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異世界の機兵技師(プラモデラー)  作者: 龍神雷
第13話 悪夢の中に芽生える希望
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13-3

 悪夢から溢れ出た闇に呑まれたシンとシルフィロード。

 前後左右だけでなく上下の感覚さえ無い闇の中にいつの間にかシンはいた。

(……助けて……)

 少女の声が聞こえる。

 どこから聞こえてくるのか。

 遥か遠くから聞こえるようでもあり、耳の間近で聞こえたようにも感じる。

 ある一点から聞こえるようでもあり、ありとあらゆるところから聞こえたようにも感じる

 掠れるような小さな声でありながら、耳元で叫ばれたようにも感じる。

 どこか不思議な声だったが、共通するのはただ一つ。

 ただただ救いを求める悲痛なる想いだけ。

 目を凝らすとそこは完全な闇で無い事が分かる。

 いや、そもそも自分の体がはっきりと見えていた時点で普通の暗闇で無い事は分かっていた。

 漆黒の壁に囲まれた無重力の部屋に居る。

 表現としてはそんな感じだろうか。

 その漆黒の壁の向こう側には、まるで古いフィルム式映画のようにモノクロの映像がコマ送りで流れていっているのが見える。

 両親に抱きかかえられた可愛らしい赤ん坊。

 父親に手を引かれる小さな子供。

 入園式と書かれた看板を背に母親と笑顔を浮かべる真新しい園児服に身を包んだ可愛らしい少女。

 その少女は徐々に成長していき、小学生、中学生、そして高校生になる。

 黒縁眼鏡を掛けた黒髪の少女の姿が映し出される。

 この闇の中に流れているのは水上椎那という1人の人生。

 シンはここが彼女の心の中なのだと直感的に理解する。

(助けてっ……)

 再び少女の助けを求める悲痛な声が響く。

 闇の向こうの映像では彼女は見知らぬ森に飛ばされ、目の前に卑しい笑顔を向ける男達の姿が流れている。

 直後、強烈な負の感情がシンの身体を駆け廻り、鮮烈なイメージが脳裏を焼く。

 恐怖、怒り、自責、後悔。

 渦巻く感情に吐き気を催し、地面を感じないのにシンは膝をつく。

「うっ……こ、こんな…………」

 あまりに無力であまりに不条理な出来事。

 もしこれが本当の事ならば、彼女に対して同情する事さえ生温い。

 シンの目から涙が溢れる。

 ただでさえ異世界というありえない場所に強制的に連れて来られた上に、死んでも死にきれない屈辱と消す事の出来ない傷を心と体に負わされたのだ。

 心が壊れ、このような闇の中に閉じ籠っても仕方が無い。

 そう思わせた。

 けれど同時にシンは彼女を救い出さなければいけないとも思った。

 絶望の記憶を共有してしまった。それと同時に彼女が縋る希望もシンは共有してしまったから。

「俺は元の世界じゃ居ても居なくてもいいような空気みたいな存在だった」

 シンは闇に向けて語り掛ける。

「アニメオタクでプラモオタクで自分から話し掛ける事なんて怖くて出来なかった。いつも誰かに言われた通り、ただそれに従うだけだった」

 闇は濃くなっていく。

 シンの言葉は彼女に届いていないかもしれない。けれど尚も語り続ける。

「けれど委員長はそんな俺に声を掛けて来てくれた。お前が居たから学校に行っても空気のような存在じゃないって思えた」

 あの時、彼女が手を差し伸べてくれたから、シンは学校に居ても寂しいと感じなかった。

 それがクラス委員長としての責任感から出た行動なだけだったとしても。

「だから委員長!戻ってこい!!」

 闇に手を伸ばし、声を張り上げる。

「今度は俺が委員長に手を差し伸べる番だ!!!さぁ、こっちに戻って来い!!」

 シンの言葉に闇が鳴動する。

 だがまだ震えるだけ。

「いい加減、目を醒ましやがれっ!!水上椎那ぁぁぁ!!!!!」

 彼女の名前を叫ぶと同時に、震えていた闇に亀裂が入り、その中から闇色に映える白い手が伸びてくる。

 シンはしっかりとその手を掴み、尚も呼び続ける。

「椎那!前の世界でお前が俺の希望だったように、今度は俺がお前の希望になってやる!」

 闇の中から手を引っ張り上げ、腕が肘が肩が徐々に闇の中から浮かび上がっていく。

 同時に闇の亀裂は大きくなり、周囲全てにヒビが入っていく。

「お前の絶望は全て俺が一生引き受けてやる!だから闇になんて呑まれるな!俺の…竜胆慎太郎の元に来い!!」

 思いっきり引き上げる。

 闇の中にあっても美しく輝く黒髪を持つ少女が亀裂から抜け出る。

 闇の中、まるで光を放っているかのように白い肌が浮かび上がる。

 そして世界を覆っていた闇は粉々に砕け散っていく。

「竜胆…くん……」

 シーナが弱々しく名前を呼んでくる。

「ああ。そうだ。竜胆慎太郎。それが俺の名前だ」

 その懐かしい声と名前、そして初めて見せる頼もしい顔にシーナの瞳から懐かしさと嬉しさとが混じった涙が零れ落ちる。

「私の全てを知ってもずっと希望で居てくれるの?」

「同情するとか慰めるとか、そんな誰にでも出来る事を俺はするつもりはない。椎那の絶望を含めた全て受け入れて俺はお前の希望になる。なり続けると約束する!」

 シンの言葉にシーナは感極まりその胸に抱き付く。首に手を回し、シンの顔へ自身の顔を近づけていく。

 そして世界は光に満たされていく。



 *



 シルフィロードが悪夢の胸の水晶に触れて闇に覆われたと思った次の瞬間、シルフィロードからそれまで以上に激しい魔動力の光が発する。

 その光は周囲を覆っていた恐怖を消し去り、逆に穏やかで暖かな空気で包み込んでいく。

「こ、今度は何ですか?!」

 アイリの問いに当然答える声は無い。

 そこに居る誰もが唖然としていたからだ。

「…あ、あれは……サイヴァラス神様……」

 ミルスラがそう呟いてしまう程の神々しい輝き。

 だがそれは神などではない。

 人の想いの詰まった、人が造り出した、人を護る剣にして盾。

 シルフィロードという名の魔動機兵。

 その操縦席の中でシンは柔らかく暖かな光を感じて目を開ける。

 目の前に映し出される光景は、悪夢の胸の水晶に触れた時と変わらない。

 右手を水晶に触れさせ、左手にはカタナを手に悪夢の鉤爪を頭上で防いでいる。

 しかしまるで時が止まったかのように動かない。

 シルフィロードが動かないのは当然だ。シンが動かそうとしていないから。

 だが悪夢が何故動かないのか。

 しかしその答えはすぐに分かった。

 赤黒い水晶球の中、先程まで瞳を閉じて眠るように浮かんでいたシーナが目を覚まし、何かを叫んでいる。

 その右耳に青く輝く魔動輝石のついたイヤリングが魔動力を放ち、触れているシルフィロードの右手を通して、その魔動力と共に彼女の意志が言葉がシンに伝わってくる。

『竜胆くん!私をここから救い出して!』

 シンの胸で輝く魔動輝石が更なる光を放ち、シーナから流れ込んだ魔動力と合わさり、金色の輝きへと変化する。

『任せろ!今すぐ、お前をそこから助け出してやるっ!!!』

 シルフィロードの右手が悪夢の水晶球に転移魔動陣を描いていく。

 だが描いているのは今までとは異なる魔動陣。

 これまでのものと違い、星型の角が1つ多い五芒星ではなく六芒星。

 シンは同じ魔動陣を操縦席内にも描いていく。

 意識してやった訳でも、間違えた訳でも無い。

 ただ彼女を救い出したいという気持ちだけを込めて、無意識に描いた全く新しい魔動陣。

 2つの魔動陣が黄金の輝きを放ち、シルフィロードと悪夢を、シンとシーナを包み込む。

 それはシンとシーナの心が一つになった為に起きた奇跡。

「竜胆くん……」

 光が収まるとシーナの顔がシンのすぐ目の前にあった。

「委員長……」

 シンの言葉にシーナは首を振る。

「もう私はクラス委員長でもアルザイルの英雄でも無い。だから名前で呼んで……」

 シーナの言葉にシンは頷く。

「おかえり、椎那」

「うん、ただいま♪」

 シーナが嬉しそうに抱き付く。

 委員長や英雄という肩書きでは無い自分を見てくれる彼が素直に嬉しかった。

 刷り込まれた記憶では無く、自分がこの世界に居ても良いのだと感じさせる彼の存在が素直に嬉しかった。

 自分の全てを知っても尚、受け入れてくれた彼の事が素直に嬉しかった。

 彼を、シンを好きだという気持ちに気が付いた自分が素直に嬉しかった。

 この希望がある限り、どんな絶望も乗り越えられる。

 シーナにとってこれほど嬉しい事は無かった。

 だからシンに抱き付いた自分がどんな格好をしているのか気付くのに時間が掛かった。

「な、なぁ、椎那……」

 顔を真っ赤にしているシンの言葉でシーナはようやく我に返る。

「男としては、その、嬉しいんだけど、と、とりあえず今は、前を隠して貰えるかな?」

「え、な、何?」

 シーナはふと自分の身体がやけにスースーすると感じて、自身の身体に視線を向ける。

 いつの間にか三つ編みが解けた艶のある黒くて長い髪が白い肌をより際立たせている。

(白い肌?)

 シーナの思考が徐々に正常さを取り戻していく。

 それに伴い白かった肌は徐々に赤みを差し、顔を含めて、まるで茹で上がったタコのように真っ赤になる。

「き、きゃぁぁぁぁ~~~~!!!!!!ななななんで私ここここんな……」

 悲鳴が操縦席に響き渡る。

「お、落ち着いて。一先ず、こ、これを」

 流石にこんな事態は予想していないので予備の服なんてものは無い。仕方なくシンは自身が着ていた防寒着を脱いでシーナへと渡す。

 耐寒鎧甲も外し、本来なら寒いはずなのに、何故か周囲は春のように暖かい為、防寒着を脱いでも支障は無かった。

「竜胆くん……」

 防寒着を受け取りながらシーナはジト目でシンを睨み付ける。

「な、なんでしょうか、椎那…さん……」

 その迫力に気圧されてつい敬語になってしまうシン。

「この責任は……きゃっ」

「うわぁっ」

 シーナが何かを言おうとした瞬間、衝撃が走る。それは誰かに突き飛ばされたような衝撃。

 シーナを水晶球の中から助け出して、終わったような気がしていたが、今はまだ戦闘中だという事を思い出す。

 正面に視線を向けるとそこにラーサーの後ろ姿が見えた。背中には不自然な突起物を生やしている。

『どうやら…英雄殿は助け出せた……ようだな』

 背中の突起物が短くなり、その後に残るのは背中に大穴が空いたラーサーの姿だけ。

『槍聖のおっさん!!』

『喚くなっ!若い者の尻拭いをするのも老人の役目だ。それにまだ戦いの最中だ。気を抜くでない!!』

 ドゥマノの言葉通り、魔動力を供給していた動力源たるシーナが居なくなっても悪夢は動いていた。

 恐らく動力たるシーナを取り戻そうとしているのだろう。

 だが先程まで感じていた異様な恐怖は感じられず、その動きも鈍い。

 どうやら突然、悪夢が動き出し、その右手を目の前で無防備に立ち尽くすシルフィロードに突き付けたのだ。

 しかしその一撃が届くより先に、ラーサーがシルフィロードを突き飛ばして、身を呈して護ってくれたのだ。

 そうシンは理解した。

『未来を担う若者達よ!奴を討てっ!!お主達ならばこの絶望を希望に変えてくれると信じておる!!』

 その言葉を最後にラーサーが膝から崩れ落ちる。

『ドゥマノさん!!』

 その姿を見たシーナが叫ぶが、シンはドゥマノが託した想いを無駄にしない為、カタナを手に悪夢へと駆ける。

『椎那はしっかりと捕まっていろ!!』

 魔動機兵を動かしていた以上、シーナもシンと同じく魔動輝石から得られた魔動力のおかげで身体能力は高まっているはず。

 だからシーナもシルフィロードの加速による負荷に耐えられると信じ、可能な限り全能力を開放する。

 シンとシーナの持つ2つの魔動輝石が激しく輝き、再び金色の魔動力が溢れる。

 シルフィロードの全身が白銀から黄金へと変わり、光の矢、いや輝く流星となり、悪夢へと突き刺さる。

 力の源たるシーナを失い、動きの鈍くなった悪夢にはもはやその速さに対応出来ない。

 振り抜いたカタナが右肩の回転盾を根元から斬り裂く。

『うるぁぁぁああああっっっ!!!!』

 そこへグランダルクが巨斧を振り下ろす。

 防御の為に振り上げた悪夢の左腕がグランダルクの渾身の一撃で折れる。

『まだまだっ!!!』

 鉄壁を誇った絶対防御が黄金の一閃と巨斧の重撃でみるみると削がれていく。

 グランダルクの強烈な一撃が悪夢の膝を叩き壊し。体勢が崩れる。

『今だ!シン殿!!』

 アークスの叫びに合わせてシルフィロードがカタナによる刺突で胸部の水晶球を深々と貫く。

 だがまだ悪夢の動きは止まらない。

 悪夢の右腕が伸び、グランダルクの右肩を貫く。

 巨斧と共に右腕が宙を舞う。

 伸ばされた悪夢の右腕が横薙ぎに払われ、シルフィロードを狙うが、咄嗟にカタナを離して飛び上がる事でその一薙ぎを空を切る。

 シルフィロードは上空に舞っていたグランダルクの右腕を巨斧ごと掴む。

『悪夢なんて絶望は打ち砕いてやる!!』

 縦回転を加えながら悪夢の頭上から巨斧を振りかぶる。

 黄金の輝きが巨斧を包み込み、一回り大きな金色の巨斧となる。

『俺が彼女の』

『彼が私の』

 シンとシーナ。

 異世界からの来訪者である2人の想いと2人の声がハモる。

『『希望だぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』』

 悪夢の頭から股下にかけて金色の巨斧が振り落とされる。

 僅かな静寂の後、悪夢の身体は左右別々にずれていく。

 そしてまるで悪い夢から覚めた様に悪夢の姿は煙のようになって薄れていく。

 ガランと悪夢の胸元に突き刺さっていたカタナが地面に落ちる。

 それは悪夢と呼ばれた存在がこの世界から完全に消え去った瞬間だった。

悪夢との決着回。

さすがにクライマックスは3回では終わりませんでした。

というわけで次回は決闘編のエピローグとなります。


8/2(日)0:00に更新予定です。


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