第7話
ここで少し、余談を挟みたい。
「河馬」
という動物はアフロユーラシアの淡水域、すなわち、アフリカ大陸とユーラシア大陸の塩分濃度が低い水に生息する水陸両棲可能な動物である。河馬は現在、アフリカにのみ残存している。この動物の学術名は、
「Hippopotamus amphibius」
カタカナにすると、
「ヒプポポタムス アムフィビウス」
である。
河馬はその外見から「穏和で動きの鈍い草食動物」といった印象を持たれていたが、新人類のマスメディアが視聴率を得るために様々な動物番組を放送したため、「獰猛な動物」という真の姿が広まった。
新人類のマスメディアについて触れたので、少しだけ旧人類のマスメディアについて触れたい。
旧人類は新人類よりも優れたテクノロジーを持っていたので、既に新人類が使うテレビは捨てていた。彼らはテレビよりもインターネットに近い『デジタリア』を好んで使っており、マスメディアの数は百万を軽く越えていた。このようにマスメディアが増えた理由は、自由に報道できるよう規制が緩和されたからである。
規制緩和はマスメディアの競争率を高め、敗北を恐れた既存のマスメディアは規制緩和に反対して、新しく出てきた勢力を排除する運動を始めた。この運動に民衆は反対し、既存のマスメディアに対して抗議運動を開始する。既存のマスメディアは、彼らの新メディア排除運動に対して抗議する人々を、
「テロリスト」
だと報道し、さらなる反発を買った。既存のメディアは自分で自分の首を絞め、最終的に自滅した。彼らが自滅したことによって、様々なメディアが誕生したが、その中には嘘の情報を流す者、コンピューターウィルスの配信を目的とする自称マスメディアなども存在した。
旧人類史上、最も優れたマスメディアの研究家であったコスメディ・アーガハは、著書『マスメディアの進化と衰退』で以下のように述べている。
「『報道の自由に関する法』はマスメディアに新風を吹き込んだかもしれない。しかし、この制度を悪用し、他の星を侵略しようと偽情報を送る会社や、ウィルスの試作品を試そうとするハッカーの巣になっている。このような事態を解決するためには、これら違法行為を罰する必要がある。」
アーガハが書いている通り、違法行為は処罰される必要があった。しかし、当時のマスメディアの大半は盗賊団『スペース・ア・ゴー・ゴー』によって取り仕切っていたため、ほぼ不可能であった。
話しが脱線しすぎたため、元に戻したい。
エヌラの前に現れた女性は『河馬』ではなく、『河馬に似た人間』であった。