車椅子
この世界にはそれまで、<車椅子>と呼べるものは存在していなかった。けれど、レイラ・タリアが座り、シェイナが押しているそれは、デザインこそ非常に武骨でセンスはあまり感じられなかったものの、機能上は間違いなく<車椅子>であった。
それは、この車椅子に座っている女性、レイラ・タリアからもたらされた知識を基に、ルデニオンの職人達の手によって作られたものである。
何しろ彼女は、この世界には本来存在しているはずのない<ロボット>なのだ。途轍もない高機能と高性能と知見を兼ね備えた。
彼女が持つデータを使えば、車椅子の製造など、職人にそれを実現できる技量さえあれば容易いことであった。
けれど、当のレイラ・タリア自身がそれを成すことはできない。今の彼女は、非常に電力が乏しく、体を動かそうとするとたちどころにシャットダウンしてしまう状態だからだ。
そんな彼女を車椅子に乗せ、パティリエカとシェイナは屋敷の玄関にやってきた。そこには何人もの使用人が並び、二人を出迎える。その向こうには、一台の立派な馬車。脇には、革鎧に身を包んだいかにも屈強そうな偉丈夫の姿。パティリエカの護衛担当、ブルーディスだった。
ブルーディスは、馬車の後ろを開けて金属製の板を掛け、スロープを作った。レイラ・タリアを乗せた車椅子を馬車に乗せるためのものだった。
かなり急なスロープなので、さすがにシェイナでは力が足りず、ブルーディスが、
「失礼いたします」
言いながら車椅子を押し上げる。その体躯に相応しい力を見せ、危なげなくレイラ・タリアを乗せた車椅子を馬車に搭載してみせた。
さらにスロープのための金属の板を外し、馬車の下に収納。これも、決して軽いものではないはずだが、ブルーディスは確実にこなす。パティリエカの護衛としてだけでなく、レイラ・タリアの介助人としても優秀なのが察せられる。
そんな彼に、
「ありがとうございます」
レイラ・タリアが静かに礼を述べた。
「いえ、これが私めの役目ですから」
ブルーディスは恭しく頭を下げながら遜ってみせた。それでいて威厳のある姿でもあった。彼の強さがそこに垣間見える。
こうして準備を終えて、パティリエカとシェイナとレイラ・タリアとブルーディスを乗せた馬車がゆっくりと走り出す。行先は、<学校>。そこで臣民として教育を受ける生徒達を鼓舞することで、学習へのモチベーションを高めることが目的の一つだった。そして、<学校>の運営についての意見を汲み上げること。
パティリエカはその必要性をしっかりと理解している人物だった。




