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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第15話 限界を越えたその先にある永遠
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15-3

 全ては男の思い通りに、いやその予想を越えて良い方向に動いていた。

 魔動機兵の量産化の流れを生んだのも、魔動王国時代の技術を供与して新たな武器を生み出す流れを作ったのもこの男が切欠を与えていた。

 いやそれよりも以前から男は常に誘導し続けていた。

 魔動輝石を与え、資格者という存在をほのめかし、覚醒を促した。

 他の資格者や悪夢の出現は想定外だったが、その想定外のおかげで思わぬ大覚醒を果たしたのだから、不幸中の幸いというものである。

 遡れば、有能な技術者を陥れ、第3王女を頼る様に仕向けた事もあった。

 更に遡れば、50年程前に彼と出会った時から男の計画は始まっていたのかもしれない。

 彼――リューク=キングスロウとの出会い。

 最初は単なる偶然だった。

 ここ最近、フォーガン王国の王立魔動研究所の成長が著しく、その理由を確かめる為に男は派遣された。

 そして暫くの調査の末、リュークという男が王立魔動研究所に来てから、様々な新しい技術の発見や、これまで修理不可だった発掘品の修復が進んでいたのだ。

 リュークがどんな人物なのか、確かめようとした矢先に、男はリュークと出会った。

 そこは王都の外周部にある貧困街。

 リュークは何やら作業をしながら貧困街の住人と楽しそうに談笑していた。

「一体、こんな所で何をやっているのですか?」

 直接的な接触はしないつもりだった男だったが、リュークの行動の意図が分からず、つい尋ねてしまっていた。

「彼らの為にライトを作っていたんだ。この辺りは夜になると完全に真っ暗になってしまうからね」

 リュークの言葉に男は信じられないという思いだった。

 普及しつつあるとはいえ『ライト』の魔動具は未だ貴重だ。

 平民の家でも一家に1つか2つある程度だ。

「ああ、もしかしてあなたも欲しいのかな?少しだけ待ってくれれば、あなたの分も作りますよ。あっ、お金は不要ですから安心して下さい」

 リュークの言葉に更に驚く。

 素材から作り出すとはいえ、その素材もタダではない。

 それを無償で配るなど聞いた事も無い。

 これだけ手早く『ライト』を作れるならば、貴族辺りに売り付ければ相当な儲けになるはずだ。

 その事を尋ねてみると、

「あはははっ、私は研究一辺倒であまりお金を使わないからね。それに魔動具を幅広く広めて生活環境を向上させれば貧富の差というのも無くなって来ると私は思っているんだ」

 そんな絵空事のような事を真剣な表情で語った。

 その言葉で男はリュークに興味を持ち始めるようになった。

 魔動技師としての高度な知識と技術を持ちながら野心を持たないリュークのような人間は、男にとって初めてだったからだ。

 それから10年。

 魔動具はどんどんと普及していき、気が付けばリュークの言っていた通りに貧困層と一般層の貧富の差は縮まっていた。

 それどころかリュークの行動に感化され、その上、彼自身が惜しみなく魔動技術を教えていた為、貧困層の住人から優秀な魔動技師が生まれるようになったのだ。

 リュークに出会い、男の意識はどんどんと変わっていった。

 いや、変わったというより、昔に戻ったという方が正確かもしれない。

 どこかに必ず希望が存在すると信じていた若い頃の自分に。

 そしてある日、男は思い出した希望をリュークに託す事にした。

「リューク。これを受け取って欲しい。どのように扱うかは君に任せる」

 それは男の所属する組織から持って来たものだ。

「魔動王国語?……何かの設計図のようだが…………な?!こ、これは……」

 リュークは最後の方のページまで流し読みした所で表情を固くする。

「ああ、見ての通りのものだ」

 リュークが目にしたものは完成図と思われる人型の騎士。

 それは魔動機兵の設計図だった。

 そこに書かれた魔動王国語は王立魔動研究所の中でも博識と言われたリュークでさえ、僅かにしか読み取れないものであった。

「何処でこれを?」

「それは言えない。だがあまり公にする事が出来ないという事は心に留めておいてくれ。いや、君が望むなら公開しても構わない。それは君に一任する」

 その設計図は幻と言われた魔動殲機の9番目の設計図だった。

 男がそれをリュークに託すのは、正直に言えば理由は無い。

 いや、野心を持たず、自分よりも他人を優先させる彼ならば有効活用してくれると思ったからだ。

 ただ懐に置いて暖めているだけのあの組織が持っているより十分に世界の役に立たせてくれるだろう。

 設計図を渡す事が出来た男は、リュークの前から姿を消した。

 いや、消さざるを得なかった。他の任務を言い渡されたからだ。

 一応、組織の方には僅かに益にはなるが、害にもならないと報告し、それで終わった。

 その後、男がリュークと会う事は無かった。

 リュークが王立魔動研究所を辞め、田舎の街で魔動工房を開いたという噂は届いたが、あの設計図をどうしたのかは分からないまま、リュークは生涯を終えた。

 それから数年後、男は再びキングスロウの名と9番目の事を聞く事となる。

 それがリュークの孫であると知り、そこには資格者となる彼もいたのを知る。

 その事実を知り、男は誰にも気づかれぬよう彼らの為に行動を開始したのだ。


 永遠とも言える漆黒の闇の中で、男は馳せていた思いから目を覚ます。

「因果というものなのかな、リュークよ。図らずもお前の孫とあいつが一緒にお前の後を継いでいるのだからな」

 男は意識を闇の中へ飛ばし、自分のあるべき姿を思い出す。

「永遠を生きるという事がこれ程苦痛を伴うとはあの時は思いもよらなかったが、それももうすぐ終わる。いや、お前のような奴が現れるのを、そしてその意思を継ぐ者が現れるのを待つ為にこの苦痛に耐えていたのかもしれないな」

 男は永遠を迎え入れるより前の自分の姿をゆっくりと思い出す。

 200年近く経ち、自身の姿を忘れかけていたが、あいつが現れてくれたおかげで、その面影を思い出す事が出来るようになった。

 おかげでぼやけていた輪郭は徐々に明瞭になり、ようやく自分の本来の姿をはっきりと思い出す。

 それと同時に意識が自身の肉体を求め、呼び合い、引かれ合う。

 200年近く前に捨て去った肉体はあの頃と変わらぬままの姿を残していた。

 眠る自分自身の身体を俯瞰して見ているのは、よくある幽体離脱とかに似ていて、まるで自分が死んでしまったように感じてどうも気分が悪くなる。

 いや、死んでいないというだけで、死んでいるのとあまり変わりは無い。

 今、見えている肉体には魂が入っていないし、この時の棺と呼ばれる空間にあれば老化もしない。

 だが意識が肉体に戻れば、魂が宿り、時と共に老いていく事だろう。

 そして一度この身体に戻ってしまえば、恐らく二度とこの空間には戻って来れないだろう。

 しかしもうこれ以上、永遠という名の牢獄にしがみ付いている理由は無い。

 意識だけの存在となり永遠を手に入れてから初めて他人に興味を持った男の孫とあいつの為に、自分が出来る事を、伝えなければならない事を成す為にはこの身体に戻らなければいけないのだ。

 この身体であればあいつは自分の言う事を信じるだろうから。

 だから男はこの身体に戻る事を決意した。

 全てをユウ=キングスロウと竜胆慎太郎に託すために。



 *



「あいつが消えちゃったよ」

「消えたとはどういう事じゃ!?」

 薄暗闇の円卓で老婆が少年の言葉の意味を理解出来ずに声を荒げる。

 いつも絶対的な権力を誇り、全てを悟ったような老婆がそんな声を出すのは珍しい。

 だがそれだけの不測の事態が起こったという事が円卓の参加者にも伝わる。

「言葉通りだよ。今、この場に居ないという意味じゃなくて、永遠を捨てて自分の肉体に戻ったんだ。どうやって時の棺に辿り着いたのかは分かっていないけれど」

 少年は面倒臭そうにしながらも全員に分かるように説明する。

「あ、ありえない。こ、この場所に居るのは、み、自ら望んで永遠を受け入れた存在だけだ。だ、だから永遠を捨てようなんて思わないはず……」

「けれどあいつは私達の中でも一番の新参者だったし、フェイズ4までいった特別な奴よ。それに言っちゃなんだけど、あの黄金の資格者を見てから、私も何かおかしな感じがするのよね~」

 オドオドと男に続き妖艶な女の声が円卓に響く。

「確かに報告にあった例の黄金の輝きは我らの存在より更に上のものだというのは理解出来た。直接見たお主がそう言うのなら、あやつになんらかの影響を与えた可能性はある」

「でもあいつはその前からおかしな動きをしていたよ。キングス工房だっけ?なんかあいつらの名前が出始めたあたりから独自に動いてたみたいだし」

「そうね。確か資格者の見極めを名乗り出たのも彼だったし、決闘の行く末を直接見に行ったのだって今考えれば……」

 考えれば考える程に今、この円卓に居ない、いつも冷静を装うあの男への不信感は募っていく。

「あやつのこれまでの行動の事はよい。それよりも重要なのはあやつが今、何処で何をし、何の為に行動をしているかじゃ」

 しかし老婆の言葉に誰も答える事が出来ない。

 どこかの国の王族とか、名のある人物であれば探し出すのは容易だ。

 だがあの男はこの場に居たというだけで、有名な人物でも何でもない。それでは見つけようがなかった。

「あいつが何処に居るかは分からないけど、手掛かりならあるよ。前に一度、カマを掛けた事があってね。その時は動揺は抑えてたみたいだから分からなかったけど、これまでの事を考えると、あいつの行先は1つしか無いと思うよ」

 少年は最後まで答えを言わずに意地の悪い笑みを浮かべて周囲に視線を送る。

「キ、キングス工房しかない!!」

 オドオドした男がわざわざ口に出して答えるまでも無く、女も老婆もそれは分かっていた。

「じゃがあやつは何がしたのじゃ?永遠を捨ててまであの資格者に会いに行く理由が分からぬ」

 確かにそれについてはここに居る誰にも理解出来なかった。

 彼らは莫大な魔動力を消費して、肉体と魂を切り離す事に成功した選ばれた者達だ。

 肉体が死を迎えればそれに引き摺られて魂も死んでしまう為、時の棺に生前の肉体を封じて肉体の時間を止める事で永遠不滅の存在へと昇華した。

 意識だけの存在となった彼らは永遠と引き換えに、直接的な干渉をする事は出来ないようになっていた。

 ただその代わりに一時的に他者の意識に介入する事が出来るようになった。

 だが意識に介入する事が出来る人間も数少なく、サイヴァラス聖教という居もしない神をでっちあげて信者を集める事で意識介入が出来る人間を増やしていったのだ。

 そして彼らを通して世界に介入し、この世界に安寧と秩序をもたらして来た。

 彼ら永遠なる存在は決して表に出る事は無いが、世界はその彼らによって長きに渡り、支配され続けて来たのだ。

「だが、直接、あの黄金の資格者と接触するというのならば見届けるのもまた一興か」

 老婆が思案するように呟く。

「何するか分からないのに放置するっての?」

 彼とのそりが合わない少年にとっては納得のいかない裁定だった。

「既に悪夢が現れた事により、世界の安寧と秩序は崩れつつある。じゃがあの黄金の資格者が全てを知れば、あるいは世界は我らが求めるものに戻る可能性はある。監視は行う。じゃが今はまだ干渉する事は許さん。良いな」

「ふ~ん。『今はまだ』か。ふ~ん、そっかそっか。分かったよ。今はまだ見ているだけにしておくよ~♪」

 老婆の言葉の意味をどう捉えたのか、少年は嬉しそうな声を上げる。

「あ、そういえばアルザイルに何か動きがあるんだよね?」

 唐突に少年が話題を変える。

「え、ええ。皇帝直属の者が動いているけれど、極秘裏に動いているせいで詳しい事は分からないわ。けどフォーガンに何かを仕掛けようとしているらしいというのと、ナンバー4を動かす可能性があるというのは掴んでいるわ」

 女の答えに満足したのか少年は老婆へと訴え掛ける。

「今の管轄は彼女がアルザイル、そして僕がフォーガンだよね?つまりナンバー4の動き次第で管轄が変わる可能性があるんだよね」

「何が言いたいのじゃ?」

「つまり管轄が変わった際にすぐに対応出来るように、死神の行使権を僕にも与えて欲しいんだよ」

 今現在の死神の行使権はアルザイル帝国を担当する女に一任されている。

 万が一、ナンバー4が暴走、あるいは悪夢化した際の最終手段として使用する事が許されたものだ。

「それもやむなしじゃな。じゃが死神は本当に最後の手段だという事を忘れぬ事じゃ」

「はいは~い」

 少年は無邪気な様子で軽く答える。

 女はその様子に不安を感じながらも、最終決定権を持つ老婆が承認した事なので、黙っている事しか出来なかった。

これまでずっと謎の存在だった老婆達に関するフラグ回収回。

死神についてとか、まだ色々と解明されていない部分はありますが、大方は判明したかと。

次回以降も立てまくったフラグをどんどん回収していきます。

けど自分自身でも立てた事を忘れてるフラグがありそうで怖いというのが実は本音(ぁ


次回は10/4(日)0:00に更新予定。

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