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エジェレネイカ山

かつて<帝政バルラシアム>と呼ばれた国は、おそらくもう存在しないのだろう。


そう実感できるほどに、行けども行けども人間の姿はなく、ただデモニューマだけが闊歩していた。


それを、まさに<事務的>に撃破しつつ、レイラは自身の視界の真ん中にそびえたつ<エジェレネイカ山>を目指し走り続けた。


だが、自身が見詰める<エジェレネイカ山>に彼女は見覚えがあった。


「あれは、<モンブラン>ではないでしょうか?」


ついそう呟いてしまう。そう。彼女が口にした通り、そこに見えるのは、フランスとイタリアの国境を成す<モンブラン>としか見えない山だった。


それを、東側から見ている光景そのものだったのだ。


彼女は思う。


『ここまで、天測によっても、<ベル・ルデニオーラ>がクロアチア北部に位置すると推測はしていましたが、主要な星座の位置についても、地球から見えるそれとおおむね合致つつも、ベテルギウスが確認できませんでした。これは、有り得ないことです』


そう。彼女は、非常に高性能なロボットであるがゆえに、夜、空を見上げて天測を行い、自身の現在位置を割り出そうとしたのだ。加えて、彼女が持つデータと照合。星々の位置が、彼女が持つ地球からのそれとほぼ合致したのである。


つまり、それだけを見れば、彼女が今いるこの惑星は、<地球>ということになる。それも、プラスマイナス百年程度の誤差がある可能性はありつつも<西暦五九〇〇年頃の地球>そのものなのだ。


しかし、<オリオン座>や<冬の大三角>を構成する重要な恒星である<ベテルギウス>が、何度やっても観測できなかった。それ以外の星々は確かに存在するのに。


これは、あまりに重大な矛盾だった。物理的に有り得るはずがなかった。ベテルギウスは地球から僅か六百四十光年しか離れておらず、彼女がいた<西暦五九〇〇年頃の世界>では恒星間航行技術が確立されており、人気の観光名所の一つとさえなっていたのである。それが百年程度で消滅するなど、有り得るはずがない。加えて、もし万が一、何らかの原因でベテルギウスが消滅したとしても、それが地球から観測できるのは理論上だと六百四十年後のはずである。


ゆえに、彼女が今いるこの惑星は、<西暦五九〇〇年頃の地球>である蓋然性は限りなく高いものの、『ベテルギウスが存在しない』という一点だけでも、


『決して地球ではない』


と断言できてしまうのだ。


そもそも、彼女が知る<西暦五九〇〇年頃の地球>には、地球人類が開発し入植した多くの惑星を包括的に統治する<総合政府>の本部があり、クロアチアも当然、高度に発達した科学技術で都市づくりが行われているのだから、<ベル・ルデニオーラ>のような国は存在しないし、ましてや<デモニューマ>などという生物も存在しないのである。



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