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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第17話 絶望の先に待つ本当の絶望
52/62

17-1

 3日間開催されるフォーガン王国祭。

 昨年はグランダルクの暴走により2日間で終わってしまったが、今年は何事も起こる事無く3日目を迎えていた。

 この最終日はグランダルクとシルフィロードの量産試作機が同時発表される日であった。

 昨年と同様、王宮前広場の中央には大きな特設ステージが設けられている。

 だが昨年と違うのはその特設ステージは石造りで、その大きさも去年の10倍近くはある。

 そして観客は中庭を覆う壁に設置された仮設の観客席で、これからお披露目される量産試作機を期待を込めて待っている。

 どこか闘技場を思わせる造りだが、これには理由がある。

 表向きは試作機同士の実践演習を行うとされているが、観客以外全員が別の理由である事を知っている。

 ガイアの「花火を打ち上げる」という不穏な言葉。

 それが実行されるとしたら、今日以外にはあり得ない。

 わざわざキングス工房に出向いてまで予告したのだ。

 キングス工房が関わっている出展の際にガイアが行動を起こすだろうと予想していた。

 案の定、初日、2日目と何事も無く終わっている。

 何かあるのならばお披露目の最中になるだろう。

 もし昨年の暴走事故の時のように観客がすぐ側に居た場合、また被害が出てしまいかねない。

 それを防ぎ、更には不慮の事態をただのパフォーマンスのように見せかけ、事態を収拾しようと考えた結果がこの闘技場のような形だった。

 これならば被害が出る事もそう無いだろうし、本当に不慮の事態が起きた時は、壁外へとすぐに逃げられる様になっている。

 王立魔動研究所や騎士団から人員を集めて、すぐに避難誘導が出来るような体制も整えている。

 出来得る限りの準備を整えて、シン達はその時を待ち構える。

 ステージ上では王立魔動研究所の所員がマイクパフォーマンスで場を盛り上げている。

 そして遂にお披露目の時間がやって来た。

 まず最初に漆黒の鎧甲を纏った重騎士姿のグランダルクが姿を現す。

 決闘の際に操縦者に選ばれてから、グランダルクの専用操縦者はアークスが務めている為、武装は大斧となっている為、その重量感と混じって、見る者に力強さを感じさせる。

 それに続いて白銀の軽騎士風のシルフィロードが出てくると一際大きな歓声が上がる。

 昨年の暴走事故を止めた事で、シルフィロードは王都に住む者の間では有名である。

 貴族以上であれば、決闘を勝利に導いた立役者という事も伝わっている為、更に知名度は高い。

 地方の小さな魔動工房であるキングス工房がここまでの偉業を成し遂げていれば、本来なら嫉妬の対象になってもおかしくは無いのだが、第3王女、そしてその父親である国王のお墨付き、更に王立魔動研究所も認めているという事もあって、キングス工房を中傷する者はこの王都では存在しない。

 逆に王都ではお目に掛かる機会が殆ど無いせいか、人気があったりする。

 ステージの真ん中に立ち、 パフォ-マンスの為にカタナを抜いて、軽く動くだけで物凄い歓声が上がる。

 その光景をシルフィロードの操縦席からシンは見回す。

 1年前はグランダルクが注目を集めていた場所に自分が居て、グランダルク以上の注目と歓声を受けている事に、少しだけ戸惑いを感じる。

「あはははっ、まさかこんなに人気者になるとはねぇ」

 1年前のグランダルクの暴走を止めた光景は未だに人々の目に鮮烈な印象として残っているのだ。

 このくらいは当然だろう。

「っと気を緩めないで、警戒を続けなきゃな」

 口でそう言いつつも、並列思考で前後左右上下にしっかりと意識を向けている。

 シルフィロードをステージの隅に移動させながら、周囲への警戒を強める。

 今の所、何の動きも無い。

 だが何かがあるとすれば、この瞬間しかあり得ないだろう。

『さ~て!お次は遂にこの2機を基にして造られた量産を前提とした今回のメインである魔動機兵の登場だ!』

 ステージ上では再び司会進行役が観客の興味をそそるようなマイクパフォーマンスを行っている。

 王立魔動研究所の所員のはずだが、どっちが本職か分からない程、司会が板についている。

 そうこうしている内にグランダルクの量産試作機であるランドールがステージに上がっていく。

 ランドールの見た目は四角い箱という感じだ。

 全身は角張った鎧甲に覆われ、左腕は全身を覆う程の巨大な盾と一体化している。

 防御を前面に押し出したコンセプトはグランダルクと変わらないが、より防御に特化した形になっている。

 角張った鎧甲は加工しやすく、量産に向いているとも言えるだろう。

 ランドールがいくつかパフォーマンスをした後、ランドールとは対照的に丸みを帯びた鎧甲に包まれた白い兵士が姿を現す。

『救国の英雄機シルフィロードの量産試作機!ゼフィールの入場です!!』

 司会が高らかにゼフィールの名を謳い上げると、会場は最高潮に盛り上がる。

 ランドールの回路と同じく半自動で制御されたゼフィールが滑らかに飛び上がり、ふわりとステージの上へ降り立つ。

 左腕に申し訳程度についた盾も丸みを帯びている為、全体的に丸く太っている様にも見える。

 しかしシンイチロウからもたらされた技術知識のおかげで生み出す事が出来た軽くて丈夫な合金を使い、極限まで軽量化を図っている為、見た目ほど重量感は無い。

 鎧甲が丸みを帯びているのは素早く動いた時に風の影響を受けにくくする為の工夫である。

 ランドールの鎧甲と違い、加工に多少時間は掛かるが、加工のしやすい素材で出来ている為、それ程手間になる事は無い。

 太っている様に見えるが、ランドールと並ぶとゼフィールの横幅は半分程度しか無い細身だというのが分かる。

 その横幅の対比と搭乗時の軽やかな動きが、シルフィロードの量産機であるという事を観客に理解させる。

 シルフィロードと同様の腰の後ろにある水平翼には、これまた同様にカタナが収納されている。

 しかもシルフィロードが打ったカタナだ。

 量産試作機だが、武器に関してはシルフィロードと同レベルのものを装備していた。

 ゼフィールが量産された際、全てにカタナを配備するのは流石に難しいだろうが、今は試作機という事で、これくらいは勘弁して貰えるだろう。

「やっぱり自分の手で造ったものがこうやってみんなの目に触れるのは嬉しいな」

 ステージ脇でユウが感慨深そうに呟く。

 ゼフィールはカタナを抜き、剣舞のような動きでその動きをアピールする。

「自分の姿を直接見られないのはあまり緊張しなくて良い……」

 ゼフィールの操縦席の中でソーディは大きく息を吐く。

 彼自身、まさか魔動機兵に乗ってこんな場に出るとは思わなかったが、ガイアの襲撃を想定して、信頼のおける人物に操縦させたいという意図から急遽、ゼフィールに乗る事になってしまった。

 以前、シルフィロードに試し乗りをした時に酷い目に遭った経験もあり、あまり乗り気では無かったのだが、アイリに懇願されては断る事が出来なかった。

 シルフィロードを元に造られたものだが、こうしてゼフィールを操縦してみると、まるで自分の手足のようにとても動かしやすかった。

 量産機のコンセプトは素材の安価さや整備のしやすさなども重要だが、一番重要なのは操作性だ。

 どんなに良いものを大量に造った所でそれを使いこなせる人間がいなければ宝の持ち腐れである。

 その点、このゼフィールは、急遽、操縦する事になって、起動方法などの基本を教えて貰っただけにも関わらず、とても動かしやすかった。

「…近い将来、騎士も魔動機兵に乗って戦う様になるんだろうな」

 そう考えると何となく物悲しい気持ちになる。

 確かに魔動機兵は強力だ。

 作業用魔動機兵でも力は熟練の騎士数人分に匹敵する。

 戦闘用ともなれば、その力は作業用の数倍もある。

 正しく一騎当千だ。

 その力を使わない理由は無いが、これ程、簡単に強力な力を得てしまっては、これまで騎士となる為に訓練に明け暮れていた自分がバカに思えてくる。

「いや、違う。シン殿はあれほどの力を持ちながら自身の身体を鍛えている」

 ソーディは自分達と共に剣の稽古をし、少しでも強くなろうと努力しているシンの姿を知っている。

 いくら強力な魔動機兵もそれを操縦する者が未熟なら本来の力を発揮させる事は出来ない。

 だからこれまでの訓練は無駄では無いのだ。

 シンの姿を見ていたからこそ、ソーディはそう思えたのだ。

 だがランドールに乗るソーディの先輩騎士はそうは思わなかった。

「こいつがあれば騎士なんてものは不要になる……私は…これまでの私の存在意義は……」

『そうだ。騎士なんてもう古い。不要だ。辛い訓練なんかしなくたって、これ程強力な力を簡単に得る事が出来る』 

 彼の心の中に悪魔が囁き掛ける。

 まるで騎士の縋っていた希望を打ち砕くかのように。

『騎士である自分を守る為にも魔動機兵は全て消し去る必要がある』

「…そうだ。私が騎士であり続ける為、目の前のこいつらはいらない……」 

 騎士の目はすぐ目の前にいるゼフィールの姿を捉えていた。

 その瞳は黒く淀み、不安と怒りがない交ぜになっている。

『そうだ。そいつがお前の希望を脅かす絶望の権化だ。自分の希望を守る為にどうすればいいか、分かるだろう?』

「そうだ。私の騎士としての誇りを守るには、まずはこいつだ。この白い奴を破壊しなければいけない。それから……」

 騎士は俯きながらブツブツと呟き、ランドールを1歩前へと足を進ませる。

 その顔はまるで何かに取りつかれたよう。

「私は騎士だ。騎士の誇りを守る為、それを邪魔するものは排除する!!」

 ランドールはその内に狂気を宿しながらゼフィールへと1歩また1歩と近付いていった。



 *



『おやおや。こんなに簡単に事が運ぶなんて思ってもいなかったよ』

「おまえがいる事で直接相手の心に干渉出来るから楽だな。まぁ、もう1人の騎士の方には効果が薄かったようだが」

 少年の声にガイアは僅かに笑みを浮かべて答える。

『相手の心を弱らせて無理矢理絶望を植え付けるなんて、出来るとは思わなかったけど』

「あっちの騎士のようにそれなりに強い意志があれば出来ないがな。だが人の意識に干渉出来るお前の力で直接、埋め込めるから大分楽だったのは確かだ」

 ガイアの能力で切り離した自身の負の感情。

 彼だけならば、その心の中に隔離するだけの能力でしかなかった。

 だが少年の他者の意識に干渉する力と合わさった時、隔離した感情を他者に植え付ける事が出来るようになっていた。

 精神的に弱くなっていたり、意志が弱かったりしなければ成功しないし、心を弱らせる為に時間も掛かってしまうが、成功すれば植え付けた感情が肥大化し、感情の赴くままに動き出す。

 感情を植え付ける際に、ほんの少しだけ感情に見合った方向性を与えてやれば、その方向性に従って行動を起こす。

 今回のように一見全く関係なさそうな事柄でも関連を持たせてやれば、矛盾を感じる事無く行動してしまうのだ。

『で、これからどうすんのさ』

「そりゃあ、当然、俺も…いや俺達も参加するさ」

 ガイアは獲物を狩る時のような獰猛な笑みを浮かべる。

 それは純粋に戦う事を楽しむ表情だ。

「折角、面白い展開にしてやったんだ。それに皇帝のお坊ちゃんがようやく俺に見合った玩具を寄越したんだぜ。使わない訳にはいかねぇだろうが」

『いやぁ、まさか僕達の目を欺いて、ナンバー4をこの地まで運んで来たのは意外だったよ』

 意外と言いつつも少年の声はあまり意外そうな声ではない。

 それもそのはず、あの妖艶な女を出し抜き、ナンバー4を極秘裏にフォーガン王都まで運ばせるように仕向けたのは少年なのだから当然だ。

 そしてこの地にナンバー4がある事を知っていたからこそ、理由をつけて死神の行使権を共有化させたのだ。

『全ての準備は整った訳だし、そろそろ行こうよ』

「ああ。全ての希望に絶望を与え、その絶望さえも越えた存在と俺はなる」

 2人の思惑がどうあれ、どちらの準備も整った。

 後は彼らも行動を開始するだけ。

「さぁ、祭のフィナーレを華々しく飾りに行こう!!」

 全ての終わりを始める為、それは鳴動を開始した。

次回11/1(日)0:00に更新します。

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