最終話
最終話です。
武は名子が造り出した武の部屋から抜け出せず、過ごすしか無かった。テレビを点けると名子の自殺、玲奈と明宏の死体、そして行方不明となった武のニュースが流れてきた。
『お願いします、どうか武を見つけて下さい!』
『私達は武が生きていると信じています…。』
「っ…!」
武を心配して涙を流しながらインタビューを受ける母と父の姿に、武は胸が張り裂けそうになった。だが暫く時が経つと他のニュースに塗りつぶされて、武達のニュースは流れなくなった。
「あっ、あぁぁぁぁぁっ!!」
ある時、武は部屋から出られないストレスと、玲奈と明宏が名子に殺される瞬間を思い出して、発狂しながら暴れまわった。
「うぅっ…俺が悪かった…赦してくれよ名子…。」
またある時は、名子を傷つけた事への罪悪感で泣き続けた。
「……。」
またまたある時は、部屋にあるゲームや漫画に集中して現実逃避をした。
「うめぇ~! ラーメン最高!! あとチョコケーキも最高だな!!」
更にある時は、食べたい物をたらふく食べてテンションを無理やり上げて笑みを作った。
「や、やめろ…もうやめてくれよぉっっ!!!」
日によって武は発狂し、泣き、現実逃避して笑い、何もせずにぼーっとして過ごしていたが、名子からの仕打ちがふと頭に浮かんで苦しみ続けた。そんな日々が何年…何十年も続いた。武の身体は全く成長せず、10歳のままだった。
◆◇◆
湯が溜まった浴槽を武は見下ろした。
「……。」
武の手には台所にあった包丁が握られていた。もうこんな暮らしを終わりにしたかった。何度も死を選ぼうとしたが、やっぱり怖くて生きる事を選んだ。
「もう、嫌だ…。」
だがもう限界だった。死んで、この部屋から抜け出したい。佐藤 武を終わらせる為の決心をした。
「っ…!」
左手首に包丁の刃を当て、強く押し込むと血が滲み出てきた。恐怖しながらも、そのまま刃を勢いよく引いて切りつけた。
「くっ…!!」
激痛に悶えながらも、血を流す左手を浴槽の湯につけた。
「はぁ、はぁ…これで、やっと…。」
次第に意識が遠のく、やっとこれで解放されるのだと武は安堵した…。
◇◆◇
…え?
ふと気が付くと、赤い湯の中に左手を突っ込んだまま浴槽に凭れて意識を失っている自分の姿があった。
…何だよこれ、どうなって!?
武には身体がなくなっていた。意識だけが残っている状態、と言えた。何の感触もなく、浴室の風景を眺めているだけだ。恐らく、自分は死ねたのだと思う。しかし何故、死んだ武は自分の死体がある浴室に留まったままなのだろうか…。
『最期に1つアドバイスをしてあげる。佐藤くん、自・殺・は・し・な・い・方・が・良・い・からね。』
…っ!
唐突に、名子の最後の言葉が記憶の中で蘇った。
…そんな、嫌だ、嘘だ…!
自殺しない方が良いと名子は言った。武は考えたくないし、認めたくない。だが、きっとそういう事なのだろう。名子は不思議な力を使って武を閉じ込めた。それは武が生きている間だけでなく、死んだ後も、魂そのものを閉じ込めたのだ。
…っ、出られない、死んでも俺は出られないっ!!
口のない武の言葉は心の中の叫びでしかなく、音にならない。自分の死体を見たくなくて武はその場からふわふわと漂う感覚を感じながら移動した…移動は出来た。
しかし、肉体がない武は物に触れる事が出来なかった。
嘘だろうっ、このまま俺はずっと…っ!
自殺しなければ、永遠に閉じ込められても物に触れ、食べて、寝て、テレビやゲームをして気を紛らわせる事が出来た。だが、死んだ武にはもう何も出来ない…。
う、ぅぁああああああっ〜〜〜〜!!!
武にかつてない絶望が襲いかかる。名子、玲奈、明宏、武の両親、武を知る者達は生まれ変わり、佐藤 武を覚えている存在はもう既にいない。武は誰にも知られず、生まれ変わる事も出来ずに孤独のまま、名子の復讐に永遠に苦しみ続けるのであった…。
書きたくなって思うままに書き殴りました。誤字脱字、ツッコミどころも多々あると思いますがご勘弁下さい。武への仕打ちをやり過ぎだ、と思う人もいるかもしれませんが何も悪くない名子を自殺に追い込んだのは武です。与えた苦しみがそのまま返されるとは限らない、それ以上のやりすぎなくらいの苦しみを求める被害者もいると思い書きました。
このような作品にもお付き合いしてくださった読者様、有難うございました!




