08:異世界交流
昼食を食べ終えて俺は皿洗いをしていた。
エイルさんがお手伝いを申し出てくれたがさすがに今日は色々とあったから断っておいた。
だから今エイルさんはテレビを食い入るように見ている。今はさっきつけていた刑事ドラマを見ており気に入ってくれたようだ。
まあエイルさんが見れるように少し改造してこの世界の人たちでも分かるようにした。
具体的には分からない。俺がそうしたいと思ったからどういう仕組みかなんて知らん。
俺はパパッと洗い物を終わらせてエイルさんに紅茶を出す。
「ドラマ、面白いですか?」
「はい! 犯人が誰なのか全く分からないです!」
こういう刑事ドラマはそれなりに見ているからなんとなく犯人が分かる。
現代人だとこういう作品に慣れすぎて結末が分かるみたいなことは多いだろう。こいつ怪しすぎだろとかこいつ犯人っぽいとか思う。
だけどエイルさんはそんな経験値がないからそんなこと思わずに見ることができるのだろう。
俺とて面白くないわけではないから普通に見れる。ただ好んでは見ない。ついていれば見てしまうくらいな感じだな。
俺も紅茶を用意して一緒にドラマを見る。
「あの優斗様、この人が耳に当てて話しているものは何ですか?」
「スマホですね。これでスマホを持っている遠くの相手と連絡することができるんです」
「そのような道具が! それならこの乗り物はどのようなものですか!? 馬車のように見えるのですが……馬はいませんよね?」
「それは自動車です。ガソリンという燃料で動く機械です」
こう言っても分からないと思うがまあ一応簡単に説明はする。
「指紋? とはどういうものですか?」
「人の指は誰しもが違うんです。それを指紋って言います。現場で拭き取っていない指紋を鑑定して、誰の指紋かを調べていますね」
「……そうだったのですね」
エイルさんはまじまじと自身の指を見ている。
「それなら血液型というのは何ですか?」
「あー、血液に種類があることは知っていますか?」
「種類?」
あー、知らないのか。俺もそこら辺詳しくないからふわっとしか説明できないぞ。
調べてもいいけど調べて分かりやすく説明できるとは限らないからな。ふわっとの方がいいかもしれない。
「こちらの世界では主に四種類の血液型が存在しています。A型、B型、AB型、O型。他人に血を分ける時に基本同じ血液じゃないと血液に異常が起きて大変なことになるから、血液型は大事ってことです」
たぶん。これ以上の説明はできないぞ。
ただエイルさんは俺の説明を聞いて何か思い当たる節があるようだった。
「もしかして血液のことで何かありましたか?」
「……はい。以前シスターのお話で聞いたことがあります。他者から血液を受けることは死なせることだと。一人目は成功していたものの、二人目、三人目と亡くなったことで血を他者から受けることは禁止となれました」
「あぁ、それたぶん血液型が違っているんだと思いますよ。この世界と元の世界の人間の血液型が一緒なのかは分からないので別の分類があると思いますけど」
それにしても輸血のことがもう行われていたのか。
このファンタジーな世界で輸血の考えがあることも新発見だ。治癒魔法で治すからどうでもいいのかと思っていた。
「……知らないことばかりで新鮮です」
ドラマを見ながらそうつぶやくエイルさん。
でもエイルさんはこれまで聖女として生きてきたのだから異世界のことも全く知らないはずだ。
だから彼女はもしかしたら世界を知るためにそれなりに早くここから出ていくかもしれないなー。
「この音が鳴っている自動車は何ですか?」
「それはパトカーです。警察の乗り物ですね。音が鳴っているのは警察が緊急走行をする時に他の自動車に知らせるためです」
「……緊急走行?」
ふー、ここまで聞かれるとは思わなかった。でもここまで来たらすべて答えることにしよう。
☆
「はー……怒涛の展開でした……!」
ドラマを見終えて満足しているエイルさん。
「異世界の方々はこのようなものを毎日見ているのですね……」
「俺はあまり見ていないですけどね」
「こんなに面白いのにですか!?」
「目が肥えているというのがあります。それに単純にテレビ離れもありますね」
「……異世界の方々はすごいのですね」
信じらないといった顔をしているが、これからエイルさんがテレビを見ていたらこうなる。いやならないか?
ていうかあれだな、サブスクが見れるようにすればドラマとかも見放題だからエイルさん的にはありなのかもしれないが何せお金を払えないからなー。
……あっ、お金を払わなくていいじゃないか。
俺の力で見れるテレビを作れば全く問題ないのか。さすがにスパチャとかは無理だけどインディーゲームでもそれができるように作ればいいんだ。
えっ、できるよな? いやさすがにできるだろ。ここまでなんでもできてこれができませんなんてことはない。
まー、違法視聴な感じは否めないが……そもそも俺は異世界にいるのだからその法律に従う必要はないか!
神様だって見たいと思ったサブスク配信のドラマを違法で見ているはずだから大丈夫だろ。
「ふわぁ……あっ」
俺がそう考えていればエイルさんはかわいいあくびをした。
それを俺に見られて恥ずかしそうにしているエイルさんもかわいい。
「今日は色々とあったから眠たいんですね。もう休んでください」
「はい……そうさせてもらいます」
今日は追放されたり違う世界に来たりして色々と大変だっただろう。今までドラマを楽しんでいたことがかなり異常だったと思う。
「部屋に必要なものはありますか?」
「いえ……あれほど立派なベッドがありますから十分です」
「気軽に必要なものを言ってください。人にとって寝ることは大事ですからね」
「はい、それは十分に分かっています」
聖女にそんなことを言うのは釈迦に説法だったかな。
「それでは、おやすみなさい。優斗様」
「おやすみなさい」
エイルさんはリビングから二階に上がっていき二階の部屋の扉が閉まる音を聞いた。
お風呂に入ったしご飯も食べた。それでドラマも見てリラックスしていた。だからエイルさんはしっかりと寝れるだろうな。
ドラマを見て興奮が収まらなくて眠れない可能性は無きにしも非ず。
それでも色々とあったから眠れるだろうなー。
今はあの真面目な聖女がゆっくりと休めれるようにしよう。そこから何をするのかはエイルさん次第だ。
とりあえず今はサブスクが見れるようにテレビを作り直せるか確認してみよう。
「ん?」
俺のスマホが震えて着信を示していた。
このスマホには母さんと父さんしかかかってこない。そういう風に設定したからな。
今のところ俺は前の世界で行方不明になっているから母さんと父さんの二人にしか異世界に着ていることを伝えていない。だから数少ない友人にも教えていないし通じないようにしている。
二人以外からかかってこないと思っているからこそ油断して画面を見る。
『不明』
着信主は分からなかった。
そのことに目をむくほど驚いてしまった。
ありえない。迷惑電話などかかってくるはずがない。かかってくるのは絶対に二人だけだ。
……ただ、これが誰なのか分からないが出ないと正体が分からないから出ることにした。
「……はい」
『あ、あの、そちらは優斗様のお電話で間違いないでしょうか……?』
「……はい」
まあ俺のことを知っているのは当然か。
『わたくしは、聖女に加護を授けている女神、パナケアと申します……』
ふわふわとしている声色でそう言うが衝撃だった。
「えっ、エイルさんに加護を与えたあのパナケアさんですか」
『はい……!』
「なんでそんな女神様が俺に電話をかけてきているんですか?」
つかどうやって電話をかけているんだよ。
『その、お礼を言おうかと……』
「お礼? あぁ、エイルさんのことですか?」
『はい。それから、謝罪を』
「謝罪?」
あー、もしかしてここに導いたことか?
『優斗様がいる場所に、わたくしは無断でエイルちゃんを導きました……急ぎだったとは言え、ごめんなさい』
「やっぱり神様ならできるんですね」
『はい、できます』
何か対策を考えていないといけないのかー。
「別にエイルさんのことは構いませんよ。一報は欲しかったですけど」
『ごめんなさい……!』
……なんだかこの神もエイルさんみたいな雰囲気を感じるな。
「もう大丈夫ですよ。ここが神に通じないのは分かりましたから」
今のままではな。
俺の能力の名前は神をも超越する箱庭。神に通じないわけがない。
『ありがとうございます……!』
「次があるかどうかは分かりませんけど、まあ連絡はください」
『必ず……でも、わたくしの地区は、いないかもしれません』
「どういうことですか?」
『その、エイルちゃんの仕打ちを見ていた他の神が、加護を打ち切ると言っているので……』
えっ!? なにそのすごい見たい展開は! ちょっとスマホで見れるようにしよう!
「それは……アイテル聖王国がやばいってことですか」
『……もう、知りません』
あっ、激おこな感じですね。これはさすがに神でも許容できなかったようだ。
「このことはエイルさんに言わないようにする方向でいいですか?」
『はい……エイルちゃんが望まない限りは、言わなくていいです』
「分かりました。それとエイルさんのことは任せてください、しっかりとエイルさんがここから出ていくまではしっかりとサポートしますから」
元からそのつもりだが神にもそう宣言する。
『ふふっ……心配していませんよ……』




