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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第16話 父と子と孫
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16-2

 ガイアが訪れてから3日。

 今日も今日とて魔動力が使えないシンは麗らかな日差し中、屋根の上に居た。

 だが先日とは異なり、惰眠は貪っていない。

 足場の悪い屋根の上で刀を構え、目を閉じてイメージをしながら、ゆっくりと刀を動かしていく。

 最初にソーディを思い浮かべ、いつも通りの基本の型で身体を温める。

 続いてアークスを想像し、実際に戦う。

 パワーに押し切られ、膝を付いた所で、一度休憩する。

 次に想像したのはドゥマノの動き。

 その槍捌きは鋭く重い。

 生身のシンでは到底敵わない。

「はぁ…はぁ……やっぱりシルフィロードに乗って無いと勝てないか……」

 シンは大量の汗を拭いながら屋根の上に横たわる。

 実際にはゆっくりとしか動いていないのだが、並列思考の大部分を使用して様々なパターンをほぼ同時に考えながらのはイメージトレーニングは、身体を動かすこと以上に体力を消耗する。

 だが反復すればする程、確実にそれが意識に刷り込まれ、意識をしなくても反射的に対応して動けるようになっているのは実感出来る。

 今のシンに出来る事はそのパターンを増やす事。

 次の動きを考えながら戦う事は重要だが、考え過ぎて動きが止まってしまう事もあり得る。

 並列思考で複数のパターンを考えているので、完全に動きを止める事は無いだろうが、ほんの僅かでもタイムラグが生まれる可能性はある。

 もしかしたらどんなに考えても対応策が見つからず、頭が真っ白になるという事も起こり得るかもしれない。

 もしそんな場面に直面した場合、無意識の内に自然と身体が動けば、危機の回避に繋がることもあるかもしれない。

 そんな事は滅多に起こらないだろうし、そう都合良く行くとも限らないが、可能性があるなら少しでもやっておきたかった。

 恐らくそれくらいやっても得体の知れないガイアと対等に戦えるかは疑問は残る。

 やらないよりはマシという程度だが、それならばやっておいた方が得というものだ。

「うっし。休憩終わりっと。次はシルフィロードに乗っている状態のイメージトレーニングを……」

 シンが次のイメージトレーニングに取り掛かろうとした所で、道の向こうから魔動馬車が来ているのが見える。

 何度も見ているのでそれにアイリが乗って来ている事を知っている。

「おっ、これでようやく俺も作業に加われるな」

 そんなことを考えているうちに馬車は工房の前で停まる。

「シン!た、大変です!!すぐに降りて来て下さい!!」

 下からクレスの慌てた声が聞こえてくる。

 先日の事で屋根の上に居るという事に気が付いたのか、今日は最初から顔を上げて叫んでいる。

「どうした!もしかしてアイリに何かあったのか?!」

「違います。シンのお父さんという人が来たんですっ!!記憶が戻る切欠になるかもしれませんよ!!」

 クレスの言葉にシンは開いた口を閉じる事が出来なくなっていた。

 この世界にシンの血族が存在するはずが無い。

 だがアイリとミランダ以外にはシンが異世界人だという事実は伏せられている。

 未だに記憶喪失という事になっているので、クレスにしてみれば父親が居た所で不思議でも何でも無いし、会う事で記憶が戻る可能性もあると思っている事だろう。

 シンとしては、どこかの成り上がりたい貴族がシンの噂を聞いて取り入ろうとしているのだろうとしか思っていないので、会う事に抵抗はある。

 だがどうせ時間はある事だし、からかって追い返そうなどと悪巧みしながら、クレスと共にリビングに向かう。

 その途中でシーナに出会う。

「ん?なんだ、お前も呼ばれたのか?」

「ええ。私も一緒にって……」

 どうやら父親と名乗る男が呼んだらしい。

「もしかして帝国の人間か?アイリと来たんだとしたら有り得るな。けどアイリなら俺の父親を偽ったとしても分かるはずだし……」

 どういう事か訝しがりながら、シン達はリビングまでやってくる。

 部屋に入るとガイアの時と同様に、まず父親と名乗る男の後ろ姿が見える。

 この世界では珍しいシンやシーナと同じ黒髪にシンは何故か懐かしさを感じる。

「来たか、慎太郎」

 男が振り返る。

 その顔を見た全員は驚きの表情を浮かべ、続いて男とシンの顔を交互に見る。

 シンはといえば、その顔を見て完全に思考停止していた。

「こうやって並んで見ると一緒だな。流石に他人の空似では済まないね」

「はい。私も彼の顔を見て驚きましたから」

 ユウとアイリの言葉にシンの思考はようやくゆっくりとだが動き出す。

 ついさっき、並列思考の全てが何も考えられなくなるような事態などそうそう起きるものではないと思っていたというのに、まさかこんなに早くそんな事態に陥るとは思いもよらなかった。

 男の顔はシンの顔に似ていた。

 いやそっくりと言って良いだろう。

 シンがあと十年程歳を重ねたら、こうなるのではないかと思う程、その男はシンとそっくりであった。

「私は竜胆慎一郎。君達がシンと呼ぶ竜胆慎太郎の父親だ」

「あ、あ、あっ…あり……あり………」

 シンはあり得ないと言いたかったが、言葉にならなかった。

 父親が居なくなったのは、シンが小学校に入った直後だった。

 システムエンジニアだった父親はアメリカで行われた大きな展示会に出席した際に自爆テロに巻き込まれた。

 遺体は見つからなかったが、身に付けていた時計や結婚指輪などが血の海の中で見つかり、死んだものと思われていた。

 だが、もしその際にこの世界に転移したのだとしたら。

 そんな偶然などあるものなのだろうか。

 同じ時間、同じ場所に居たと思われるシンとシーナならば一緒に異世界転移したとしてもおかしくは無い。

 しかし、時間も場所も異なるのに、父と子が同じ異世界に飛ばされるものなのだろうか。

 それらを全て偶然と片付けたとしても、父親が居なくなったのは10年近くも前だ。

 だが、今、目の前に居るこの男はどう見ても20代にしか見えない。

 若作りだとしても、シンが知る父親の姿と殆ど変りが無い。

「色々と疑問に思う事は多いだろうが、まずは私の話を聞いて貰えるかな。資格者であるお前達2人、そしてリュークの孫よ」

 シンイチロウの言葉に今度はユウが驚く。

「祖父を知っているのですか!?」

「ああ、彼が研究所に居た頃からの知り合いだ」

 その言葉で更に混乱が深まる。

 ユウの祖父であるリュークが王立魔動研究所を辞めたのは40年程前だ。

 年齢的に知り合えるはずが無い。

「ちゃんと最初から説明しよう。私の事も資格者がどういった存在であるかという事も」



 *



 色々な疑問が溢れ、今すぐにでも聞きたい事が山のようにあったが、一先ずは全員を集めてから話をする事となり、作業中のフィルもリビングに呼び出す。

 それほど広くも無いリビングにはシンとシンイチロウが座るソファを中心にユウ、クレス、フィル、アイリ、シーナが集まり、更にその後ろにミランダ、ソーディ、アークスが立ってその様子を見ている。

「さて、改めて自己紹介をしよう。私は竜胆慎太郎。この世界とは別の世界の日本と言う国からやって来た。そしてそこに居る慎太郎と水上椎那も私と同じ日本からやって来た、いわゆる異世界から転移してきた人間だ」

 唐突な内容だったが、シンイチロウの声はあまりに真面目であり、シンもシーナも否定しないので、誰も笑い飛ばす事すら出来なかった。

「で、でも見た目も何も変わらないじゃないか……」

 ユウが辛うじて言葉を口にするが、それ以外で異なる事があるのをすぐに理解して、言葉を続ける事が出来ない。

「そうだな。見た目は同じ人間だ。だが我々にはこの世界の人間なら誰もが生まれつき持っている魔動力を持っていない。そして口付けという行為で他者から魔動力を借り受け、魔動輝石の力を引き出す事が出来る。これだけで十分、この世界の人間じゃないと言えるだろうが、極め付けは魔動王国語、我々の世界では日本語と言うのだが、それを知っていると言う事だ。まぁ、厳密には私達が住んでいた世界の言語のうちの1つだから知らない者も居るのだろうが、私がこれまで知る限り日本語を知らない転移者は見たことがない」

 シンイチロウの言葉に誰も口を挟む事が出来ない。

 あまりに突飛で信じられない話に頭がついていかなかったというのもあるが、シンとシーナが否定しない為に妙な説得力があったというのが大きい。

「シンさん達がこの世界とは別の世界からやってきたと言うのは事実です。それは私が保証します」

 アイリまでも肯定してしまっては、もう疑う余地は無いと言えた。

 だが異世界から転移してきた事については納得出来るだけの証拠は色々とあった。

 ユウとクレスがシンを初めて見つけた時に着ていた服は、見たことも無いとても奇妙なデザインだったし、持っていたプラモデルという魔動機兵の模型はこの世界のものとは思えない程、精巧であり、見たことも無い材質で出来ていた。

 そしてカタナや魔動銃といったこれまで存在しなかった武器も編み出している。

 そしてシンとシーナは昔からの知り合いのようだった。

 それら全ての事柄がこの世界以外の場所から来たと言う事を示していた。

「さて、それではこのタイミングでここへ来た理由をお聞かせ願いますか?」

 アイリが話の先を促す。

「全てを君達に託す為に来た。いや、正確には未知の覚醒を果たした慎太郎にということになるかな。魔動陣の自作や悪夢からの解放は我々にも出来ないことだったからな」

「我々?」

「そうだ。魔動王国時代からこの世界を裏から支配し、人心と技術の発展を操っていた存在。それが我々だ。我々に名前は無い。強いて名を付けるとしたら“世界の平定者”という所だろうか。肉体と意識を切り離し、時の棺と呼ばれる時間が止まった空間に肉体を置き、意識だけの存在になる事で、永遠の命を手に入れた者達だ。私はかつて彼らの誘いに応じた。その時から私の肉体年齢は止まっている。いや、今は時の棺からこの肉体を出したので既に動き出しているから、止まっていたというべきか。ちなみに私がこの世界に転移してきたのは、約200年前の事だ」

 異世界転移の次は不老不死。

 もう一体何をどう言えばいいのかユウには分からなかった。

 いや、ユウだけではない。そこにいる誰もが、何も言えなくなっていた。

「確かにこんな事を言われても俄かには信じられないだろう。だが、つい先日まで私も意識だけの存在だった。そして意識だけになった私は一時的にだが、一部の人間の意識の中に入り込むことが出来るのだ。決闘の際にはサイヴァラスの神官の弟子として、君達が悪夢からシーナさんを助け出し、倒す所を見ている。当主が跡継ぎが出来る前に急逝してしまった貴族の使用人に入り込み、蔵書を売りに出すのに紛れて、魔動輝石とその使い方を纏めた用紙を売りに出し、そこのメイドの彼女に売り渡した事もあるし……ああ、そうだ。そこにいるクレスさんには、王国際の時に慎太郎と逸れて貧血で倒れていた所を介抱した事もあったな」

「えっ、あ……」

 そう言われてクレスはその時の事を思い出す。

 確かに顔は違う。

 だがその口調や雰囲気は似ているかと言われれば頷ける所はあった。

 その他にも、グランダルク暴走事件の際、研究員の1人に乗り移ってフィルを貶めて王立魔動研究所を追い出し、アイリの元に行くように仕向けた事や、使用人に乗り移り、アイリがヴァルカノに来た際にミランダと引き離し、野犬に襲わせる事でシンと接触するように仕向けた事もあると言う事をシンイチロウは告白した。

「そして今から50年ほど前。リュークに出会った私は彼に魔動殲機の設計図を託した。まさかその孫と、私の息子が共同でそれを不完全とはいえ造り出してしまうとは思わなかったがね」

 シンイチロウの話が全て真実だとしたら、この場にいる殆どの人物と何かしらの接点があり、そして全て思い通りに事が進んでいた事になる。

「と、父さんはここまで見越してたって言うのか?」

「いや、最初は単純にリュークの孫だったから少しだけ気になった程度だ。だが、慎太郎が居ると知ってからは……意識していないつもりだったが、恐らくどこかで贔屓にしていたのだと思う。その結果が今に至るという訳だ」

 いくら200年近くを生きる不老不死の存在だったとはいえ、未来を予知するような特殊な能力は持っていない。

 偶然が重なった結果、最高の操縦者と最高の魔動機兵が揃ったに過ぎないし、それがシンイチロウに縁のある人間だった事も偶然に過ぎない。

 だがシンイチロウはその偶然の重なりは必然だったように思えていた。

 だからこそ、こうして直接会いに来たのだ。

「この世界の調和が崩れ、悪夢が現れるようになった。そして、今、それに対抗出来る力を持つのはお前達だけ。頼む。この世界から悪夢を消す希望になって欲しい」

 シンイチロウが200年の間に調べた結果、この世界における平定者と資格者の使命は悪夢を消す事にある。

 そしてその全てを消す事が出来れば恐らく、元の世界に戻れるはずだった。

 今現在、存在している悪夢さえ消す事が出来れば、資格者は全て元の世界に戻り、この世界で悪夢を生み出す可能性が最も高い資格者は居なくなるはずだ。

 だからシンイチロウは自分の息子が危険に晒されるのを承知で頭を下げるのだった。

かなり初期から立てていた伏線とも思えないであろうフラグまで回収。


次回は10/18(日)0:00更新予定。

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