとか、実際はどこの誰かも分からないとか、ニューティの立場では何の関係もない。レイラの客人とあれば労わる以外の選択肢は彼女にはなかったのだ。
そんな中、静香はレイラに打ち明けた。
「夢か本当にあったことか分からないから今まで黙ってたんだけど、私、こっちの世界で目を覚ます前に、なんか、神様っぽい人の言葉を聞いたような気がするんだ。『楽しんできてね』みたいなことを言ってた気がする。レイラはそういうのなかった?」
しかし、
「いえ、私にはそういう事象は観測できませんでした。再起動した時点でこの惑星にいましたので」
としか、レイラには答えられなかった。ロボットに嘘は吐けない。本当に彼女にはそのような記憶がないのだ。
ただ、断片化し正常に開くことができないファイルがいくつかストレージ内にあり、それが静香の言う現象を記録したものである可能性自体はないわけでもないが、確認できない以上は触れる必要もないとそのままにする。対して、
「そっか……じゃあ、あれはやっぱり夢だったのかな……夢なんだろうな。『楽しんできてね』なんて、ふざけ過ぎだしね」
静香は少し苦笑いを浮かべながらそう締めくくるしかなかった。それ以上、話を膨らませようもなかったがゆえに。
とは言え、レイラに寄り添ってもらい、シェイナやパティリエカに励まされ、ニューティにもてなされたことで、静香も現状を受け入れることができつつあったのが、彼女のバイタルサインを詳細に確認したことで、レイラには分かってきていた。
エギナ達の鍛錬を開始して一週間。
こうして<王都ルデニオン>の防衛力を確実に高め、同時に、他者を気遣い労われるまでになったシェイナの成長も目の当たりにし、併せて静香が精神的に安定していることを確かめたレイラは、
「現在、デモニューマとの戦いの最前線となっている街の体制強化のために、私も協力したいと思います」
シェイナやパティリエカの前でそう語って見せた。
「レイラ様……」
彼女の言葉に、シェイナは、縋るような目を向けながらも、
「みんなを助けるために行くんですね……?」
と口にして、『行かないで』という正直な願いを飲み込んだ。自分がそんな我儘を口にすればレイラを困らせるだけだと悟っているからだ。パティリエカも、
「<ベル・ルデニオーラ>のために、必要なことなのですね……」
自分自身を納得させようと、呟くように口にする。
そんな二人を、レイラはそっと抱きしめて、
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べた。
もちろん、二人が本心から納得してるわけじゃないことも承知している。しているけれど、二人のことを思えばこそ、やはり必要な選択だった。
そして今回は、エギナも同行する。彼女も、前線の兵士らに<新型弩>を用いた戦術を教導するための教官役として赴くことになったのだ。『こういうのは苦手だ』と言っていた彼女だったが、今ではすっかり<名手>と言ってもいいほどに上達している。元々の<戦闘センス>が、人間としては飛び抜けて高いのだろう。
それを知ったパティリエカが、
「お姉さまだけ…ずるい……!」
と不満を口にしたものの、こればかりは今のパティリエカがどれほど努力してもどうにもならなかった。
「遊びに行くんじゃないんだ。仕方ないだろ」
エギナも軽口で返しながらも、その表情は真剣そのものだった。
翌日、留守をニューティに任せ、レイラは先に出発し、エギナは、同じく教官役の兵士らと共に馬車で西へと向かうことになる。
なお、レイラはこれまでの働きに対して国王から上金貨三百枚(一般臣民の十年分の所得に匹敵)という褒賞をもらっていたのだが、この世界においては使い道がなく、一枚だけを手にした上で、出発前に静香に対し、
「実は……」
と、何事かを告げていったのだった。




