存在意義
聞けば、静香自身がこの世界に<転移>してからはまだ二週間ほどしか経っていないという。もっとも、レイラに至ってはまだ一週間と経っていないので、むしろ静香の方が<先輩>ではあるが。
彼女はさらに、
「ここの人達の言葉って英語っぽいんだけど、私が知らない単語とかがメチャクチャ出てきて、まともに話もできなかったよ。だけど、<デモニィ>って怪物と戦ってるらしいってのだけは分かった。でもダメだった……私達は劇場の地下に逃げ込んだんだけど、通路が塞がって閉じ込められちゃって……
私は食料を持ってたから何とか今日までもったけど、他の人達は……
食料を分けてあげようと思っても、通路が埋まっちゃっててどうしようもなかったんだ……」
とも、説明した。
確かに、出入り口だけでなく、地下に入ってからも天井の一部が崩れ落ちて完全にふさがっている場所があった。レイラはその一部を撤去することで進んできたものの、生身の人間にはどうすることもできなかっただろう。
「それは辛かったですね……よく頑張ってくださいました。あなたが生きていてくださって、私も救われました」
レイラが穏やかに話し掛ける。
「アンドロイドなのに……?」
静香の問い掛けに、
「アンドロイドだからです。私達ロボットは、人間の幸福に資するために存在します。人間の幸せこそが私達ロボットの存在意義なのです。人間の不幸は、私達ロボットの不幸でもあるのです」
あくまで穏やかにレイラは応える。
そこまで話したところで、静香はもう我慢しきれなかったようだ。
「う…あ……ああああ~っ!」
それまで抑えてきた感情が堰を切ってあふれ出し、レイラに縋って静香は泣いた。そんな彼女を、レイラはやはり穏やかに抱き締める。
「お辛かったですね。でも、ご安心ください。私があなたの安全を確保します」
たっぷりと三十分は泣いてようやく静香が落ち着いたところで、彼女の所持品を確認した。
キャンプ用のテント、シュラフ、ガスランタン、コンロ、焚火台、コッヘル、ライター、マッチ、非常食のエネルギーバーとカップラーメンとゼリー飲料がそれぞれ一つずつ。携帯用トイレが三つ。ポケットティッシュ。そして、小型の太陽電池とモバイルルーター及び、モバイルバッテリーに繋がれたスマホ。
「これは、スマートフォンというものですね?」
レイラは、自身が持つデータから推測して尋ねた。
「あ、うん。そうだよ。そっか。あなたの時代じゃもう<スマホ>って言わないんだ?」
「はい、すべて<フォン>と呼ばれています」
レイラが運用されていた社会では<固定電話>というものがすでに存在しないので、音声通話機能を持つ端末は総じて<電話>と呼ばれていたのだった。




